【2章完結/R-18/IF】神様が間違えたから。

花草青依

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1章 神様が間違えたから

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「では次にその方法だが、まずドルウェルク辺境伯は婚約解消を訴え、その賠償の内容を提示する。提示する内容は先程見せてもらった物で本当にいいのか」
「問題ない」
 モニャーク公爵が念を押して確認している様に見えた。内容に何か問題があるのだろうか。
「どんな内容です?」
 尋ねるとドルウェルク辺境伯は紙を渡してきた。

 ケインには鉱山の所有権を譲渡し、金貨1万枚を支払う。そして、王室に対しては、ドルウェルク領から10年間、一定金額の税金を納めるようにする。そんな内容が書かれていた。
「いささか過剰なのでは?」
「うちの財務を圧迫する事はないから大丈夫だ」
 辺境伯はそう言いながら俺から紙を取り戻した。
「しかし、だな・・・・・・」
 領地を統轄する者として、公爵は心配しているのだろうが、辺境伯は頑なだった。
「私の娘がもつ価値に比べたら安い物だ」
 なるほど。これはドルウェルク辺境伯なりの矜持の示し方なのだ。
 これには、同じ、娘を持つ身として、モニャーク公爵は感じる物があったようだ。彼は頷くと、それ以上、その話に言及する事はなかった。

「では、次に移ろう。私達の見立てでは、ドルウェルク辺境伯がそれを提示した所で、王室はそれを受け入れない。そこで、まずは第一王妃に揺さぶりをかける。第一王妃派の不正の証拠を使ってな」
「先日言っていた事の証拠は押さえられたのか」
「勿論。最早、言い逃れはできまい」
 そう言って公爵は金庫から資料を取り出した。その中身を俺達は確認する。

 第一王妃派の中でも、第一王妃の実家に近しい家門の連中が、王国法で禁止されている人身売買や違法カジノの営業を行っている。俺が手にした情報を元に、モニャーク公爵は、しっかりとその証拠を掴んできたのだ。

 ━━流石、中央政権の中心に居続けるだけある。

 感心していると、辺境伯が唸った。
「やはり、中央政権の奴らは腐っているな・・・・・・」
 辺境伯のつぶやきに、公爵は苦笑いを浮かべる。
「私をその中に含めないでくれたまえよ?」
「勿論。それなら貴公と手を組んだりはしない」
 辺境伯はそう言うと「この証拠はどれだけの効力を発揮するのだ?」と問いかけてきた。

「ここに名前の書かれている貴族の連中は、愚かにも第一王妃の名前を使って商売をしていた。『それを公にしてその責任の所在を問えるのだ』と脅せば・・・・・・」
「なるほど」
 実際に第一王妃を罪に問えるかどうかは定かではないが、それでも、第一王妃には少なからず影響が出るだろう。場合によっては、与えられた宮を追い出され、王妃の地位を失う可能性だって十分にあり得る。
「おそらく第一王妃は血相を変えて、婚約解消を受け入れるでしょう。問題は国王陛下なのですが・・・・・・」

 国王陛下は冷徹であり、冷酷な人だ。ドルウェルク辺境伯からの婚約解消の申し出を「地方の大領主から大金を巻き上げるチャンス」だと認識しているに違いない。
「前回、交渉した際には先程見せた賠償額のおよそ3倍の税金を15年間納めよと仰られた」
 それを聞いたモニャーク公爵は目を丸くする。
「それではドルウェルク辺境伯家の財務は・・・・・・」
「ひっ迫する事は間違いない。領民からの税金を上げなければならんし、そうしても軍事費の編成に影響が出るだろう」
 ドルウェルク領は国境に位置し、辺境伯の家門は他国からの侵攻を防ぐという重大な使命を背負わされていた。だから、ドルウェルク辺境伯は独自の軍隊の編成が認められた数少ない貴族なのだ。
 そのドルウェルク辺境伯が困窮し、十分な軍事費を捻出できないと他国が知れることになると・・・・・・。ロズウェルに攻め入る好機と捉えられてもおかしくないだろう。
 その事を国王陛下は、理解していないわけがない。

「おそらく陛下は、ドルウェルク辺境伯に対して揺さぶりをかけてきているのでしょう」
 俺の言葉に辺境伯は頷いた。
「本当に提示した金額の3倍も取るつもりはないのだろう。私が交渉を繰り返せば、その『落とし所』として、1.5倍から2倍程度の金額を要求するのではないか」
 辺境伯の言葉に俺は同意したが。
「しかし、陛下はなぜ、そんな仕打ちを?」
 モニャーク公爵の疑問に俺も頷いた。

 ━━国王陛下はなぜ、この嫌がらせめいた要求をした?

 ドルウェルク家は代々、ロズウェルを他国の侵攻を防いできた。それは現当主の彼も同じで、国王陛下の治世下でも大いに活躍しているというのに。
 黙っていたドルウェルク辺境伯が口を開いた。
「おそらくだが・・・・・・。12年前に国王陛下の要請を断った事を未だに根に持っているのだ」
「何を断った?」
 ドルウェルク辺境伯はすぐには答えなかった。腕組みをし、唸り声をあげ、テーブルをじっと見つめた後、ようやく彼は言った。

「レイチェルを・・・・・・。ニコラス殿下に差し出せとの要求だ」

 辺境伯の言葉に、俺は言葉を失った。
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