【完結】捨てられた悪役令嬢は大公殿下との新たな恋に夢を見る

花草青依

文字の大きさ
1 / 24

1-1 愛した人は幻だった

しおりを挟む
 ━━私の愛した人は幻だった。そんな人は初めからこの世界には存在しなかった。

「エレノア・モニャーク、君との婚約を破棄させてもらう」

 学園の卒業パーティで高らかに婚約破棄を宣言された。
 どよめく周囲の反応も無理はない。
 振られた私は公爵令嬢。振ったのは第二王子であるケイン・ルトワール。そして、ケイン様の横で勝ち誇ったように笑うミランダ・サリューナ男爵令嬢。
 婚約者を捨てて愛人と一緒になりたいなんて。そんなことを露骨に表現するなんて愚かの極みだ。

 ケイン様は変わってしまった。"シナリオが始まってから"別人かと思えるほど変わってしまったのだ。
 私の愛していたケイン様はもうどこにもいない。改めて確認させられると胸の奥が締め付けられる。

 私はかつて別の人生を歩んでいた。
 この世界ではないどこかの国で、庶民として生まれた。成人まであと少しというところで病で死んでしまったけれど、それなりに幸せだったと思う。
 前世の私は、病に罹ってからハマった趣味があった。それは、ゲームだった。特に恋愛要素のあるものが好きで、乙女ゲームが大好きだった。
 そんな私が死の数日前までやっていたゲーム、『夢見る乙女のメモリアル』。そのゲームの世界にどういうわけか、私は転生してしまった。しかも、メインヒーローであるケイン・ルトワールの婚約者、悪役令嬢という形で。

「エレノア、認めてくれるな?」
 ケイン様は冷たく言い放った。私はそれに抗う事もなく受け入れる。
「分かりました。どうかお幸せに」
 私はそう言い放ってパーティ会場を後にした。

 ━━ゲームの中のエレノアのように、泣いて縋りついてやるものですか。

 会場を出ていく時、周囲の視線が痛かった。そのほとんどが同情の眼差しだった。笑っていたのはミランダの取り巻きたちくらいだ。

「エリー、大丈夫?」
 会場の外へ出て、家に戻るための馬車を手配していたら親友のベッキーこと、レベッカ・ライネ伯爵令嬢に声をかけられた。
「大丈夫よ。何となくこうなるような気がしていたから」
 そう言って笑ったら「全然大丈夫じゃない!」と怒られた。
「ケイン様はどうかしてるわ。あんな顔だけの女のためにこんなことをするなんて」
「そうね。私をこんな形で切るなんてどうかしてるわ。公爵家の支持を失ったも同然なんだけど、いいのかしら?」

 貴族の婚姻は、通常、家同士の利害関係によって結ばれる。私がケイン様の婚約者に選ばれたのは、ケイン様たち第二王子派が公爵家の後ろ楯を得るためだ。
 でも、今日のことでケイン様はモニャーク公爵家の支持を失ってしまうのだろう。お父様は、第二王子派を積極的に支持しているわけではない。ただ、"第一王子派よりもマシだから"という理由で私をケイン様に嫁がせることを決めたのだ。
 でも、こんな風に恥をかかされてしまったのだから、お父様はもう二度と第二王子派を支持しないだろう。

「もう、エリーのバカ! そんなスレたオトナみたいなこと言わないで!!」
 ベッキーの言葉に苦笑いをしてしまった。昔から私を知る大親友のベッキーは、こんなことになってしまって私が傷ついていると勘違いしてる。でも、そう思われてもしょうがない。学園に入学する前の私は、今思うと痛々しいくらい、ケイン様にゾッコンだったもの。
「私が好きだったケイン様は幻だったの。だから、大丈夫」
 そう言って笑ったらベッキーは首を傾げた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白い結婚に、猶予を。――冷徹公爵と選び続ける夫婦の話

鷹 綾
恋愛
婚約者である王子から「有能すぎる」と切り捨てられた令嬢エテルナ。 彼女が選んだ新たな居場所は、冷徹と噂される公爵セーブルとの白い結婚だった。 干渉しない。触れない。期待しない。 それは、互いを守るための合理的な選択だったはずなのに―― 静かな日常の中で、二人は少しずつ「選び続けている関係」へと変わっていく。 越えない一線に名前を付け、それを“猶予”と呼ぶ二人。 壊すより、急ぐより、今日も隣にいることを選ぶ。 これは、激情ではなく、 確かな意思で育つ夫婦の物語。

【完結】婚約破棄したら『悪役令嬢』から『事故物件令嬢』になりました

Mimi
ファンタジー
私エヴァンジェリンには、幼い頃に決められた婚約者がいる。 男女間の愛はなかったけれど、幼馴染みとしての情はあったのに。 卒業パーティーの2日前。 私を呼び出した婚約者の隣には 彼の『真実の愛のお相手』がいて、 私は彼からパートナーにはならない、と宣言された。 彼は私にサプライズをあげる、なんて言うけれど、それはきっと私を悪役令嬢にした婚約破棄ね。 わかりました! いつまでも夢を見たい貴方に、昨今流行りのざまぁを かまして見せましょう! そして……その結果。 何故、私が事故物件に認定されてしまうの! ※本人の恋愛的心情があまり無いので、恋愛ではなくファンタジーカテにしております。 チートな能力などは出現しません。 他サイトにて公開中 どうぞよろしくお願い致します!

【完結】死に戻り8度目の伯爵令嬢は今度こそ破談を成功させたい!

雲井咲穂(くもいさほ)
恋愛
アンテリーゼ・フォン・マトヴァイユ伯爵令嬢は婚約式当日、婚約者の逢引を目撃し、動揺して婚約式の会場である螺旋階段から足を滑らせて後頭部を強打し不慮の死を遂げてしまう。 しかし、目が覚めると確かに死んだはずなのに婚約式の一週間前に時間が戻っている。混乱する中必死で記憶を蘇らせると、自分がこれまでに前回分含めて合計7回も婚約者と不貞相手が原因で死んでは生き返りを繰り返している事実を思い出す。 婚約者との結婚が「死」に直結することを知ったアンテリーゼは、今度は自分から婚約を破棄し自分を裏切った婚約者に社会的制裁を喰らわせ、婚約式というタイムリミットが迫る中、「死」を回避するために奔走する。 ーーーーーーーーー 2024/01/13 ランキング→恋愛95位 ありがとうございました! なろうでも掲載20万PVありがとうございましたっ!

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

婚約破棄させたいですか? いやいや、私は愛されていますので、無理ですね。

百谷シカ
恋愛
私はリュシアン伯爵令嬢ヴィクトリヤ・ブリノヴァ。 半年前にエクトル伯爵令息ウスターシュ・マラチエと婚約した。 のだけど、ちょっと問題が…… 「まあまあ、ヴィクトリヤ! 黄色のドレスなんて着るの!?」 「おかしいわよね、お母様!」 「黄色なんて駄目よ。ドレスはやっぱり菫色!」 「本当にこんな変わった方が婚約者なんて、ウスターシュもがっかりね!」 という具合に、めんどくさい家族が。 「本当にすまない、ヴィクトリヤ。君に迷惑はかけないように言うよ」 「よく、言い聞かせてね」 私たちは気が合うし、仲もいいんだけど…… 「ウスターシュを洗脳したわね! 絶対に結婚はさせないわよ!!」 この婚約、どうなっちゃうの?

【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい

三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。 そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。

【完結】その溺愛は聞いてない! ~やり直しの二度目の人生は悪役令嬢なんてごめんです~

Rohdea
恋愛
私が最期に聞いた言葉、それは……「お前のような奴はまさに悪役令嬢だ!」でした。 第1王子、スチュアート殿下の婚約者として過ごしていた、 公爵令嬢のリーツェはある日、スチュアートから突然婚約破棄を告げられる。 その傍らには、最近スチュアートとの距離を縮めて彼と噂になっていた平民、ミリアンヌの姿が…… そして身に覚えのあるような無いような罪で投獄されたリーツェに待っていたのは、まさかの処刑処分で── そうして死んだはずのリーツェが目を覚ますと1年前に時が戻っていた! 理由は分からないけれど、やり直せるというのなら…… 同じ道を歩まず“悪役令嬢”と呼ばれる存在にならなければいい! そう決意し、過去の記憶を頼りに以前とは違う行動を取ろうとするリーツェ。 だけど、何故か過去と違う行動をする人が他にもいて─── あれ? 知らないわよ、こんなの……聞いてない!

“足りない”令嬢だと思われていた私は、彼らの愛が偽物だと知っている。

ぽんぽこ狸
恋愛
 レーナは、婚約者であるアーベルと妹のマイリスから書類にサインを求められていた。  その書類は見る限り婚約解消と罪の自白が目的に見える。  ただの婚約解消ならばまだしも、後者は意味がわからない。覚えもないし、やってもいない。  しかし彼らは「名前すら書けないわけじゃないだろう?」とおちょくってくる。  それを今までは当然のこととして受け入れていたが、レーナはこうして歳を重ねて変わった。  彼らに馬鹿にされていることもちゃんとわかる。しかし、変わったということを示す方法がわからないので、一般貴族に解放されている図書館に向かうことにしたのだった。

処理中です...