【完結/R-18】偽りの聖女の身代わり結婚

花草青依

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本編3

23-5 昔の私

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「勿論よ。“ジョルネスの娘”の神聖力は、誰かのために使うべき力なの。だから、力を使えないのなら、フェイにあげたいと思う」
「そうよね、宝の持ち腐れなんて、もったいないものね」
「それは違うわ」
 私が否定すると、フェイは首を傾げた。

「フェイが困っているから。大切な友達のために、私はこの力をあなたに貸したいと思ったの」
 私はフェイを真っ直ぐに見据えた。
「何か方法があれば、すぐにでも貸し出すんだけど……」
 ジョルネス城にいた頃であれば、書庫に収められた本で調べられた。明確な答えは見つからなくても、何かしらの解決の糸口は見つかったかもしれない。
 でも、今の私は平凡な平民の子として暮らし、人里離れた山に住んでいる。魔法や神聖力を調べることは、不可能に近いだろう。

「もどかしいわ」
 私は思わず呟いた。
「本当に……、真剣に、私のために考えてくれているのね」
 フェイの目の淵がまたキラキラと輝いていた。「泣かないで」と言おうとした所で、フェイは口を開いた。

「ねえ、シア。あなたの神聖力を借りられる方法が一つだけあるの」
「本当!? ねえ、どんな方法なの?」
 興奮を抑えきれない私を見て、フェイの口からは小さな笑い声が漏れた。
 でも、それは束の間のことで、フェイは再び真剣な顔つきに戻って言った。

「私と契約を結ぶの。そうすれば、シアの神聖力を私が借りることができるわ」
 フェイがそう言い終わるや否や、私は「結ぶわ!」と言い放った。

「大切なことなのに、詳しく聞かずに決めちゃうなんて、困った子」
 フェイは呆れながらも嬉しそうに笑った。
「じゃあ、一応説明して?」
「いいわよ、ちゃんと聞いてね」
 私はしっかりと背筋を伸ばして彼女の言葉に耳を傾ける。

「妖精は生涯に一度だけ、他種族と契約を結ぶ事ができるわ。妖精は契約を結んだ対象と━━私ならシアのことね。私はシアと能力を共有することになるの」
「もしかして、私もフェイみたいに空を飛んだりキラキラを宙に舞わせたりできるの?」
 フェイはにこりと笑って「勿論よ」と言った。

「生き物を木にしたり、惑わせて森の外に出さないようにしたり、記憶を消したりすることだってできるわ」
 フェイの物騒な発言に私は思わず苦笑いをしてしまった。そんな恐ろしいことは絶対にしたくない。

「私の魔力でできることなら、シアは妖精の使う魔法を何でも使うことができるの。それと同じように、私もシアが神聖力でできることなら、何だってできるようになるわ」
 それを聞いて胸が高鳴った。フェイと一緒なら、きっとどんなことだってできるような気がしたから。

「そういえば、シアは治癒の力を使えるの? それとも案外、ホーリーみたいな攻撃魔法だったりするのかしら?」
 フェイは目を輝かせて質問をしてきた。
「まだ分からないわ」
 最近、胸の奥から温かい物が湧いてくる感覚はある。それはきっと聖女になる兆しなのだろうけれど、今ははっきりとした形で表に出すことはできない。

「もう少し大人にならないと分からないわ。歴代のジョルネスの娘の力の発現は、15歳前後だって聞いているもの」
「ふぅん。そうなのね。それなら、シアの力がどんなものなのか、楽しみにしておくわ」
 笑みを浮かべていた口元を引き結び、フェイは真剣な眼差しを私に向けた。そして、「ここからがとても大事な話よ」と言う。

「契約はね、死ぬまで消えることはないの。つまり、片方がいなくなってもその能力を借り続けられる。私が死んだ後もシアは私の魔力を使えるし、逆だって同じだわ」
「そうなのね」
「……もう! シアったら、考えが足りないわ!」
 そう言われても何が何だか分からない。首を傾げるとフェイは詳しく教えてくれた。

「悪い人間や妖精だと、相手を殺して能力だけを奪い取ろうとするのよ? だから契約は安易に結んじゃだめ。慎重にならないと!」
「それなら心配無用だわ。フェイは悪い妖精じゃないもの」
 私はそう言ってフェイの不安を笑い飛ばした。
「フェイは落ち込んだ私を慰めてくれた優しい妖精さんだもの。それに、悪い妖精ならそんな話をせずに黙って私を殺してしまうと思うの。そうでしょう?」
「私はシアが思ってる程、優しくていい妖精ではないけど……。でも、あなたを殺すつもりがないことは確かね」
 フェイはそう言って苦笑した。
「フェイこそ、私を悪い人間だとは思わないの?」
「シアは嘘を吐けない人だから。心配していないわ」

 ━━私って、嘘が下手なのかしら?

 そんな疑問が頭を過ったけれど、今、それは重要なことじゃなかった。
「それなら、早く契約を結びましょうよ」
 私が言うと、フェイは「そうね」と言った。
「手を出して」
 私は素直に手を出した。手の平にフェイの小さな手が重なった。
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