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1章 神様が間違えたから
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賢人はペンダントを受け取ると、それをじっくりと眺めた。
「3日」
彼はそうつぶやくと、ペンダントを持ったまま挨拶もなしに部屋から出て行った。
「すみません。修理には3日かかると彼は言っています。礼儀はまるでありませんが、賢人の中では並び立つ者がいない実力者なので・・・・・・」
「大丈夫ですよ。怒っていませんから」
そう言って微笑みかけるとエドワード殿下は申し訳なさそうに「ありがとうございます」と言った。
「よろしければ、これからお茶はいかがでしょうか?」
彼に言われて私は快諾した。
応接室に招かれた私は、エドワード殿下と向き合ってお茶を飲んだ。
出されたお茶は、カモミールティーで、私の事を随分と調べたんだなと思った。
━━でも、媚を売る相手を間違えているわね。
数カ月後に、ニコラス殿下とエレノアが新婚旅行として、外遊する事が決まっている。リュミエール王国にも訪問するのだから、その時に二人へ接触すればいいのだ。
━━ニコラス殿下はともかく、エレノアはこういうもてなしを喜ぶはずだから・・・・・・。
ふっと笑いそうになるのを堪えてエドワード殿下を見た。
「イザベラ様とは、運命的な大恋愛の末に結婚されたんですってね。ロズウェルの社交界で『ロマンチックな恋愛結婚だ』と憧れの的になっていますよ」
悪役令嬢だったイザベラはゲームのシナリオ通り婚約者から婚約の破棄を告げられたらしい。しかし、どういう訳か、メインヒーローであるエドワード殿下と結婚した彼女は晴れて王太子妃になっていた。
「大恋愛・・・・・・という程ではありませんが、好きな人と結婚できたのは事実ですね」
照れ笑いを浮かべるエドワードに対して、「こいつも恋愛脳か」と内心毒づいた。
しかし、次の一言で、彼への印象は変わった。
「俺は運が良かったんです。容姿端麗で家柄もよく、教養のある穏やかな女性を伴侶にできましたから」
「ええ、そうですね。イザベラ様はとても素敵な女性です」
イザベラはローズ王女殿下を見つめた事以外には、特段、無礼な事をやらかしてはいなかった。
彼女はエドワード殿下の横で優しく微笑む穏やかな淑女だった。それに、少しぎこちなくはあったけれど、来賓の人達をしっかりともてなしていた。
あの様子から見るに、彼女には王太子妃としての自覚はしっかりとあるようだ。王太子妃を恋愛感情で選ぶのは如何なものかと思っていたけれど。この二人なら問題ないのかもしれない。
「しかし、大恋愛というのは、どちらかと言えば、レイチェル様の方が当てはまりませんか」
「はい?」
一瞬、攻撃をされたのかと思った。
「大恋愛」でニコラス殿下を誑かし、王太子の側室の座を手に入れた卑しい女だと皮肉を込めた発言に聞こえたのだけれど・・・・・・。
しかし、エドワード殿下は先程と変わらぬ穏やかな様子だった。悪意を持って私を馬鹿にしている様にはとても見えない。
「ニコラス王子は弟を押しのけてまであなたと結ばれたかったのでしょう?」
━━ああ。ニコラス殿下のあの日の衝動的な行動は、そういう風に解釈されるのね。
「俺はとてもじゃないけれど、そんな情熱的な行動はとれなかったな・・・・・・」
「それが、王太子としての、正しい考え方ですわ」
エドワード殿下は一瞬、私を食い入るように見つめた。何かを測るようにじっくりと。
「・・・・・・そうですね。それがきっと正しい事なのでしょう」
彼はそう言うと私から視線を外した。
てっきり、エレノアのように食い下がってくるものだとばかり思っていたから意外だった。
エドワード殿下は静かにお茶を飲んだ。私も彼にあわせて、お茶を飲んだ。
※
それから3日後、ペンダントは無事に返ってきた。返却されたそれをじっくりと眺めても、本当に直したのかと疑ってしまうくらい、何の変化も見当たらなかった。
賢人は「健康に気を付けるように」と、まるで医者のような事を言って、エドワード殿下を困惑させていた。
━━これ、そんなに酷い状態だったのかしら?
疑問に思いながらも3日ぶりにネックレスを身に着けた。
「それにしても、レイチェル様はニコラス王子にとても愛されているのですね」
エドワード殿下のつぶやきを私はあえて受け入れた。
「リュミエールの賢人が作った魔法道具をいただけたのですから。そう思っても驕りにはなりませんわね」
リュミエールの魔法技術を褒めて終わりにするつもりだったけれど。エドワード殿下は「それだけではありません」と言った。
「こうして他国に特使として派遣するほど、信頼なさっているではありませんか。信頼や尊敬もまた、愛の形の一つですよ」
私は嫌な笑いがこぼれそうになるのを我慢した。
━━違うわ。エレノアとの結婚式に私がいたら邪魔になるから。だから、国王陛下とニコラス殿下は体よく私を国から追い出したのよ。
でも、この考えを知られてはいけない。この国が邪魔な側室の一時避難所と知られてしまえば、エドワード殿下は気を悪くしてしまうから。
「そうだといいですね」
私は笑った。いつも通り、何事もないように。
「3日」
彼はそうつぶやくと、ペンダントを持ったまま挨拶もなしに部屋から出て行った。
「すみません。修理には3日かかると彼は言っています。礼儀はまるでありませんが、賢人の中では並び立つ者がいない実力者なので・・・・・・」
「大丈夫ですよ。怒っていませんから」
そう言って微笑みかけるとエドワード殿下は申し訳なさそうに「ありがとうございます」と言った。
「よろしければ、これからお茶はいかがでしょうか?」
彼に言われて私は快諾した。
応接室に招かれた私は、エドワード殿下と向き合ってお茶を飲んだ。
出されたお茶は、カモミールティーで、私の事を随分と調べたんだなと思った。
━━でも、媚を売る相手を間違えているわね。
数カ月後に、ニコラス殿下とエレノアが新婚旅行として、外遊する事が決まっている。リュミエール王国にも訪問するのだから、その時に二人へ接触すればいいのだ。
━━ニコラス殿下はともかく、エレノアはこういうもてなしを喜ぶはずだから・・・・・・。
ふっと笑いそうになるのを堪えてエドワード殿下を見た。
「イザベラ様とは、運命的な大恋愛の末に結婚されたんですってね。ロズウェルの社交界で『ロマンチックな恋愛結婚だ』と憧れの的になっていますよ」
悪役令嬢だったイザベラはゲームのシナリオ通り婚約者から婚約の破棄を告げられたらしい。しかし、どういう訳か、メインヒーローであるエドワード殿下と結婚した彼女は晴れて王太子妃になっていた。
「大恋愛・・・・・・という程ではありませんが、好きな人と結婚できたのは事実ですね」
照れ笑いを浮かべるエドワードに対して、「こいつも恋愛脳か」と内心毒づいた。
しかし、次の一言で、彼への印象は変わった。
「俺は運が良かったんです。容姿端麗で家柄もよく、教養のある穏やかな女性を伴侶にできましたから」
「ええ、そうですね。イザベラ様はとても素敵な女性です」
イザベラはローズ王女殿下を見つめた事以外には、特段、無礼な事をやらかしてはいなかった。
彼女はエドワード殿下の横で優しく微笑む穏やかな淑女だった。それに、少しぎこちなくはあったけれど、来賓の人達をしっかりともてなしていた。
あの様子から見るに、彼女には王太子妃としての自覚はしっかりとあるようだ。王太子妃を恋愛感情で選ぶのは如何なものかと思っていたけれど。この二人なら問題ないのかもしれない。
「しかし、大恋愛というのは、どちらかと言えば、レイチェル様の方が当てはまりませんか」
「はい?」
一瞬、攻撃をされたのかと思った。
「大恋愛」でニコラス殿下を誑かし、王太子の側室の座を手に入れた卑しい女だと皮肉を込めた発言に聞こえたのだけれど・・・・・・。
しかし、エドワード殿下は先程と変わらぬ穏やかな様子だった。悪意を持って私を馬鹿にしている様にはとても見えない。
「ニコラス王子は弟を押しのけてまであなたと結ばれたかったのでしょう?」
━━ああ。ニコラス殿下のあの日の衝動的な行動は、そういう風に解釈されるのね。
「俺はとてもじゃないけれど、そんな情熱的な行動はとれなかったな・・・・・・」
「それが、王太子としての、正しい考え方ですわ」
エドワード殿下は一瞬、私を食い入るように見つめた。何かを測るようにじっくりと。
「・・・・・・そうですね。それがきっと正しい事なのでしょう」
彼はそう言うと私から視線を外した。
てっきり、エレノアのように食い下がってくるものだとばかり思っていたから意外だった。
エドワード殿下は静かにお茶を飲んだ。私も彼にあわせて、お茶を飲んだ。
※
それから3日後、ペンダントは無事に返ってきた。返却されたそれをじっくりと眺めても、本当に直したのかと疑ってしまうくらい、何の変化も見当たらなかった。
賢人は「健康に気を付けるように」と、まるで医者のような事を言って、エドワード殿下を困惑させていた。
━━これ、そんなに酷い状態だったのかしら?
疑問に思いながらも3日ぶりにネックレスを身に着けた。
「それにしても、レイチェル様はニコラス王子にとても愛されているのですね」
エドワード殿下のつぶやきを私はあえて受け入れた。
「リュミエールの賢人が作った魔法道具をいただけたのですから。そう思っても驕りにはなりませんわね」
リュミエールの魔法技術を褒めて終わりにするつもりだったけれど。エドワード殿下は「それだけではありません」と言った。
「こうして他国に特使として派遣するほど、信頼なさっているではありませんか。信頼や尊敬もまた、愛の形の一つですよ」
私は嫌な笑いがこぼれそうになるのを我慢した。
━━違うわ。エレノアとの結婚式に私がいたら邪魔になるから。だから、国王陛下とニコラス殿下は体よく私を国から追い出したのよ。
でも、この考えを知られてはいけない。この国が邪魔な側室の一時避難所と知られてしまえば、エドワード殿下は気を悪くしてしまうから。
「そうだといいですね」
私は笑った。いつも通り、何事もないように。
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