【2章完結/R-18/IF】神様が間違えたから。

花草青依

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1章 神様が間違えたから

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「頑張ってきたんだから、甘えさせて?」
「ええ」
 レイチェルは俺をぎゅっと抱きしめて撫でてくれる。

「いい匂いがする」
「マッサージの時にシトラスのアロマオイルを使いましたから・・・・・・。その香りでしょう」
 爽やかでさっぱりとした香りはレイチェルにぴったりだと思った。
「お好みでしたら、ローズ王女殿下に言って、ニコラス殿下の分も貰って来ましょうか」
 ローズ王女の名前を聞いて、俺はむっとせずにはいられなかった。

「レイチェルはローズ王女に懐きすぎだ」
「・・・・・・そうですね。お世話になっています」
 ややズレた回答に、彼女が煙に巻こうとしているのを感じた。
 俺がローズ王女を嫌っている事を彼女は知っているくせに。酷い女だ。
「もう・・・・・・。そうやって拗ねて」
 レイチェルは起き上がると俺の額にキスをした。

「ほら、機嫌を直して下さい」
 彼女は四つん這いになって俺の上に覆い被さる。
「ね?」
 そう言って唇を重ねられたら、許すほかなかった。

 ━━レイチェルからの誘い。

 初めてのそれにドキドキしつつ、俺はゆっくりと彼女の服を脱がせた。







 レイチェルは花が好きらしい。
 高価な装飾品や調度品をプレゼントすると、彼女はエレノアに贈ったのかと、必ず確認をしてくる。そして、エレノアに渡した物より大きく価値が下らないと、彼女はそれを頑なに固辞した。

 しかし、花だけは違う。彼女は文句一つ言わずに受け取り、顔を綻ばせるのだ。
 だから、俺は花を調達するために大嫌いな姉ローズ王女の管理する温室に来ている。

 良い花はないのかと、温室の中をひたすら練り歩いた。彼女は何をあげても喜ぶが、折角ならまだあげた事のない物がいい。そんな事を考えながら歩いていると、温室の奥で大切に育てられている赤い薔薇を見つけた。

 ━━こんな所にあったのか。

 結婚式で見たその花がこんな奥まった場所で咲いているとは知らなかった。

 この国の王家を象徴する赤い薔薇は、王族とその正式な伴侶しか持つことを認められていない。
 もし、他人がこれを盗んだり、破損しよう物なら、王家への侮辱や謀反と捉えられる。そうした者は良くて終身刑、悪ければ一族まとめて死刑となるのだと、歴史は教えてくれている。

 そんな赤い薔薇を見て、俺はその花束を抱くレイチェルを妄想した。

 純白のドレスを着た彼女は赤い薔薇の花束を持って静かに佇む。信心深い彼女は目を閉じ、神に感謝と祈りを捧げるだろう。そして宣誓の際には俺を見て優しく笑うのだ。

 ━━やめよう。こんな、ありもしない未来を夢見るのは。

 レイチェルは側室俺の妻であるが、それを教会は認めない。そして、正室でない彼女は薔薇を持つことを認められないのだ。
 誰よりも俺を支えてくれた愛おしい人に、俺はその花を捧げる事ができない。誰よりも赤い薔薇が似合う高貴な女性なのに。

 ━━いっその事、エレノアを殺してしまおうか。後5年もあれば、俺の基盤も揺るぎのない、強固な物になるだろう。そうすれば、モニャーク公爵家の力など必要なくても・・・・・・。

「ニコラス」
 ローズ王女に呼ばれてはっとする。
「こんな奥にまで来て・・・・・・。まだ決まらないの?」
「ええ。まあ・・・・・・」
 彼女は俺の隣りに並び立った。

「赤い薔薇が、どうかした?」
 勘の良いローズ王女の事だ。俺の考えなどお見通しだろうに。
「もう冬も近いのに、咲いていたのが気になって」
 薔薇の最盛期は春だ。こんな時期に咲いているのはおかしい。その事を指摘して誤魔化すと、彼女は「ああ・・・・・・」とつぶやいた。

「結婚式で薔薇を飾ったでしょう? これは、あの時の薔薇の予備として置いていた物なの。何か間違いがあってはいけないから、こうして簡易的な保存魔法をかけて避けておいていたのよ」
「なるほど」
「それより、花はもう決まったの?」
「いや・・・・・・」
「決められないなら私が選ぶわよ?」
「贈り物くらい、自分で決めさせて下さい」
「よく言うわよ。エレノア妃への贈り物の選定を人に押し付けておいて」
「・・・・・・」
 ローズ王女が面倒な事を言う前に早くここから去ろう。彼女の説教を聞きにここへ来たわけではないのだから。

 俺は急ぎ足で彼女に贈るべき花を探した。
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