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第四章 新たなる魔人王

episode 55 魔人王の島へ

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 話し合いから三日。
 準備の整ったあたし達は三隻の船にて魔城を目指している。

「さて、あたしにも作戦とやらを聞かせてくれない?」

 船長室の椅子に座り対面のレディにこれからのことを聞く。

「そうだね。
 アテナにも知って貰わなきゃならないからね」

「この船が上陸班ってことでしょ?
 それ以外のことが全くだからね」

「そう、この船を動かせるだけの人間だけ置いて後は戦いに行くよ。
 その中でもあたいとアテナ、他に腕の立つ十人はあたい達と共に行動する」

「すると、あのテティーアンって女性も一緒なのね」

「そうだよ。
 彼女はあたいらの前に立って貰うよ。
 なんたってアテナの剣が頼りだからね、それとアテナを失う訳にはいかないからさ」

「ちなみに聞くけど、この剣は確かにあたしのだけど、あたしまで行く必要があるのかしら?」

 一応の約束ではあるが、剣技の腕があるわけではないあたしが何の役に立つのかははなはだ疑問ではあった。

「確かにね、剣だけ借りるという話もあったよ。
 危険だと分かっているところに連れて行くのもどうだってね。
 だがさ、打ち倒せない相手だと分かればあたいらで逃がすだけのときを稼ぐことが出来るだろ?
 もし、テティーアンが借りてやられでもしたら剣も魔人王の手に渡ってしまう。
 これだけは避けなければって話にはなったのさ」

「そこで一番身軽なあたしってことね。
 それにあたしなら魔人王も油断するし、致命的な一撃が与えられるだけで良いって話だったんでしょ?」

「そういうこと。
 最終的にはあたいとテティーアンで動きを止めて、アテナが止めを刺すというのが筋書きではあるんだ。
 上手くいくかは分からないがね。
 あたい達の剣技とアテナの俊敏性があればこその作戦ってことさ」

「はっきりしたわ。
 あとはそこまでどうやって辿り着くかの問題よね?」

 そこでレディは机に両肘を付き合わせた手の上に顎を乗せた。

「あぁ。
 問題がそこでね。
 魔人王が甦ったことであの島の魔者は統率され、繁殖力も高まったと思うのさ。
 だとすると、どれだけの数が今あの城に集まってどれだけの防衛力になっているのか検討もつかないんだよ。
 だから集められるだけの人数をかけて総力戦をしようってことになったのさ。
 船の周りにはある程度だけ残して、あとは対応するしかないと思っているよ」

「船はそれで大丈夫なの?」

「それは心配要らないね。
 砲台は積んであるし、海賊船五隻は落とせるだけの力量はあるから大丈夫さ。
 それよりも城までにどれだけ辿り着けるかってとこでね、とにかく生き抜いてくれる人数が多いに越したことはないんだが」

「確かにね、みんなやっと見つけた居場所があるんだから命だけはね。
 ってことは正面突破はムリってことか」

「いや、正面から行くさ。
 最早どこにどれだけの魔者がいるのかも想像つかないからね、それなら遠回りせずに全員で向かうさ。
 但し、あたいらは一番最後に行く。
 アテナにとっては今までにない苦しみを味わうかも知れないが、アテナなら乗り越えられると信じてるからね」

「みんなの犠牲の上に立って生きろってことなのね……」

「そうなるね。
 ただ、彼ら海賊の中にも#神秘術__カムイ__を扱える者もいるらしいから、誰も死なないことを祈ってはいる」

 いくら術士がいようともそれは気休めなことくらいは分かっているし、あたしへの重圧を少しでも和らげるようにレディが配慮してくれたのも分かっていた。

「そうね。
 魔者相手なら有効よね。
 あとは運任せってところ……か」

 と、ここでドアを叩く音が部屋の空気を一変させた。

「来たか……」

「レディ!!
 島が見えましたぜ、上がって来てくだせぇ!」

「行こうか、アテナ」

 あたしの心臓の高鳴りが一段増したが、それを落ち着ける為に一呼吸置いてから立ち上がる。

「ええ、行きましょ。
 覚悟は出来たわ」

 レディはあたしのそばに立つと肩に手を置き大きく頷くと笑顔を見せた。
 でもそれは互いの見せる最後の笑顔になる気がして、あたしは拳をレディに向けるとしたり顔を見せ拳を軽く合わせてくれた。
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