【2章完結/R-18/IF】神様が間違えたから。

花草青依

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1章 神様が間違えたから

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 家に帰ると、ニコラス殿下がいた。彼は私が帰って来るまで滞在すると駄々をこねたらしく、お父様と食事をして、今現在は書斎で話をしているらしい。

 ━━迷惑な人。

 二日連続で家に押しかけてくるなんて。

 私は簡単に夕食を済ますとお風呂に入った。
 それから、髪を乾かし、寝る準備を済ませてから、ようやくニコラス殿下を部屋に呼んだ。

「おかえり。レイチェル」
 彼はそう言って私を抱きしめた。彼の服からほんのりと煙草の臭いがする。どうやら彼はお父様を苛立たせたらしい。 
「今日は遅かったね。どこで何をしていたの?」
「モニャーク公爵邸でモニャーク公爵令嬢とお茶をしていました」
 言った途端、ニコラス殿下の顔付きが変わった。

「何の話をしたの?」
 さっきまで上機嫌だったはずの彼の声色が妙に低く、いつも平静を装っている彼にしては珍しい反応だと思った。
「私達の考えの擦り合せをしていました。それから、モニャーク家とドルウェルク家の方針についても、ほんの少しではありますが話をしましたよ?」
 彼は「そう・・・・・・」とつぶやき、私の頭を撫でた。
「エレノアの相手は疲れただろう?」
「ええ。・・・・・・そうですね」
 取り繕うのも面倒だったから、正直な反応をするとニコラス殿下は突然、私を抱き上げた。
「きゃっ!」
 予想だにしない彼の行動に驚き声をあげる。私は慌てて彼の首にしがみついた。
 ニコラスはくすくすと笑いながら私をベッドに連れて行った。

「今日は、無理ですよ」
 ベッドに降ろされた時に、私は彼の望んでいるであろう行為を拒否した。
「うん。疲れているのに無理はさせられないから」
 彼はそう言うと額にキスをした。
「それより、うつ伏せになって。マッサージしてあげる」
 そんな事はしなくても良いのだけれど、彼は頑なな一面がある。私は言い争うのも面倒だったからさっさとうつ伏せになった。
 ニコラス殿下は少し力を込めて私の首から背中にかけて揉んでいく。
「どう? 気持ちいい? 痛くない?」
「良い力加減です」
「そう。よかったよ」
 彼はそう言うと、それからは黙ってマッサージを続けた。

 ━━気持ちいい。

 彼に触れられてそんな風に思ってしまう自分に少し腹が立った。けれど、そんな考えは長くは持たなかった。
 疲れが溜まっているのも相まったのだろう。私はいつの間にか眠りに落ちていた。







 レイチェルが寝息を立てている。マッサージをしている間に、いつの間にか寝入ってしまったらしい。疲れて眠る彼女を起こさない様に、俺はそっと彼女の首筋にキスをした。

 彼女の肩や背中は意外にも凝っていた。これからも定期的に揉んであげよう。そんな事を考えながら彼女の身体にシーツをかけると、俺はその隣りで横になった。

 眠る彼女からは、いつもの張り詰めた雰囲気がなかった。眠っているのだから、当然といえば当然なのだけれど・・・・・・。その無防備な姿があまりにも可愛らしくて、襲いたくなるのを我慢する。

 ━━何であの時、我慢できなかったんだろう。

 テラス席で目を瞑り、ほんのりとした笑顔を浮かべる彼女を見た時、理性が弾け飛んでしまった。俺の腹の中で渦巻いていた薄汚い欲望が、どっと溢れてきて、気が付いたら、周囲の目も気にせず、彼女を襲っていた。
 あそこでもし、アイズ家の令嬢がやって来なかったら・・・・・・。俺はレイチェルを押し倒し、服を剥ぎ取ってしまっていたかもしれない。

 あの事件がきっかけで、レイチェルは俺の愛人になった。それは嬉しい事であると同時に、悲しい事でもあった。

 レイチェルは"王太子妃"になるための教育を受けて来た子だった。
 座学は勿論の事、礼儀作法、そして、社交活動に至るまで完璧にこなせるだけのポテンシャルを持った女。それをケインは全く活かす事ができず、俺は俺でこれから、彼女を飼い殺しにするのだ。

 ━━哀れだ。

 レイチェルは賢い子だから、これからの側室として、どのように行きていくべきなのか理解している。そして、彼女はそれを完璧な形で実践しようと試みるのだろう。

 レイチェルはこれから、静かに出しゃばらず、常に王太子妃エレノアを後ろを一歩下がってで生きていく。
 例え、レイチェルの方が優れた能力を発揮できるとしても、エレノアができないのなら、彼女は無能を演じるだろう。その一方で、陰で手伝いをしてエレノアにその功績を譲るのだ。

 そして、そんな不遇な扱いを受けても、彼女はそれが当然で、何でもない事のように振る舞うはずだ。
 レイチェルにとって、自分の気持ちは二の次だ。彼女にとって重要なのは、ドルウェルク家の利益と、ドルウェルク家が望む平和な治世だった。だから、彼女は、俺の愛人という立場を受け入れた。

 俺の愛するレイチェル・ドルウェルクは、そういう女だった。
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