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第二章 全てを見渡す島
episode 22 海賊船の魔術師
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両方の船の海賊達は、何かを探すかのように海を眺めては歩き出すといった行動を繰り返ししている。
「ほんっと男って使い物にならないわね!!」
歌惑人魚の姿も見えないままどうすべきか辺りを見回すと、向こうの船上にうっすらと緑色した膜のようなものが見えた。
「何あれ?
ん?
人?」
膜に覆われた中心に男性のような姿が見てとれた。
「ねぇ!
……ねぇってば!!
聞こえてる!?
聞こえてるならこっちに来なさいよ!」
一瞬こちらに顔を向けたかと思うとゆっくりとこちらに歩み寄って来ている。
「レディ!
まだなの!?」
「今やってる!
アテナは方向を示してくれ!」
「……んなこと言ってもどこから……」
距離は近いと思うが、だからこそ当てずっぽうに放ったところで意味がないのだろうと辺りを見回すと、数人の海賊が同じ方向を向いているのに気がついた。
「レディ!
船の先よ!!
向こう側に飛ばして!」
「船の向こうだね!
行くよ!!」
歌声に混じり轟音が鳴り響くとバルバレルの船よりも高い水しぶきが上がり、またも船が揺れると歌声は聴こえなくなった。
「今のうちよ!
早くこっちに!」
味方なのかも分からないまま彼を呼んだのは、両手を鎖で繋がれているのが見えたからだった。
あたしが呼び掛けると薄い膜は無くなり、走り船を飛び越え転がり込んだ。
「この海域から離脱する!!
船を元の航路へ!」
レディは次の準備をしつつ正気に戻った海賊へ指示を出すと、すぐさま同じ方へと砲台から放った。
「……歌は聴こえない。
どう?
大丈夫?」
「あぁ、なんとかな。
助かったよ」
立てないままの男に手を差し出すと、それを掴み取りゆっくりと立ち上がる。
青年と言うべきなのか、歳をとっているようには見えないのだが、手付かずであろう整っていない長髪にむさ苦しいまでの髭を蓄えている。
「色々聞きたいけど、歌惑人魚の声が届かなくなるまでは策を講じなきゃ」
「だったら恩返しの一つでもさせて貰おうかな。
ちょっと待ってな」
右手を左手首に付けられている鉄の輪に添えると何やら独り言を言い出し、聞き取ろうとした瞬間、鉄の輪がものの見事に砕け散った。
「は!?
それ魔法!?」
問いに答えるかと思いきや同じことを逆の手ですると、残された鎖だけが船板を叩いた。
「ふぅ。
取り敢えずはこれで。
後は皆を船尾から離してくれ」
「え?
あぁ、うん。
後ろにいる皆!!
真ん中に集まって!」
怪訝そうな表情を浮かべながら集まりだした海賊とは逆に、男は首をひねりながら船尾へと向かって行った。
「おいおい、アテナ。
大丈夫なのか?
あの男は」
「レディ。
多分大丈夫よ」
「多分って。
また根拠のないことを」
「そりゃ根拠はないけど、恩返しするって言ってたんだし。
それに男で一人だけ歌に惑わされなかったのよ。
何か出来ると思ったのよ」
それと海賊の身なりとは思えない風貌に繋がれていた手。
そして、先程の魔法のようなことと武器らしい物を何も持っていないこと。
これだけ揃っていたら信じてみても良いかと思った勘に従ったまでのことだった。
「まぁ、アテナがそう言うなら。
信じられない相手はとことん疑うアテナの勘、信じてみるさ」
「ありがと、レディ。
ま、何かあったら助けてよね」
「はっはっはっ!
すぐ人を頼るのは良くないね。
それは直しなよ」
「レディだからよ。
あたしが認めていない相手は頼らないんだから」
こんな状況でも笑みを溢せるようになったのは、心強い友と一緒に旅をしてきた経験なのかと想いを巡らせた。
「ほんっと男って使い物にならないわね!!」
歌惑人魚の姿も見えないままどうすべきか辺りを見回すと、向こうの船上にうっすらと緑色した膜のようなものが見えた。
「何あれ?
ん?
人?」
膜に覆われた中心に男性のような姿が見てとれた。
「ねぇ!
……ねぇってば!!
聞こえてる!?
聞こえてるならこっちに来なさいよ!」
一瞬こちらに顔を向けたかと思うとゆっくりとこちらに歩み寄って来ている。
「レディ!
まだなの!?」
「今やってる!
アテナは方向を示してくれ!」
「……んなこと言ってもどこから……」
距離は近いと思うが、だからこそ当てずっぽうに放ったところで意味がないのだろうと辺りを見回すと、数人の海賊が同じ方向を向いているのに気がついた。
「レディ!
船の先よ!!
向こう側に飛ばして!」
「船の向こうだね!
行くよ!!」
歌声に混じり轟音が鳴り響くとバルバレルの船よりも高い水しぶきが上がり、またも船が揺れると歌声は聴こえなくなった。
「今のうちよ!
早くこっちに!」
味方なのかも分からないまま彼を呼んだのは、両手を鎖で繋がれているのが見えたからだった。
あたしが呼び掛けると薄い膜は無くなり、走り船を飛び越え転がり込んだ。
「この海域から離脱する!!
船を元の航路へ!」
レディは次の準備をしつつ正気に戻った海賊へ指示を出すと、すぐさま同じ方へと砲台から放った。
「……歌は聴こえない。
どう?
大丈夫?」
「あぁ、なんとかな。
助かったよ」
立てないままの男に手を差し出すと、それを掴み取りゆっくりと立ち上がる。
青年と言うべきなのか、歳をとっているようには見えないのだが、手付かずであろう整っていない長髪にむさ苦しいまでの髭を蓄えている。
「色々聞きたいけど、歌惑人魚の声が届かなくなるまでは策を講じなきゃ」
「だったら恩返しの一つでもさせて貰おうかな。
ちょっと待ってな」
右手を左手首に付けられている鉄の輪に添えると何やら独り言を言い出し、聞き取ろうとした瞬間、鉄の輪がものの見事に砕け散った。
「は!?
それ魔法!?」
問いに答えるかと思いきや同じことを逆の手ですると、残された鎖だけが船板を叩いた。
「ふぅ。
取り敢えずはこれで。
後は皆を船尾から離してくれ」
「え?
あぁ、うん。
後ろにいる皆!!
真ん中に集まって!」
怪訝そうな表情を浮かべながら集まりだした海賊とは逆に、男は首をひねりながら船尾へと向かって行った。
「おいおい、アテナ。
大丈夫なのか?
あの男は」
「レディ。
多分大丈夫よ」
「多分って。
また根拠のないことを」
「そりゃ根拠はないけど、恩返しするって言ってたんだし。
それに男で一人だけ歌に惑わされなかったのよ。
何か出来ると思ったのよ」
それと海賊の身なりとは思えない風貌に繋がれていた手。
そして、先程の魔法のようなことと武器らしい物を何も持っていないこと。
これだけ揃っていたら信じてみても良いかと思った勘に従ったまでのことだった。
「まぁ、アテナがそう言うなら。
信じられない相手はとことん疑うアテナの勘、信じてみるさ」
「ありがと、レディ。
ま、何かあったら助けてよね」
「はっはっはっ!
すぐ人を頼るのは良くないね。
それは直しなよ」
「レディだからよ。
あたしが認めていない相手は頼らないんだから」
こんな状況でも笑みを溢せるようになったのは、心強い友と一緒に旅をしてきた経験なのかと想いを巡らせた。
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