【2章完結/R-18/IF】神様が間違えたから。

花草青依

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1章 神様が間違えたから

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「どうして・・・・・・? ドルウェルク辺境伯はあなたを政治の道具として使っているのに?」
 お父様の事をろくに知りもしないくせに、知ったような口を利くなんて腹立たしい。
 私は場にそぐわない笑顔を彼女に向けた。
「それはモニャーク公爵も同じでしょう?」
 私達は父親の政治的意図のもとで、小さな子供の時に王子と婚約させられた。私達が王子と家門との関係を密接にするための道具であった事は紛れもない事実だ。
 しかし、目の前にいるこの浅はかな女は、それを認めたくないらしい。

「違います。お父様は私の幸せを考えてくれていますから」
「あなたには信じられないでしょうけれど、私のお父様もそうですよ?」
「でも、・・・・・・もし、私があなたと同じ状況になったとしても、お父様は」
 そこまで言って彼女は口を噤んだ。それ以上言葉を続ければ私に対して失礼な物言いになると思ったのだろう。
「それなら、あなたは現実問題から逃げて、モニャーク公爵家の凋落のきっかけを作るんですか」
「そんな事はないです。そうならないように方法を考えますから」
 その「方法」が簡単に見つかるのなら、私は愛人になるという道を選ばなかっただろう。
 しかし、その話をエレノアにする気は起こらなかった。想像力の足りない彼女にはそれを認められるだけの力量があるとは思えないから。

「・・・・・・私がしたかった話はこんなものではないのです」
 私はつぶやいた。
「では、どんな事を言うつもりだったのですか」
 私は顔をあげてエレノアの顔をはっきりと見た。

「私はレイチェル・ドルウェルクとしてこの世界に生まれ育ちました。私は貴族の娘です。この世界で貴族の娘として生まれたのなら、それに伴う義務を果たさないといけません。そして、私はそれを理不尽だと思った事がありませんわ」
 私はケイン殿下との婚約そのものに関して「理不尽」と感じた事は、一度もなかった。

「今の私は、"プレイヤー"ではないのですから、"名前を付けられていなかった人達"をただのモブだとは思えないのです。私の言動は彼らの人生に少なからず影響を与えます。私を愛し、育ててくれた人達の役に立ちたい。利益をもたらしたい。・・・・・・そして、親兄弟を裏切ったり、見捨てたりしたくない。私の考えはおかしいのでしょうか」
 私の問いにエレノアは戸惑っている様だった。何かを言いたげにしてはいたけれど、結局、何も言えず、時折、口をもごもごとさせるだけだった。

「話は終わりでよろしいでしょうか」
「待って!」
 エレノアは泣きそうな顔で言った。
「レイチェル嬢の考えは分かりました。安易に『家門の使命という呪縛から逃げて』なんて、言ったのは反省しているわ。でも、私はあなた自身を大切にして欲しい」
「ええ・・・・・・。ご忠告、痛み入ります」
「お願い。ちゃんと聞いて!」
 エレノアは大きな声を出した。
「レイチェル嬢。最近のあなたは前にも増して辛そうにしている様に見えます」

 ━━私が? 辛そう?

 思ってもみない言葉が来たせいだろうか。頭の中にビリビリと痛みが駆け抜けた。
 他人に感情を悟られるようでは私もまだまだだ。人に弱みを知られてはいけない。辛くても平然と。時に明るく笑えるように、もっと表情に気をつけなきゃ・・・・・・。

 私が考えている間にも、エレノア嬢は話を続けていた。痛みと疲れのせいか、その内容がほとんど頭に入って来なかった。

「レイチェル嬢。あなたの人生の結末は"ニコラス殿下の側室"というもので、本当にいいんですか」

 かろうじてはっきりと認識できた質問に、私は答えた。

「いいのではないでしょうか。ハッピーエンドではないにしろ、バッドエンドとも言えませんから」
 私の言葉にエレノアは困り顔になった。

 ━━何でそんな顔をするのだろう。

 正室になれるのなら、それに越した事はないけれど。側室だって、そこまで悪いものではないはずだ。
 欲をかかず、静かに暮らしていれば、私と家門にはそれなりの利益や報酬がもたらされるはずだ。

 ━━だから、大丈夫。私の人生の結末は、グッドエンドだもの。

 私は自分にそう言い聞かせると、にこりと笑顔を作った。

「ごめんなさい。疲れてしまいました。話はまた後日にいたしましょう」
「ええ・・・・・・。ごめんなさい、長々と」
 エレノアは浮かない表情で言うと、私を馬車まで送り届けてくれた。
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