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1章 神様が間違えたから
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表情を変えた俺を見て、エドワード王太子は、「やはりそうか」とでも言いたげな顔をした。
「それに気付ける人間はこの国でも多くいませんから」
「君はその例外だと?」
「俺はこれでも建国の魔法使いの血を引いています。魔法の素養はそれなりにあるんです」
「・・・・・・なるほど」
「ペンダントの事を知るのは俺と修理をした賢人だけですから。その賢人は寡黙な人間で日頃は常に研究所である魔塔に籠もっています。ですから、情報が漏れる心配はありません」
エドワード王太子はペンダントに記されていた事実を国家機密とでも捉えているのだろうか。秘密は漏らさないとアピールしたげなようだった。
「あのペンダントがどの様な病を治していたのか分かりませんが、賢人はレイチェル様の事をとても心配していました」
「そうか」
「彼は、かつて宮廷治療魔法師を務めた経験もあり、俺の母の治療にもあたった事があるので・・・・・・。きっとレイチェル様に母を重ねたのでしょう」
リュミエール王妃は、エドワード王太子の出産を機に体調を崩し、彼が5歳の頃に亡くなったと聞いている。
━━やはりレイチェルに子を成させる事は不可能か。
もし、レイチェルの子がエドワード王太子のような存在になってしまったら。俺はきっとその子を愛せない。死ぬまで冷遇し、過酷な目に遭わせ、レイチェルを殺した罪を償わせる。それが彼女の望んでいない事であっても、俺は子供を許せないだろう。
「レイチェル様はニコラス王太子にとって大切な人なんでしょう?」
エドワード王太子の問いに俺は沈黙した。
彼は苦笑して話を続ける。
「ペンダントは『治療をした』という痕跡が残るだけで、どの様な病にかかっているのかまでは分かりません」
「7代前の偉大な賢人が作ったと聞いていたが。大した物ではないんだな」
「魔法道具は万能ではありませんから。・・・・・・もっとも、あのペンダントはすでに失われた技術で作られているので、複製不可能な唯一無二の道具です。完全に壊さないように大事に使って下さい」
「ああ」
「レイチェル様のお体が良くなる事を、祈っています」
「・・・・・・」
━━祈って何になるんだ?
神はいない。そんな高尚で慈愛に満ちた存在など、人が都合よく作った妄想の産物だ。
いもしないものに祈りを捧げるなんて、時間の無駄だろう。
俺は内側から湧き出る怒りを抑えてエドワード王太子に笑顔を向ける。
エドワード王太子は微笑んで話題を変えた。何事もなかったかのように。笑顔で雑談をする。
だから、散歩から帰った時、エレノアとリュミエール王太子妃は、俺達が真面目な話をしていたとは思わなかっただろう。
彼女達は「楽しそうで良かったです」と呑気な事を言っていた。
※
ニコラス殿下達の新婚旅行の間、私は何事もなく平和に暮らしていた。
基本的に第一王子宮の自室に閉じこもっているのだから問題が起こるはずがないのだけれど。退屈な日々のせいで、寂しさが募っていく。
私はカモミールティーとお菓子を食べながら、資料を読んでいた。
大抵はどうでもいいような事が書かれていた。
しかし、それでも中には、仕事と呼べるような大切な資料も混ざっていて━━━━
「大聖堂の修繕費の再募集か・・・・・・」
王都一の広さを誇るその教会では、去年から数百年ぶりの大改装を行っていた。
教会は先々代王の時代からその影響力を弱めてしまっているものの、それでも強大な勢力である事には変わりない。だから、王室もそれぞれ個人名義で修繕費を献金したわけだけれど。
━━この献金に更に応じたら、教会へ恩をもっと与えられるわよね?
人生何があるか分かったものじゃないから。お金で味方が増えるのなら、そうする事に越したことはない。
しかし、私の名前で献金するのはあまり良くない。教会の教えに背き愛人の立場で生きているのだから。私が献金した所で、それは私が赦されるためにお金を使った事になる。
かといって、ニコラス殿下が不在の中、彼の名前で献金をしていいのかも分からない。もし、私がそれをして、王室の慣例に背いていたとするなら、非難の対象になるだろう。
━━ローズ王女殿下に教えてもらうしかないわよね。
慣例を知る侍女達の多くは新婚旅行に同行していた。一部、残った者達はプライドが高い上、エレノアの事を気に入っていて私を目の敵にしている。私が聞いても彼女達は何も教えてくれないだろう。
私は久方ぶりに自分から部屋を出た。護衛達は驚きつつも、黙って私の後ろをついて歩いた。
「それに気付ける人間はこの国でも多くいませんから」
「君はその例外だと?」
「俺はこれでも建国の魔法使いの血を引いています。魔法の素養はそれなりにあるんです」
「・・・・・・なるほど」
「ペンダントの事を知るのは俺と修理をした賢人だけですから。その賢人は寡黙な人間で日頃は常に研究所である魔塔に籠もっています。ですから、情報が漏れる心配はありません」
エドワード王太子はペンダントに記されていた事実を国家機密とでも捉えているのだろうか。秘密は漏らさないとアピールしたげなようだった。
「あのペンダントがどの様な病を治していたのか分かりませんが、賢人はレイチェル様の事をとても心配していました」
「そうか」
「彼は、かつて宮廷治療魔法師を務めた経験もあり、俺の母の治療にもあたった事があるので・・・・・・。きっとレイチェル様に母を重ねたのでしょう」
リュミエール王妃は、エドワード王太子の出産を機に体調を崩し、彼が5歳の頃に亡くなったと聞いている。
━━やはりレイチェルに子を成させる事は不可能か。
もし、レイチェルの子がエドワード王太子のような存在になってしまったら。俺はきっとその子を愛せない。死ぬまで冷遇し、過酷な目に遭わせ、レイチェルを殺した罪を償わせる。それが彼女の望んでいない事であっても、俺は子供を許せないだろう。
「レイチェル様はニコラス王太子にとって大切な人なんでしょう?」
エドワード王太子の問いに俺は沈黙した。
彼は苦笑して話を続ける。
「ペンダントは『治療をした』という痕跡が残るだけで、どの様な病にかかっているのかまでは分かりません」
「7代前の偉大な賢人が作ったと聞いていたが。大した物ではないんだな」
「魔法道具は万能ではありませんから。・・・・・・もっとも、あのペンダントはすでに失われた技術で作られているので、複製不可能な唯一無二の道具です。完全に壊さないように大事に使って下さい」
「ああ」
「レイチェル様のお体が良くなる事を、祈っています」
「・・・・・・」
━━祈って何になるんだ?
神はいない。そんな高尚で慈愛に満ちた存在など、人が都合よく作った妄想の産物だ。
いもしないものに祈りを捧げるなんて、時間の無駄だろう。
俺は内側から湧き出る怒りを抑えてエドワード王太子に笑顔を向ける。
エドワード王太子は微笑んで話題を変えた。何事もなかったかのように。笑顔で雑談をする。
だから、散歩から帰った時、エレノアとリュミエール王太子妃は、俺達が真面目な話をしていたとは思わなかっただろう。
彼女達は「楽しそうで良かったです」と呑気な事を言っていた。
※
ニコラス殿下達の新婚旅行の間、私は何事もなく平和に暮らしていた。
基本的に第一王子宮の自室に閉じこもっているのだから問題が起こるはずがないのだけれど。退屈な日々のせいで、寂しさが募っていく。
私はカモミールティーとお菓子を食べながら、資料を読んでいた。
大抵はどうでもいいような事が書かれていた。
しかし、それでも中には、仕事と呼べるような大切な資料も混ざっていて━━━━
「大聖堂の修繕費の再募集か・・・・・・」
王都一の広さを誇るその教会では、去年から数百年ぶりの大改装を行っていた。
教会は先々代王の時代からその影響力を弱めてしまっているものの、それでも強大な勢力である事には変わりない。だから、王室もそれぞれ個人名義で修繕費を献金したわけだけれど。
━━この献金に更に応じたら、教会へ恩をもっと与えられるわよね?
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しかし、私の名前で献金するのはあまり良くない。教会の教えに背き愛人の立場で生きているのだから。私が献金した所で、それは私が赦されるためにお金を使った事になる。
かといって、ニコラス殿下が不在の中、彼の名前で献金をしていいのかも分からない。もし、私がそれをして、王室の慣例に背いていたとするなら、非難の対象になるだろう。
━━ローズ王女殿下に教えてもらうしかないわよね。
慣例を知る侍女達の多くは新婚旅行に同行していた。一部、残った者達はプライドが高い上、エレノアの事を気に入っていて私を目の敵にしている。私が聞いても彼女達は何も教えてくれないだろう。
私は久方ぶりに自分から部屋を出た。護衛達は驚きつつも、黙って私の後ろをついて歩いた。
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