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1章 神様が間違えたから
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※
それから、数週間後、私達はロズウェル王国に帰還した。
私達に懐いていたイザベラは、とても悲しそうな顔で「お手紙を送りますね」と言ってきた。
手紙が本当に届いたのなら、愛らしい彼女のために、リュミエールでは流通していない書物を送ってあげようと思った。彼女は近隣諸国の文化の勉強に熱心で努力家だったから。それが、私に良くしてくれたエドワード殿下へのお礼にもなるだろう。
私達は王太子夫妻に見送られて、再びゲートを通り、ロズウェル王国の王宮に帰還した。
「おかえり、レイチェル」
迎え出たニコラス殿下は私を寝室に連れ込んだ。
「お仕事は?」
「全部終わらせた。次は、新婚旅行が帰ってきてから」
「それなら、3日間、ゆっくりとできますね」
「うん」
彼は昼だと言うのに私の服を脱がせていく。
「まだ日が高いから、ゆっくりおしゃべりをしましょうよ?」
「駄目、ずっと我慢してたから。仕事も頑張って終わらせたんだよ?」
褒めてと言わんばかりに見つめてくる彼の頭を撫でた。久しぶりに触ったニコラス殿下の髪の毛はとてもサラサラしている上、いい匂いがした。
彼はお風呂にまで入って私を待ち構えていたらしい。
胸の内側から温かいものが込み上げてくる感覚に、私は困惑した。
そんな私の気持ちも知らず、ニコラス殿下は私に襲いかかってくる。それは、もう、激しく。ずっと我慢していたと言っていたから、理性のタガが外れたのだろうか。彼は獣のように私の身体を貪った。
そして、そんな情事もたまには悪くないと思う自分がいて・・・・・・。だから私も、彼が恋しかったのだと思わざるを得なかった。
※
それから3日間、ニコラス殿下は旅立つ直前まで私を離してくれなかった。
「レイチェルも、連れていきたい」
ギリギリまで行為に耽っていたから時間がないというのに。ニコラス殿下は裸のまま私を抱きしめて離れようとしなかった。
「馬鹿な事を言っていないで、早く準備をして下さい」
すりすりと甘えてくる彼を私は何とか引き剥がした。
それでニコラス殿下は何とか準備に向かった。お風呂から出て、服を着た彼は「行ってくるよ」と寂しそうに言って私の頬にキスをした。
「いってらっしゃい」
その一言で、見送りはおしまい。
ニコラス殿下が部屋から出て行き、扉を閉じると、ほんの少しの寂しさが込み上げてきた。
━━馬鹿馬鹿しい。
そう思って、私は首を振った。
それでも、寂しいという気持ちが消える事はなかったから、私はエレノアの代わりに雑務をこなすことにした。
彼女の代わりと言っても、私にできる事は、雑用の中の雑用だけだった。側室ではあるけれど、「妃殿下」の称号を持っていないのだから仕方がない。
しかし、仕事をする上で、これは不便だと思った。
いつだったか、ニコラス殿下はベッドの上でこんな事を言ってきた事があった。
「レイチェルにはいつか絶対に『妃殿下』にしてあげるから」
彼は愛ゆえにそう言ったのだと思う。あの時は笑い飛ばしたのだけれど、今はそれがとても欲しかった。
━━妃殿下の称号があれば、彼の隣りに少しは並び立てるのに。
そんな事を一瞬思ってしまって、私は愚かな自分の考えを笑った。
私がその称号を欲しがれば、ニコラス殿下は強引な手段を用いてでも、それを私に与えてくれるだろう。
しかし、その過程で多くの物を失うはずだ。正妻であるエレノアやその周囲の人物との衝突も避けられないに決まっている。
ニコラス殿下の隣りに並び立ち、役に立ちたいだなんて・・・・・・。そんなものはただの私の自己満足に過ぎない。滑稽な独りよがりだ。
━━どうしてこんな馬鹿みたいな考えを持つようになってしまったのかしら。
思い当たることといえば、リュミエール王太子夫妻だろうか。彼らは仲睦まじく、互いを尊重し、支え合おうという意思が、端から見ていても感じられた。
だから、それにあてられて、こんな事を思ってしまうようになったのかもしれない。
エドワード殿下から言われたあの言葉が頭の中を過ぎる。
「信頼や尊敬もまた、愛の形の一つですよ」
私は、ニコラス殿下をパートナーとして信頼し、次代の国王として尊敬している。
━━それが何? まさか、恋愛感情に発展したとでも?
馬鹿馬鹿しい。そう思っているのに・・・・・・。
どうして胸の奥が、こんなにも痛むのだろう━━━━
それから、数週間後、私達はロズウェル王国に帰還した。
私達に懐いていたイザベラは、とても悲しそうな顔で「お手紙を送りますね」と言ってきた。
手紙が本当に届いたのなら、愛らしい彼女のために、リュミエールでは流通していない書物を送ってあげようと思った。彼女は近隣諸国の文化の勉強に熱心で努力家だったから。それが、私に良くしてくれたエドワード殿下へのお礼にもなるだろう。
私達は王太子夫妻に見送られて、再びゲートを通り、ロズウェル王国の王宮に帰還した。
「おかえり、レイチェル」
迎え出たニコラス殿下は私を寝室に連れ込んだ。
「お仕事は?」
「全部終わらせた。次は、新婚旅行が帰ってきてから」
「それなら、3日間、ゆっくりとできますね」
「うん」
彼は昼だと言うのに私の服を脱がせていく。
「まだ日が高いから、ゆっくりおしゃべりをしましょうよ?」
「駄目、ずっと我慢してたから。仕事も頑張って終わらせたんだよ?」
褒めてと言わんばかりに見つめてくる彼の頭を撫でた。久しぶりに触ったニコラス殿下の髪の毛はとてもサラサラしている上、いい匂いがした。
彼はお風呂にまで入って私を待ち構えていたらしい。
胸の内側から温かいものが込み上げてくる感覚に、私は困惑した。
そんな私の気持ちも知らず、ニコラス殿下は私に襲いかかってくる。それは、もう、激しく。ずっと我慢していたと言っていたから、理性のタガが外れたのだろうか。彼は獣のように私の身体を貪った。
そして、そんな情事もたまには悪くないと思う自分がいて・・・・・・。だから私も、彼が恋しかったのだと思わざるを得なかった。
※
それから3日間、ニコラス殿下は旅立つ直前まで私を離してくれなかった。
「レイチェルも、連れていきたい」
ギリギリまで行為に耽っていたから時間がないというのに。ニコラス殿下は裸のまま私を抱きしめて離れようとしなかった。
「馬鹿な事を言っていないで、早く準備をして下さい」
すりすりと甘えてくる彼を私は何とか引き剥がした。
それでニコラス殿下は何とか準備に向かった。お風呂から出て、服を着た彼は「行ってくるよ」と寂しそうに言って私の頬にキスをした。
「いってらっしゃい」
その一言で、見送りはおしまい。
ニコラス殿下が部屋から出て行き、扉を閉じると、ほんの少しの寂しさが込み上げてきた。
━━馬鹿馬鹿しい。
そう思って、私は首を振った。
それでも、寂しいという気持ちが消える事はなかったから、私はエレノアの代わりに雑務をこなすことにした。
彼女の代わりと言っても、私にできる事は、雑用の中の雑用だけだった。側室ではあるけれど、「妃殿下」の称号を持っていないのだから仕方がない。
しかし、仕事をする上で、これは不便だと思った。
いつだったか、ニコラス殿下はベッドの上でこんな事を言ってきた事があった。
「レイチェルにはいつか絶対に『妃殿下』にしてあげるから」
彼は愛ゆえにそう言ったのだと思う。あの時は笑い飛ばしたのだけれど、今はそれがとても欲しかった。
━━妃殿下の称号があれば、彼の隣りに少しは並び立てるのに。
そんな事を一瞬思ってしまって、私は愚かな自分の考えを笑った。
私がその称号を欲しがれば、ニコラス殿下は強引な手段を用いてでも、それを私に与えてくれるだろう。
しかし、その過程で多くの物を失うはずだ。正妻であるエレノアやその周囲の人物との衝突も避けられないに決まっている。
ニコラス殿下の隣りに並び立ち、役に立ちたいだなんて・・・・・・。そんなものはただの私の自己満足に過ぎない。滑稽な独りよがりだ。
━━どうしてこんな馬鹿みたいな考えを持つようになってしまったのかしら。
思い当たることといえば、リュミエール王太子夫妻だろうか。彼らは仲睦まじく、互いを尊重し、支え合おうという意思が、端から見ていても感じられた。
だから、それにあてられて、こんな事を思ってしまうようになったのかもしれない。
エドワード殿下から言われたあの言葉が頭の中を過ぎる。
「信頼や尊敬もまた、愛の形の一つですよ」
私は、ニコラス殿下をパートナーとして信頼し、次代の国王として尊敬している。
━━それが何? まさか、恋愛感情に発展したとでも?
馬鹿馬鹿しい。そう思っているのに・・・・・・。
どうして胸の奥が、こんなにも痛むのだろう━━━━
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