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第一章 港町グラード

episode 01 荒くれ者

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 アリシアお姉様が向かったとされるグリッシア王国。
 あたし達は海へと近いへ入ると酒場で足掛かりを掴み、海岸に沿うようとある町へと向かった。

「なにあれ?
 まるで腐街スラムじゃない」

 町のそばまで来た時点で異様な雰囲気が漂っていたが、入口に立つと人がいるとは思えないほど家屋もボロボロで、木々も枯れ果て雑草も伸び放題であった。

「人の気配はあるが、こいつは普通じゃないな」

 レディの言うことに間違いはなく、波の音に混じり人の出す音が微かに聞こえている。

「お嬢様、本当に寄るのですか?」

 おどおどしているミーニャを余所に、あたしは一歩踏み出し振り返ることもなく話した。

「当たり前でしょ。
 人がいるんだもの、何かしらの情報は得られるわ。
 それが目的で来たんだから」

「でも、本当に人かどうか――」

「んなこと言っても見てみなきゃ分からないでしょ!
 ほら、行くよ」

「大丈夫さ、ミーニャ。
 あたいが隣にいてやるから心配しなさんなって」

 ミーニャと二人旅の時は強引にでも引っ張って行かなければならなかったものが、レディがいるおかげでミーニャもある程度は簡単について来てくれる。

「さて、こういう時は常套手段の酒場から。
 っても、何だか物騒ね。
 普通の格好してる人がいないじゃないの」

「そうだねぇ。
 こいつは海賊が支配してんじゃないのかい。
 海に面して荒れ果てた町となればね」

「ジャラジャラした物付けて、頭にも布を巻いてるのが海賊ってわけ?
 何だか見た目が派手なだけって感じ」

 遠目に数人が行き来し、ほとんど人がいないようにも見える町。
 崩れかけている廃屋に人影が在るわけでもなく、人の居そうな建物を探しうろうろするしかなかった。

「気をつけなよ。
 見た目はあんなでも度胸だけはあるんだからさ。
 そこらにいる賊とは別物と考えるべきだよ」

「ふーん、そう。
 だとしても、賊には変わりないんだからまともに話してもってやつでしょ?」

 レディは足を止めるとあたしの腕を掴み周りを見回した。

「さて、どうだかね。
 そいつは直接聞いてみるしかないんじゃないかい?」

「お嬢様!?」

「いつの間にか囲まれてるってね。
 その辺りはそこいらの連中と変わりなしなのね」
 
 ミーニャがあたしの背を掴むとレディはゆっくりと背後に回った。

「お嬢ちゃん達。
 こんなところに何の用かな?」

 物陰から足音も無しに姿を現し口にしたのは、下品極まりない顔つきと端々が千切れた衣服を纏った男だった。

「人探しよ、人探し。
 あんた達みたいな下品を体現したような人じゃなく、美の頂点に君臨する正反対の人をね」

「ちょっと、アテナ。
 いきなり挑発って――」

「だって、あいつがお嬢ちゃんって」

 レディが連中に聞こえるか聞こえないかの小声ですかさずあたしを制するが、あたしは異にも介さず思いを告げた。

「あぁん?
 何だって?
 おい!
 お前ら聞こえただろ!?
 出てこい!!」

 わらわらとみすぼらしい格好の男達がざっと二十人、周りを囲むように出て来ると薄ら笑いを浮かべている。

「はぁぁぁ。
 結局こうなるのかい。
 アテナ、どうしていっつもそうなんだい」

 レディの大きな愚痴が一つ。

「先に失礼なことをしたのは向こう。
 それに対して丁寧に応えてあげただけよ」

「何をごちゃごちゃと。
 こんなところにわざわざ来てオレらにデカイ口叩くたぁ、いい度胸してるなぁ嬢ちゃんよ」

「デカイ口!?
 あんたの緩んだ口元に比べれば、あたしの口は可愛い過ぎて神すらひれ伏すわよ!」

「んだとコラぁ!」

 怒声と共に光り物を取り出すとそれが合図だったかのように、囲む海賊達も各々に武器を取り出した。

「ほぉら、すぐにそうやって武力に頼ろうとする。
 弱い者の証ね」

「いや、アテナ。
 今のは誰だって怒るだろうさ。
 ……けどまあ、女性を隠れて囲むなんざ趣味が悪いにも程があるってもんかね。
 ミーニャ、あたいの後ろにへばり付いてなよ」

 振り向くとミーニャはレディの背中に文字通りへばり付き、あたしに目で何やら訴えている。

「そんな怒らなくても……。
 こうなった以上、やるしかないってことなのよ」

 と、レディと共に剣を構え相手の出方を窺っていた時だった。
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