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第三章 解き放ち神具
episode 44 王家の谷の守護者
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オアシスを後にし再び砂漠の真っ只中に乗り出したあたし達に待ち受けていたのは無風の熱砂だった。
「いや、砂嵐が来るとか来ないとか以前に風一つ無いなんてあらかじめ言ってよね。
おかげで水が……」
「そうね、補給した水が半分になってしまいましたね。
けれども風の精霊達もそんなことは言ってなかったから私にもこれは予想だにしない展開だったとしか言い様がなく。
あ、でも風の精霊が緩やかに移動していたことからある程度は予測出来たと言うならば言えなくはなかったかもで……」
あまりの暑さに薄布を頭に巻きつけその上から水をかけつつ体の熱を調節しているおかげで、街を出た時より多く補充した水が早くも半分に達していた。
「まぁ良いじゃないのさ。
天気なんて気まぐれ、その日その日に合わせるしかないさ。
それが旅ってもんさ。
あたいらが砂漠に慣れていないだけなんだ、だからタグは気にしないでおくれ」
「海賊が砂漠に近寄らないワケよね。
よっぽど海の上の方が心地よいもの、ね、レディ」
「だからこそ砂漠にはお宝が眠っていると噂が絶えないんだがね。
それと、海の底か」
「なるほどね、海賊や宝探索者が行きたがらない砂漠や、宝を運んだ船が沈没している海の底が一番の宝の山ってワケなのね」
「そういうこった。
今回の終着点が砂漠かはたまた海の底か。
なんだったらこのまま砂漠で終わりにしたいもんさね」
「海の底だと前よりもっと深く潜らなきゃならないんでしょ?
それもそれよね。
息が出来なくなる可能性を背中に感じつつっていうんなら、このまま砂漠で終わりにしたいわ」
と、ふとカマル達の砂漠馬に目をやると砂山を登った所で止まっていた。
「どうかしたの?」
「前を見ろ。
あれが王家の谷だ」
「あの岩場が……それなのね」
砂漠を遮るようそびえ立つ二つの岩場が崖になり谷を造り出していた。
「あそこを通り抜けたら金字塔に着くってことね。
だったら早いとこ行きましょ、日陰も出来ているのが見えているんだから」
「あぁ、いいだろう」
カマルが軽く砂漠馬を蹴ると先行して早足で王家の谷へ滑り出した。
「あたし達も行くわよ。
はっ!」
「お馬さん頑張って下さい」
「こんなときにもミーニャは優しいのねっ!」
「私達を乗せてくれているので当たり前ですよ」
「その気持ちはきっと届いているさ、馬上で戦場に出た者には分かるよ」
隣に付けたレディがミーニャへ微笑んでくれている。
「それだと嬉しいですね。
休める場所があればお手入れしてあげようと思います」
「ああ、それがいいよ。
動物にも心はあるからね、人を見るってもんよ」
「何!?
あたしが何もしないみたいじゃないの」
「オアシスでもしてなかっただろうにーーっと!
どうしたい、カマル」
王家の谷の目の前だというのに、前を行っていたカマルの砂漠馬が立ち止まりあたし達を待っていた。
「奴らだ」
「奴ら?」
崖の麓に目を凝らすと、日陰がより黒く異様に膨らんでいる。
「王家の谷の守護者。
邪教徒に成り下がった王家の末裔。
ここからは歩いて行く。
お前らはここで待っていろ」
「交渉でもしようっての?
出来る相手なの?」
「話が出来る相手じゃない。
オレが全て斬る。
これはオレの獲物だ」
「あんたもしかして!
これを知ってて着いてきたのね!?
冗談じゃない、あたしだって行くわよ!」
「こいつぁ参ったね、まさか人間相手にまた剣を抜かなきゃならないとはさ。
アテナ、殺さなくて良いからね。
その役目はあたいが受けるから、あんたは身を第一にするんだよ」
「分かってるわ。
ミーニャは馬の上で待ってて。
何かあればオアシスまで戻るのよ!」
「分かりました。
お嬢様、レディさん、気をつけて下さい」
あたし達の話は纏まったところでカマルはあたしを睨みつけた。
「あんたらは来るなと言った!
あれはオレが斬るんだとな!!」
「っ!
だったらあたし達だって言ったわよ!
あたしも行くしレディが背負ってくれるって!!」
「話してもムダならあんたらをまず斬る!」
剣先をあたしに向けた途端、タグリードが間に割って入るとカマルの頬を平手で打った。
「一人で背負わないで!
お願いーーお願いだから……。
もうあなたが削れていくのを見てられないから……」
カマルの胸元を握りしめたタグリードが涙声で震えながら訴えている。
………………。
………………。
………………。
そっとタグリードの肩に手を乗せたと思った矢先、それはタグリードを引き剥がし地面に叩きつけカマルは背を向け走りだした。
「なっ!?」
「ちっ!
男らしくないね、全く。
タグ、立てるかい?」
「え、えぇ」
「あたいらも追うよ。
あいつは死を覚悟してる目をしていた。
あんたの力が必要だ、来てくれるね?」
「もちろん、行きます!」
「あのバカ!
死んだら承知しないわ、行くわよ!!」
走り出した男の背中を追ってあたし達も追いつこうと激しく砂を蹴る。
慣れない砂地に苛立ちを感じるものの、仲間を一人で死地に向かわせない気持ちがいつもより足を軽くさせていた。
「いや、砂嵐が来るとか来ないとか以前に風一つ無いなんてあらかじめ言ってよね。
おかげで水が……」
「そうね、補給した水が半分になってしまいましたね。
けれども風の精霊達もそんなことは言ってなかったから私にもこれは予想だにしない展開だったとしか言い様がなく。
あ、でも風の精霊が緩やかに移動していたことからある程度は予測出来たと言うならば言えなくはなかったかもで……」
あまりの暑さに薄布を頭に巻きつけその上から水をかけつつ体の熱を調節しているおかげで、街を出た時より多く補充した水が早くも半分に達していた。
「まぁ良いじゃないのさ。
天気なんて気まぐれ、その日その日に合わせるしかないさ。
それが旅ってもんさ。
あたいらが砂漠に慣れていないだけなんだ、だからタグは気にしないでおくれ」
「海賊が砂漠に近寄らないワケよね。
よっぽど海の上の方が心地よいもの、ね、レディ」
「だからこそ砂漠にはお宝が眠っていると噂が絶えないんだがね。
それと、海の底か」
「なるほどね、海賊や宝探索者が行きたがらない砂漠や、宝を運んだ船が沈没している海の底が一番の宝の山ってワケなのね」
「そういうこった。
今回の終着点が砂漠かはたまた海の底か。
なんだったらこのまま砂漠で終わりにしたいもんさね」
「海の底だと前よりもっと深く潜らなきゃならないんでしょ?
それもそれよね。
息が出来なくなる可能性を背中に感じつつっていうんなら、このまま砂漠で終わりにしたいわ」
と、ふとカマル達の砂漠馬に目をやると砂山を登った所で止まっていた。
「どうかしたの?」
「前を見ろ。
あれが王家の谷だ」
「あの岩場が……それなのね」
砂漠を遮るようそびえ立つ二つの岩場が崖になり谷を造り出していた。
「あそこを通り抜けたら金字塔に着くってことね。
だったら早いとこ行きましょ、日陰も出来ているのが見えているんだから」
「あぁ、いいだろう」
カマルが軽く砂漠馬を蹴ると先行して早足で王家の谷へ滑り出した。
「あたし達も行くわよ。
はっ!」
「お馬さん頑張って下さい」
「こんなときにもミーニャは優しいのねっ!」
「私達を乗せてくれているので当たり前ですよ」
「その気持ちはきっと届いているさ、馬上で戦場に出た者には分かるよ」
隣に付けたレディがミーニャへ微笑んでくれている。
「それだと嬉しいですね。
休める場所があればお手入れしてあげようと思います」
「ああ、それがいいよ。
動物にも心はあるからね、人を見るってもんよ」
「何!?
あたしが何もしないみたいじゃないの」
「オアシスでもしてなかっただろうにーーっと!
どうしたい、カマル」
王家の谷の目の前だというのに、前を行っていたカマルの砂漠馬が立ち止まりあたし達を待っていた。
「奴らだ」
「奴ら?」
崖の麓に目を凝らすと、日陰がより黒く異様に膨らんでいる。
「王家の谷の守護者。
邪教徒に成り下がった王家の末裔。
ここからは歩いて行く。
お前らはここで待っていろ」
「交渉でもしようっての?
出来る相手なの?」
「話が出来る相手じゃない。
オレが全て斬る。
これはオレの獲物だ」
「あんたもしかして!
これを知ってて着いてきたのね!?
冗談じゃない、あたしだって行くわよ!」
「こいつぁ参ったね、まさか人間相手にまた剣を抜かなきゃならないとはさ。
アテナ、殺さなくて良いからね。
その役目はあたいが受けるから、あんたは身を第一にするんだよ」
「分かってるわ。
ミーニャは馬の上で待ってて。
何かあればオアシスまで戻るのよ!」
「分かりました。
お嬢様、レディさん、気をつけて下さい」
あたし達の話は纏まったところでカマルはあたしを睨みつけた。
「あんたらは来るなと言った!
あれはオレが斬るんだとな!!」
「っ!
だったらあたし達だって言ったわよ!
あたしも行くしレディが背負ってくれるって!!」
「話してもムダならあんたらをまず斬る!」
剣先をあたしに向けた途端、タグリードが間に割って入るとカマルの頬を平手で打った。
「一人で背負わないで!
お願いーーお願いだから……。
もうあなたが削れていくのを見てられないから……」
カマルの胸元を握りしめたタグリードが涙声で震えながら訴えている。
………………。
………………。
………………。
そっとタグリードの肩に手を乗せたと思った矢先、それはタグリードを引き剥がし地面に叩きつけカマルは背を向け走りだした。
「なっ!?」
「ちっ!
男らしくないね、全く。
タグ、立てるかい?」
「え、えぇ」
「あたいらも追うよ。
あいつは死を覚悟してる目をしていた。
あんたの力が必要だ、来てくれるね?」
「もちろん、行きます!」
「あのバカ!
死んだら承知しないわ、行くわよ!!」
走り出した男の背中を追ってあたし達も追いつこうと激しく砂を蹴る。
慣れない砂地に苛立ちを感じるものの、仲間を一人で死地に向かわせない気持ちがいつもより足を軽くさせていた。
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