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第一章 港町グラード
episode 11 魔人王
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謁見の間を探すべく入口まで戻り、そこから考察しつつ階段を上ったり廊下を進んだりとおおよその感覚で探し当てた豪華な両開きの扉。
「この奥がそうだと思うわ。
開けるわよ、ミーニャ」
「は、はい」
手をかけた扉の向こうにはカルディアと海賊だけだと思いたいが、そうはさせない空気がひしひしと伝わってくる。
一瞬で中の状況を把握できるようにゆっくり過ぎず、思い切りでもない力加減で二つの扉を開け放った。
「--えっ!?」
口から出た言葉はそれだけだった。
外の光が射し込まない薄明かりの部屋の中程で、女性の首筋から覗き込む二つの紅い瞳。
ただならぬ雰囲気を醸し出す部屋に一歩踏み出すと全身が氷つく感じすら思わせる。
「まさか、カルディア!?」
あたしの一声に男は顔を上げ、同時に女性は膝から崩れ落ちた。
「何用か?」
「あんたは一体……」
「この渇き、ようやく目覚めたというのに来客が多いな。
我が下僕になるというのか?」
「なるわけないでしょ!
それよりもカルディアをそんな風にして、一体どこから出て来たのよ!」
黒く染められた全身に紅い外套と紅い瞳が一層空気をひりつかせ、重く暗い声と独特な言い回しにあたしは強がることしか出来ない。
「ここは我が城。
永い眠りより目覚めた我を愚弄するつもりか?」
「あんたまさかっ!?
串刺し公だとでも言うの?」
「久しいな、その名は。
我はドラキュリア、人ならざる者よ」
「魔人っ!?
人間の王だったんじゃないの!?」
あたしの驚きに高らかな笑い声を上げると笑みを浮かべた。
「小娘風情が威勢の良いことよな。
その通り、我は人間の王から高みに辿り着いた者よ。
そして、永き眠りから目覚めし世界を人間の手から浄化する存在。
人間なぞ中途半端な存在、故に家畜としてこそ意義がある。
小娘よ。
汝も我の血肉となるか下僕となるか選ぶがよい」
「そんな選択肢はあたしにはないわ!
かと言って……あんた達はどうするつもり?」
部屋の両脇に並ぶ海賊達と協力したらこの場をしのぐことは出来るかも知れないと問いかけるが、彼等はあたし達を見ているだけで口を開こうともしない。
「こやつらは既に我の軍門に下っておる。
生と死を天秤にかけたとあらば当然のこと。
従わぬとならば--」
「は?
こいつに服従したっての!?
カルディアが屈したから?
海賊ってやつは、ホンット気に入らない!!
--分かったわ!
この場は見逃してあげる!!
ただし、今度会ったら今まで以上の眠りにつくことになるからね!!!」
指を突き刺し捨て台詞を吐くと同時にミーニャの手を取り踵を返すと、部屋を飛び出しレディの居る部屋まで真っ直ぐ向かった。
「お、お嬢様っ!?」
「逃げるのよミーニャ!
とにかく全力で逃げるのよ!!
あんなの到底敵いっこないんだから」
存在するだけで、あの冷たく暗い空気にすることが出来る魔人。
今まで出会ってきた魔者とは明らかに違い、剣を振るうまでもなく勝てない相手だと、危険な相手だと心が叫んでいた。
悔しい気持ちもさることながら、ミーニャの安全とレディの安否を最優先に考えることで心を落ち着かせるしか今は出来なかった。
「この奥がそうだと思うわ。
開けるわよ、ミーニャ」
「は、はい」
手をかけた扉の向こうにはカルディアと海賊だけだと思いたいが、そうはさせない空気がひしひしと伝わってくる。
一瞬で中の状況を把握できるようにゆっくり過ぎず、思い切りでもない力加減で二つの扉を開け放った。
「--えっ!?」
口から出た言葉はそれだけだった。
外の光が射し込まない薄明かりの部屋の中程で、女性の首筋から覗き込む二つの紅い瞳。
ただならぬ雰囲気を醸し出す部屋に一歩踏み出すと全身が氷つく感じすら思わせる。
「まさか、カルディア!?」
あたしの一声に男は顔を上げ、同時に女性は膝から崩れ落ちた。
「何用か?」
「あんたは一体……」
「この渇き、ようやく目覚めたというのに来客が多いな。
我が下僕になるというのか?」
「なるわけないでしょ!
それよりもカルディアをそんな風にして、一体どこから出て来たのよ!」
黒く染められた全身に紅い外套と紅い瞳が一層空気をひりつかせ、重く暗い声と独特な言い回しにあたしは強がることしか出来ない。
「ここは我が城。
永い眠りより目覚めた我を愚弄するつもりか?」
「あんたまさかっ!?
串刺し公だとでも言うの?」
「久しいな、その名は。
我はドラキュリア、人ならざる者よ」
「魔人っ!?
人間の王だったんじゃないの!?」
あたしの驚きに高らかな笑い声を上げると笑みを浮かべた。
「小娘風情が威勢の良いことよな。
その通り、我は人間の王から高みに辿り着いた者よ。
そして、永き眠りから目覚めし世界を人間の手から浄化する存在。
人間なぞ中途半端な存在、故に家畜としてこそ意義がある。
小娘よ。
汝も我の血肉となるか下僕となるか選ぶがよい」
「そんな選択肢はあたしにはないわ!
かと言って……あんた達はどうするつもり?」
部屋の両脇に並ぶ海賊達と協力したらこの場をしのぐことは出来るかも知れないと問いかけるが、彼等はあたし達を見ているだけで口を開こうともしない。
「こやつらは既に我の軍門に下っておる。
生と死を天秤にかけたとあらば当然のこと。
従わぬとならば--」
「は?
こいつに服従したっての!?
カルディアが屈したから?
海賊ってやつは、ホンット気に入らない!!
--分かったわ!
この場は見逃してあげる!!
ただし、今度会ったら今まで以上の眠りにつくことになるからね!!!」
指を突き刺し捨て台詞を吐くと同時にミーニャの手を取り踵を返すと、部屋を飛び出しレディの居る部屋まで真っ直ぐ向かった。
「お、お嬢様っ!?」
「逃げるのよミーニャ!
とにかく全力で逃げるのよ!!
あんなの到底敵いっこないんだから」
存在するだけで、あの冷たく暗い空気にすることが出来る魔人。
今まで出会ってきた魔者とは明らかに違い、剣を振るうまでもなく勝てない相手だと、危険な相手だと心が叫んでいた。
悔しい気持ちもさることながら、ミーニャの安全とレディの安否を最優先に考えることで心を落ち着かせるしか今は出来なかった。
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