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精霊1

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 ノアの小屋から出発したティナは、アウルムの背に乗って森の中を進んでいた。

 精霊王がいるらしい湖はまだまだ遠い。
 実際、ノアの小屋があった場所も森の入口辺りだというから驚きだ。

 それでも、ティナはアウルムのおかげで随分速く森の中を進めている。

「アウルム、疲れたらすぐ言ってね。無理はしないでね」

『大丈夫ー。何だか全然疲れないのねー』

 森の奥に進むにつれ、アウルムはだんだん元気になっていった。
 まるで森から不思議な力を貰っているかのようだ。

 そして、その不思議な力は森の植物にも影響を及ぼしているらしく、森の入口にある薬草と同じ品種でも、奥に行けば行くほどその効果は段違いに高い。

 もしかすると、精霊王が何かしらの影響を及ぼしているのではないか、とティナは考察する。

 ちなみにティナはこの森の中で凶暴な魔物を見たことがない。
 普通の森なら人間に襲いかかってくる魔物があちこちにいるのに、この森に足を踏み込んだ時から、危険な気配を感じたことがないのだ。

「うーん、不思議な森だなぁ……」

 ティナは不思議に思いながらも、深く考えないことにした。
 いくら人間が考えても、人智を超えた存在のことなどわかるはずもないからだ。

 そうしてノアの小屋から出発してから、幾つもの日が流れた。
 夜になると野宿をし、朝が来ると湖を目指して走っていく。

 ティナは走りっぱなしのアウルムの身体を労わろうと、回復魔法を掛けようとするが、その必要がないぐらいアウルムは元気だった。
 今も楽しそうに、まるでこれが本来の姿だというように、森の中を元気に駆けている。

 ちなみにティナはティナで、澱んでいる魔力を元に戻すため、休息をとる度に魔力を全身に循環させる練習を行なっていた。
 以前ノアに指摘され、魔力の澱みを改善する方法を教えてもらったのだ。

 そして夜になると星を眺め、木々の息吹や風のざわめきを聞き、自然を感じながら眠りについていた。アデラが教えてくれた自然に触れるという意味を、ティナなりに実践しているのだ。

 そしてさらに幾つもの朝と夜を迎えたある日、突然目の前に開けた空間が現れた。

「うわぁ……っ!!」

 ティナは目の前の光景に感動する。

 視界いっぱいに広がる湖は、吸い込まれそうなほど深く美しい青色で、太陽に照らされた湖面はキラキラと輝いている。
 そして何より、ティナを感動させたのは湖やその周りを飛んでいる光の塊たちだ。

 光の塊たちはふわふわとあちこちを飛び回り、とても生き生きしているように見える。

 よく周りを見渡してみれば、鮮やかな花が四季関係なく咲き誇っており、そこにも光がたくさん舞うように飛んでいる。
 満開の花弁に光の塊が止まっている姿は、まるで花のベッドでお昼寝をしているかのようだ。
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