【完結/R-18】偽りの聖女の身代わり結婚

花草青依

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本編3

27-2 第二王子殿下のもとへ

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「こうして会えて嬉しいけれど、何から話そうか」
 第二王子殿下は温和な口調で言った。
「あの……。主人から聞きました。第二王子殿下が私達の結婚の段取りを組んでくださったって」
「段取りという程ではないけど。アドバイスはしたかな」
「そのお礼をしたくて今日は伺いました」
 言い終わった時、侍女がお茶を持って来た。彼女がテーブルにお茶やフルーツを置いていく間にも、会話が続く。

「素晴らしい。どこぞの猿は礼節を知らないから、俺が誘うまで、挨拶にも来なかったが……」
「悪かったな、遅くなって。こっちにも色々あるんだよ」
 バツが悪そうにアンディが言った。
 昨日と一昨日は、私のペースに合わせて行動していたから、彼は挨拶に行けなかったのかもしれない。
 そう思うと、申し訳ない気持ちで胸が痛んだ。

「ごめんなさい、私の衣服を揃えるのに時間がかかってしまったんです。どうか主人を責めないで下さい」
 私の懇願を殿下は軽く笑い飛ばした。
「夫人のせいじゃないさ。こいつは、つまらない嫉妬心を持っているから、俺に君を会わせたくなかったんだよ」
 彼はそう言うとお茶を一口飲んだ。
 馬鹿にされたアンディは、殿下を睨みつけている。

「それよりも、こんな良い人がアンドリューの妻になっただなんて、信じられないよ」
「平民生まれの野生の猿には勿体ない嫁だって言いたいのか」
「おお、良く分かっているじゃないか」
 殿下はアンディの皮肉をものともせずに、カップを受け皿に戻した。
 その顔からは、心なしか明るい笑顔が消えたような気がした。

「亡くなった公爵夫人には、感謝しないといけないね。彼女の勇気が、君達を出会わせたんだから……」
 殿下は伏し目がちに言った。

 ━━お母様が、私達を連れてお父様から逃げたことを知っているの?

 驚いてアンディを見たら、彼は首を振った。どうやら、彼が教えたわけではなかったらしい。訝しげに殿下を見ていた。
 殿下は突然、ぷっと笑った。

「君達夫婦は分かりやすいね。思っていることが顔に書いてある」
 これは、一癖も二癖もありそうな人だ。けれど、悪い人でもない。
 直感的にそう思った私は、思い切って、疑問をぶつけることにした。
「私のことを調べたのですか」
「君というより、ジョルネス公爵のことかな」
 そう言うと、第二王子殿下から笑顔がふっと消えた。

「夫人が一時、アイネ山にいたことはアンドリューから聞いていた。そこから、二人が出会って、将来の約束をしたこともね」
「将来の約束という程では……」
 あれは成り行きでした約束で、本当にこうして彼と結婚できるとは思ってもみなかった。
 しかし、殿下は、別の意味に捉えたらしい。
「まさか、子供の戯れ言だったの?」
「いえ、そういうつもりではないですが……」
 これ以上口を挟めば、話が逸れてしまう。私は一先ず黙って話を聞くことにした。

「アンドリューからその約束を果たすための相談を受けた後、俺はジョルネス公爵家のことを調べさせてもらった。ジョルネス家の令嬢があんな田舎の山にいた理由が知りたかったから」
「それで、シアの過去を知ったのか」
 アンディの問に殿下は頷いた。
「もっとも調べていくうちに、夫人の現在も知ることになったんだが。ジョルネス公爵は、やはり、人の心を持っていない悪魔のような男だね……」

 そう言った時の殿下の瞳は昏く淀んでいた。
 それは、私の生い立ちを哀れんでいるにしても、過剰な反応のように思えた。
 私の違和感が解消される前に、殿下は表情を変えた。まるで、何もなかったかのように。落ち着き払った様子で話を進めていく。

「君に聖女としての才能がないと悟った公爵は、夫人を暴言と暴力で抑えつけて、日陰の存在として育てた」
「暴言と暴力って……。何をされていたんだ!?」
 アンディは目を見開き、声を荒げた。
 その大きな声に身体がびくりと反応すると、隣りのフェイが、私を庇うように腕を出して制止した。

「アンドリュー、あなたの悪い所が出ているわ」
 咎められた彼はしゅんと小さくなった。
「すまない、公爵は悪人で実の娘達にも酷な扱いをしているとは、噂で聞いていたが……。まさか、暴力を振るわれているとは思わなかったんだ」
 彼は額に手を当てて項垂れた。

「こんなことなら、モンスター討伐の後に、無理をしてでも迎えに行けば良かった」
「馬鹿! それだとあなたは死んでいたわよ?」
 フェイは腕を組んで言った。
「ごめんね。説明不足だったわ。昨日は色んなことを一気に思い出しちゃったから……。お父様のことももっと詳しく話せばよかったね」
 そう言った時、第二王子殿下の眉がわずかに動いた。

「噂程、仲が悪くなさそうだと思っていたが。君達は、互いの事情を知らないのかい?」
 殿下の言葉で、部屋の空気が凍りついた。
 返す言葉が見つからず、口を閉ざした私の手をアンディは握った。
 彼を見れば、真剣な顔で殿下に向き合っていた。その手から伝わる熱が、私の動揺を静かに鎮めていった。
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