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開花3
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きつく抱きしめられる感覚と温もり、そして伝わってくる心臓の音に、ティナは夢や幻じゃない、本物のトールがここにいる、とようやく実感出来た。
「……え、トール……? 本当に……?」
きっと今頃、トールは煌びやかな王宮で美しい婚約者の令嬢と共に、優雅にダンスでも踊っているのだろう、とティナは思っていたのだ。
それなのに、目の前にいるトールは王子どころか貴族にも見えないぐらい、ボロボロになっている。
顔を隠すために敢えてボサボサにしていた髪は、強風に煽られたかのように乱れ、羽織っているコートもところどころ汚れていて、まるで戦闘後のようだ。
しばらくして、慌てたトールがティナを抱きしめていた腕を解いた。
「あっ! こんな格好でごめん! ずっとティナに会うことしか考えてなかったから……!」
我に返ったのだろう、トールが薄汚れた自分の服装に気付き、恥ずかしそうに言う。
そんなトールの様子に、自分と再会するために彼がなりふり構わず険しい道のりを移動して来たことがわかってしまう。
「……どうして……っ、私、トールに酷いことを言ったのに……!」
──あの時、ティナはトールに酷い言葉を投げつけただけでなく、彼の言葉に耳を傾けようとしなかった。そればかりか暗殺者ごと結界に閉じ込めてしまったのだ。
自分勝手な奴だと、トールに見限られても仕方がないことをしてしまった自覚がティナにはあった。
だから強がってはいたものの、本当はトールに嫌われたと思っていたし、彼に会いたくないと拒絶されるのが怖くて、月下草の栽培を言い訳に再会を先延ばしにしていた、それなのに──。
おそらく、トールはティナと別れてからすぐ追いかけて来てくれたのだろう。そうでなければこんなに早く再会出来るはずがない。
「それは俺が弱かったからだよ。いつまでも過去に囚われていて、これからのことを俺がちゃんと考えていなかったから……。ティナに怒られるまで気付かなかった俺が悪いんだ。だから気付かせてくれたティナには感謝してる……有難う」
やっぱりトールは優しくて、ティナに怒るどころか自分が悪かったのだと言う。それどころか、感謝の言葉まで言ってくれたのだ。
そんなトールの優しさと懐の広さに触れたティナは、如何に自分が狭量か思い知らされ、情けなくなる。
「ちがっ、違うの……っ!! トールは約束を守ってくれたのにっ、私が……っ! 全部忘れたくせに、トールの気持ちを考えずに責めた私が悪いのっ!!」
自分の不甲斐なさと、トールに申し訳ない気持ちが入り混じり、今までずっと溜め込んでいたティナの感情が爆発する。
泣かないように我慢していた涙がティナの頬を伝い、ぽたぽたと地面に吸い込まれていく。
トールと再会したことで箍が外れ、涙が溢れ出して止まってくれないのだ。
「ごめん、ごめんなさい……っ! 辛い記憶を押し付けて……っ、それなのに会いに来てなんて我儘を言ってごめんなさい……っ!」
真面目なトールは必ず約束を守ろうとしたはずだ。
だから自分が「会いに来て」と言わなければ、トールは過去を忘れて前向きに生きていたかもしれない。
結局、トールを”約束”で過去に縛り付けていたのは、自分自身だったのだ。
後悔と自責の念で泣きじゃくるティナを慰めるように、再びティナを抱きしめたトールが優しい声で言った。
「ティナが我儘を言ったんじゃない。それは俺の望みでもあったんだ。ティナと約束していなかったとしても、絶対に俺は君に会いに行ったよ」
「……っ!」
トールの言葉を聞いたティナが顔を上げると、優しい金色の瞳があった。
「だから自分を責めないで欲しい。それに辛い記憶だけじゃなかったよ。それ以上に、楽しい思い出もいっぱいあったから」
──そう言って優しく微笑むトールの笑顔は、今がとても幸せだと伝えてくるようで。
きっとトールは自分が幸せだと伝えることで、ティナの罪悪感を洗い流してくれているのだろう。
「……、うん……っ!」
トールの笑顔に応えるように、ティナも満面の笑みを浮かべた。
もう何度目かわからない涙がティナの頬をつたうけれど、それは今この瞬間を喜ぶ、幸せの涙だった。
「……え、トール……? 本当に……?」
きっと今頃、トールは煌びやかな王宮で美しい婚約者の令嬢と共に、優雅にダンスでも踊っているのだろう、とティナは思っていたのだ。
それなのに、目の前にいるトールは王子どころか貴族にも見えないぐらい、ボロボロになっている。
顔を隠すために敢えてボサボサにしていた髪は、強風に煽られたかのように乱れ、羽織っているコートもところどころ汚れていて、まるで戦闘後のようだ。
しばらくして、慌てたトールがティナを抱きしめていた腕を解いた。
「あっ! こんな格好でごめん! ずっとティナに会うことしか考えてなかったから……!」
我に返ったのだろう、トールが薄汚れた自分の服装に気付き、恥ずかしそうに言う。
そんなトールの様子に、自分と再会するために彼がなりふり構わず険しい道のりを移動して来たことがわかってしまう。
「……どうして……っ、私、トールに酷いことを言ったのに……!」
──あの時、ティナはトールに酷い言葉を投げつけただけでなく、彼の言葉に耳を傾けようとしなかった。そればかりか暗殺者ごと結界に閉じ込めてしまったのだ。
自分勝手な奴だと、トールに見限られても仕方がないことをしてしまった自覚がティナにはあった。
だから強がってはいたものの、本当はトールに嫌われたと思っていたし、彼に会いたくないと拒絶されるのが怖くて、月下草の栽培を言い訳に再会を先延ばしにしていた、それなのに──。
おそらく、トールはティナと別れてからすぐ追いかけて来てくれたのだろう。そうでなければこんなに早く再会出来るはずがない。
「それは俺が弱かったからだよ。いつまでも過去に囚われていて、これからのことを俺がちゃんと考えていなかったから……。ティナに怒られるまで気付かなかった俺が悪いんだ。だから気付かせてくれたティナには感謝してる……有難う」
やっぱりトールは優しくて、ティナに怒るどころか自分が悪かったのだと言う。それどころか、感謝の言葉まで言ってくれたのだ。
そんなトールの優しさと懐の広さに触れたティナは、如何に自分が狭量か思い知らされ、情けなくなる。
「ちがっ、違うの……っ!! トールは約束を守ってくれたのにっ、私が……っ! 全部忘れたくせに、トールの気持ちを考えずに責めた私が悪いのっ!!」
自分の不甲斐なさと、トールに申し訳ない気持ちが入り混じり、今までずっと溜め込んでいたティナの感情が爆発する。
泣かないように我慢していた涙がティナの頬を伝い、ぽたぽたと地面に吸い込まれていく。
トールと再会したことで箍が外れ、涙が溢れ出して止まってくれないのだ。
「ごめん、ごめんなさい……っ! 辛い記憶を押し付けて……っ、それなのに会いに来てなんて我儘を言ってごめんなさい……っ!」
真面目なトールは必ず約束を守ろうとしたはずだ。
だから自分が「会いに来て」と言わなければ、トールは過去を忘れて前向きに生きていたかもしれない。
結局、トールを”約束”で過去に縛り付けていたのは、自分自身だったのだ。
後悔と自責の念で泣きじゃくるティナを慰めるように、再びティナを抱きしめたトールが優しい声で言った。
「ティナが我儘を言ったんじゃない。それは俺の望みでもあったんだ。ティナと約束していなかったとしても、絶対に俺は君に会いに行ったよ」
「……っ!」
トールの言葉を聞いたティナが顔を上げると、優しい金色の瞳があった。
「だから自分を責めないで欲しい。それに辛い記憶だけじゃなかったよ。それ以上に、楽しい思い出もいっぱいあったから」
──そう言って優しく微笑むトールの笑顔は、今がとても幸せだと伝えてくるようで。
きっとトールは自分が幸せだと伝えることで、ティナの罪悪感を洗い流してくれているのだろう。
「……、うん……っ!」
トールの笑顔に応えるように、ティナも満面の笑みを浮かべた。
もう何度目かわからない涙がティナの頬をつたうけれど、それは今この瞬間を喜ぶ、幸せの涙だった。
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