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第四章 新たなる魔人王
episode 53 死地への覚悟
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次の日、昼には港街に着きタグとも別れ、あたし達は船へと戻ることが出来た。
「海風があると随分と違うもんね」
「そうさね、体も洗い流して余計に涼しく感じるよ」
「気持ち良いですね、お嬢様。
ところでいつ出航するんですか?」
あたし達は手摺に掴まり行き交う人々の様子を眺めてながら話していた。
海の運ぶ囁きに去らされる髪を抑えて、ミーニャはあたしとレディに問いかけている。
「もうすぐらしいわよ?
ね、レディ」
「ああ、今積んでる荷物が運び終わったら出ることになっている。
許可も取り終わってるらしいからね、すぐにでも出れるよ」
「ここを出たらそのまま魔人のところへ行くのですか?」
今後の話はあたしとレディだけで話し合っていた。
その間、ミーニャは身支度をしたりとそれはそれで忙しかったらしい。
「ううん、一旦はグラードに戻るわよ。
この人数じゃ魔者の巣窟には行けたもんじゃないからね」
「そう、魔人王のところへ行ってもカルディアの海賊達も残っているからね。
低級な魔者と違って知性もあれば戦い慣れもしてるだろう、だから戦える海賊を連れて行くしかないのさ」
「分かりました。
では、町に着くまではまた皆さんのお手伝いでもしていますね」
ミーニャは笑顔で応え、あたし達も笑顔で頷いた。
レディとの話し合いはお互い考えていたことが一緒だったようですぐに結論が出て、このよいな運びになった。
「レディ!
終わりましたぜ!!」
「ご苦労さん。
これより町に戻る!
皆、配置についてくれ!」
号令に呼応すると桟橋とを繋ぐ板を外しにかかり、足早に持ち場に着き始めた。
レディも高い位置へと移動し、残されたあたし達は縁に寄りかかりその様子を眺めていると、ゆっくりと船が動き出した。
「ようやくってとこね。
これで終わりじゃないけどさ」
「そうですね、こんなにあっちこっち行ってたら剣が目的だったと錯覚してしまいます」
「それなのよね。
ホント紆余曲折して手にしたのが目的の為の手段なんだもの。
それもあたしが持っていたなんてね」
「私が早くにきづいていたら良かったのですが。
これからはもっとお嬢様の身の回りのことを気にしますね」
「いいのよ、いいのよ!
ミーニャは今まで通りでいいの。
ホントはあたしの身の回りなんてどうでも良いんだから」
笑顔で応えたが、ミーニャは怒ったような真剣な眼差しで訴えかけてきた。
「ダメです!!
お嬢様の身の回りをお世話するのは私だけの役目ですから!
それに……」
「それに?
なによ?」
「お世話しないとお嬢様は裸でうろうろするじゃないですか!」
いつも言われるが改まって言われると軽くショックではある。
「だって部屋にはあたし達しかいないんだからいいじゃない!
それこそミーニャだって裸でいてもいいんだから」
「いくら近い存在でも恥ずかしいことは覚えて欲しいんです。
私はいつだって恥ずかしいですし、人前で裸にはなりません!」
「……ケチ」
「お嬢様っ!!」
と怒鳴ったところでミーニャは目を開いて何か思いを抱いた顔をした。
「全くお嬢様は……。
これ以上は何も言いません。
ただ、生きてさえいてくれたら」
見抜かれた……。
これから魔人王と戦いに行くのだ、死と向き合わせになるのは百も承知。
だからミーニャとは楽しく話していたかった。
「あたしが?
死ぬワケないじゃないの。
ミーニャを置いてなんて死ねないっての。
唯一の家族みたいなもんなんだから」
「……お嬢様!!」
笑顔で言ってのけるとミーニャが急に抱きついてあたしの胸を濡らした。
小さな嗚咽が聞こえる中、そっと髪を撫で流れる雲に思いを馳せると空が滲んで見えてくる。
「だ……ぐすっ、大丈夫よ。
あたしだって簡単には死ねないんだから。
あたしが死んだらミーニャの世話は誰がするのって話でしょ。
あたしがいるからミーニャがいる。
ミーニャがいるからあたしがいるの。
約束するわ、これからもどんなことがあってもミーニャを置いては死なないと」
「ひっ、ひっ……ぐすっ、本当ですね。
絶対の約束です。
……でも……私、お嬢様にお世話されたこと……ないです」
「ふふ、ふふふふ。
ほら、いつものミーニャに戻った。
あたしのお世話はこういうことなのよ、可愛らしいミーニャ--」
顎を持ち上げお互いの目線が合うとあたしは顔を近づけた。
「お、お、お嬢様っ!!
いやですぅー!!」
「あっ!
こら!
待ちなさい、ミーニャっ!!
……ふふ」
ミーニャはあたしを突き放し一目散に船の中へ駆け込んでいく。
その様子に自然と笑みが溢れてしまうが、内心は約束を果たせるのか微妙な気持ちであった。
だが、こんな気持ちは誰にも悟られる訳にはいかない。
それは、あたし自信が許されないから。
軽い吐息と共にまだ見ぬ未来を考え、風の流れに乗った船に身を預けると覚悟を決めた。
「海風があると随分と違うもんね」
「そうさね、体も洗い流して余計に涼しく感じるよ」
「気持ち良いですね、お嬢様。
ところでいつ出航するんですか?」
あたし達は手摺に掴まり行き交う人々の様子を眺めてながら話していた。
海の運ぶ囁きに去らされる髪を抑えて、ミーニャはあたしとレディに問いかけている。
「もうすぐらしいわよ?
ね、レディ」
「ああ、今積んでる荷物が運び終わったら出ることになっている。
許可も取り終わってるらしいからね、すぐにでも出れるよ」
「ここを出たらそのまま魔人のところへ行くのですか?」
今後の話はあたしとレディだけで話し合っていた。
その間、ミーニャは身支度をしたりとそれはそれで忙しかったらしい。
「ううん、一旦はグラードに戻るわよ。
この人数じゃ魔者の巣窟には行けたもんじゃないからね」
「そう、魔人王のところへ行ってもカルディアの海賊達も残っているからね。
低級な魔者と違って知性もあれば戦い慣れもしてるだろう、だから戦える海賊を連れて行くしかないのさ」
「分かりました。
では、町に着くまではまた皆さんのお手伝いでもしていますね」
ミーニャは笑顔で応え、あたし達も笑顔で頷いた。
レディとの話し合いはお互い考えていたことが一緒だったようですぐに結論が出て、このよいな運びになった。
「レディ!
終わりましたぜ!!」
「ご苦労さん。
これより町に戻る!
皆、配置についてくれ!」
号令に呼応すると桟橋とを繋ぐ板を外しにかかり、足早に持ち場に着き始めた。
レディも高い位置へと移動し、残されたあたし達は縁に寄りかかりその様子を眺めていると、ゆっくりと船が動き出した。
「ようやくってとこね。
これで終わりじゃないけどさ」
「そうですね、こんなにあっちこっち行ってたら剣が目的だったと錯覚してしまいます」
「それなのよね。
ホント紆余曲折して手にしたのが目的の為の手段なんだもの。
それもあたしが持っていたなんてね」
「私が早くにきづいていたら良かったのですが。
これからはもっとお嬢様の身の回りのことを気にしますね」
「いいのよ、いいのよ!
ミーニャは今まで通りでいいの。
ホントはあたしの身の回りなんてどうでも良いんだから」
笑顔で応えたが、ミーニャは怒ったような真剣な眼差しで訴えかけてきた。
「ダメです!!
お嬢様の身の回りをお世話するのは私だけの役目ですから!
それに……」
「それに?
なによ?」
「お世話しないとお嬢様は裸でうろうろするじゃないですか!」
いつも言われるが改まって言われると軽くショックではある。
「だって部屋にはあたし達しかいないんだからいいじゃない!
それこそミーニャだって裸でいてもいいんだから」
「いくら近い存在でも恥ずかしいことは覚えて欲しいんです。
私はいつだって恥ずかしいですし、人前で裸にはなりません!」
「……ケチ」
「お嬢様っ!!」
と怒鳴ったところでミーニャは目を開いて何か思いを抱いた顔をした。
「全くお嬢様は……。
これ以上は何も言いません。
ただ、生きてさえいてくれたら」
見抜かれた……。
これから魔人王と戦いに行くのだ、死と向き合わせになるのは百も承知。
だからミーニャとは楽しく話していたかった。
「あたしが?
死ぬワケないじゃないの。
ミーニャを置いてなんて死ねないっての。
唯一の家族みたいなもんなんだから」
「……お嬢様!!」
笑顔で言ってのけるとミーニャが急に抱きついてあたしの胸を濡らした。
小さな嗚咽が聞こえる中、そっと髪を撫で流れる雲に思いを馳せると空が滲んで見えてくる。
「だ……ぐすっ、大丈夫よ。
あたしだって簡単には死ねないんだから。
あたしが死んだらミーニャの世話は誰がするのって話でしょ。
あたしがいるからミーニャがいる。
ミーニャがいるからあたしがいるの。
約束するわ、これからもどんなことがあってもミーニャを置いては死なないと」
「ひっ、ひっ……ぐすっ、本当ですね。
絶対の約束です。
……でも……私、お嬢様にお世話されたこと……ないです」
「ふふ、ふふふふ。
ほら、いつものミーニャに戻った。
あたしのお世話はこういうことなのよ、可愛らしいミーニャ--」
顎を持ち上げお互いの目線が合うとあたしは顔を近づけた。
「お、お、お嬢様っ!!
いやですぅー!!」
「あっ!
こら!
待ちなさい、ミーニャっ!!
……ふふ」
ミーニャはあたしを突き放し一目散に船の中へ駆け込んでいく。
その様子に自然と笑みが溢れてしまうが、内心は約束を果たせるのか微妙な気持ちであった。
だが、こんな気持ちは誰にも悟られる訳にはいかない。
それは、あたし自信が許されないから。
軽い吐息と共にまだ見ぬ未来を考え、風の流れに乗った船に身を預けると覚悟を決めた。
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