紅蓮の鬼神と華印の乙女〜神隠しにあった穢れモノの私が、最愛に出逢うまで〜

五城楼スケ(デコスケ)

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09 無慈悲な決定

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 屋敷の隅の塀の近くで、大豆と小豆を探していたはずの私は、気が付けば自分の部屋にいて、あまつさえ髪の毛が真っ白になっていた。

「お前には今後一切、人前に出ることを禁じる! 部屋から一歩も出るなっ!!」

 お父様は容赦なく私に言い放った。私に弁解の余地すら与えるつもりはないらしい。

 だけど、それはそうだと自分でも思う。

 結局、どんな理由があったにせよ、結果がすべてなのだ。白髪になった女なんて気味悪がられるに決まっている。

「泰生様、ずっと部屋に閉じ込めておくのは可哀想ですわ」

 お父様の決定に異を唱えたのは、意外なことに義母だった。

 だけどそれは私を憐れんでのことではなく、もっと私を追い詰めるためのものだと、その怪しげな瞳が語っていた。

「ああ、一乃は優しいなぁ……。しかしこんな形の娘を、天花寺家の娘として扱うのはな。我が家の名声が落ちてしまうぞ」

「ふふふ、嫁がせることが出来ない役立たずなら、役に立たせれば良いのです──使用人として」

「なっ……!」

 義母はそう言うと、にたりとした笑みを浮かべて私を見下ろした。

「そうか! そうだな、何処ぞの名家に嫁がせて天花寺家の地位を盤石にと思っていたが、それが出来ないなら仕方がない。汚れ仕事でもさせておけ」

「お、お父様……! あんまりです! 私は──」

「うるさいうるさい! ”穢れモノ”が俺を父と呼ぶな!! お前はもう俺の娘ではない!! 生きていたければ使用人として役に立て!!」

 父は私の言葉に耳を貸そうともせず、怒りながら部屋を出ていった。その後に義母もついて行き、部屋には双子が残った。

「あははっ! 無様ねぇ琴葉。十日間も何処で遊んでいたの? ホント厭らしい女ね。その顔でどこぞの男でも誘惑していたのかしら?」

「なっ?! そんなことしてないっ!!」

「うるさいわねっ!! じゃあ何処で何をしていたのよっ!! 自分の身は潔白で穢れてないって証明できるの?!」

「そ、それは……っ、私、記憶がなくて……」

「ほら見てご覧なさいなっ!! 証明できないじゃないっ!! 記憶がないって言い訳が通じるとでも思ってるの?!」

 私は真央の言葉を否定したくても出来なかった。記憶がない以上、潔白を証明するすべがないからだ。

「…………っ」

 黙り込む私を見て、真央は勝ったと言わんばかりの笑みを浮かべた。

「ふふっ、あんたみたいな”穢れモノ”を生かしてくれるお父様とお母様に感謝することね! その恩に報いるためにもせいぜい頑張って働きなさいな。これからが楽しみだわ」

 真央はそう言うと、機嫌良く部屋から出ていった。私は何も言い返せないことが悔しくて悲しくて、ぎゅっと手を握りしめる。

「……琴葉」

「っ?! あ、怜央様……」

 怜央に声を掛けられて、まだ彼が部屋に残っていた事に気が付いた。そう言えば怜央はこの部屋に入ってきてからもずっと、黙ったままだったな、って思う。

「この屋敷から逃げようとしたのか? それとも男と駆け落ちするつもりだったのか?」

「え? 駆け落ち、って……違うっ!! そんな訳ないっ!! 私は……っ」

 ──私はただ、大豆と小豆に会いたかっただけ、という言葉を、私は既のところで飲み込んだ。

 何故なら、私が野良犬の面倒を見ていると知られれば最後、屋敷の人間はみんな駆除しようとするだろうから。

「……そうだよな、琴葉にそんな相手いるわけないよな」

 私が必死に否定する姿を見て、怜央が何故か安心したような表情を浮かべた。

「僕が、もっと早く手に入れておけば、こんなことにならなかったのに……」

「怜央様……?」

 何だか怜央の雰囲気がおかしい。

 私が不気味に思っていると、怜央は私の髪の毛を一房掬い上げた。

「えっ……」

 真っ白い絹糸のような髪の毛がさらり、と揺れる。

「……琴葉が姿を消している間、ずっと腹が立って仕方なかった。琴葉が僕から逃げたんだって思ったら、目の前が真っ赤になって怒り狂ってた」

 瞳に怪しい光を浮かべる怜央の顔を見て、私の身体に悪寒が走る。

「神隠しにあっている間、何があったか知らないけど……。僕は心が広いから、お前が傷物になっても許してあげるよ」

「……は?」

 私は怜央の言葉の意味がわからず、思わず間抜けな声を出してしまう。一体彼は何を言っているのだろう?

「それにしても流石は父上だよね。琴葉を人前に出さないって判断は賢明だったと思う。これで琴葉はずっとこの屋敷に囚われた状態になるんだ。もうこれ以上、琴葉は誰のものにもならない。だから──」

 怜央の瞳がすうっと細められた。その視線はまるで、鋭い針で私を射抜くかのようで。

「──もうお前は僕のものだよ」

 そう言って微笑む怜央の瞳には、強い執着と仄暗い情欲が入り混じった、剣呑な色が浮かんでいた。
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