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1章番外編 ローズ王女の苦悩
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ニコラスには二人の妻がいる。大衆は彼女達に対して興味津々だ。今日も恐れ知らずな令嬢が、私の前で二人の事を話題にしている。
「この間の王太子妃殿下のパーティーに参加させていただいたんです」
「まあ、羨ましい」
彼女の開くお茶会やパーティーに参加する事は、社交界でのステータスになりつつある。貴族達はこぞって招待券を手に入れようと躍起になり、エレノア妃に媚を売っているのだと話に聞く。
━━社交界の華の立場を譲りたいけれど・・・・・・。
エレノア妃は優しすぎる。その人柄で人心を掴む能力は高いけれど、良い人で終わってしまっている。
彼女は他人を利用する事を覚えなければいけない。そして、場を統制し自分の意のままに操る能力も必要だ。もっといえば、他人と争う気力だって持たなければ。
私は、「社交界の華」として、二人の王妃をひれ伏させた。異母弟達を苦しめる大嫌いな彼女達を、社交活動でねじ伏せてやったのだ。
彼女達が主催するパーティーの日に、私は毎回、盛大なパーティーをやってのける。そうして、彼女達の方には主要な人物は出席させないようにしているのだ。
そういう事を何度も繰り返せば、彼女達の勢いが削れていったのは言うまでもない。
━━でも、エレノア妃はそんな嫌がらせを人にできない。
彼女は優しすぎるから。ねじ伏せるべき相手にも、きっと優しく手を差し出すに違いない。かつて、レイチェル妃に対してしたように・・・・・・。
彼女達がまだ学生で、レイチェル妃がニコラスの愛人になったばかりの頃。レイチェル妃は婚約者の兄に乗り換えた卑しい女というレッテルを貼られた。
それは、半分正しくて、半分間違った評価なのだけれど。エレノア妃は、「レイチェル・ドルウェルク」という人間を全面的に信じた。
だから、エレノア妃は、孤立したレイチェル妃を救うために奔走した。そして、結果的に、エレノア妃は彼女に裏切られてしまった。
しかし、それは、当然の結果に過ぎない。
レイチェル妃は、情よりも利害で動く人間だから。彼女は差し出された手を取りながらも内心ではほくそ笑み、必要によっては刺しに行くことも厭わないのだ。
あの時、彼女がそうしなかったのは、「そうする理由がなかったから」に他ならない。レイチェル妃の新しい主人となったニコラスにとって、エレノア妃が必要な人材だった。だから、レイチェル妃は何もせずにじっとしていたのだろう。
━━あの時、エレノア妃は、レイチェル妃を完膚なきまでに叩き潰しておくべきだったのよ。
自分の脅威となる人間は早めに潰しておく事に越したことはない。
もし、あの時、エレノア妃がそうしていたなら、今のような状況にはなっていなかったかもしれないのに・・・・・・。
「そういえば、レイチェル妃様は、社交活動には熱心でないのでしょうか」
畏れ多くも、若い令嬢が彼女の名前を口にした。
賢い者や情報通の者は、途端に顔を強張らせる。
「一度お会いしてみたいのですが、どのパーティーにも出席なされませんよね」
「ニコラス殿下の愛を欲しいままにしている妃ですから、きっと殿下が、外出の許可を出さないのでしょう」
夢見るうら若き彼女のその言葉に悪意はないのだろうけれど。それは、恐ろしい状況を作りかねない発言だった。
年長の令嬢達は咳払いをして、やめるように促している。おかしな空気になる前に、ここは私が流れを変えるべきなのだろう。
「そういえば、どちらの妃からも愛されている事で知られるフローラ・アイズについてご存知で? 彼女が主演を務める公演を、皆さんはもう見られましたか」
私が話を振ると、彼女達は何事もなかったかのようにその公演について話し始める。
私はそれを聞きながら、優雅に微笑みお茶を飲んだ。
この後、予定しているレイチェル妃との外出について、思いを馳せて。
※
晴れた日の午後。春の優しい日射しの下、レイチェル妃は久しぶりの外出を喜んでいた。
向かった先は王家が管理する自然公園で、王宮から、そんなに離れていない場所だったけれど。彼女は伸び伸びとした様子で散歩をしている。
今日、彼女が外出を許されたのは、一つは健康のためだった。
彼女は身体が弱い事を理由に、過保護なニコラスによって第一王子宮の一室に閉じ込められていた。
引きこもって生活しているがゆえに、運動量が足りないと主治医に叱られたらしい。健康のために、少しは自然の中をゆっくり散歩するようにと勧められて、真面目な彼女はそれに従っている。
そして、もう一つの理由は、今日がニコラスとエレノア妃の結婚記念日だから。
この日は、ニコラスに後ろめたさを抱かせるらしい。毎年、結婚記念日になると、彼はレイチェル妃を自由にさせるのだと、彼女はそう言って笑っていた。
━━もう彼らの結婚から3年の月日が経ったのね。
月日が経つのが早く感じる。
そう思うのは、彼らの関係が結婚当初から何も変わっていないせいかもしれない。
「この間の王太子妃殿下のパーティーに参加させていただいたんです」
「まあ、羨ましい」
彼女の開くお茶会やパーティーに参加する事は、社交界でのステータスになりつつある。貴族達はこぞって招待券を手に入れようと躍起になり、エレノア妃に媚を売っているのだと話に聞く。
━━社交界の華の立場を譲りたいけれど・・・・・・。
エレノア妃は優しすぎる。その人柄で人心を掴む能力は高いけれど、良い人で終わってしまっている。
彼女は他人を利用する事を覚えなければいけない。そして、場を統制し自分の意のままに操る能力も必要だ。もっといえば、他人と争う気力だって持たなければ。
私は、「社交界の華」として、二人の王妃をひれ伏させた。異母弟達を苦しめる大嫌いな彼女達を、社交活動でねじ伏せてやったのだ。
彼女達が主催するパーティーの日に、私は毎回、盛大なパーティーをやってのける。そうして、彼女達の方には主要な人物は出席させないようにしているのだ。
そういう事を何度も繰り返せば、彼女達の勢いが削れていったのは言うまでもない。
━━でも、エレノア妃はそんな嫌がらせを人にできない。
彼女は優しすぎるから。ねじ伏せるべき相手にも、きっと優しく手を差し出すに違いない。かつて、レイチェル妃に対してしたように・・・・・・。
彼女達がまだ学生で、レイチェル妃がニコラスの愛人になったばかりの頃。レイチェル妃は婚約者の兄に乗り換えた卑しい女というレッテルを貼られた。
それは、半分正しくて、半分間違った評価なのだけれど。エレノア妃は、「レイチェル・ドルウェルク」という人間を全面的に信じた。
だから、エレノア妃は、孤立したレイチェル妃を救うために奔走した。そして、結果的に、エレノア妃は彼女に裏切られてしまった。
しかし、それは、当然の結果に過ぎない。
レイチェル妃は、情よりも利害で動く人間だから。彼女は差し出された手を取りながらも内心ではほくそ笑み、必要によっては刺しに行くことも厭わないのだ。
あの時、彼女がそうしなかったのは、「そうする理由がなかったから」に他ならない。レイチェル妃の新しい主人となったニコラスにとって、エレノア妃が必要な人材だった。だから、レイチェル妃は何もせずにじっとしていたのだろう。
━━あの時、エレノア妃は、レイチェル妃を完膚なきまでに叩き潰しておくべきだったのよ。
自分の脅威となる人間は早めに潰しておく事に越したことはない。
もし、あの時、エレノア妃がそうしていたなら、今のような状況にはなっていなかったかもしれないのに・・・・・・。
「そういえば、レイチェル妃様は、社交活動には熱心でないのでしょうか」
畏れ多くも、若い令嬢が彼女の名前を口にした。
賢い者や情報通の者は、途端に顔を強張らせる。
「一度お会いしてみたいのですが、どのパーティーにも出席なされませんよね」
「ニコラス殿下の愛を欲しいままにしている妃ですから、きっと殿下が、外出の許可を出さないのでしょう」
夢見るうら若き彼女のその言葉に悪意はないのだろうけれど。それは、恐ろしい状況を作りかねない発言だった。
年長の令嬢達は咳払いをして、やめるように促している。おかしな空気になる前に、ここは私が流れを変えるべきなのだろう。
「そういえば、どちらの妃からも愛されている事で知られるフローラ・アイズについてご存知で? 彼女が主演を務める公演を、皆さんはもう見られましたか」
私が話を振ると、彼女達は何事もなかったかのようにその公演について話し始める。
私はそれを聞きながら、優雅に微笑みお茶を飲んだ。
この後、予定しているレイチェル妃との外出について、思いを馳せて。
※
晴れた日の午後。春の優しい日射しの下、レイチェル妃は久しぶりの外出を喜んでいた。
向かった先は王家が管理する自然公園で、王宮から、そんなに離れていない場所だったけれど。彼女は伸び伸びとした様子で散歩をしている。
今日、彼女が外出を許されたのは、一つは健康のためだった。
彼女は身体が弱い事を理由に、過保護なニコラスによって第一王子宮の一室に閉じ込められていた。
引きこもって生活しているがゆえに、運動量が足りないと主治医に叱られたらしい。健康のために、少しは自然の中をゆっくり散歩するようにと勧められて、真面目な彼女はそれに従っている。
そして、もう一つの理由は、今日がニコラスとエレノア妃の結婚記念日だから。
この日は、ニコラスに後ろめたさを抱かせるらしい。毎年、結婚記念日になると、彼はレイチェル妃を自由にさせるのだと、彼女はそう言って笑っていた。
━━もう彼らの結婚から3年の月日が経ったのね。
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