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 目が覚めたらシトレディスに膝枕をされていた。部屋には私とシトレディスの他に誰もいない。
 起き上がろうとしたけど、腰が痛くて動けなかった。
 エルドノア様がいなくなったあの日以来、シトレディスは私の前に現れなかった。聖女や信徒に私を嬲りながら生かすように命令しているだけだったのに。
 それなのに今になって、いったい私に何の用があるんだろう。

「ティアちゃん、久しぶり」
 私が目覚めたことに気がつくと、シトレディスは言った。彼女は私の髪を撫でる。
「あら。髪の毛に精液がついてる」
 寝ている間に誰かが好き勝手にやったんだろう。起きたら身体中が汚れていることが多々あった。
 シトレディスが精液に濡れた手を私の口元に持ってきた。彼女の細くて綺麗な指先に絡みついている。
「汚れちゃったから、綺麗にしてくれる?」
 笑顔と優しい口調で言ったけど、なぜか怖いと思った。決して逆らってはいけないような。そんな雰囲気があった。
 私はシトレディスの指を丁寧に舐めた。生臭い臭いと苦い味がして起きて早々最悪な気分にさせられる。
「ありがと」
 シトレディスは優しく笑った。

「何の用ですか」
 単刀直入に聞いたら、シトレディスは「せっかちね」と笑った。
「最近、ずっとティアちゃんの祈る声が聞こえたから。気になって見に来たのよ」
 そういえば、エルドノア様には他の神々に祈る声が聞こえていた。だから、シトレディスにもそれが聞こえていてもおかしくはない。

 シトレディスからしてみたら、エルドノア様がまたこの世界に来るのは阻止したいに決まっている。喚び出そうとしたら止めに来るのは当然だ。
 これから喚び出そうとした罰として何か嫌なことをされるのかもしれない。最近、お尻を叩かれたり、髪を引っ張られたり、首を締められたり、痛いことをたくさんされてばかりだ。

 ーーもう痛いのは嫌だ。

「そんなに怖がらないで。私はただ、ティアちゃんとお話がしたいだけなの」
 神秘的な紫の瞳が優しく私を見つめる。相変わらず怖い雰囲気をまとっているけど、何かをしてきそうではなかった。
 シトレディスはいったい何を考えているんだろう。

「ティアちゃんはエルドノアの嘘に気がついていないのね」
「嘘?」
 シトレディスは頷いた。
「ミサちゃんがした話を覚えてるかしら」
 あの聖女はおしゃべりな性格だ。聞いてもいないことをベラベラしゃべる。いったいどの話のことを言っているのか分からなかった。
「覚えてないの? 昔、エルドノアに操られてティアちゃんが私の信徒としたって話よ」
「あの妄想話・・・・・・」
「妄想?」
 シトレディスは首を傾げると美しい銀色の髪が揺れた。
「妄想なんかじゃないわ。ティアちゃんの記憶にはないかもしれないけど、あれは確かにあったことなのよ」
 そんなことを言われても信じられない。

「ティアちゃんはエルドノアからしか"食事"ができない身体だって思い込まされているけど。それは真っ赤な嘘なの。あなたも薄々は気づいていたんじゃない?」
 確かに、聖女の"愛しの彼"たちと行為をしてもお腹が満たされる感覚があった。彼の説明と矛盾していて気にはなっていたけど。それが何の関係があるのかしら。

「昔、ティアちゃんは今みたいに私の信徒とまぐわっていたわ。まだその頃のあなたは、エルドノアと契約をしたばかりで、人形のようだった。エルドノアの力で何とか息をして動くことはできたけど、長いこと自我を失っていたの」
 そんな記憶はないし、エルドノア様からもそういう話を聞いたことがない。

「自我のないあなたにエルドノアは私の信徒の相手をさせたの。私の敬虔な信徒には、"死んだ人間の魂を与えている"ってことは知ってる? その魂を贄とすることで、敬虔な信徒に不老の力を与えているの。その代わりに、彼らには私のためによく働いてもらっているんだけどね」
 そんな話をエルドノア様もしていたような気がする。
「エルドノアはその贄となった魂をティアちゃんを使って回収しようとしていたのよ」
「回収? どうやってですか」
「話の流れで分からないのかしら? セックスよ」
 シトレディスはそう言って私の髪に指を通した。誰かが出した体液がまだ残っているかもしれないからやめて欲しかった。

「あなたはエルドノアの信徒を通り越して眷属という深い関係になった。知ってる? 神の眷属となった者はね、その神の力の一部を使えるの」
 シトレディスは手を私の口元に持ってきた。彼女の手の平は案の定汚れていた。私は黙ってぺろぺろ舐める。
「ティアちゃんはエルドノアの力の一つ、"魂を洗う"能力があるのよ」
 そんなことは初耳だ。信じられない。

「エルドノアから聞いたことがあるのかしら? 人間の魂の話を」
 また指を口の中に入れられた。彼女の指からは苦い味がした。
「人間は死ぬと、通常であればエルドノアの元にいくの。そして、彼の力によって魂が洗われるのよ。生きることで魂は穢れてしまうから」
 シトレディスは指を口から引き抜いた。
「エルドノアの元に行った魂は、彼の中で溶け合って綺麗になって違う形になるの。そして、時が来れば"別の魂"として、この世界に解き放たれる。つまり、新しい人間となって生まれてくるのよ」
 そう言ってシトレディスはまた私の髪に触れた。汚れることは明らかなのに。彼女はわざと手を汚して私に舐めさせているのだろう。
「その"魂を洗う"という行為をあなたもできるのよ」
「私は、そんなことをしたことはありません」
「分かってないわね。今も私の信徒相手にしてるじゃない」
 シトレディスは笑った。

「私の信徒たちの魂は、言ってしまえばひどく穢れているの。他人の魂を無理やり吸収して永遠の生を手にしているわけだから当然よね」
 何でもないことのようにシトレディスは言っている。でも、彼女の信徒たちの魂を穢したのは彼女だ。シトレディスは自分の信徒のことを道具としか、考えていないのだろう。

「ティアちゃんはね、私の信徒とまぐわうことで、彼らの魂の一部を奪うの。贄として与えた魂をね。あなたの身体の中に回収された魂は一時的に、あなたの身体を動かすための力となるわ。でも、時がくれば魂は洗われて、世界に解き放たれる。だから、あなたはお腹を空くの。これがあなたの"食事"のメカニズム。分かったかしら?」
 シトレディスは中指を口元に持ってきた。舐めて見たけど何の味もしない。シトレディスは根本まで口の中に入れてきた。
「そうだ。一応、補足しておくわ。エルドノアとしている時はちょっと違うのよ? 彼からあなたに与えられるのは原初的な魂。つまり、洗われた後の魂ね。穢のないそれはあなたからしてみたら甘美な味がするんじゃないかしら。まあ、それも結局、世界に解き放たれるわけだから、一時的な動力としてしか使えないんだけど」
 シトレディスは指を引き抜くのかと思ったらまた深く入れてきた。そうして出し入れをして遊び始める。指を舌に押し付けてくるから、舌で絡めて舐め回した。

「そうだわ。元のお話のテーマは、エルドノアの嘘についてだったわね。これからティアちゃんが知らないであろうお話をたくさんしてあげるから、ちゃんと聞いてね?」
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