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第一章 港町グラード
episode 03 取引
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カルディアについて行った先は街の真ん中であろう場所に、他とは違い整われた外観の建物があった。
街を治める者の住まう場所と疑いのない立派な屋敷に入ると、石畳が敷き詰められた広間に二階へと続く大袈裟な階段が据えられていた。
「ここで待て」
階段の目の前でカルディアは止まると、手摺にある幻竜の尾を押し込んだ。
すると、甲高い音の後に足元の大きな石畳が階段の下へと潜り込み、階下への新たな道を露にする。
「仕掛けがあったのね」
「凄いですね、お嬢様」
「さぁ、こっちだ」
驚くあたし達を見向きもせずにカルディアは足早に降りていく。
遅れまいと続き階段を降りると、途中で石の擦り合う音と一つ大きな音がして薄明かりの階下へと辿り着いた。
「勝手に閉まったみたいだけど大丈夫なの?」
「こちら側にも仕掛けはある。
尾が戻ると勝手に閉まるのさ。
さぁここだ、寛いでくれ」
幾つかの扉と角を過ぎた部屋の中は世に言う財宝がところ狭しと並べられ、地下の部屋を忘れさせるだけ明るさがあった。
「光り物が多くて眩しいくらいね。
この毛皮のソファなんて中々見ることなんてないわ」
「そいつは魔獣の毛皮を剥いだもんだからな、そうそうお目にはかかれないだろうね。
さ、そいつに座って。
何か飲もうかいーーっても酒は飲めるのかい?」
「飲めなくはないけど今は遠慮しとくわ。
ミーニャは飲めないし」
「そうかい?
だったらそうだね……」
部屋の奥にある立派な机に腰掛けていたカルディアは身を翻すと、その後ろにある棚から瓶を選び出した。
「こいつくらいしかないか。
ーーほら、いくよっ!」
そこまで大きくもない瓶だが放って渡すとは思ってもみず、慌てて立ち上がり体で受け止めた。
「っつぅ!
いきなり放らないでよね」
「あっはっはっはっ!
海賊ってのはこんなもんさ。
落としたヤツが悪い、飲めなくなるのは自分なんだからな」
「それは一理あるけどさ。
で、これは?」
「何かの果汁さ。
普段は酒に混ぜたりするが、そのままでも飲めるもんさね。
ま、飲んでみな。
毒はないからな」
言われて口を付けないのも礼儀に反すると、あたしとミーニャは一口ずつ嗜んだ。
「中々美味しいわ。
あたしは好きな味ね」
「そうかい、そうかい!
そいつは良かった。
酒以外じゃ今はそれしかないからね」
と、自身は手に取った瓶を喉を鳴らしながら上へと向けていた。
「ふはぁ。
で?
話ってのはなんだい?
そいつを聞きに来たんだろ?」
「そうよ。
単刀直入に言うと、あたし達は人を捜しているの。
で、その人がこの近くを通ったって話をきいたから何か知ってるんじゃないかってね」
「ほうほう。
あまりここに来るヤツはいないから、ここ数年の話なら覚えてるよ」
「だったら赤髪の女剣士で、アリシアって名前の人は知らない?」
容姿を話すと机の上で足と手を組み、細目で視線を落とした。
「そうね、それと四・五人と一緒にいたと思うのだけど……」
「そいつは長い髪で、えらい美人なやつかい?」
「そうよ!
そうそう!!」
あたしはあまりの喜びに立ち上がり、人差し指を立てながら反応していた。
「あぁ、あいつらか。
知ってはいるな、この街に来たからな」
「それでそれで!?
どこに行ったか分かる!?」
カルディアはゆっくりと机を降りお尻でもたれる様に立つと、あたし達に向かい嫌な笑顔を見せた。
「そいつを知ってどうする?
それに私らは海賊だ。
殺しちまったかも知れないし、今も街にいるかも知れない。
どうしたか知りたいなら取引でもしようかい?」
「取引!?」
まさか人を尋ねただけで取引を要求されるとは思ってもいず、声まで裏返って驚いた。
「それはそうだろ?
あんたらは欲しい情報だが、私らには教えても得がないかも知れない。
だったらお互いに得をする道を選ぶのがいいんじゃないのかい?」
「いや、まぁ、そりゃそうだけど。
人の行方を尋ねただけよ?
たったそれだけのことで取引ってどうなのよ」
「言っただろ?
海賊だって。
私らは常に追われる身で命を狙われる身でもあるのさ。
それを無償で人助けなんてすると思うかい?
簡単に人を信じて裏切られてきた海賊どもが、おいそれと人を信じれると思わないことだね」
「だったら何でこんなところに招いたのさ」
「そいつは私が気に入った。
ただそれだけのことさ、信じてるとは思わないこったね。
何せレディと一緒にいるなら尚更ってもんよ」
そういえば何か因縁めいたものがあったのだった。
「だったら、どうしたら教えてくれる?」
「そうさね。
ここから海を少しばかり行ったところにお宝があるらしいんだがね。
そいつを手に入れるにはちょいと手間でね。
そこでアテナ、というよりレディの力を借りたいところなんだがね。
勿論、アテナにも役には立ってもらいたいが。
どうだい?
海賊の手伝いってことになるがさ」
海賊の手伝いと聞きあまり良い気がしないが、お姉様の行方を知っているかもとなれば手伝うしかないように思える。
どうにも手放しで喜べるという日は来ないのかと、若干呆れ気味にもなってしまうが。
街を治める者の住まう場所と疑いのない立派な屋敷に入ると、石畳が敷き詰められた広間に二階へと続く大袈裟な階段が据えられていた。
「ここで待て」
階段の目の前でカルディアは止まると、手摺にある幻竜の尾を押し込んだ。
すると、甲高い音の後に足元の大きな石畳が階段の下へと潜り込み、階下への新たな道を露にする。
「仕掛けがあったのね」
「凄いですね、お嬢様」
「さぁ、こっちだ」
驚くあたし達を見向きもせずにカルディアは足早に降りていく。
遅れまいと続き階段を降りると、途中で石の擦り合う音と一つ大きな音がして薄明かりの階下へと辿り着いた。
「勝手に閉まったみたいだけど大丈夫なの?」
「こちら側にも仕掛けはある。
尾が戻ると勝手に閉まるのさ。
さぁここだ、寛いでくれ」
幾つかの扉と角を過ぎた部屋の中は世に言う財宝がところ狭しと並べられ、地下の部屋を忘れさせるだけ明るさがあった。
「光り物が多くて眩しいくらいね。
この毛皮のソファなんて中々見ることなんてないわ」
「そいつは魔獣の毛皮を剥いだもんだからな、そうそうお目にはかかれないだろうね。
さ、そいつに座って。
何か飲もうかいーーっても酒は飲めるのかい?」
「飲めなくはないけど今は遠慮しとくわ。
ミーニャは飲めないし」
「そうかい?
だったらそうだね……」
部屋の奥にある立派な机に腰掛けていたカルディアは身を翻すと、その後ろにある棚から瓶を選び出した。
「こいつくらいしかないか。
ーーほら、いくよっ!」
そこまで大きくもない瓶だが放って渡すとは思ってもみず、慌てて立ち上がり体で受け止めた。
「っつぅ!
いきなり放らないでよね」
「あっはっはっはっ!
海賊ってのはこんなもんさ。
落としたヤツが悪い、飲めなくなるのは自分なんだからな」
「それは一理あるけどさ。
で、これは?」
「何かの果汁さ。
普段は酒に混ぜたりするが、そのままでも飲めるもんさね。
ま、飲んでみな。
毒はないからな」
言われて口を付けないのも礼儀に反すると、あたしとミーニャは一口ずつ嗜んだ。
「中々美味しいわ。
あたしは好きな味ね」
「そうかい、そうかい!
そいつは良かった。
酒以外じゃ今はそれしかないからね」
と、自身は手に取った瓶を喉を鳴らしながら上へと向けていた。
「ふはぁ。
で?
話ってのはなんだい?
そいつを聞きに来たんだろ?」
「そうよ。
単刀直入に言うと、あたし達は人を捜しているの。
で、その人がこの近くを通ったって話をきいたから何か知ってるんじゃないかってね」
「ほうほう。
あまりここに来るヤツはいないから、ここ数年の話なら覚えてるよ」
「だったら赤髪の女剣士で、アリシアって名前の人は知らない?」
容姿を話すと机の上で足と手を組み、細目で視線を落とした。
「そうね、それと四・五人と一緒にいたと思うのだけど……」
「そいつは長い髪で、えらい美人なやつかい?」
「そうよ!
そうそう!!」
あたしはあまりの喜びに立ち上がり、人差し指を立てながら反応していた。
「あぁ、あいつらか。
知ってはいるな、この街に来たからな」
「それでそれで!?
どこに行ったか分かる!?」
カルディアはゆっくりと机を降りお尻でもたれる様に立つと、あたし達に向かい嫌な笑顔を見せた。
「そいつを知ってどうする?
それに私らは海賊だ。
殺しちまったかも知れないし、今も街にいるかも知れない。
どうしたか知りたいなら取引でもしようかい?」
「取引!?」
まさか人を尋ねただけで取引を要求されるとは思ってもいず、声まで裏返って驚いた。
「それはそうだろ?
あんたらは欲しい情報だが、私らには教えても得がないかも知れない。
だったらお互いに得をする道を選ぶのがいいんじゃないのかい?」
「いや、まぁ、そりゃそうだけど。
人の行方を尋ねただけよ?
たったそれだけのことで取引ってどうなのよ」
「言っただろ?
海賊だって。
私らは常に追われる身で命を狙われる身でもあるのさ。
それを無償で人助けなんてすると思うかい?
簡単に人を信じて裏切られてきた海賊どもが、おいそれと人を信じれると思わないことだね」
「だったら何でこんなところに招いたのさ」
「そいつは私が気に入った。
ただそれだけのことさ、信じてるとは思わないこったね。
何せレディと一緒にいるなら尚更ってもんよ」
そういえば何か因縁めいたものがあったのだった。
「だったら、どうしたら教えてくれる?」
「そうさね。
ここから海を少しばかり行ったところにお宝があるらしいんだがね。
そいつを手に入れるにはちょいと手間でね。
そこでアテナ、というよりレディの力を借りたいところなんだがね。
勿論、アテナにも役には立ってもらいたいが。
どうだい?
海賊の手伝いってことになるがさ」
海賊の手伝いと聞きあまり良い気がしないが、お姉様の行方を知っているかもとなれば手伝うしかないように思える。
どうにも手放しで喜べるという日は来ないのかと、若干呆れ気味にもなってしまうが。
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