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加護の変質2
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リリアの自室の壁に突然現われた青い光。
その光の中から出てきたのは青いフクロウだった。
あれっ?
これってさっきの・・・・・。
見覚えのある使い魔に少し安堵して、ウィンディは恐る恐る話し掛けてみた。
「ヨギ様・・・・・ですか?」
「うむ。如何にも。」
青いフクロウはそう言うとリリアの方に目を向けた。
リリアは不審感に満ちた目で青いフクロウを睨んでいる。
「リリア。心配要らないわ。この使い魔の召喚主はヨギ様と言って、指輪の形の魔道具を貸してくれた賢者様なのよ。」
そう言った途端にウィンディはハッと声を上げた。
指輪の形の魔道具を壊しちゃったんだわ。
どうしよう・・・・。
床に散在する宝玉の破片。
それをじっと見つめて青いフクロウは口を開いた。
「宝玉が破裂してしまうとは・・・・・。」
「儂は魔道具の異変に気が付いて、慌ててこちらに来たのだよ。それで魔道具の指輪の宝玉が放った色は何だったのだ?」
青いフクロウの言葉にウィンディは神妙な表情で答えた。
「それが・・・・・青から黄色になり赤になって、その後に紫の光を強く放ったかと思うと、突然破裂してしまったのです。」
「紫色だと? これは尋常では無いな。」
青いフクロウはちょこちょこと身体を揺らして歩き、リリアの傍に近付いた。
「君がリリアだね。話は聞いておるが、見た目はごく普通、否、か弱そうにも見える人族の少女だな。」
リリアは無言で頷いた。
「儂は名をヨギと言う。ダークエルフの賢者ではあり、ネクロマンサーでもある。君が壊してしまった宝玉には過去、業火の化身を持って生まれた者達の死霊と関連を持たせ、加護のレベルを測定する術を掛けてあったのだ。」
「だが青、黄、赤以外の色の発光は加護の変質を示唆している。紫色となるとかなり変質度が高い。変質と言うよりはもはや自律進化と言っても良いかも知れないな。」
「少し魔力を確かめさせてもらって良いか?」
青いフクロウの言葉にリリアはハイと答えて両手を前に突き出した。
その両手に羽根を接触させ、青いフクロウは魔力を循環させ始めた。
その途端にリリアの両手が紫色の光を放ち始めた。
「むっ! これは・・・」
青いフクロウはその接触を断とうとして、リリアの手を振り払おうとした。
だがリリアの手が離れない。
リリアの顔を見ると目がうつろで意識が混濁しているようだ。
その状態ながらリリアと青いフクロウの魔力の循環が強くなり、リリアの身体がぶるぶると震え始めた。
リリアの異変に気付いてウィンディがリリアの身体を揺さぶり、声を掛けて覚醒させようと試みた。
「リリア! しっかりして!」
激しく揺さぶる事5分。
ようやくリリアの目が普通に戻り、リリアはハッとして両手を引き込んだ。
「私って・・・どうしたのかしら?」
頭をポンポンと軽く叩くリリア。
その傍で青いフクロウがハアハアと荒い息を吐いている。
「う~ん。焦ったぞ。儂の魔力をかなり吸い上げられてしまった。だが魔力の循環と共に、儂の持つスキルや能力を全て探られたような気がする。」
「何と言って表現したら良いのか。自律進化の為の探求に貪欲な加護と言うべきか・・・・・」
青いフクロウはそう言うと、頭を抱える仕草をした。
賢者様を悩ませちゃったわ。
ウィンディも困惑してフクロウの様子を見つめていた。
その数分前。
リリスの部屋には突然の訪問者がいた。
青いストライプの入った白い鳥。
風の亜神であるレイチェルの使い魔だ。
「どうしたの?」
ユリアス達が帰っていった途端に訪れたレイチェルに、リリスは驚きの声を上げた。
だが白い鳥はリリスをソファに座らせ、その目の前のテーブルにちょこんと降り立った。
「リリアが心配になってここに来たのよ。異変の兆候が感じられたのでね。」
「彼女の加護の件はロキも心配しているのよ。」
相変わらず面倒見の良いレイチェルだ。
それとなくリリスやその周辺の人物の様子を見ているのだろう。
リリスに関しては異世界由来のスキルや加護の暴走歴があるので、監視と言った方が良いのかも知れない。
たまたまその監視範囲がリリアの持つ加護にまで広がったと言う事なのだろうか。
「それでロキから幾つか提案を受けているので、とりあえずリリアの現状を見せて貰って良いかしら?」
「ええ、良いわよ。でもロキ様まで心配しているのね。」
リリスの言葉に白い鳥はうんうんと頷いた。
「ロキは『どうしてリリスの周りには厄介な者達が集まるのだ?』っていつも言っているからね。リリアはその厄介な者達の中でも筆頭じゃないの?」
「それはロキ様の思い過ごしよ。それに私が遠因のような言い方は止めてよね。」
「それはロキに言ってよ。それでリリアは今何処に居るの?」
白い鳥の言葉にリリスはソファから立ち上がった。
「リリアの部屋に案内するわ。私と一緒に来て。」
そう言ってリリスは白い鳥を伴い、階下のリリアの部屋に向かったのだった。
ウィンディとリリアとヨギが話し合う中、突然部屋のドアをトントンと叩く音がした。
誰かと思ってウィンディは玄関に移動し、訪問者の名を尋ねてドアを開いた。
入ってきたのはリリスだった。
その肩にブルーのストライプの入った白い鳥が留まっている。
「リリス先輩。どうしたんですか?」
ウィンディの言葉にリリスは神妙な表情で口を開いた。
「リリアが心配だったので、急いでここに来たのよ。風の女神の使いが心配して駆けつけてくれたのでね。」
そう言いながらリリスは白い鳥を指差した。
白い鳥はウィンディの目をじっと見つめて口を開いた。
「ウィンディ、久しぶりね。シトのダンジョンで会った時以来かしら? 風神の加護は使いこなせるようになったの?」
「あっ、ええ、以前よりは使いこなせていると思います。」
咄嗟に答えたウィンディであるが、内心はその使い魔を風の女神の使いだと聞いても疑問を抱いていた。
だがその声に聞き覚えがあり、自分の持つ加護の事も知っているので間違いなさそうだと判断した。
そのウィンディの傍に青いフクロウが近付いてきた。
「風の女神の使いとは・・・また妙な方が来られたようだな。」
青いフクロウはそう言うと白い鳥を秘密裏に精査してみた。
だがその背後に隠蔽された膨大な魔力の気配を察し、ウッと唸って引き下がってしまった。
「あらっ? 随分探知能力に長けているのね。魔力と気配は充分に隠蔽してあったはずなんだけど。この方はどなた?」
白い鳥の問い掛けにリリスは賢者のヨギだと伝え、ヨギと知り合った経緯を簡略に説明した。
その話にウィンディもリリアも驚きの声を上げた。
「先輩ったら・・・私達の知らないところで世界を救っているんですかね?」
ウィンディの言葉にリリスは大きく首を横に振った。
「そんな大げさな事じゃないわよ。賢者のデルフィ様に頼まれて、少し手助けしただけだから。」
「その少しだけの手助けって言うのが、私達から見ればとんでもないレベルの事なんでしょうね。」
リリアの言葉に青いフクロウもうんうんと強く頷いた。
「リリアの言う通りだよ。儂の身体なんて穴だらけにされてしまったからな。」
「ヨギ様。私を悪者のように言わないでくださいね。元はと言えばヨギ様の構築した禁呪が原因なんですから。」
「だがそのお陰で数百年前の魔族の大攻勢を喰い留めたじゃないか。アンデッド化された竜の部隊が居なかったら、今頃はここも魔族の領地になっているぞ。」
「まあ、それは本心から感謝していますよ。でも・・・・・」
リリスとヨギの愚痴の言い合いに白い鳥はうんざりした様子だ。
両者の間に入って翼を広げて、軽い言い争いを収めさせた。
「ハイハイ、それぐらいにしてこの話は終りね。それでリリアの加護の件なんだけど、ロキの言うには一度限界まで業火の化身を発動させてみろって事なのよ。」
「ヨギ。あなたはダークエルフの出身よね? それに関してあなたはどう思う?」
白い鳥の言葉に青いフクロウはう~んと唸った。
「言われてみれば限界まで発動させた例は無いな。加護の暴走による惨事を最小限に抑える事ばかり考えておったのでなあ。」
「そうよね、普通はそう考えるわよね。でも自律進化を始めた気配がある業火の化身に、リリアの限界を教えておくのも良いのではないかと言う方針なのよ。加護が宿る身体の限界を知って、その制限の元でどのような自律進化の方向性を探るかを考えさせるの。」
白い鳥の言葉に青いフクロウはう~んと唸った。
「加護が人族のスキルや魔力量や能力の限界を把握していないと言う事ですか?」
リリスの問い掛けに白い鳥はうんうんと頷いた。
「そう。元々ダークエルフに極稀に現われる加護だからね。おそらく今、加護自体が色々とジレンマを感じていると思うのよ。それが要因となってリリアの精神状態にも影響を与えているのではないかと。」
白い鳥の言葉に青いフクロウは口を開いた。
「そうだとして、何処でリリアに加護を限界まで発動させるのかと言う事になるのだが・・・・・」
「それなんだけど、ロキは大陸からある程度離れた無人島で試してみたら良いと言うのよ。その無人島の周囲に亜空間シールドを張り詰めて、二次被害を防げば問題ないわ。」
「無人島の周囲に亜空間シールドを張り巡らせると言っても簡単ではないと思うぞ。」
「そんなの私がやるわよ。それでね、その現場となる無人島にも目星をつけてあるのよね。」
白い鳥はそう言うと、翼をふっと横に振った。
その途端にリリス達の目の前に半透明の大きなパネルが出現した。
そのパネルにはリリス達の住む大陸の地図が映し出されていた。
大陸の南東部の端の海上に赤い点が点滅している。
「この赤い点滅の位置に、それなりに大きな無人島があるのよ。陸地からかなり離れていて、その周辺の海流も激しいので、現在は何処の国も領有しようとしていない。激しい海流のお陰で漁師も近付かないから打って付けの場所なのよ。」
「もちろん魔物も沢山棲息しているわ。小型の地竜の群れも相当数居る事が確認されている。リリスの好物のオーガも沢山いるわよ。」
「好物じゃないわよ。好んで倒しているわけじゃないからね。」
リリスの反論に白い鳥はウフフと笑った。
「リリア。今度の休日に連れて行ってあげるわ。そのつもりで居てね。リリスとウィンディも付いて来るのよ。」
「それと、ヨギにも来てもらいたいわね。業火の化身には何かと縁が深そうだから。」
白い鳥の言葉に青いフクロウはうんうんと頷いた。
「儂はこの加護に関しては様々な悲劇を目にしてきた。とても他人事ではないのだよ。リリアには稀有な成功例になってもらいたいのだ。」
フクロウの言葉にリリアはハイと答え、こぶしを強く握り締めていた。
数日後。
レイチェルの案内で、リリス達は大陸南東部の絶海の孤島に来ていた。
レイチェルは使い魔の状態であり、リリスとリリアとウィンディが同行している。
更にその背後に数人の人物が同行していた。
どうして賢者様達が同行しているのよ。
物見遊山じゃないんだからね。
そう思ったのはリリスだけでは無さそうだ。
ヨギの他にユリアス、ラダム、更にデルフィまで同行していた。
「どうしてデルフィ様まで来ているのですか?」
リリスの言葉にデルフィは嬉々とした表情で口を開いた。
「ヨギ殿とはユリアス殿の管理する研究施設で先日出会ったのだが、特殊な加護を持つ人族の娘がいると言うので、最初はリリスの事だと思ったのだ。だが違うと言うので俄然興味を持ったのだよ。」
「それにしても賢者様達がこぞって見学に来るなんて・・・」
「まあ、それだけ知的探求心が旺盛な連中だと思ってくれ。」
う~ん。
そうなのかなあ?
強く疑問を抱きつつ、リリスはレイチェルの指示に従い、海岸から少し内陸部に入った場所に土魔法で監視用の大きなトーチカと、魔物除けの深い塹壕を造り上げた。その周りに亜空間シールドを張り巡らせるのは賢者達の仕事だ。
ちなみにレイチェルはこの孤島の周囲に亜空間シールドを張り巡らせている。
業火の化身による周辺への二次被害を防ぐためだ。
この孤島は大陸からかなり離れている為、魔物も独自な進化をしてきたようだ。
特に目につくのが地竜と呼ばれる小型の爬虫類型の魔物で、遺伝子操作から恐竜が現代に蘇った映画に出てくるラプトルのような魔物である。
体長2mほどの身体は俊敏で、群れを成して狩りをする故、人族や獣人にとっても厄介な魔物だ。
植生はサバンナに近いもので、低木の藪が多く、リリス達の目の前にも草原が広がっていた。
海岸線は50kmほどもあり、リリスの過去の記憶に照らし合わせると伊豆大島ほどの大きさがある。
人族などがその海岸に辿り着いた痕跡はあるものの、彼等の子孫の生命反応は全く無いので、ここでの生活はかなり過酷なのだろう。
現時点で二足歩行の知的生命体は島内に一切探知されない。
これなら燃やしちゃっても大丈夫よね?
魔物には可哀そうだけど。
そんな思いがリリスの胸に過る。
「さあ、リリア。思い切り暴れなさい。」
白い鳥の指示でリリアはトーチカの前に立ち、業火の化身を発動させた。
その途端にリリアの顔つきが変わってきた。
顔の輪郭がシャープになり、目つきが鋭くなっている。
これは業火の化身の疑似人格とリリアの人格が融合している現象だ。
リリアの頭の上に赤い龍が浮かび上がり、その場でぐるぐると回転し始めた。
それと同時にリリアの身体がすっと浮かび上がり、10mほどの高さで停止した。
同時に魔力吸引スキルが発動され、大地や大気から大きく魔力を吸い上げていく。
リリアの身体から大量の触手が周囲に伸び出し、そのすべてが前方に向けられている。
触手の長さは3mほどで、その先端には既に火球が生じていた。
直径30cmほどの小さな火球だが、高温で青白く輝き、その凄まじい炎熱が地上にまで伝わってくる。
その様子を見て、賢者達も驚きの声を上げた。
「ううむ。加護としての完成に向かう進捗率がかなり高そうだ。人族でありながらここまで出来上がってきているとはなあ。」
ヨギの言葉に感嘆の気持ちがこもっている。
「リリア! すべてを焼き払いなさい!」
白い鳥の叫ぶ声に応じて、リリアは前方に向かっている大量の触手を扇型に広げ、大量の青白い火球を一斉に放ったのだった。
その光の中から出てきたのは青いフクロウだった。
あれっ?
これってさっきの・・・・・。
見覚えのある使い魔に少し安堵して、ウィンディは恐る恐る話し掛けてみた。
「ヨギ様・・・・・ですか?」
「うむ。如何にも。」
青いフクロウはそう言うとリリアの方に目を向けた。
リリアは不審感に満ちた目で青いフクロウを睨んでいる。
「リリア。心配要らないわ。この使い魔の召喚主はヨギ様と言って、指輪の形の魔道具を貸してくれた賢者様なのよ。」
そう言った途端にウィンディはハッと声を上げた。
指輪の形の魔道具を壊しちゃったんだわ。
どうしよう・・・・。
床に散在する宝玉の破片。
それをじっと見つめて青いフクロウは口を開いた。
「宝玉が破裂してしまうとは・・・・・。」
「儂は魔道具の異変に気が付いて、慌ててこちらに来たのだよ。それで魔道具の指輪の宝玉が放った色は何だったのだ?」
青いフクロウの言葉にウィンディは神妙な表情で答えた。
「それが・・・・・青から黄色になり赤になって、その後に紫の光を強く放ったかと思うと、突然破裂してしまったのです。」
「紫色だと? これは尋常では無いな。」
青いフクロウはちょこちょこと身体を揺らして歩き、リリアの傍に近付いた。
「君がリリアだね。話は聞いておるが、見た目はごく普通、否、か弱そうにも見える人族の少女だな。」
リリアは無言で頷いた。
「儂は名をヨギと言う。ダークエルフの賢者ではあり、ネクロマンサーでもある。君が壊してしまった宝玉には過去、業火の化身を持って生まれた者達の死霊と関連を持たせ、加護のレベルを測定する術を掛けてあったのだ。」
「だが青、黄、赤以外の色の発光は加護の変質を示唆している。紫色となるとかなり変質度が高い。変質と言うよりはもはや自律進化と言っても良いかも知れないな。」
「少し魔力を確かめさせてもらって良いか?」
青いフクロウの言葉にリリアはハイと答えて両手を前に突き出した。
その両手に羽根を接触させ、青いフクロウは魔力を循環させ始めた。
その途端にリリアの両手が紫色の光を放ち始めた。
「むっ! これは・・・」
青いフクロウはその接触を断とうとして、リリアの手を振り払おうとした。
だがリリアの手が離れない。
リリアの顔を見ると目がうつろで意識が混濁しているようだ。
その状態ながらリリアと青いフクロウの魔力の循環が強くなり、リリアの身体がぶるぶると震え始めた。
リリアの異変に気付いてウィンディがリリアの身体を揺さぶり、声を掛けて覚醒させようと試みた。
「リリア! しっかりして!」
激しく揺さぶる事5分。
ようやくリリアの目が普通に戻り、リリアはハッとして両手を引き込んだ。
「私って・・・どうしたのかしら?」
頭をポンポンと軽く叩くリリア。
その傍で青いフクロウがハアハアと荒い息を吐いている。
「う~ん。焦ったぞ。儂の魔力をかなり吸い上げられてしまった。だが魔力の循環と共に、儂の持つスキルや能力を全て探られたような気がする。」
「何と言って表現したら良いのか。自律進化の為の探求に貪欲な加護と言うべきか・・・・・」
青いフクロウはそう言うと、頭を抱える仕草をした。
賢者様を悩ませちゃったわ。
ウィンディも困惑してフクロウの様子を見つめていた。
その数分前。
リリスの部屋には突然の訪問者がいた。
青いストライプの入った白い鳥。
風の亜神であるレイチェルの使い魔だ。
「どうしたの?」
ユリアス達が帰っていった途端に訪れたレイチェルに、リリスは驚きの声を上げた。
だが白い鳥はリリスをソファに座らせ、その目の前のテーブルにちょこんと降り立った。
「リリアが心配になってここに来たのよ。異変の兆候が感じられたのでね。」
「彼女の加護の件はロキも心配しているのよ。」
相変わらず面倒見の良いレイチェルだ。
それとなくリリスやその周辺の人物の様子を見ているのだろう。
リリスに関しては異世界由来のスキルや加護の暴走歴があるので、監視と言った方が良いのかも知れない。
たまたまその監視範囲がリリアの持つ加護にまで広がったと言う事なのだろうか。
「それでロキから幾つか提案を受けているので、とりあえずリリアの現状を見せて貰って良いかしら?」
「ええ、良いわよ。でもロキ様まで心配しているのね。」
リリスの言葉に白い鳥はうんうんと頷いた。
「ロキは『どうしてリリスの周りには厄介な者達が集まるのだ?』っていつも言っているからね。リリアはその厄介な者達の中でも筆頭じゃないの?」
「それはロキ様の思い過ごしよ。それに私が遠因のような言い方は止めてよね。」
「それはロキに言ってよ。それでリリアは今何処に居るの?」
白い鳥の言葉にリリスはソファから立ち上がった。
「リリアの部屋に案内するわ。私と一緒に来て。」
そう言ってリリスは白い鳥を伴い、階下のリリアの部屋に向かったのだった。
ウィンディとリリアとヨギが話し合う中、突然部屋のドアをトントンと叩く音がした。
誰かと思ってウィンディは玄関に移動し、訪問者の名を尋ねてドアを開いた。
入ってきたのはリリスだった。
その肩にブルーのストライプの入った白い鳥が留まっている。
「リリス先輩。どうしたんですか?」
ウィンディの言葉にリリスは神妙な表情で口を開いた。
「リリアが心配だったので、急いでここに来たのよ。風の女神の使いが心配して駆けつけてくれたのでね。」
そう言いながらリリスは白い鳥を指差した。
白い鳥はウィンディの目をじっと見つめて口を開いた。
「ウィンディ、久しぶりね。シトのダンジョンで会った時以来かしら? 風神の加護は使いこなせるようになったの?」
「あっ、ええ、以前よりは使いこなせていると思います。」
咄嗟に答えたウィンディであるが、内心はその使い魔を風の女神の使いだと聞いても疑問を抱いていた。
だがその声に聞き覚えがあり、自分の持つ加護の事も知っているので間違いなさそうだと判断した。
そのウィンディの傍に青いフクロウが近付いてきた。
「風の女神の使いとは・・・また妙な方が来られたようだな。」
青いフクロウはそう言うと白い鳥を秘密裏に精査してみた。
だがその背後に隠蔽された膨大な魔力の気配を察し、ウッと唸って引き下がってしまった。
「あらっ? 随分探知能力に長けているのね。魔力と気配は充分に隠蔽してあったはずなんだけど。この方はどなた?」
白い鳥の問い掛けにリリスは賢者のヨギだと伝え、ヨギと知り合った経緯を簡略に説明した。
その話にウィンディもリリアも驚きの声を上げた。
「先輩ったら・・・私達の知らないところで世界を救っているんですかね?」
ウィンディの言葉にリリスは大きく首を横に振った。
「そんな大げさな事じゃないわよ。賢者のデルフィ様に頼まれて、少し手助けしただけだから。」
「その少しだけの手助けって言うのが、私達から見ればとんでもないレベルの事なんでしょうね。」
リリアの言葉に青いフクロウもうんうんと強く頷いた。
「リリアの言う通りだよ。儂の身体なんて穴だらけにされてしまったからな。」
「ヨギ様。私を悪者のように言わないでくださいね。元はと言えばヨギ様の構築した禁呪が原因なんですから。」
「だがそのお陰で数百年前の魔族の大攻勢を喰い留めたじゃないか。アンデッド化された竜の部隊が居なかったら、今頃はここも魔族の領地になっているぞ。」
「まあ、それは本心から感謝していますよ。でも・・・・・」
リリスとヨギの愚痴の言い合いに白い鳥はうんざりした様子だ。
両者の間に入って翼を広げて、軽い言い争いを収めさせた。
「ハイハイ、それぐらいにしてこの話は終りね。それでリリアの加護の件なんだけど、ロキの言うには一度限界まで業火の化身を発動させてみろって事なのよ。」
「ヨギ。あなたはダークエルフの出身よね? それに関してあなたはどう思う?」
白い鳥の言葉に青いフクロウはう~んと唸った。
「言われてみれば限界まで発動させた例は無いな。加護の暴走による惨事を最小限に抑える事ばかり考えておったのでなあ。」
「そうよね、普通はそう考えるわよね。でも自律進化を始めた気配がある業火の化身に、リリアの限界を教えておくのも良いのではないかと言う方針なのよ。加護が宿る身体の限界を知って、その制限の元でどのような自律進化の方向性を探るかを考えさせるの。」
白い鳥の言葉に青いフクロウはう~んと唸った。
「加護が人族のスキルや魔力量や能力の限界を把握していないと言う事ですか?」
リリスの問い掛けに白い鳥はうんうんと頷いた。
「そう。元々ダークエルフに極稀に現われる加護だからね。おそらく今、加護自体が色々とジレンマを感じていると思うのよ。それが要因となってリリアの精神状態にも影響を与えているのではないかと。」
白い鳥の言葉に青いフクロウは口を開いた。
「そうだとして、何処でリリアに加護を限界まで発動させるのかと言う事になるのだが・・・・・」
「それなんだけど、ロキは大陸からある程度離れた無人島で試してみたら良いと言うのよ。その無人島の周囲に亜空間シールドを張り詰めて、二次被害を防げば問題ないわ。」
「無人島の周囲に亜空間シールドを張り巡らせると言っても簡単ではないと思うぞ。」
「そんなの私がやるわよ。それでね、その現場となる無人島にも目星をつけてあるのよね。」
白い鳥はそう言うと、翼をふっと横に振った。
その途端にリリス達の目の前に半透明の大きなパネルが出現した。
そのパネルにはリリス達の住む大陸の地図が映し出されていた。
大陸の南東部の端の海上に赤い点が点滅している。
「この赤い点滅の位置に、それなりに大きな無人島があるのよ。陸地からかなり離れていて、その周辺の海流も激しいので、現在は何処の国も領有しようとしていない。激しい海流のお陰で漁師も近付かないから打って付けの場所なのよ。」
「もちろん魔物も沢山棲息しているわ。小型の地竜の群れも相当数居る事が確認されている。リリスの好物のオーガも沢山いるわよ。」
「好物じゃないわよ。好んで倒しているわけじゃないからね。」
リリスの反論に白い鳥はウフフと笑った。
「リリア。今度の休日に連れて行ってあげるわ。そのつもりで居てね。リリスとウィンディも付いて来るのよ。」
「それと、ヨギにも来てもらいたいわね。業火の化身には何かと縁が深そうだから。」
白い鳥の言葉に青いフクロウはうんうんと頷いた。
「儂はこの加護に関しては様々な悲劇を目にしてきた。とても他人事ではないのだよ。リリアには稀有な成功例になってもらいたいのだ。」
フクロウの言葉にリリアはハイと答え、こぶしを強く握り締めていた。
数日後。
レイチェルの案内で、リリス達は大陸南東部の絶海の孤島に来ていた。
レイチェルは使い魔の状態であり、リリスとリリアとウィンディが同行している。
更にその背後に数人の人物が同行していた。
どうして賢者様達が同行しているのよ。
物見遊山じゃないんだからね。
そう思ったのはリリスだけでは無さそうだ。
ヨギの他にユリアス、ラダム、更にデルフィまで同行していた。
「どうしてデルフィ様まで来ているのですか?」
リリスの言葉にデルフィは嬉々とした表情で口を開いた。
「ヨギ殿とはユリアス殿の管理する研究施設で先日出会ったのだが、特殊な加護を持つ人族の娘がいると言うので、最初はリリスの事だと思ったのだ。だが違うと言うので俄然興味を持ったのだよ。」
「それにしても賢者様達がこぞって見学に来るなんて・・・」
「まあ、それだけ知的探求心が旺盛な連中だと思ってくれ。」
う~ん。
そうなのかなあ?
強く疑問を抱きつつ、リリスはレイチェルの指示に従い、海岸から少し内陸部に入った場所に土魔法で監視用の大きなトーチカと、魔物除けの深い塹壕を造り上げた。その周りに亜空間シールドを張り巡らせるのは賢者達の仕事だ。
ちなみにレイチェルはこの孤島の周囲に亜空間シールドを張り巡らせている。
業火の化身による周辺への二次被害を防ぐためだ。
この孤島は大陸からかなり離れている為、魔物も独自な進化をしてきたようだ。
特に目につくのが地竜と呼ばれる小型の爬虫類型の魔物で、遺伝子操作から恐竜が現代に蘇った映画に出てくるラプトルのような魔物である。
体長2mほどの身体は俊敏で、群れを成して狩りをする故、人族や獣人にとっても厄介な魔物だ。
植生はサバンナに近いもので、低木の藪が多く、リリス達の目の前にも草原が広がっていた。
海岸線は50kmほどもあり、リリスの過去の記憶に照らし合わせると伊豆大島ほどの大きさがある。
人族などがその海岸に辿り着いた痕跡はあるものの、彼等の子孫の生命反応は全く無いので、ここでの生活はかなり過酷なのだろう。
現時点で二足歩行の知的生命体は島内に一切探知されない。
これなら燃やしちゃっても大丈夫よね?
魔物には可哀そうだけど。
そんな思いがリリスの胸に過る。
「さあ、リリア。思い切り暴れなさい。」
白い鳥の指示でリリアはトーチカの前に立ち、業火の化身を発動させた。
その途端にリリアの顔つきが変わってきた。
顔の輪郭がシャープになり、目つきが鋭くなっている。
これは業火の化身の疑似人格とリリアの人格が融合している現象だ。
リリアの頭の上に赤い龍が浮かび上がり、その場でぐるぐると回転し始めた。
それと同時にリリアの身体がすっと浮かび上がり、10mほどの高さで停止した。
同時に魔力吸引スキルが発動され、大地や大気から大きく魔力を吸い上げていく。
リリアの身体から大量の触手が周囲に伸び出し、そのすべてが前方に向けられている。
触手の長さは3mほどで、その先端には既に火球が生じていた。
直径30cmほどの小さな火球だが、高温で青白く輝き、その凄まじい炎熱が地上にまで伝わってくる。
その様子を見て、賢者達も驚きの声を上げた。
「ううむ。加護としての完成に向かう進捗率がかなり高そうだ。人族でありながらここまで出来上がってきているとはなあ。」
ヨギの言葉に感嘆の気持ちがこもっている。
「リリア! すべてを焼き払いなさい!」
白い鳥の叫ぶ声に応じて、リリアは前方に向かっている大量の触手を扇型に広げ、大量の青白い火球を一斉に放ったのだった。
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記憶も曖昧なまま、絶望の淵に立たされた弓束。しかし、彼女が唯一失っていなかったもの――それは、現代日本で培った高度な医療知識と技術だった。
偶然出会った獣人冒険者の重度の骨折を、その知識で的確に応急処置したことで、弓束の運命は大きく動き出す。
彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。
「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」
強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。
「菌?感染症?何の話だ?」
滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級!
しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。
規格外の弟子と、人外の師匠。
二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。
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