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1章 神様が間違えたから
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※
エレノアには毎度の事、うんざりさせられる。
彼女は俺の叔父であり、エイメル大公であるアーサー・ルトワールを好きになったのだとわざわざ告げてきた。
「そうか。それなら、叔父上とヤッて子供を作って来い」
俺の父親と同じ髪色と瞳の色をした叔父上なら、俺との間の子供としても問題ないだろう。そう思って言ったら、彼女は泣いて嫌だと喚いた。
「それならなぜ俺に話をしたんだ?」
聞けば彼女はしゃくりあげながら言った。
「離婚して下さい」
「は?」
「離婚して下さい!」
繰り返した彼女に俺は心底呆れ返った。
「俺と離婚できたとして、叔父上が君と再婚するとでも?」
叔父上は国王陛下との権力争いを上手く避けてエイメル公国を与えられた。
「叔父上は『ロズウェル王国の後継者争いに今後も絶対に関与しない』という条件でエイメル大公となったんだ。それなのに、ロズウェルの王太子の妻を寝取るような真似を彼がすると思っているのか」
もし、そんな事をしようものなら、国王陛下は容赦なく叔父上を粛正するだろう。それを賢明な彼は理解している。だから、彼がエレノアを受け入れるはずがないのだ。
「叔父上との不倫は認めてやる。彼の子を産み、俺の子として育てるのならな。だから、つまらない理由でいちいち離婚だと騒ぎ立てないでくれ」
そう言ってエレノアをあしらえば、彼女は嗚咽を漏らした。
━━結婚記念日の夜に何を言うかと思えば・・・・・・。
俺だって離婚したい。こんな女は俺の正妻に相応しくない。
━━俺の本当の妻は、レイチェルだけだ。
レイチェルに渡そう。ずっと彼女に渡しそびれていたものを。彼女は受け取ってはくれないかもしれないが、それでも俺はそれを彼女に与えたかった。
※
今日はニコラス殿下とエレノアの結婚1周年の記念日だった。公的な行事があるわけではないけれど、それでも夫婦にとって大切な日を彼らが一緒に過ごさないわけにはいかない。
ニコラス殿下が1日やって来ないだけで、こんなにも寂しくて惨めな気持ちになるだなんて。私は随分と我儘な考えを持つようになったようだ。
自分自身に呆れと怒りを感じつつ、一人、部屋で夕食を食べる。
テーブルに置かれた彼から貰った花は私を慰めてくれた。春の季節を彩る花々は、静かに神への祈りの言葉を聞いてくれているだろう。信仰心の欠片もないニコラス殿下と違って━━━━
寂しい夜を過ごし、朝を迎え、昼になろうとした時、ニコラス殿下は私のもとを訪れた。
「レイチェル」
大きな箱を持った侍女を引き連れてやって来た彼は神妙な面持ちで私の名を呼んだ。
「どうしました?」
昨日の寂しさを引きずっていた私は、それを彼に気取られないように微笑んだ。
「これを」
彼はそう言って侍女に荷物を開封するように視線を送った。
侍女は指示に従い、私にそれを見せつけた。
「これは・・・・・・?」
箱の中身を見て困惑する私に彼は一言、「着て」と言った。
私は彼のその願いを叶えてはいけなかった。拒否して、暖炉に火をつけて、そこに投げ込むべきものだったのに・・・・・・。
━━きっと、私の頭は寂しさのあまり変になったのね。
それを着た自分の姿を鏡で見て、そう思った。
純白のドレス、白いベール。ブーケを握った私の姿は、花嫁そのものだった。
「思った通り。・・・・・・よく似合ってるよ」
鏡越しに私を見たニコラス殿下は、そう言って肩を抱いてきた。
「結婚式も挙げられないのに、花嫁姿なんて、おかしいわ・・・・・・」
「俺の本当の妻は、生涯君だけだ。そんな君の花嫁姿を俺が見れない方がおかしいと思うんだけど?」
「何を言っているの? 神に認められないのに『花嫁』だなんて」
「神はいないよ」
ニコラス殿下は私の目を見てはっきりと言った。
「神はいない。そんなものは俺を救ってくれなかった」
「でも・・・・・・」
「もし、いるのなら、そいつは間違っている」
━━ああ。そうかもしれない。
神様は間違っている。
神様は間違えたんだ。
神様が、・・・・・・間違えたから。
━━最初から、私とニコラス殿下を婚約者にしてくれなかったからこんな事になったんだ。
全部、全部。神様が悪いんだ・・・・・・。神様が・・・・・・。
そう思ったら止めどなく涙が溢れてきた。
「・・・・・・好きよ」
私は泣きながら彼に向かって言った。
「病める時も、健やかなる時も、私はあなたと一緒にいる。愛しているわ」
どんなに辛くたって、私は彼の傍にいる。自分勝手で、残酷で、甘えん坊な彼を。私は信頼し、尊敬し、愛している。
━━神様、見ていて。あなたがどんなに間違えても、私は彼と生きるから。
第1章「神様が間違えたから。」了
エレノアには毎度の事、うんざりさせられる。
彼女は俺の叔父であり、エイメル大公であるアーサー・ルトワールを好きになったのだとわざわざ告げてきた。
「そうか。それなら、叔父上とヤッて子供を作って来い」
俺の父親と同じ髪色と瞳の色をした叔父上なら、俺との間の子供としても問題ないだろう。そう思って言ったら、彼女は泣いて嫌だと喚いた。
「それならなぜ俺に話をしたんだ?」
聞けば彼女はしゃくりあげながら言った。
「離婚して下さい」
「は?」
「離婚して下さい!」
繰り返した彼女に俺は心底呆れ返った。
「俺と離婚できたとして、叔父上が君と再婚するとでも?」
叔父上は国王陛下との権力争いを上手く避けてエイメル公国を与えられた。
「叔父上は『ロズウェル王国の後継者争いに今後も絶対に関与しない』という条件でエイメル大公となったんだ。それなのに、ロズウェルの王太子の妻を寝取るような真似を彼がすると思っているのか」
もし、そんな事をしようものなら、国王陛下は容赦なく叔父上を粛正するだろう。それを賢明な彼は理解している。だから、彼がエレノアを受け入れるはずがないのだ。
「叔父上との不倫は認めてやる。彼の子を産み、俺の子として育てるのならな。だから、つまらない理由でいちいち離婚だと騒ぎ立てないでくれ」
そう言ってエレノアをあしらえば、彼女は嗚咽を漏らした。
━━結婚記念日の夜に何を言うかと思えば・・・・・・。
俺だって離婚したい。こんな女は俺の正妻に相応しくない。
━━俺の本当の妻は、レイチェルだけだ。
レイチェルに渡そう。ずっと彼女に渡しそびれていたものを。彼女は受け取ってはくれないかもしれないが、それでも俺はそれを彼女に与えたかった。
※
今日はニコラス殿下とエレノアの結婚1周年の記念日だった。公的な行事があるわけではないけれど、それでも夫婦にとって大切な日を彼らが一緒に過ごさないわけにはいかない。
ニコラス殿下が1日やって来ないだけで、こんなにも寂しくて惨めな気持ちになるだなんて。私は随分と我儘な考えを持つようになったようだ。
自分自身に呆れと怒りを感じつつ、一人、部屋で夕食を食べる。
テーブルに置かれた彼から貰った花は私を慰めてくれた。春の季節を彩る花々は、静かに神への祈りの言葉を聞いてくれているだろう。信仰心の欠片もないニコラス殿下と違って━━━━
寂しい夜を過ごし、朝を迎え、昼になろうとした時、ニコラス殿下は私のもとを訪れた。
「レイチェル」
大きな箱を持った侍女を引き連れてやって来た彼は神妙な面持ちで私の名を呼んだ。
「どうしました?」
昨日の寂しさを引きずっていた私は、それを彼に気取られないように微笑んだ。
「これを」
彼はそう言って侍女に荷物を開封するように視線を送った。
侍女は指示に従い、私にそれを見せつけた。
「これは・・・・・・?」
箱の中身を見て困惑する私に彼は一言、「着て」と言った。
私は彼のその願いを叶えてはいけなかった。拒否して、暖炉に火をつけて、そこに投げ込むべきものだったのに・・・・・・。
━━きっと、私の頭は寂しさのあまり変になったのね。
それを着た自分の姿を鏡で見て、そう思った。
純白のドレス、白いベール。ブーケを握った私の姿は、花嫁そのものだった。
「思った通り。・・・・・・よく似合ってるよ」
鏡越しに私を見たニコラス殿下は、そう言って肩を抱いてきた。
「結婚式も挙げられないのに、花嫁姿なんて、おかしいわ・・・・・・」
「俺の本当の妻は、生涯君だけだ。そんな君の花嫁姿を俺が見れない方がおかしいと思うんだけど?」
「何を言っているの? 神に認められないのに『花嫁』だなんて」
「神はいないよ」
ニコラス殿下は私の目を見てはっきりと言った。
「神はいない。そんなものは俺を救ってくれなかった」
「でも・・・・・・」
「もし、いるのなら、そいつは間違っている」
━━ああ。そうかもしれない。
神様は間違っている。
神様は間違えたんだ。
神様が、・・・・・・間違えたから。
━━最初から、私とニコラス殿下を婚約者にしてくれなかったからこんな事になったんだ。
全部、全部。神様が悪いんだ・・・・・・。神様が・・・・・・。
そう思ったら止めどなく涙が溢れてきた。
「・・・・・・好きよ」
私は泣きながら彼に向かって言った。
「病める時も、健やかなる時も、私はあなたと一緒にいる。愛しているわ」
どんなに辛くたって、私は彼の傍にいる。自分勝手で、残酷で、甘えん坊な彼を。私は信頼し、尊敬し、愛している。
━━神様、見ていて。あなたがどんなに間違えても、私は彼と生きるから。
第1章「神様が間違えたから。」了
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