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1章番外編 ローズ王女の苦悩
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自然公園を歩く中で、偶然にも見知った顔の人物に出会った。
彼女は、午前のティーパーティーでレイチェル妃に会ってみたいと言っていた若い令嬢だった。彼女は私を見つけると、挨拶をするべく近寄って来た。それは普通の行動で、彼女に悪意は全くなかったのだけれど・・・・・・。
「どちら様でしょうか」
レイチェル妃の護衛が低い声で尋ねる。そして、集団で彼女を取り囲み、レイチェル妃に近寄らせまいとした。
まさか、挨拶をするために近付いただけで、こんな過剰な反応をされるとは思っても見なかったのだろう。令嬢は慌てた様子で名前を名乗った。
「ローズ王女殿下のお知り合いの方でしょうから。そんな風に囲まないであげてちょうだい」
レイチェル妃はそう言うと、来た道を引き返し始めた。そうすると、護衛達はぞろぞろと彼女についていく。
呆気に取られている令嬢に私は挨拶をした。
「こんにちは。また会ったわね」
「ローズ王女殿下、ご機嫌麗しゅうございます。・・・・・・あの、あれは一体?」
彼女はレイチェル妃の集団を見つめながら言った。
「レイチェル妃に外出許可が下りたのだけれど、ニコラスは心配性だから。護衛をあれだけつけないと許さなかったのよ」
「それは、とても・・・・・・。愛されているんですね」
「ええ。妃はあなたに迷惑をかけまいとしたから、挨拶もなしに立ち去ったの。理解してくれるかしら?」
「ええ。勿論です。むしろ、私が邪魔をしてしまって・・・・・・」
「気にしなくていいわ。そろそろ帰る所だったから」
私は彼女に微笑むと別れの挨拶をした。
それから、レイチェル妃を追いかけると、彼女は私を待っていたらしく、ベンチに座っていた。
「すみません、先に移動してしまって」
「いいのよ」
そう言って彼女の隣りに座った。
「あの令嬢は?」
「ああ・・・・・・。私のサロンに最近参加した子でね。学園にも今年入学したばかりなの」
彼女の名前を告げると、レイチェル妃はそうですかと言った。
「あそこの家門の令嬢なら、エレノア妃と仲良くなれそうですね」
彼女はそうやって、暗に、「エレノア妃に交流をするように勧めて欲しい」とお願いしてくる。
私が分かったという意味を込めて「そうね」とつぶやくと、彼女は微笑んだ。
彼女はこんな日であっても、ニコラスの事を考えて発言している。
翼をもがれ、飛べないようにさせられて、檻の中に閉じ込められても、彼女はそれを恨む様子はない。一体何が彼女をそうさせているのか。私には多分、一生彼女を理解できないと思う。
「そろそろ王宮に帰りましょうか」
そう言ってレイチェル妃が立ち上がる。
「もういいの? 折角の自由な日なのに」
「ええ。今日という日に、あまり外をうろついてしまうと、変な噂が立ちそうですから」
「そう・・・・・・」
鳥籠を開けても自分でその中に帰ってくる。よく調教された鳥だと、私は内心皮肉った。
※
次の日、温室にやって来たニコラスは、いつもより、多くの花を刈り取った。
エレノア妃との結婚記念日の次の日はいつもこうだ。レイチェル妃の言う通り、彼は相当、後ろめたい気持ちを抱えているだろう。
━━こうなる事は分かっていただろうに。
愛する女を今の立場に追いやったのはニコラスだ。ケインの婚約者だった彼女を無理やりな形で自分のものにしたのだから、そう簡単に物事が上手く行くはずがないじゃない。
そう思いながらニコラスを見ていると、彼は何かを感じ取ったのだろう。一瞬、目が鋭くなった。
「花を取り過ぎたようですね。気をつけます」
「いいのよ。それくらい。それより話があるの」
そう言って私は彼に席に着くように促した。
テーブルは既にセッティングされている。彼は逃げられないと悟ったのだろう。嫌そうにしながらも大人しく座った。
「話とは?」
「二人の妃との子供についてよ」
途端にニコラスは顔を歪ませた。作り笑いで取り繕う余裕もないほど、不愉快な話題らしい。
「あなたが結婚してもう3年の時が経ったけれど、未だにどちらの妃も妊娠の兆しがないわね。どうしてかしら?」
「さあ? 子どもは天から授かるものですから何とも」
神を信じていないくせに、こういう都合の悪い時だけ、責任を擦り付ける。
「それでお父様が納得するとでも?」
「・・・・・・姉上にも、何かおっしゃっていましたか」
「ええ。二人の妃が産まないのなら、ミランダにニコラスの子を産ませたらどうかと言っていたわ」
「相変わらず、陛下は悪趣味だな。あんな女の血がルトワールに混ざるくらいなら、断絶した方がマシだ」
「私もそう思うわ」
彼は苛立った様子でお茶を飲んだ。
「だから言ったの。そうするくらいなら、私が子供を産んで、王家の血を断絶させないようにするって」
そう言うと、ニコラスは冷めた視線を私に送った。
彼女は、午前のティーパーティーでレイチェル妃に会ってみたいと言っていた若い令嬢だった。彼女は私を見つけると、挨拶をするべく近寄って来た。それは普通の行動で、彼女に悪意は全くなかったのだけれど・・・・・・。
「どちら様でしょうか」
レイチェル妃の護衛が低い声で尋ねる。そして、集団で彼女を取り囲み、レイチェル妃に近寄らせまいとした。
まさか、挨拶をするために近付いただけで、こんな過剰な反応をされるとは思っても見なかったのだろう。令嬢は慌てた様子で名前を名乗った。
「ローズ王女殿下のお知り合いの方でしょうから。そんな風に囲まないであげてちょうだい」
レイチェル妃はそう言うと、来た道を引き返し始めた。そうすると、護衛達はぞろぞろと彼女についていく。
呆気に取られている令嬢に私は挨拶をした。
「こんにちは。また会ったわね」
「ローズ王女殿下、ご機嫌麗しゅうございます。・・・・・・あの、あれは一体?」
彼女はレイチェル妃の集団を見つめながら言った。
「レイチェル妃に外出許可が下りたのだけれど、ニコラスは心配性だから。護衛をあれだけつけないと許さなかったのよ」
「それは、とても・・・・・・。愛されているんですね」
「ええ。妃はあなたに迷惑をかけまいとしたから、挨拶もなしに立ち去ったの。理解してくれるかしら?」
「ええ。勿論です。むしろ、私が邪魔をしてしまって・・・・・・」
「気にしなくていいわ。そろそろ帰る所だったから」
私は彼女に微笑むと別れの挨拶をした。
それから、レイチェル妃を追いかけると、彼女は私を待っていたらしく、ベンチに座っていた。
「すみません、先に移動してしまって」
「いいのよ」
そう言って彼女の隣りに座った。
「あの令嬢は?」
「ああ・・・・・・。私のサロンに最近参加した子でね。学園にも今年入学したばかりなの」
彼女の名前を告げると、レイチェル妃はそうですかと言った。
「あそこの家門の令嬢なら、エレノア妃と仲良くなれそうですね」
彼女はそうやって、暗に、「エレノア妃に交流をするように勧めて欲しい」とお願いしてくる。
私が分かったという意味を込めて「そうね」とつぶやくと、彼女は微笑んだ。
彼女はこんな日であっても、ニコラスの事を考えて発言している。
翼をもがれ、飛べないようにさせられて、檻の中に閉じ込められても、彼女はそれを恨む様子はない。一体何が彼女をそうさせているのか。私には多分、一生彼女を理解できないと思う。
「そろそろ王宮に帰りましょうか」
そう言ってレイチェル妃が立ち上がる。
「もういいの? 折角の自由な日なのに」
「ええ。今日という日に、あまり外をうろついてしまうと、変な噂が立ちそうですから」
「そう・・・・・・」
鳥籠を開けても自分でその中に帰ってくる。よく調教された鳥だと、私は内心皮肉った。
※
次の日、温室にやって来たニコラスは、いつもより、多くの花を刈り取った。
エレノア妃との結婚記念日の次の日はいつもこうだ。レイチェル妃の言う通り、彼は相当、後ろめたい気持ちを抱えているだろう。
━━こうなる事は分かっていただろうに。
愛する女を今の立場に追いやったのはニコラスだ。ケインの婚約者だった彼女を無理やりな形で自分のものにしたのだから、そう簡単に物事が上手く行くはずがないじゃない。
そう思いながらニコラスを見ていると、彼は何かを感じ取ったのだろう。一瞬、目が鋭くなった。
「花を取り過ぎたようですね。気をつけます」
「いいのよ。それくらい。それより話があるの」
そう言って私は彼に席に着くように促した。
テーブルは既にセッティングされている。彼は逃げられないと悟ったのだろう。嫌そうにしながらも大人しく座った。
「話とは?」
「二人の妃との子供についてよ」
途端にニコラスは顔を歪ませた。作り笑いで取り繕う余裕もないほど、不愉快な話題らしい。
「あなたが結婚してもう3年の時が経ったけれど、未だにどちらの妃も妊娠の兆しがないわね。どうしてかしら?」
「さあ? 子どもは天から授かるものですから何とも」
神を信じていないくせに、こういう都合の悪い時だけ、責任を擦り付ける。
「それでお父様が納得するとでも?」
「・・・・・・姉上にも、何かおっしゃっていましたか」
「ええ。二人の妃が産まないのなら、ミランダにニコラスの子を産ませたらどうかと言っていたわ」
「相変わらず、陛下は悪趣味だな。あんな女の血がルトワールに混ざるくらいなら、断絶した方がマシだ」
「私もそう思うわ」
彼は苛立った様子でお茶を飲んだ。
「だから言ったの。そうするくらいなら、私が子供を産んで、王家の血を断絶させないようにするって」
そう言うと、ニコラスは冷めた視線を私に送った。
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