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契約3

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「じゃあ、いくよ」

 トールはそう言うと精神を集中させていく。
 すると、トールの身体から魔力の光が溢れ、渦を巻いたかと思うと、魔力の渦が魔法陣へと変化して、ティナの足元に現れた。

『我が力の源よ 絆を結ぶ鎖となり その盟約の繋がりとなれ 彼の者の意のままに 彼の者の為すままに 汝、主に付き従え その命尽きるまで──<アエテルニターティス・パクトゥム>』

 トールの詠唱に反応するかのように、ティナの足元の魔法陣が光り輝く。
 そして魔法陣から溢れた光が、ティナとアウルムを包み込んだ。

 光の奔流の中で、ティナは不思議な魔力の存在を感じた。トールの優しい魔力とは違う、温かい魔力だ。

 温かい魔力がティナの身体を包み込むと、すうっと溶けていく感覚がした。
 きっとこの温かい魔力はアウルムの魔力だろう。

 先程まで溢れていた光が少なくなっていき、魔法陣が消えていった。どうやら無事に獣魔契約が完了したらしい。

「……ふう。終わったよティナ。アウルムもティナを主と認めたみたいだよ。良かったね」

 かなり魔力を消費したのだろう、いつも飄々としているトールが珍しく気怠げだ。

「トール大丈夫?!」

 ティナは慌ててトールに駆け寄った。もしかするとトールの魔力が枯渇した可能性があるのだ。

「うん、大丈夫だから……」

「でも……っ」

 獣魔契約には魔術師が三人必要だ。それは即ちトールが三人分の魔力を消費したことになる。学院でも一、二を争う魔力量を誇るトールでもかなり厳しかったはずだ。
 しかも予め設置している魔法陣を使うところを、自前の魔力で魔法陣を描いたのだ。その魔力の消費量は量り知れず、一般人であれば魔法陣を描くことすら出来なかっただろう。

「少し休めば回復するから、心配しないで」

 トールはティナを安心させたくて笑顔を浮かべる。しかし、顔が半分隠れているので、上手く伝わっていないかもしれない。
 こういう時素顔が晒せればいいのに、とトールは歯がゆく思う。

「私が回復するよ! あ、えっと……そのためにはトールに触れないと駄目だけど……」

 聖女であるティナなら、トールの魔力を回復させるのは簡単だ。しかしその場合、回復させる対象に触れる必要がある。
 触れる場所は手でも頭でもどこでも良いのだが、トールのことを好きだと自覚したティナは変に意識してしまい、顔が真っ赤になっていた。

「──っ」

 上気した頬に潤んだ瞳のティナはやけに扇情的で、その色香にトールの理性がクラっとなる。
 正直、魔力が枯渇しかかっているトールに、今のティナはすごく目の毒だ。

 トールは鉄壁を誇ると自負している自分の理性が、簡単に崩れそうになっているのを自覚してしまう。

 そんなトールの状況を知らないティナが、トールの手に触れようとした時、突然トールがティナを強く抱きしめ、その場に押し倒した。

 驚きで見開いたティナの目に、光の矢が映る。
 それは、さっきまでトールがいた場所を通過する軌道を描いていて──。

「──クリスティナ様っ!!」

 見覚えがある魔法に、聞き覚えのある声を聞いたティナが、混乱しながら顔を向けると──。

 そこには、ラーシャルード神を崇拝する神殿の守り手で、聖女を守護する役目を持つ聖騎士団団員──アレクシスがいた。
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