【2章完結/R-18/IF】神様が間違えたから。

花草青依

文字の大きさ
42 / 103
1章 神様が間違えたから

42

しおりを挟む
 賢人はペンダントを受け取ると、それをじっくりと眺めた。
「3日」
 彼はそうつぶやくと、ペンダントを持ったまま挨拶もなしに部屋から出て行った。

「すみません。修理には3日かかると彼は言っています。礼儀はまるでありませんが、賢人の中では並び立つ者がいない実力者なので・・・・・・」
「大丈夫ですよ。怒っていませんから」
 そう言って微笑みかけるとエドワード殿下は申し訳なさそうに「ありがとうございます」と言った。

「よろしければ、これからお茶はいかがでしょうか?」
 彼に言われて私は快諾した。

 応接室に招かれた私は、エドワード殿下と向き合ってお茶を飲んだ。
 出されたお茶は、カモミールティーで、私の事を随分と調べたんだなと思った。

 ━━でも、媚を売る相手を間違えているわね。

 数カ月後に、ニコラス殿下とエレノアが新婚旅行として、外遊する事が決まっている。リュミエール王国にも訪問するのだから、その時に二人へ接触すればいいのだ。

 ━━ニコラス殿下はともかく、エレノアはこういうもてなしを喜ぶはずだから・・・・・・。

 ふっと笑いそうになるのを堪えてエドワード殿下を見た。
「イザベラ様とは、運命的な大恋愛の末に結婚されたんですってね。ロズウェルの社交界で『ロマンチックな恋愛結婚だ』と憧れの的になっていますよ」
 悪役令嬢だったイザベラはゲームのシナリオ通り婚約者から婚約の破棄を告げられたらしい。しかし、どういう訳か、メインヒーローであるエドワード殿下と結婚した彼女は晴れて王太子妃になっていた。

「大恋愛・・・・・・という程ではありませんが、好きな人と結婚できたのは事実ですね」
 照れ笑いを浮かべるエドワードに対して、「こいつも恋愛脳か」と内心毒づいた。
 しかし、次の一言で、彼への印象は変わった。

「俺は運が良かったんです。容姿端麗で家柄もよく、教養のある穏やかな女性を伴侶にできましたから」
「ええ、そうですね。イザベラ様はとても素敵な女性です」
 イザベラはローズ王女殿下を見つめた事以外には、特段、無礼な事をやらかしてはいなかった。
 彼女はエドワード殿下の横で優しく微笑む穏やかな淑女だった。それに、少しぎこちなくはあったけれど、来賓の人達をしっかりともてなしていた。
 あの様子から見るに、彼女には王太子妃としての自覚はしっかりとあるようだ。王太子妃を恋愛感情で選ぶのは如何なものかと思っていたけれど。この二人なら問題ないのかもしれない。

「しかし、大恋愛というのは、どちらかと言えば、レイチェル様の方が当てはまりませんか」
「はい?」
 一瞬、攻撃をされたのかと思った。
 「大恋愛」でニコラス殿下を誑かし、王太子の側室の座を手に入れた卑しい女だと皮肉を込めた発言に聞こえたのだけれど・・・・・・。
 しかし、エドワード殿下は先程と変わらぬ穏やかな様子だった。悪意を持って私を馬鹿にしている様にはとても見えない。

「ニコラス王子は弟を押しのけてまであなたと結ばれたかったのでしょう?」

 ━━ああ。ニコラス殿下のあの日の衝動的な行動は、そういう風に解釈されるのね。

「俺はとてもじゃないけれど、そんな情熱的な行動はとれなかったな・・・・・・」
「それが、王太子としての、正しい考え方ですわ」
 エドワード殿下は一瞬、私を食い入るように見つめた。何かを測るようにじっくりと。
「・・・・・・そうですね。それがきっと正しい事なのでしょう」
 彼はそう言うと私から視線を外した。
 てっきり、エレノアのように食い下がってくるものだとばかり思っていたから意外だった。
 エドワード殿下は静かにお茶を飲んだ。私も彼にあわせて、お茶を飲んだ。







 それから3日後、ペンダントは無事に返ってきた。返却されたそれをじっくりと眺めても、本当に直したのかと疑ってしまうくらい、何の変化も見当たらなかった。
 賢人は「健康に気を付けるように」と、まるで医者のような事を言って、エドワード殿下を困惑させていた。

 ━━これ、そんなに酷い状態だったのかしら?

 疑問に思いながらも3日ぶりにネックレスを身に着けた。

「それにしても、レイチェル様はニコラス王子にとても愛されているのですね」
 エドワード殿下のつぶやきを私はあえて受け入れた。
「リュミエールの賢人が作った魔法道具をいただけたのですから。そう思っても驕りにはなりませんわね」
 リュミエールの魔法技術を褒めて終わりにするつもりだったけれど。エドワード殿下は「それだけではありません」と言った。

「こうして他国に特使として派遣するほど、信頼なさっているではありませんか。信頼や尊敬もまた、愛の形の一つですよ」
 私は嫌な笑いがこぼれそうになるのを我慢した。

 ━━違うわ。エレノアとの結婚式に私がいたら邪魔になるから。だから、国王陛下とニコラス殿下は体よく私を国から追い出したのよ。

 でも、この考えを知られてはいけない。この国が邪魔な側室の一時避難所と知られてしまえば、エドワード殿下は気を悪くしてしまうから。

「そうだといいですね」
 私は笑った。いつも通り、何事もないように。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

悪役皇女は二度目の人生死にたくない〜義弟と婚約者にはもう放っておいて欲しい〜

abang
恋愛
皇女シエラ・ヒペリュアンと皇太子ジェレミア・ヒペリュアンは血が繋がっていない。 シエラは前皇后の不貞によって出来た庶子であったが皇族の醜聞を隠すためにその事実は伏せられた。 元々身体が弱かった前皇后は、名目上の療養中に亡くなる。 現皇后と皇帝の間に生まれたのがジェレミアであった。 "容姿しか取り柄の無い頭の悪い皇女"だと言われ、皇后からは邪険にされる。 皇帝である父に頼んで婚約者となった初恋のリヒト・マッケンゼン公爵には相手にもされない日々。 そして日々違和感を感じるデジャブのような感覚…するとある時…… 「私…知っているわ。これが前世というものかしら…、」 突然思い出した自らの未来の展開。 このままではジェレミアに利用され、彼が皇帝となった後、汚れた部分の全ての罪を着せられ処刑される。 「それまでに…家出資金を貯めるのよ!」 全てを思い出したシエラは死亡フラグを回避できるのか!? 「リヒト、婚約を解消しましょう。」         「姉様は僕から逃げられない。」 (お願いだから皆もう放っておいて!)

兄様達の愛が止まりません!

恋愛
五歳の時、私と兄は父の兄である叔父に助けられた。 そう、私達の両親がニ歳の時事故で亡くなった途端、親類に屋敷を乗っ取られて、離れに閉じ込められた。 屋敷に勤めてくれていた者達はほぼ全員解雇され、一部残された者が密かに私達を庇ってくれていたのだ。 やがて、領内や屋敷周辺に魔物や魔獣被害が出だし、私と兄、そして唯一の保護をしてくれた侍女のみとなり、死の危険性があると心配した者が叔父に助けを求めてくれた。 無事に保護された私達は、叔父が全力で守るからと連れ出し、養子にしてくれたのだ。 叔父の家には二人の兄がいた。 そこで、私は思い出したんだ。双子の兄が時折話していた不思議な話と、何故か自分に映像に流れて来た不思議な世界を、そして、私は…

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

義兄様と庭の秘密

結城鹿島
恋愛
もうすぐ親の決めた相手と結婚しなければならない千代子。けれど、心を占めるのは美しい義理の兄のこと。ある日、「いっそ、どこかへ逃げてしまいたい……」と零した千代子に対し、返ってきた言葉は「……そうしたいなら、そうする?」だった。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

処理中です...