【2章完結/R-18/IF】神様が間違えたから。

花草青依

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1章 神様が間違えたから

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 19歳の秋の始まりに、第一王妃様は・・・・・・いや、第一王妃だった人は、全ての身分と地位を剥奪されて、北の極寒の地へと移送された。
 それから、1週間も待たずして、ミランダは王宮で国王陛下に囲われる事になった。
 彼女は父親よりも年のいった男に抱かれる事を屈辱を感じたらしい。ベッドの上で国王陛下に対して酷い罵倒の言葉を浴びせ、物を投げつけ、破壊したそうだ。
 国王陛下はそんな彼女を力でねじ伏せて処女を奪ったのだという。彼には一切の情け容赦がなかったようで、ミランダの苦痛に喘ぐ叫び声が一晩中、鳴り響いていたそうだ。

 ミランダには王妃の地位が与えられず、避妊もさせられて、徹底的に「おもちゃ」として管理されている。それは、王宮で暮らす人々なら、誰もが知っているけれど。唯一の王妃となった、ニコラス殿下のお母様は、それでもミランダの事が許せなかったそうだ。

 王妃様にとってミランダが脅威に映った事は容易に想像できる。
 自分と同じような身分の低い家系の貴族の娘を、国王陛下が迎え入れたのだ。しかも、自分より若く美しい女が・・・・・・。
 だから、王妃様は、ミランダに様々な嫌がらせを行っているそうだ。中には命の危機を感じるようなものまであったらしいけれど。ミランダがそれを国王陛下に訴えても、彼は我関せずを貫いているそうだ。

 可哀想なのは、ケイン殿下だ。
 母親が罪人として裁かれ、恋人は父親に寝取られてしまった彼は、今ではすっかり社交界の笑われ者だ。
 その上、母親がやらかした事の責任を取らされてしまい、彼は国境の戦地へと送られてしまった。お父様は、その場所の名前を聞いた時、顔を歪めた。
「あの地での戦いは、いずれも苦戦を強いられるのだ。地形が悪く、敵軍にとって有利な戦局に陥りやすいから」
 お父様はそう言って、地図を見ながら説明してくれた。そして、隣りでそれを見ていたお兄様は「ここで戦うのは嫌だな」とつぶやいたのだけれど・・・・・・。私には地図を見ても何が何だかさっぱり分からなかった。

「ニコラス殿下も、酷な事をなさるな」
 お父様はつぶやいた。どうやら、ミランダとケイン殿下の処遇を決めたのは、彼だと思っているらしい。
 ケイン殿下はともかく、ミランダの処遇に関しては、私が決めたのだけれど。それを言うのは躊躇われて、私は苦笑いを浮かべた。
「でも、殿下はそれを否定されていますよ?」
 一応、フォローしておくと、お父様は眉を顰めた。
「『はい、やりました』と、素直に認めるとでも?」
「あはは・・・・・・」
 私は笑う事しかできなかった。

「レイチェル」
 お母様に呼ばれて「はい」と返事をした。
「教会に行く準備は終わったの?」
「はい。いつでも行けます」
「それなら、いらっしゃい」
 私はお父様とお兄様に見送られて、お母様と共に馬車に乗った。

「こうしてあなたと出かけるのも久しぶりね」
「はい。学園に入学してからお会いできませんでしたから。・・・・・・何だか懐かしいです」
 学園に入学する前の、まだドルウェルク領にいた頃は、よくお母様に付き添って教会に通っていた。
「そうね。学園生活が忙しそうだったから、会いに行かなかったけれど・・・・・・。これからはもう、滅多に会えないのなら、もっと会っておくべきだった」
 お母様の寂しげな顔を見て、私は何も言えなかった。

 来年の春に、私はリュミエール王国に旅立つ事が決まっている。ニコラス殿下とエレノアの結婚式と同時期に行われる、リュミエール王太子夫妻の結婚式に参加する事が決まったのだ。
 そこで、約1ヶ月の時を過ごし、国に帰ってきたら、私はニコラス殿下の宮殿で暮らす予定になっている。
 過保護で嫉妬深いニコラス殿下は、私を閉じ込める気でいるから。きっと肉親であっても、滅多な事でもない限り会うことはできなくなるだろう。

「ニコラス殿下は、信仰心の薄い人だと聞いたわ」
 お母様はぽつりと漏らした。
「彼は、その分、現実をしっかりと見据えて努力できる方ですから」
 フォローをするとお母様は「そう」とつぶやいた。

 馬車が教会に着くと、お母様は慣れた動作で献金をした。お金を受け取った司教は、複雑そうな顔で私を見た。けれど、結局何も言わず、祈祷室へと案内してくれた。

 ━━世の中、結局、お金よね。

 神様を信じている私でも、神の教えを伝える教会は信じられないと、歳を重ねる毎に思うようになった。教会の内部でも、貴族社会と同じように汚職と権力争いが頻発しているからだ。
 きっと世界は、どこでも、醜い事に変わりはないだろう。だから、清廉で厳格なふりをする教会だって信じてはいけない。

 しかし、私は神までは否定しなかった。
 自分の努力では推し量れない、手が届かない領域というものがこの世にはあって、そこでの出来事は、神に祈るしかないから。
 そう思うからこそ、私は神を信じ、祈りを捧げるのだ。
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