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1章 神様が間違えたから
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※
レイチェルの朝の支度が始まるまで、俺は彼女の隣りで眠っていた。
彼女は目を覚ますと、俺が隣りにいる事にとても驚いていた。「なぜ帰らなかったのですか」と問われたから「一緒にいたかった」と答えたら眉を顰められた。彼女はそれ以上の言及をせずに朝の支度を始めた。
その様子を眺めようとしたら、部屋から追い出されてしまった。彼女にとって、それは人に見せるべきものではないらしい。「レイチェル・ドルウェルク」が出来上がるまでの行程を見たかったのに、残念だった。
部屋から追い出された俺は、別室で着替えを済ませ食堂に案内された。テーブルには三人分の食事の用意がされていたから、ドルウェルク辺境伯も一緒に食べるのだろう。
昨日、一緒に夕食を摂った時、辺境伯はこんな事を言っていた。
「愛はなくとも結婚はできるが、尊敬をされなければその生活は良いものにはならないだろう」
それは、相手の顔も知らない状態で政略結婚をしたという彼からの忠告だった。
━━レイチェルからの尊敬か。
それはきっと、愛を得る事よりも、簡単な事だと思う。
レイチェルは、俺に対して理知的で課された責務を全うする事を望んでいる。そして、それはかつて、婚約者に対しても要求していた事だった。
逆をいえば、それさえできていれば彼女は多少の悪い点には目を瞑ってくれるわけだが・・・・・・。
とにかく、俺は、彼女の望む「理知的な為政者」になろうと思う。幸いにも俺は嘘が上手いし、我慢強い方だとも思う。座学の点数だって褒められた事しかなかったから、きっと大丈夫だ。
そんな事を考えていると、ドルウェルク辺境伯がやって来た。それからほとんど間を置かずにレイチェルも来ると、俺達は食卓を囲んだ。
「さあ、祈りを捧げよう」
辺境伯の言葉を皮切りに、レイチェルは祈りの言葉を述べた。そして、二人は目を閉じ神に祈りを捧げる。
昨晩、ドルウェルク辺境伯と食事の際にも、彼はそれをやっていた。食事前に、毎回祈りを捧げるだなんて、今時、珍しい。
レイチェルの母親の実家が教会との親交が深かったはずだから、辺境伯はそれに合してあげているのかもしれないが。彼女がいない所でもそれを熱心に行うだなんて、生真面目な人だと思う。
━━レイチェルの性格は父親に似たのか。
そんな事を考えていると、祈りを終えて目を開けた彼と目が合った。「ちゃんとしろ」と目で訴えかけられたから、俺は微笑んでそれを軽く受け流した。
━━俺は神を信じない。いもしないものに祈りを捧げて何になる?
辺境伯は感情の読み取れない顔でナイフとフォークを握った。それで、ようやく食事の時間が始まる。俺はフォークを握ると、サラダを口にした。
※
食事を終えると、俺とレイチェルはバラバラに学園へと向かった。少しでも長く彼女とともにいたいから、同じ馬車に乗りたかった。しかし、それを彼女が許するとは思えなかったので、俺は黙って自分の馬車に乗った。
学園に着くと、俺は理事室へと真っ直ぐに向かった。そして、午前は、そこに引きこもり、ひたすら「学園の制度改革」に関する提言書を読んでその日の業務は終わった。
━━レイチェルは今、何をしているんだろう。
帰り際に廊下ですれ違った学生を見ながら彼女の事を想像する。
報告によると、彼女が俺の愛人になってからというものの、彼女の周りからすっかり人が離れていったらしい。レイチェルの友人の多くは、第二王子派の家門の令嬢なのだから、当然の反応だ。
しかし、それでも、数人は個人的な付き合いをしているらしい。表立っての交流は避けてはいるものの、それでも、軽い挨拶や手紙のやり取りは続けているのだそうだ。
━━俺が王になったら、その令嬢達は優遇してやろう。
そう決めたから、彼女達の名はメモに残してある。
そのメモが早く使えるようにするためにも、俺が抱えている問題を、順を追って、解決していかなければいけない。
だから、俺はこれから、モニャーク公爵邸に向かう。問題の一つである「ケインとレイチェルの婚約解消」について、これから話し合うのだ。
※
モニャーク公爵邸に着くと、既に到着していたドルウェルク辺境伯とモニャーク公爵が話をしている最中だった。
「お久しぶりです」
二人に向けて言う。
ドルウェルク辺境伯とは、今朝あったばかりだが、それをモニャーク公爵に知らせる必要がない。辺境伯には俺の意図が分かったらしく、何事もなかったかのように挨拶を返してきた。
「では、早速だが、例の件について話をしよう」
モニャーク公爵が言った。どうやら、年長者である彼がこの場を取り仕切るようだ。
「まずは前提条件の再確認だ。我々はなるべく平和的に、そしてでき得る限り穏便な形で彼らの婚約を解消させるつもりだ。その事に間違いないか」
「ああ」
ドルウェルク辺境伯は即答した。
俺は腹の中に蠢く悪い感情を押し込む。
━━第一王妃を暗殺すれば手っ取り早いのに。
少しごたつく事はあるだろうが、第一王妃が死ねば彼女の実家の勢いも衰える。そうなれば、第二王子派は解体したも同然だ。
そして、何より、今まで散々苦しめられてきた彼女に苦しくて惨めな最期を与えてあげたかった。
しかし、腹の中に抱えた想いを彼らに知られてはいけない。彼らは俺の惨忍な一面を知っていてそれを嫌っている。そんな俺を彼らは、方法は違えども封じ込めようとしていたくらいだ。
「ニコラス殿下?」
公爵は返事を促し、辺境伯は冷めた目で俺を伺っていた。
俺は想いを悟られまいと作り笑いを浮かべる。
「間違いないですよ。そのための話し合いに来たんですから」
俺の言葉に公爵は頷き、辺境伯は俺から視線を外した。
レイチェルの朝の支度が始まるまで、俺は彼女の隣りで眠っていた。
彼女は目を覚ますと、俺が隣りにいる事にとても驚いていた。「なぜ帰らなかったのですか」と問われたから「一緒にいたかった」と答えたら眉を顰められた。彼女はそれ以上の言及をせずに朝の支度を始めた。
その様子を眺めようとしたら、部屋から追い出されてしまった。彼女にとって、それは人に見せるべきものではないらしい。「レイチェル・ドルウェルク」が出来上がるまでの行程を見たかったのに、残念だった。
部屋から追い出された俺は、別室で着替えを済ませ食堂に案内された。テーブルには三人分の食事の用意がされていたから、ドルウェルク辺境伯も一緒に食べるのだろう。
昨日、一緒に夕食を摂った時、辺境伯はこんな事を言っていた。
「愛はなくとも結婚はできるが、尊敬をされなければその生活は良いものにはならないだろう」
それは、相手の顔も知らない状態で政略結婚をしたという彼からの忠告だった。
━━レイチェルからの尊敬か。
それはきっと、愛を得る事よりも、簡単な事だと思う。
レイチェルは、俺に対して理知的で課された責務を全うする事を望んでいる。そして、それはかつて、婚約者に対しても要求していた事だった。
逆をいえば、それさえできていれば彼女は多少の悪い点には目を瞑ってくれるわけだが・・・・・・。
とにかく、俺は、彼女の望む「理知的な為政者」になろうと思う。幸いにも俺は嘘が上手いし、我慢強い方だとも思う。座学の点数だって褒められた事しかなかったから、きっと大丈夫だ。
そんな事を考えていると、ドルウェルク辺境伯がやって来た。それからほとんど間を置かずにレイチェルも来ると、俺達は食卓を囲んだ。
「さあ、祈りを捧げよう」
辺境伯の言葉を皮切りに、レイチェルは祈りの言葉を述べた。そして、二人は目を閉じ神に祈りを捧げる。
昨晩、ドルウェルク辺境伯と食事の際にも、彼はそれをやっていた。食事前に、毎回祈りを捧げるだなんて、今時、珍しい。
レイチェルの母親の実家が教会との親交が深かったはずだから、辺境伯はそれに合してあげているのかもしれないが。彼女がいない所でもそれを熱心に行うだなんて、生真面目な人だと思う。
━━レイチェルの性格は父親に似たのか。
そんな事を考えていると、祈りを終えて目を開けた彼と目が合った。「ちゃんとしろ」と目で訴えかけられたから、俺は微笑んでそれを軽く受け流した。
━━俺は神を信じない。いもしないものに祈りを捧げて何になる?
辺境伯は感情の読み取れない顔でナイフとフォークを握った。それで、ようやく食事の時間が始まる。俺はフォークを握ると、サラダを口にした。
※
食事を終えると、俺とレイチェルはバラバラに学園へと向かった。少しでも長く彼女とともにいたいから、同じ馬車に乗りたかった。しかし、それを彼女が許するとは思えなかったので、俺は黙って自分の馬車に乗った。
学園に着くと、俺は理事室へと真っ直ぐに向かった。そして、午前は、そこに引きこもり、ひたすら「学園の制度改革」に関する提言書を読んでその日の業務は終わった。
━━レイチェルは今、何をしているんだろう。
帰り際に廊下ですれ違った学生を見ながら彼女の事を想像する。
報告によると、彼女が俺の愛人になってからというものの、彼女の周りからすっかり人が離れていったらしい。レイチェルの友人の多くは、第二王子派の家門の令嬢なのだから、当然の反応だ。
しかし、それでも、数人は個人的な付き合いをしているらしい。表立っての交流は避けてはいるものの、それでも、軽い挨拶や手紙のやり取りは続けているのだそうだ。
━━俺が王になったら、その令嬢達は優遇してやろう。
そう決めたから、彼女達の名はメモに残してある。
そのメモが早く使えるようにするためにも、俺が抱えている問題を、順を追って、解決していかなければいけない。
だから、俺はこれから、モニャーク公爵邸に向かう。問題の一つである「ケインとレイチェルの婚約解消」について、これから話し合うのだ。
※
モニャーク公爵邸に着くと、既に到着していたドルウェルク辺境伯とモニャーク公爵が話をしている最中だった。
「お久しぶりです」
二人に向けて言う。
ドルウェルク辺境伯とは、今朝あったばかりだが、それをモニャーク公爵に知らせる必要がない。辺境伯には俺の意図が分かったらしく、何事もなかったかのように挨拶を返してきた。
「では、早速だが、例の件について話をしよう」
モニャーク公爵が言った。どうやら、年長者である彼がこの場を取り仕切るようだ。
「まずは前提条件の再確認だ。我々はなるべく平和的に、そしてでき得る限り穏便な形で彼らの婚約を解消させるつもりだ。その事に間違いないか」
「ああ」
ドルウェルク辺境伯は即答した。
俺は腹の中に蠢く悪い感情を押し込む。
━━第一王妃を暗殺すれば手っ取り早いのに。
少しごたつく事はあるだろうが、第一王妃が死ねば彼女の実家の勢いも衰える。そうなれば、第二王子派は解体したも同然だ。
そして、何より、今まで散々苦しめられてきた彼女に苦しくて惨めな最期を与えてあげたかった。
しかし、腹の中に抱えた想いを彼らに知られてはいけない。彼らは俺の惨忍な一面を知っていてそれを嫌っている。そんな俺を彼らは、方法は違えども封じ込めようとしていたくらいだ。
「ニコラス殿下?」
公爵は返事を促し、辺境伯は冷めた目で俺を伺っていた。
俺は想いを悟られまいと作り笑いを浮かべる。
「間違いないですよ。そのための話し合いに来たんですから」
俺の言葉に公爵は頷き、辺境伯は俺から視線を外した。
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