【2章完結/R-18/IF】神様が間違えたから。

花草青依

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1章 神様が間違えたから

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 季節はあっという間に過ぎ去り、20歳の春になった。私はローズ王女殿下とともに、リュミエール王国に向かう事となった。
 王国が空間移動の魔法であるゲートを開いてくれたため、旅程は大きく短縮され、僅か3日間で、リュミエール王国の王都へと辿り着けた。

「長旅、お疲れ様でした」
 結婚式の準備で忙しいにも関わらず、リュミエール王国の王太子、エドワード殿下は私達を迎えてくれた。
「お迎えいただき、ありがとうございます。そして、結婚、おめでとうございます。義妹共々、結婚式の日を楽しみにしていますね」
 ローズ王女殿下は社交辞令を述べると、エドワード殿下はお礼の言葉を返した。

 案内された部屋に入り、二人きりになると、私達の緊張は解れた。
「・・・・・・どうせなら、異母弟はあんな子が良かったわ」
 王女殿下がぽつりと漏らした言葉に、思わず私は笑ってしまった。
「私は困りますわ。あんな方が義弟なら、ニコラス殿下の機嫌が悪くなってしまいそうで」
「そうね。あの子はエドワード殿下があなたをちょっと見ただけで拗ねちゃいそうだもの」
「ローズ王女殿下! そう言う意味で言ったわけではなく・・・・・・」
 彼女はあははと笑って鞄から荷物を取り出した。
「ここは思ったよりも過ごしやすそうだから、観光がてらゆっくりさせてもらいましょう」
 彼女の言葉には、これから王宮で生きていく私に対する労いの言葉が含まれているのを感じた。







 春の柔らかい日差しが降り注ぐ庭で、エドワード王太子夫妻の披露宴が行われた。
 そして、私とローズ王女殿下は、改めて王太子夫妻に挨拶をしているのだけれど・・・・・・。

 ゲームで見た絶世の美女が、目を輝かせてローズ王女殿下をじっと見つめている。

 ━━氷の令嬢?

 『夢見る乙女のメモリアル2』の悪役令嬢、イザベラ・モランは無表情であるがゆえに、そんな異名で呼ばれていたけれど。

 ━━普通に表情、あるわよね?

 この、ゲームとの変わり様・・・・・・。彼女もまた、私と同じ転生者なのだろうか。
 それにしても、彼女はうっとりとした表情で食い入るようにローズ王女殿下を見つめている。それは、もう。失礼なくらいに。
 ローズ王女殿下が困り笑いを浮かべると、エドワード殿下がイザベラの腰を引き寄せた。
「ベラ、結婚早々、よそ見はいけないな」
 そう言われたイザベラはようやく王女殿下を見るのをやめた。
「まあ、仲がよろしいんですね」
 王女殿下は笑って彼女の失礼を許した。

「そうだったわ。エイメル大公からの贈り物を預かって来たんです」
 ローズ王女殿下はそう言うと、侍女に指示を出した。
「どうぞ。お納め下さい」
 そう言って差し出されたのは揃いのターコイズのブローチだった。
「まあ! エドの瞳と同じ」
 イザベラは眩い程の笑顔をエドワード殿下に向ける。
「そうだね」
 彼は微笑んでイザベラの頭を撫でた。

 ━━公然の場でよくもまあ・・・・・・。

 いちゃいちゃする二人に「恥ずかしくないのかしら?」と思うものの、不思議と嫌な感じはしなかった。

「素敵な贈り物をありがとうございます。これはもう、家族の記念日の時には、毎回、身につけますわ」
「そこまで気に入ってくれたのなら、エイメル大公もきっとお喜びになる事でしょう」
 ローズ王女殿下は笑ってそう言った。







 結婚式が終わってからも、私達は王宮に滞在させてもらった。
 イザベラはローズ王女殿下にすっかりと懐いてしまったらしく、彼女のもとを頻繁に訪れていた。そして、今日も「他国の文化の勉強」という名目でイザベラは王女殿下のもとに教えを乞いに来ている。

 対して私は、暇を持て余していた。する事もなかったからお昼寝をしていると、エドワード殿下が来たと侍女に告げられた。
 私は急いで起きて彼を迎え入れると、エドワード殿下は老年の男を連れてきていた。
「ご機嫌よう。どうかなさいましたか」
 尋ねると彼は、「そのペンダントの補強をさせて欲しい」と言った。
「えっと?」
「そのペンダントに込められた魔法に綻びができていますから。修理した方がいいと思って賢人を呼んだのです」

 ━━ニコラス殿下にもらったこれが壊れかけているの?

 私の疑問は、食い入るようにペンダントを見つめる賢人によって吹き飛ばされた。私は慌てて彼に挨拶をする。
「賢人の方とは知らず、挨拶を致さず申し訳ありませんでした」
「いや。構わん」
 いくら賢人が優れた魔法使いで敬われる存在だとしても、他国の王太子の側室に対して、それはいささか無礼な物言いだった。
 しかし、学者や魔法使いの人々は変わり者が多いから、気にしたら負けだろう。
「それより、それをよく見せてみろ」
 そう言って彼は乱暴にも、ペンダントを引ったくろうとした。エドワード殿下は慌てて止めに入ったのは言うまでもない。

「すみません、レイチェル様。彼は、魔塔籠もりの偏屈家で、常識というものを忘れてしまったんです」
 内心、ハラハラしているであろう彼がかわいそうになって、私は賢人の無礼を許した。
「しかし、修理をしてもらおうにも。残念ながら、その報酬に相応しいお金を、私は持ち合わせておりませんの」
「リュミエールの王室から既に金はもらっておる」
 賢人はそう言うと、早くしろと言わんばかりに手を出してきた。
「えっと・・・・・・?」
 エドワード殿下を見れば、彼は作り笑いを浮かべて言った。
「これは『親交の印』と思って、おまかせいただけないでしょうか」
 どうやら、彼は私を通して、ニコラス殿下との関係を強く持ちたいらしい。

 ━━私は、そんなに役に立つ存在じゃないのに。

 そう思いながらも、私はペンダントを差し出した。そうしないと、彼らは帰ってくれないと思ったからだ。
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