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過去18
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正直、ティナが自由の身になったことは大変喜ばしい。
だがしかし、だからと言ってティナに汚名を着せたことだけはどうしても許せない。
ベルトルドはティナを取り戻そうと神殿と王宮が動く前に、ティナを匿い新しい身分を与え、この国から離れさせようと考えた。
そして準備も恙無く進み、あとは護衛を決めて出発するのみという時、それは現れた。
「初めまして。私はトールと申します。ご高名はかねがね承っておりました。お会いできて光栄です」
ティナに伴われ現れたのはトールと名乗る学院の生徒で、ボサボサの髪にくたびれた制服を着ている、すごく冴えない少年だった。
「……初めまして。君はティナの級友かな? もしかしてティナの護衛を申し出にここへ?」
「はい。是非私に彼女の護衛をさせていただきたく、許可を頂きに参りました」
見た目に反して、トールという少年の言動には気品があり、腐っても学院の生徒なのだと、ベルトルドに知らしめた。
ティナがここに連れて来たということは、彼の能力はそこそこ高いのだろう。しかし何よりもベルトルドが気になるのは、あれだけ注意深いティナが、彼に完全に気を許しているということだ。
ベルトルドはこの時初めて、娘を嫁にやる父親の心境を理解した。
思わずトールに威圧を放ってしまったのも不可抗力であった。
だが、高位の冒険者でも尻餅をついてしまう程の威圧だったにも関わらず、トールは顔色一つ変えずに真正面から受け止めたのだ。
そんなトールに、ベルトルドは警戒レベルを最大限に引き上げた。この少年は只者ではない、と気付いたのだ。
「……悪いけどティナ、ちょっと席を外してくれないかな? 私はこのトール君と二人っきりで話がしたいから、隣の応接室で待っていて欲しい」
そう言ってティナを退出させたベルトルドは、さっきとは打って変わり、王都のギルドマスターとして、鋭い視線をトールに向けた。
ベルトルドの視線を受けたトールは、眼鏡を外すと髪を掻き上げ、その素顔を曝け出す。
「ベルトルド殿に隠し事など愚かな所業だとわかっています。ですから単刀直入に言います。俺はティナを守りたい──俺の望みはそれだけです」
トールの素顔を見たベルトルドは、その情報だけで彼の素性に思い至る。
「……クロンクヴィストの第二王子がティナを守りたいという理由は? もしティナの聖女としての力を欲しての言葉なら、同行に許可は出せません」
更にトールに向けるベルトルドの視線が鋭くなる。その鋭利な刃物のような視線だけで、トールを真っ二つに出来そうだ。
そんな視線を受けても尚、トールはベルトルドから目を逸らさず、はっきりと告げた。
「俺はヴァルナルさんとリナさんに約束したんです。ティナを必ず守る、と」
「──な……っ、まさか……っ?!」
トールのその一言で、ベルトルドは全てを理解した。
若くして王都のギルド長を務め、王宮や神殿とも渡り合えるほど頭の回転が速いベルトルドだからこそ、成し得た技なのだろう。
それから事のあらましをトールから聞いたベルトルドは、痛む頭を抱えながらもトールの同行を許可することにした。
逆に考えれば、彼ほどティナの護衛に相応しい人間はいないからだ。
トールならきっと、ありとあらゆるものからティナを守ってくれるだろう。
それにティナが記憶を失っていても、彼がティナとの約束を守り続けているところは高く評価出来る。
きっと遠くない未来、トールとはティナを巡って争うことになるだろう。
そう考えると気に食わない奴ではあるが、ティナを思う気持ちだけは認めてやっても良いと、ベルトルドは思う。
──そうしてティナとトールが出発する日。
ベルトルドはギルド長室の窓からティナとトールを見送り、いつの日か二人が一緒にこのギルドに戻ってくるその時まで、楽しみに待つことにしたのであった。
だがしかし、だからと言ってティナに汚名を着せたことだけはどうしても許せない。
ベルトルドはティナを取り戻そうと神殿と王宮が動く前に、ティナを匿い新しい身分を与え、この国から離れさせようと考えた。
そして準備も恙無く進み、あとは護衛を決めて出発するのみという時、それは現れた。
「初めまして。私はトールと申します。ご高名はかねがね承っておりました。お会いできて光栄です」
ティナに伴われ現れたのはトールと名乗る学院の生徒で、ボサボサの髪にくたびれた制服を着ている、すごく冴えない少年だった。
「……初めまして。君はティナの級友かな? もしかしてティナの護衛を申し出にここへ?」
「はい。是非私に彼女の護衛をさせていただきたく、許可を頂きに参りました」
見た目に反して、トールという少年の言動には気品があり、腐っても学院の生徒なのだと、ベルトルドに知らしめた。
ティナがここに連れて来たということは、彼の能力はそこそこ高いのだろう。しかし何よりもベルトルドが気になるのは、あれだけ注意深いティナが、彼に完全に気を許しているということだ。
ベルトルドはこの時初めて、娘を嫁にやる父親の心境を理解した。
思わずトールに威圧を放ってしまったのも不可抗力であった。
だが、高位の冒険者でも尻餅をついてしまう程の威圧だったにも関わらず、トールは顔色一つ変えずに真正面から受け止めたのだ。
そんなトールに、ベルトルドは警戒レベルを最大限に引き上げた。この少年は只者ではない、と気付いたのだ。
「……悪いけどティナ、ちょっと席を外してくれないかな? 私はこのトール君と二人っきりで話がしたいから、隣の応接室で待っていて欲しい」
そう言ってティナを退出させたベルトルドは、さっきとは打って変わり、王都のギルドマスターとして、鋭い視線をトールに向けた。
ベルトルドの視線を受けたトールは、眼鏡を外すと髪を掻き上げ、その素顔を曝け出す。
「ベルトルド殿に隠し事など愚かな所業だとわかっています。ですから単刀直入に言います。俺はティナを守りたい──俺の望みはそれだけです」
トールの素顔を見たベルトルドは、その情報だけで彼の素性に思い至る。
「……クロンクヴィストの第二王子がティナを守りたいという理由は? もしティナの聖女としての力を欲しての言葉なら、同行に許可は出せません」
更にトールに向けるベルトルドの視線が鋭くなる。その鋭利な刃物のような視線だけで、トールを真っ二つに出来そうだ。
そんな視線を受けても尚、トールはベルトルドから目を逸らさず、はっきりと告げた。
「俺はヴァルナルさんとリナさんに約束したんです。ティナを必ず守る、と」
「──な……っ、まさか……っ?!」
トールのその一言で、ベルトルドは全てを理解した。
若くして王都のギルド長を務め、王宮や神殿とも渡り合えるほど頭の回転が速いベルトルドだからこそ、成し得た技なのだろう。
それから事のあらましをトールから聞いたベルトルドは、痛む頭を抱えながらもトールの同行を許可することにした。
逆に考えれば、彼ほどティナの護衛に相応しい人間はいないからだ。
トールならきっと、ありとあらゆるものからティナを守ってくれるだろう。
それにティナが記憶を失っていても、彼がティナとの約束を守り続けているところは高く評価出来る。
きっと遠くない未来、トールとはティナを巡って争うことになるだろう。
そう考えると気に食わない奴ではあるが、ティナを思う気持ちだけは認めてやっても良いと、ベルトルドは思う。
──そうしてティナとトールが出発する日。
ベルトルドはギルド長室の窓からティナとトールを見送り、いつの日か二人が一緒にこのギルドに戻ってくるその時まで、楽しみに待つことにしたのであった。
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