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婚約破棄2
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フレードリクが名前を告げると、その女生徒アンネマリー・ベイエルが姿を現した。
煌めく金色の髪に海のような蒼い瞳のアンネマリーは、少し前に特待生としてブレンドレル魔法学院に入学して来た令嬢だ。
ここ、ブレンドレル魔法学院は、非常に強力な魔力を持つ者であれば、身分関係なく特待生として迎え入れられる。
クリスティナもその身体に膨大な魔力量を有していたので、特待生として学院に通う事が出来ていたのだ。
「フレードリク様、この騒ぎは一体……? 私が<聖女>だなんて、冗談ですよね……?」
アンネマリーが大きな瞳を潤ませてフレードリクにすり寄った。
「ああ、アンネマリー! 怖がらなくていいんだよ? 君ほど<聖女>に相応しい人はいない! 私は君を次期<聖女>に推薦するつもりだ!」
「……まあ! フレードリク様、そのような栄誉を私に……?」
大勢の生徒の前にも関わらず、フレードリクは戸惑うアンネマリーの肩を安心させるように抱いた。それは婚約者がいる者が本人のいる前で見せていい距離感では無い。
しかし、生徒達の関心は<聖女>交代の可能性に集中する。
<聖女>の存在の有無はこの国にとって死活問題だ。しかも王族が<聖女>を推薦すると宣言したとすれば、大神殿も無視はできないだろう。
「アンネマリー嬢が次代の<聖女>?!」
「確かに、彼女は特待生だし魔力量には問題ないかも……」
「でも、いくら殿下が推薦しても大神殿が認めないとアンネマリー嬢は<聖女>になれないんじゃ?」
生徒達が情報を整理しながら会話していると、再びフレードリクがクリスティナに向かって言い放つ。
「さあ、クリスティナ・ダールグレン! お前のその腕輪をアンネマリーに渡せ!!」
フレードリクが、クリスティナの腕輪を指差した。
<聖女>の証だという腕輪には、澄んだ青色の魔石と複雑な文様が刻まれている。
クリスティナは自分に付けられた腕輪を見ると、フレードリクとアンネマリーに向かって腕を伸ばした。
「申し訳ありませんが、この腕輪は私の意思で外すことは出来ませんの。次期<聖女>であるアンネマリー様に外していただけないでしょうか」
クリスティナの言葉に、アンネマリーは「わかりました!」と言って彼女に近づいた。
「あれ? でもこの腕輪、繋ぎ目が無いみたいですけど?」
アンネマリーの疑問通り、証の腕輪には繋ぎ目が見当たらず、しかもクリスティナの腕にぴったりと嵌っているため、簡単に外すことが出来ないようだった。
「大丈夫ですわ。この魔石に魔力を込めるように触れていただければ外れるようになっておりますから」
アンネマリーはクリスティナの言う通り魔石にそっと触れ、自身の魔力を注ぎ込む。
すると、繋ぎ目が無かったはずの腕輪が”カチリ”と外れ、アンネマリーの手のひらにぽとりと落ちた。
「まあ、不思議。でも流石<聖女>の証たる腕輪ね!」
「そうだ。その証はアンネマリー、君にこそ相応しい」
フレードリクがアンネマリーに証の腕輪を付けると、どういう仕掛けなのか継ぎ目が無くなり、アンネマリーの腕にピッタリのサイズへと変化する。
「うむ! これでクリスティナは<聖女>ではなくなった! これからはアンネマリーがその称号を持つのだ!」
フレードリクの宣言に生徒達が困惑する中、<聖女>の資格を剥奪されたクリスティナは、悲しむ様子など微塵も感じさせず、極上の笑顔を浮かべた。
そしてクリスティナは生徒達に向かって完璧なカーテシーを披露する。
「皆様もご覧の通り、私クリスティナ・ダールグレンはフレードリク・スラウス・セーデルルンド殿下から婚約を破棄を言い渡され、更にブレンドレル魔法学院退学の申し入れと<聖女>の称号を剥奪されました。皆様には今回の件について証人になっていただきたく存じます」
ブレンドレル魔法学院の殆どの生徒が目撃した今回の出来事は、流石に隠蔽不可能だろう。しかしクリスティナは念には念を入れて、生徒達を証人にしたのだ。
「クリスティナ!! それは私に対する報復のつもりか?! 私を悪人にしてどうするつもりだ?!」
「何もするつもりはございません。ただ今回の出来事は私の意志ではなく、殿下の希望でされたものだと明確にしたいのです」
フレードリクにも少しの罪悪感があったらしく、クリスティナからの報復を恐れたものの、本人から何もしないと言われて安堵する。
「……そうか。父上や大神殿には私が伝えておこう」
「よろしくお願いいたしますわ。では、私はこれで」
クリスティナはフレードリクに挨拶をすると、颯爽とブレンドレル魔法学院を去っていった。
──そうして、今回の婚約破棄騒動を最後に、<稀代の聖女>と称された王妃候補、クリスティナ・ダールグレンは姿を消したのだった。
煌めく金色の髪に海のような蒼い瞳のアンネマリーは、少し前に特待生としてブレンドレル魔法学院に入学して来た令嬢だ。
ここ、ブレンドレル魔法学院は、非常に強力な魔力を持つ者であれば、身分関係なく特待生として迎え入れられる。
クリスティナもその身体に膨大な魔力量を有していたので、特待生として学院に通う事が出来ていたのだ。
「フレードリク様、この騒ぎは一体……? 私が<聖女>だなんて、冗談ですよね……?」
アンネマリーが大きな瞳を潤ませてフレードリクにすり寄った。
「ああ、アンネマリー! 怖がらなくていいんだよ? 君ほど<聖女>に相応しい人はいない! 私は君を次期<聖女>に推薦するつもりだ!」
「……まあ! フレードリク様、そのような栄誉を私に……?」
大勢の生徒の前にも関わらず、フレードリクは戸惑うアンネマリーの肩を安心させるように抱いた。それは婚約者がいる者が本人のいる前で見せていい距離感では無い。
しかし、生徒達の関心は<聖女>交代の可能性に集中する。
<聖女>の存在の有無はこの国にとって死活問題だ。しかも王族が<聖女>を推薦すると宣言したとすれば、大神殿も無視はできないだろう。
「アンネマリー嬢が次代の<聖女>?!」
「確かに、彼女は特待生だし魔力量には問題ないかも……」
「でも、いくら殿下が推薦しても大神殿が認めないとアンネマリー嬢は<聖女>になれないんじゃ?」
生徒達が情報を整理しながら会話していると、再びフレードリクがクリスティナに向かって言い放つ。
「さあ、クリスティナ・ダールグレン! お前のその腕輪をアンネマリーに渡せ!!」
フレードリクが、クリスティナの腕輪を指差した。
<聖女>の証だという腕輪には、澄んだ青色の魔石と複雑な文様が刻まれている。
クリスティナは自分に付けられた腕輪を見ると、フレードリクとアンネマリーに向かって腕を伸ばした。
「申し訳ありませんが、この腕輪は私の意思で外すことは出来ませんの。次期<聖女>であるアンネマリー様に外していただけないでしょうか」
クリスティナの言葉に、アンネマリーは「わかりました!」と言って彼女に近づいた。
「あれ? でもこの腕輪、繋ぎ目が無いみたいですけど?」
アンネマリーの疑問通り、証の腕輪には繋ぎ目が見当たらず、しかもクリスティナの腕にぴったりと嵌っているため、簡単に外すことが出来ないようだった。
「大丈夫ですわ。この魔石に魔力を込めるように触れていただければ外れるようになっておりますから」
アンネマリーはクリスティナの言う通り魔石にそっと触れ、自身の魔力を注ぎ込む。
すると、繋ぎ目が無かったはずの腕輪が”カチリ”と外れ、アンネマリーの手のひらにぽとりと落ちた。
「まあ、不思議。でも流石<聖女>の証たる腕輪ね!」
「そうだ。その証はアンネマリー、君にこそ相応しい」
フレードリクがアンネマリーに証の腕輪を付けると、どういう仕掛けなのか継ぎ目が無くなり、アンネマリーの腕にピッタリのサイズへと変化する。
「うむ! これでクリスティナは<聖女>ではなくなった! これからはアンネマリーがその称号を持つのだ!」
フレードリクの宣言に生徒達が困惑する中、<聖女>の資格を剥奪されたクリスティナは、悲しむ様子など微塵も感じさせず、極上の笑顔を浮かべた。
そしてクリスティナは生徒達に向かって完璧なカーテシーを披露する。
「皆様もご覧の通り、私クリスティナ・ダールグレンはフレードリク・スラウス・セーデルルンド殿下から婚約を破棄を言い渡され、更にブレンドレル魔法学院退学の申し入れと<聖女>の称号を剥奪されました。皆様には今回の件について証人になっていただきたく存じます」
ブレンドレル魔法学院の殆どの生徒が目撃した今回の出来事は、流石に隠蔽不可能だろう。しかしクリスティナは念には念を入れて、生徒達を証人にしたのだ。
「クリスティナ!! それは私に対する報復のつもりか?! 私を悪人にしてどうするつもりだ?!」
「何もするつもりはございません。ただ今回の出来事は私の意志ではなく、殿下の希望でされたものだと明確にしたいのです」
フレードリクにも少しの罪悪感があったらしく、クリスティナからの報復を恐れたものの、本人から何もしないと言われて安堵する。
「……そうか。父上や大神殿には私が伝えておこう」
「よろしくお願いいたしますわ。では、私はこれで」
クリスティナはフレードリクに挨拶をすると、颯爽とブレンドレル魔法学院を去っていった。
──そうして、今回の婚約破棄騒動を最後に、<稀代の聖女>と称された王妃候補、クリスティナ・ダールグレンは姿を消したのだった。
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