【完結/R-18】偽りの聖女の身代わり結婚

花草青依

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本編3

24-1 私の大切な人

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 神聖力と妖精の魔法のことは、二人だけの秘密だった。
 あの日、フェイと二人で誓った約束を、私は4年もの間、頑なに守り続けていた。その力のことは誰にも話さなかったし、不用意に使わないようにしていたのだ。

 物語の主人公のような力を手に入れても見せびらかさなかったのは、私の生活を━━今の“幸せ”を守るためだった。
 しかし、今、私はその鉄の掟を破ってしまった。

「アンディ! 大丈夫?」
 道端に倒れ込んだ彼のもとへ私は駆け寄った。
「大した、ことはない……」
 そう言ったアンディの脇腹は肉が抉れていて、血がドクドクと流れている。すぐに治療を施さなければ、きっと命に関わる傷だ。大したことないだなんて、嘘にも程があった。
 
 でも、アンディは大丈夫だと言い張った。そして、彼は顔を歪めながらも、地に伏した身体を無理矢理に起こそうとする。
「動かないで!」
 私は彼に仰向けになるように促すと、彼のお腹に手を翳した。
「無理しなくていいの。私が治してみせるから」

 そうは言ったものの、これ程の大怪我を治したことなんてなかった。
 私は1年前の10歳の誕生日に聖女としての力を覚醒させた。怪我を神聖力を使って治せるようになったのだ。

 でも、お母様とフェイとの約束があったから、私はその力をほとんど使わなかった。使ったのは、フェイと二人で遊んでいた時に作ってしまった、ほんの少しの擦り傷を治したくらい。
 けれど、弱音を吐いている場合じゃなかった。できるかできないかじゃない。私がここで治癒しないと、アンディは死んでしまうのだ。

 私は目を閉じて意識を集中させた。そして、傷を癒やして塞ぐようにと、祈りを込めて手の平から神聖力を流し込んだ。
 それが正しい方法だったのかは分からない。
 しかし、幸いなことに、私は彼の怪我を治すことができた。目を開けて確認してみたら、彼のお腹は少しの傷痕ができてしまってはいたものの、それでも傷口は塞がっていた。

 アンディは起き上がると脇腹を擦った。その姿からは痛みを感じているようには見えなかった。
「良かった……」
 ほっとした途端、涙が流れた。
「シア……」
 アンディの無骨な手が私の手を掴むと、私は自分の手が震えていることに気がついた。

「アンディ、良かった! 良かったよ……」
 私は彼の胸に飛び込んで思いっ切り泣いた。
「ばかっ、服が汚れるだろっ!!」
 アンディは私の服が彼の血で汚れてしまうのを気にしていた。

 ━━そんなこと、どうでもいいじゃない!

 そう言いたかったけれど、涙が溢れてきて上手く言葉にできない。
 私はアンディの胸の中で泣きじゃくり、彼は困り果てたのか、ぎこちなく私の頭を撫で始めた。
 そうやって、しばらくの間、私は彼の腕の中にいた。

 それから長い時間をかけて、ようやく涙が止まると、今度はみっともないくらい泣き喚いたことが恥ずかしくなった。
「ごめん、アンディ……」
 長時間、慰めてもらった気まずさと申し訳なさで謝ると、アンディは「何で謝る?」と言いたげに私を見た。人の気持ちに鈍感な彼は、私が謝る意味を分からなかったらしい。

 それよりも、アンディはが気になるらしい。
「なあ、シア」
 彼の言いたい事は分かる。私は彼の視線を追って、不自然に生えたもみの木に目を向けた。

「あれは、シアがやったのか?」
 アンディがじっと私の目を見てくる。
 私は迷った末に「そうよ」と白状した。







 事の発端は、突如として私達の前に現れた熊だった。
 いつものように森の中で遊び、フェイと別れた後、アンディは私を家の近くまで送ってくれていた。そして、夕日を背に道を歩く最中、私達は熊と遭遇してしまったのだ。

 アイネ山で暮らすようになって4年の月日が経ったけれど、熊を見たのは初めてだった。念のためにと渡されていた熊よけの鈴は、いつの間にか持ち歩くのを忘れてしまうくらい、油断していた。
 だから、熊と出くわした時に、私達はたじろぐことしかできなかったのだ。
 そんな私達に熊は容赦なく襲いかかってきた。
 熊の爪が閃くと、アンディが私を突き飛ばした。そのおかげで私は間一髪の所で助かった。

 けれど、アンディは私を庇ったせいで熊の攻撃を避けきれなかった。彼の脇腹は一瞬で裂かれて、肉が抉られる程の深い傷を負ってしまったのだ。
 彼はその場に倒れ込んでお腹を押さえた。脇腹からは当然、大量の血が溢れ出して、彼は苦悶の表情を浮かべて傷口に手をあてた。
 熊はそんなアンディに対して無情にも更に襲いかかろうとした。大きな口を開いて頭を彼の腹に近づけたのだ。

 ━━アンディが殺される!

 そう思った瞬間、私は自分でも気がつかないうちに妖精の力を使っていた。熊を宙に浮かせて吹き飛ばしたのだ。
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