【2章完結/R-18/IF】神様が間違えたから。

花草青依

文字の大きさ
27 / 103
1章 神様が間違えたから

27

しおりを挟む




 レイチェルの朝の支度が始まるまで、俺は彼女の隣りで眠っていた。
 彼女は目を覚ますと、俺が隣りにいる事にとても驚いていた。「なぜ帰らなかったのですか」と問われたから「一緒にいたかった」と答えたら眉を顰められた。彼女はそれ以上の言及をせずに朝の支度を始めた。
 その様子を眺めようとしたら、部屋から追い出されてしまった。彼女にとって、それは人に見せるべきものではないらしい。「レイチェル・ドルウェルク」が出来上がるまでの行程を見たかったのに、残念だった。

 部屋から追い出された俺は、別室で着替えを済ませ食堂に案内された。テーブルには三人分の食事の用意がされていたから、ドルウェルク辺境伯も一緒に食べるのだろう。
 昨日、一緒に夕食を摂った時、辺境伯はこんな事を言っていた。

「愛はなくとも結婚はできるが、尊敬をされなければその生活は良いものにはならないだろう」

 それは、相手の顔も知らない状態で政略結婚をしたという彼からの忠告だった。

 ━━レイチェルからの尊敬か。

 それはきっと、愛を得る事よりも、簡単な事だと思う。

 レイチェルは、俺に対して理知的で課された責務を全うする事を望んでいる。そして、それはかつて、婚約者ケインに対しても要求していた事だった。
 逆をいえば、それさえできていれば彼女は多少の悪い点には目を瞑ってくれるわけだが・・・・・・。
 とにかく、俺は、彼女の望む「理知的な為政者」になろうと思う。幸いにも俺は嘘が上手いし、我慢強い方だとも思う。座学の点数だって褒められた事しかなかったから、きっと大丈夫だ。

 そんな事を考えていると、ドルウェルク辺境伯がやって来た。それからほとんど間を置かずにレイチェルも来ると、俺達は食卓を囲んだ。

「さあ、祈りを捧げよう」
 辺境伯の言葉を皮切りに、レイチェルは祈りの言葉を述べた。そして、二人は目を閉じ神に祈りを捧げる。
 昨晩、ドルウェルク辺境伯と食事の際にも、彼はそれをやっていた。食事前に、毎回祈りを捧げるだなんて、今時、珍しい。
 レイチェルの母親の実家が教会との親交が深かったはずだから、辺境伯はそれに合してあげているのかもしれないが。彼女がいない所でもそれを熱心に行うだなんて、生真面目な人だと思う。

 ━━レイチェルの性格は父親に似たのか。

 そんな事を考えていると、祈りを終えて目を開けた彼と目が合った。「ちゃんとしろ」と目で訴えかけられたから、俺は微笑んでそれを軽く受け流した。

 ━━俺は神を信じない。いもしないものに祈りを捧げて何になる?
 
 辺境伯は感情の読み取れない顔でナイフとフォークを握った。それで、ようやく食事の時間が始まる。俺はフォークを握ると、サラダを口にした。







 食事を終えると、俺とレイチェルはバラバラに学園へと向かった。少しでも長く彼女とともにいたいから、同じ馬車に乗りたかった。しかし、それを彼女が許するとは思えなかったので、俺は黙って自分の馬車に乗った。

 学園に着くと、俺は理事室へと真っ直ぐに向かった。そして、午前は、そこに引きこもり、ひたすら「学園の制度改革」に関する提言書を読んでその日の業務は終わった。

 ━━レイチェルは今、何をしているんだろう。

 帰り際に廊下ですれ違った学生を見ながら彼女の事を想像する。
 報告によると、彼女が俺の愛人になってからというものの、彼女の周りからすっかり人が離れていったらしい。レイチェルの友人の多くは、第二王子派の家門の令嬢なのだから、当然の反応だ。
 しかし、それでも、数人はをしているらしい。表立っての交流は避けてはいるものの、それでも、軽い挨拶や手紙のやり取りは続けているのだそうだ。

 ━━俺が王になったら、その令嬢達は優遇してやろう。

 そう決めたから、彼女達の名はメモに残してある。
 そのメモが早く使えるようにするためにも、俺が抱えている問題を、順を追って、解決していかなければいけない。
 だから、俺はこれから、モニャーク公爵邸に向かう。問題の一つである「ケインとレイチェルの婚約解消」について、これから話し合うのだ。







 モニャーク公爵邸に着くと、既に到着していたドルウェルク辺境伯とモニャーク公爵が話をしている最中だった。
「お久しぶりです」
 二人に向けて言う。
 ドルウェルク辺境伯とは、今朝あったばかりだが、それをモニャーク公爵に知らせる必要がない。辺境伯には俺の意図が分かったらしく、何事もなかったかのように挨拶を返してきた。

「では、早速だが、例の件について話をしよう」
 モニャーク公爵が言った。どうやら、年長者である彼がこの場を取り仕切るようだ。

「まずは前提条件の再確認だ。我々はなるべく平和的に、そしてでき得る限り穏便な形で彼らの婚約を解消させるつもりだ。その事に間違いないか」
「ああ」
 ドルウェルク辺境伯は即答した。
 俺は腹の中に蠢く悪い感情を押し込む。

 ━━第一王妃を暗殺すれば手っ取り早いのに。

 少しごたつく事はあるだろうが、第一王妃が死ねば彼女の実家の勢いも衰える。そうなれば、第二王子派は解体したも同然だ。
 そして、何より、今まで散々苦しめられてきた彼女に苦しくて惨めな最期を与えてあげたかった。

 しかし、腹の中に抱えた想いを彼らに知られてはいけない。彼らは俺の惨忍な一面を知っていてそれを嫌っている。そんな俺を彼らは、方法は違えども封じ込めようとしていたくらいだ。

「ニコラス殿下?」
 公爵は返事を促し、辺境伯は冷めた目で俺を伺っていた。
 俺は想いを悟られまいと作り笑いを浮かべる。
「間違いないですよ。そのための話し合いに来たんですから」
 俺の言葉に公爵は頷き、辺境伯は俺から視線を外した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end**

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜

紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。 連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

処理中です...