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依頼主2

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「……」

 ティナがふと視線を感じ、そちらの方向をちらっとみると、イロナに抱っこされたアネタがじーっとティナを見つめていた。

「アネタちゃん、よろしくね」

 ティナはアネタに視線を合わせ、優しく微笑んだ。一瞬、きょとんとしたアネタだったが、ティナの笑顔につられるように、にぱーと満面の笑顔を浮かべる。

「か、可愛い……っ!!」

 アネタの屈託ない笑みに、ティナは一瞬でノックアウトされた。
 元々子供好きだったティナは、アネタと一緒に旅ができることをとてもうれしく思う。

「あらあら、この子すごく人見知りするのに、ティナちゃんは大丈夫みたいね」

「俺はトール。よろしく」

 イロナの言葉を聞いたトールは、ならば自分はどうだろうとアネタに挨拶をした。
 しかしアネタは一瞬ビクッとした後、じーっとトールの顔を凝視している。

「あら? 少し怖がっているけど、嫌がってはいないわね」

 アネタの様子に内心トールはショックを受ける。しかし、よく顔がわからない人間を嫌がらないだけマシではある。

 イロナに叱られ、大人しく様子を見ていたモルガンが、ティナ達に横から声を掛ける。

「挨拶は済んだみたいだな。じゃあ、軽く打ち合わせするか。ちなみに二人はベルトルドさんからどこまで聞いてるんだ?」

「詳しいことは何も。ただ、クロンクヴィストまで護衛するように、としか聞いていませんね」

 ティナの返答にモルガンがきょとんとする。その表情はとてもアネタにそっくりだ。

「へぇ。ベルトルドさんにしては珍しいなぁ。二人は余程ベルトルドさんに信頼されているんだな」

 丸投げと言っても過言ではない今回の依頼の采配に、モルガンは怒ること無く納得する。ベルトルドとの付き合いが長いのだろう、彼の性格をよく知っているようだ。

「じゃあ、俺たちの状況を説明するな。俺たちはクロンクヴィストに店を移す予定でな。今回は家族だけ先に移住するから、念の為護衛を依頼したんだよ」

「では、護衛対象はモルガンさん一家と家財道具ですか?」

「まあ、そうなるな。後は余裕がありゃあアネタの遊び相手をお願いしたいかな。勿論追加で報酬は支払うよ」

「えっ! 本当ですか?! 有難うございます!」

 ティナはアネタと遊んで欲しいとモルガンから言われて喜んだ。むしろ自分から一緒に遊んでもいいかと許可を取るつもりだったのだ。

「あっ、でも追加報酬は保留でお願いします。依頼が終了する時にまた改めて相談させて下さい」

 アネタに夢中になって護衛を疎かにするつもりは全く無いが、それでも何が起こるかわからない以上、報酬の話をするのは気が引けたのだ。正直、ティナは追加報酬も不要だと断るつもりでいる。

「なるほどな。じゃあ、無事依頼達成出来るようにお互い頑張ろうや。クロンクヴィストまでよろしく頼む」

「はい! 頑張ります!」

「わかりました。よろしくお願いします」

 依頼主であるモルガンから正式に依頼され、ティナとトールは喜んで承諾する。
 初めての依頼に緊張していたティナだったが、予想より楽しそうな依頼に、ようやく肩の力を抜くことが出来た。
 そして、この依頼を斡旋してくれたベルトルドに改めて感謝する。
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