【完結/R-18】偽りの聖女の身代わり結婚

花草青依

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本編3

23-4 昔の私

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「何が羨ましいの?」
「シアは、私が欲しくて欲しくてたまらない才能を持っているんですもの。それを使わないなんて、宝の持ち腐れだと思ったの」

 そんなことを言われても、神聖力を使うわけにはいかない。そう思っているとフェイは苦笑いを浮かべた。
「困らせてごめんね。ただの嫉妬よ」
 思ってもみない言葉に面を食らった。

「嫌な気持ちになった?」
「ううん」
 私は首を振った。
「でも、驚いたわ。フェイに嫉妬されるなんて思ってもみなかったから」
 今まで見てきたどんな生き物よりも美しくて、素敵な魔法を使いこなせる彼女に嫉妬されるなんて。それは、ある意味で名誉なことのように思えた。

「シアは優しいわね」
「そんなことないよ。それより、どうして神聖力が欲しいの?」
「笑わないで聞いてくれる?」
 硬い表情でフェイは言った。
「勿論よ」
 微笑みかけると、フェイは意を決したのか、軽く頷いた。

「私はね。ティターニアになりたいの」
「さっき話してくれた妖精の女王様?」
「うん。それになるのが私の夢なんだ」
「へぇ。フェイが女王様か」
 フェイは誰よりも美しくて優しい魅力的な女性だ。彼女が妖精の女王ティターニアになれば、きっと、どんな物語の女王にも優る存在になれるだろうと思った。

 そんなことを考えていると、いつの間にか、フェイは不機嫌そうに口をへの字に曲げていた。
「フェイ? どうしたの?」
「別に。何でもないわよ」
 言っている言葉とは裏腹に、フェイの機嫌はあからさまに悪かった。何が彼女の機嫌を損ねたのかは分からない。
 私は一先ず話題をずらしてみることにした。

「そういえば、妖精の女王様も王冠をかぶるものなのかしら?」
 妖精は人間と異なる文化や価値観を持つ生き物だ。だから、人間のように王冠をかぶるとは限らない。
 興味本位で聞いてみると、フェイは不機嫌なままではあるものの、答えてくれた。

「かぶるわよ」
「そうなの? やっぱり金細工の冠なのかしら?」
「人間の女王は金細工の冠をかぶるの?」
 怪訝そうな顔でフェイが聞いてくる。
「うん。人間の王様は金の冠をかぶるって決まっているんだから!」

 断言したけれど、私は王家の金の冠どころか、王様だって見たことがない。
 でも、物語の王様はどれも金の冠をかぶった威厳のある人だった。だから、きっと、間違ってはいないはずだ。

「頭に金細工のものをのっけるなんて、人間ってやっぱり趣味が悪いわ」
 フェイは呟いた。
「そうかな? ……それより、妖精の女王ティターニアの冠はどんなものなの?」
「精巧な銀細工の冠よ」
「銀かぁ」
 頭に銀の冠をかぶったフェイを想像すると自然と笑みがこぼれた。
 月の光を受けて煌めく銀細工の冠と、彼女の艶めく金色の髪。その姿は、どんな物語に描かれる女王よりも美しいだろうと思ったからだ。

「何笑ってるのよ」
 フェイが低い声で言った。目は鋭く私の顔を睨みつけている。
 彼女はきっと何か誤解している。そう思ったから、ストレートに思いを伝えることにした。

「何って……。あなたには銀の冠がよく似合うだろうなって思って」
 笑って答えると、今度はフェイは目を丸くした。
「さっきからどうしたの? 怒ったり驚いたりして」

「シアっ!」
 フェイは突然、私の肩にすがりついて来た。そして、微かにフェイのすすり泣く声が聞こえたのだ。
「フェイ? 水滴は朝露だけでいいんじゃなかったの?」
 左手を差し伸べて指に座るように促すと、フェイは素直に応じてきた。暗い顔で俯くフェイを慰めようと、私は右手の指先で彼女の頭を撫でた。

「ごめんね、シア。私、嫌な子だったわ」
 フェイは涙を拭うとつぶやいた。
「え? 何の話?」
「みんな、私なんかが妖精の女王ティターニアにはなれないっていうから……」
 フェイの言いたいことが分かった。
「だから私もあなたを馬鹿にしているんだと思ったの?」
「うん」
 バツが悪そうに言うフェイに私は思わず苦笑した。

「他の妖精や人が馬鹿にしたって、私はフェイの夢を応援するわ」
「ありがとう。……お世辞でも嬉しい言葉だわ」
「お世辞なんかじゃないわよ。優しくて美しくて、それに好奇心が旺盛で行動力に溢れるフェイこそが妖精の女王ティターニアに相応しいって信じてる」
 笑って言えばフェイの瞳からまたポロポロと涙がこぼれた。

「もう泣かないで」
「ごめん。さっきと逆になっちゃったわね」
 フェイは泣きながら笑うと、涙を拭った。
「ねえ、せっかくだから妖精の女王ティターニアについて、もっと教えてくれない?」
 何か少しでも力になれることはないかと思って質問をすると、フェイはぽつぽつと話してくれた。

妖精の女王ティターニアはね、代々、銀の冠と金細工の首飾り、ガラスの靴を身に着けるの」
「素敵。フェイならきっとどれも似合うわ」
 私の言葉にフェイは照れくさそうに笑った。

「シアの期待に応えて、その姿を見せてあげたいんだけどね。……ただ、それを身に着けるための資格がいくつかあるの。そして、その中でも、私の神聖力の無さがネックになっているわ」
「つまり、逆に言えば神聖力さえ身に着ければいいってこと?」
「ええ。他の部分は何とか努力で補えると思うから」
「それなら、私の神聖力を貸してあげられたらいいんだけどね……」
 私が何気なく言ったその瞬間、フェイの笑みがふっと止まった。
「それ、本気で言ってる?」
 彼女は目の端に赤さを残したまま、真剣な眼差しで私の目を見つめた。
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