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第三章 解き放ち神具

episode 32 五人の英雄

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 呆然と立ち尽くすあたし達にライズはソファの前に来るよう促すと、男の子も立ち上がり手のひらをソファに向けた。

「あ、ありがと。
 ええっと、あなたがこの塔の主?
 で、いいのよね?」

「ああ、そうだよ。
 私がファルスアルザーク、ファルとでも読んでくれ」

「え、ああ、うん、はい。
 あ、あのぉ、本当にライズのお父様?」

「ん?
 ま、義理ではあるがね」

 と言うのも、体型はあたしよりも小さい男の子なのに口調だけが大人びてる異質な存在に戸惑いを隠せず、疑いしか持てなかった。

「まあ、立ち話も何だから座って話を聞きましょうか」

「え、あぁ、そうね、そうですね」

「この身なりだから驚くのも無理はない。
 だからと言って敬語など使わなくて結構。
 普通に普段通りでいいですよ。
 ささ、座って座って」

 中身は本当に大人に感じるが、どうにも視覚によって困惑してしまう。
 言われた通りソファに腰掛けると、大きく息を吸い一度止め深く息を吐いた。

「何故小さいの?」

 ……………………
 ……………………
 ……………………

 あたし達の今の思いを真っ直ぐ伝えるも、誰も言葉を発しなかった。
 そして、あたしはレディの肩を掴む。

「あたし間違ってないわよね!?
 絶対これでしょ!?
 話を聞いてもらうとかどうとかより、このおかしな状況の説明が先よね!?」

「ん、ぁぁぁ、確かに……」

「あっはっはっはっ!!
 君がアテナだね。
 ライズから聞いてるよ。
 容姿とは裏腹に飾り気のない素直なだとね。
 それから--」

「ちょっといい?」

 続けて話そうとするファルに手のひらを見せ話を遮った。

「ライズ?
 あんたどんな説明したのよ!
 容姿とは裏腹って、どっからどう見ても素直で優しそうな魅力溢れる素敵で可愛い可憐な美少女でしょうが!!」

「き、急にどうした!?
 オレが悪いのか?」

「いや、今のはアテナが悪い。
 なぁ、どこからその言葉が出てくるんだい?
 ところどころは認めるが……なぁミーニャ」

「お嬢様、それは自分で言うことでは……」

「うっ!
 あんた達はそれが本心なのね!」

「いえいえいえ!
 お嬢様は手と足を出すのが早いのと露出するところがなければその通りだと思っています」

「それも間違ってると思うよ、ミーニャ……。
 ともかく!
 あたいはレディ。
 こっちはミーニャ。
 ライズから聞いてるとは思うが、ちょっとした縁があってここに来ることになったのさ」

「ちょ、あたしの話はどこ行ったのよ……。
 あぁぁぁ、えぇと、何で子供なのかってことよ、それよそれ」

「君も十分子供だろうに……」

「何か言った!!?」

「いや、身体が小さいかってことだね。
 不思議がるのも無理はないか。
 詳しく説明するには魔力マナ神秘力カムナのことから話すことになるが……」

「大まかには分かっているから、それは大丈夫よ」

「では、それらが及ぼす肉体への影響ってところか。
 人間には少なからず両方備わっている訳だが、見た目が若いって人を見たことはないかい?」

「そんなのはどこにでもいるでしょ?
 逆の人だってさ」

「そう、それが魔力と神秘力の差なのさ。
 実際は魔力が値が少なからず大きいので肉体の成長が進み、百年経たずに滅びてしまう。
 逆に神秘力の値が少なからず大きいと成長を若干遅らせることになる」

「なるほどね。
 でも、それとこれじゃ話が違うわよ」

「そうだ。
 成長が進むことに変わりはなく、いずれ肉体は衰えていく。
 では、長寿と言われる亜人達はどうだ。
 青年期は非常に長いがいずれは肉体が滅ぶ。
 神秘力しか備わっていないのにね。
 となると、結局のところ魔力と神秘力は肉体には関係がないと思うだろう?
 人も亜人も魔者も動き肉体を使う、それは即ち肉体の老朽化が原因なわけだ」

「でも、亜人は神秘力が強いわよ?」

「そうだね。
 しかし、毎日動き身体を使っている。
 そうなると、大きな神秘力でもいずれ維持するには困難になる。
 だから命有るものは一部を除き終わりを迎えるってことなのさ」

「一部を除き?」

「ふふ。
 そう、この世界にはいるのさ、不老不死なる者が。
 私の知る限りでは七人。
 このままいくと一人増える可能性はあるがね」

「不老不死が……いる!?
 どこにいるのよ、そんな人」

「んんん、君たちは『魔人王と英雄の物語』の五人を知っているかい?」

「さぁ?
 物語自体知らないわ。
 レディ知ってる?」

「逆に知らないアテナが凄いよ。
 簡単に話すとね、数百年前に五人の英雄が魔人王を討伐し、その後どうなっていったのかって物語なんだけどね。
『一人、赤髪の騎士、王とならん
 一人、緑の賢者、国を救う
 一人、白き神官、聖母とならん
 一人、黒き戦士、闇に堕ちる
 一人、人を憎み、業を背負う』
 というのがその五人なのさ」

「それから、そこを見てごらん」

 ファルは異様な紋様が描かれた机の斜め後ろを指差したが、ローブが掛けられている以外に壁自体は別段変わった様子は無かった。

「まだ気づかないのかい?
 ほらこの服」

 自分の服を見せるファルだが、これも紋様もなければ装飾も至って普通に見える。

「ま……さか」

「どうしたの、レディ」

「色だよ、色」

「色が何よ。
 別に草葉で染め上げた普通の緑色でしょ?」

「さっきの話だよ。
 五人の英雄に緑の賢者がいる」

「それって数百……年……前……。
 はぁぁぁぁ!?
 まさかっ!?」

 満面の笑みと共に自分を指差し頷くファルだが、数百年前の人間が今目の前にいる事実を受け入れられず、口を開けたままそれを眺めるしか出来なかった。
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