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本編1
8 彼の優しさ
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※
気がついたらベッドの中にいた。
傍らにはアンドリュー卿がいて、心配そうに私を見つめていた。
起き上がろうとしたらクラクラして、また倒れ込みそうになる。アンドリュー卿はそんな私の背中に腕を回して、起き上がるのを手伝ってくれた。
「ほら、飲め」
水の入ったコップを差し出された。私はそれを受け取ると、一気に飲み干した。
一息吐いてから横になると、身体は随分と楽になった。
「長風呂のし過ぎだ」
「ごめんなさい」
「侍女の一人でも連れて来るべきだった」
━━世話が焼けて面倒な女だと言いたいの? 悪いのは私だけれど、そんな風に言わなくてもいいじゃない……。
私は彼に背を向けた。寝たふりをしていれば部屋から出ていってもらえると思っていたのに、彼はいつまで経っても出ていく気配がない。
それどころか、私の髪をタオルで拭き始めた。驚いて身を捩ると「寝ていろ」と言われた。
「あの、どうして髪を?」
「どうしてって……。風邪を引いたらどうするんだ?」
「それなら、自分でやるから」
そう言った途端、彼の手がぴたりと止まった。
「髪に触れられることさえ嫌か?」
心なしか彼の声が沈んでいるように思えた。
「ち、違うわ。面倒なことをさせたくないと思っただけ」
私の言葉にアンドリュー卿の表情が緩んだ。
「面倒じゃないから大丈夫だ。だから拭かせてくれ」
ここで拒否すれば、彼の好意を無碍にしてしまう。私は戸惑いながらも受け入れることにした。
彼はいつになく穏やかな表情で、丁寧に髪を拭いていく。
嫌味なことを言うこともあればこんな風に優しくするなんて。彼が何を思っているのかよく分からない。
ふと、フェイのあの言葉が頭に浮かんだ。
“もう少し、お話をしましょうよ”
頭でゴチャゴチャと考えたって分からないのだから、本人に尋ねればいい。
でも、何を聞けばいいのか。思っていることをそのまま口にするのは違う気がする。
聞くべきことを考えているうちに、嫌な考えが頭を過った。
それは、浴室で倒れた私を誰が助けたのかと言う問題。
「……あの」
「何だ?」
「私、浴室で倒れていたのよね?」
「そうだが」
「見つけてくれたのはアンドリュー卿?」
「ああ」
「服を着せたのも?」
「勿論、俺だ」
顔に火がついたように熱い。私は頬を押さえた。
アンドリュー卿は、私を助けてくれたのだ。お礼を言わないといけないのは分かっている。
でも、羞恥心の方が大きくて、言葉が出てこなかった。
アンドリュー卿がふっと笑う声が聞こえた。
「耳が真っ赤だ」
そう言って彼は私の耳を撫でた。
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないか」
「そんなこと言われたって……」
「何を今さら恥じることがあるんだ? 初夜の時に、裸になったじゃないか」
「それはそうだけど……。もう1年半も前のことだし、それにあの時は部屋の中はもっと薄暗かったもの」
その時、扉がノックされた。
アンドリュー卿は立ち上がると扉を開けた。そして、宿の人が持って来た料理を受け取った。
「食欲はあるか」
「はい」
「そうか」
テーブルで食べられるのに、アンドリュー卿はわざわざベッドまで持って来てくれた。
並べられた料理は、スープにパン、サラダと肉で、しっかりとした献立だった。アンドリュー卿が今朝言っていたことは本当だったらしい。
「美味しそうね」
「ああ。実際、美味かった」
「アンドリュー卿はもう食べたの?」
「ああ」
私が気を失っている間に食事を済ませたらしい。
「ほら、早く食べな。冷めちまうぞ?」
そう言われて私はフォークを握り、食べ始めた。
料理はどれも悪くない味だった。けれど、やっぱり私には量が多かった。
「口に合わなかったか」
食べ残しを見てアンドリュー卿は眉を顰めた。
毎回このやり取りをするのかと思うと、食事が嫌になりそうだ。
これこそ、ちゃんと話した方がいい。
私は頭の中にフェイを思い浮かべて、気持ちを奮い立たせた。
「口に合わないんじゃないの。ただ、私には量が多いだけ」
「少ししか量がないのに。……随分と少食なんだな」
「そうかしら? ジェシカもこれくらいしか食べないわ」
「ジェシカ?」
誰だそれ? と言いたげに首を傾げる彼に呆れてしまった。
「妹の名前よ。覚えてないの?」
「ああ、そんな名前だったな」
言い訳にもならないようなことを言って、彼は私の使っていたフォークを手に取った。そして、それを使って食べ残しを口にしたのだ。
「ちょっと……」
行儀の悪さに眉を顰めると、彼は首を傾げた。
「ん? もういらないんじゃないのか」
「そういうことじゃないわ。人の使っていたフォークを使うなんて、良くないわ」
「残り少しなんだ。わざわざ新しいフォークを持って来させる方がどうかと思うがな」
そう言って、彼は食べ残しを再び口に入れた。
彼は領主なのに、テーブルマナーがここまでなってないなんて。これからの食卓が思いやられる。
気がついたらベッドの中にいた。
傍らにはアンドリュー卿がいて、心配そうに私を見つめていた。
起き上がろうとしたらクラクラして、また倒れ込みそうになる。アンドリュー卿はそんな私の背中に腕を回して、起き上がるのを手伝ってくれた。
「ほら、飲め」
水の入ったコップを差し出された。私はそれを受け取ると、一気に飲み干した。
一息吐いてから横になると、身体は随分と楽になった。
「長風呂のし過ぎだ」
「ごめんなさい」
「侍女の一人でも連れて来るべきだった」
━━世話が焼けて面倒な女だと言いたいの? 悪いのは私だけれど、そんな風に言わなくてもいいじゃない……。
私は彼に背を向けた。寝たふりをしていれば部屋から出ていってもらえると思っていたのに、彼はいつまで経っても出ていく気配がない。
それどころか、私の髪をタオルで拭き始めた。驚いて身を捩ると「寝ていろ」と言われた。
「あの、どうして髪を?」
「どうしてって……。風邪を引いたらどうするんだ?」
「それなら、自分でやるから」
そう言った途端、彼の手がぴたりと止まった。
「髪に触れられることさえ嫌か?」
心なしか彼の声が沈んでいるように思えた。
「ち、違うわ。面倒なことをさせたくないと思っただけ」
私の言葉にアンドリュー卿の表情が緩んだ。
「面倒じゃないから大丈夫だ。だから拭かせてくれ」
ここで拒否すれば、彼の好意を無碍にしてしまう。私は戸惑いながらも受け入れることにした。
彼はいつになく穏やかな表情で、丁寧に髪を拭いていく。
嫌味なことを言うこともあればこんな風に優しくするなんて。彼が何を思っているのかよく分からない。
ふと、フェイのあの言葉が頭に浮かんだ。
“もう少し、お話をしましょうよ”
頭でゴチャゴチャと考えたって分からないのだから、本人に尋ねればいい。
でも、何を聞けばいいのか。思っていることをそのまま口にするのは違う気がする。
聞くべきことを考えているうちに、嫌な考えが頭を過った。
それは、浴室で倒れた私を誰が助けたのかと言う問題。
「……あの」
「何だ?」
「私、浴室で倒れていたのよね?」
「そうだが」
「見つけてくれたのはアンドリュー卿?」
「ああ」
「服を着せたのも?」
「勿論、俺だ」
顔に火がついたように熱い。私は頬を押さえた。
アンドリュー卿は、私を助けてくれたのだ。お礼を言わないといけないのは分かっている。
でも、羞恥心の方が大きくて、言葉が出てこなかった。
アンドリュー卿がふっと笑う声が聞こえた。
「耳が真っ赤だ」
そう言って彼は私の耳を撫でた。
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃないか」
「そんなこと言われたって……」
「何を今さら恥じることがあるんだ? 初夜の時に、裸になったじゃないか」
「それはそうだけど……。もう1年半も前のことだし、それにあの時は部屋の中はもっと薄暗かったもの」
その時、扉がノックされた。
アンドリュー卿は立ち上がると扉を開けた。そして、宿の人が持って来た料理を受け取った。
「食欲はあるか」
「はい」
「そうか」
テーブルで食べられるのに、アンドリュー卿はわざわざベッドまで持って来てくれた。
並べられた料理は、スープにパン、サラダと肉で、しっかりとした献立だった。アンドリュー卿が今朝言っていたことは本当だったらしい。
「美味しそうね」
「ああ。実際、美味かった」
「アンドリュー卿はもう食べたの?」
「ああ」
私が気を失っている間に食事を済ませたらしい。
「ほら、早く食べな。冷めちまうぞ?」
そう言われて私はフォークを握り、食べ始めた。
料理はどれも悪くない味だった。けれど、やっぱり私には量が多かった。
「口に合わなかったか」
食べ残しを見てアンドリュー卿は眉を顰めた。
毎回このやり取りをするのかと思うと、食事が嫌になりそうだ。
これこそ、ちゃんと話した方がいい。
私は頭の中にフェイを思い浮かべて、気持ちを奮い立たせた。
「口に合わないんじゃないの。ただ、私には量が多いだけ」
「少ししか量がないのに。……随分と少食なんだな」
「そうかしら? ジェシカもこれくらいしか食べないわ」
「ジェシカ?」
誰だそれ? と言いたげに首を傾げる彼に呆れてしまった。
「妹の名前よ。覚えてないの?」
「ああ、そんな名前だったな」
言い訳にもならないようなことを言って、彼は私の使っていたフォークを手に取った。そして、それを使って食べ残しを口にしたのだ。
「ちょっと……」
行儀の悪さに眉を顰めると、彼は首を傾げた。
「ん? もういらないんじゃないのか」
「そういうことじゃないわ。人の使っていたフォークを使うなんて、良くないわ」
「残り少しなんだ。わざわざ新しいフォークを持って来させる方がどうかと思うがな」
そう言って、彼は食べ残しを再び口に入れた。
彼は領主なのに、テーブルマナーがここまでなってないなんて。これからの食卓が思いやられる。
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