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フィールドワーク1
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魔法学院の敷地は広大で、敷地内には自然そのままの森林公園や古代人の遺跡などもある。
その遺跡に出向いているのはリリス達で、新入生のフィールドワークが行われていた。今回のフィールドワークの担当教師は古代の文化に詳しいエリス先生で、リリス達には高度な魔法の術式などを授業で教えている。
この知的な風貌の若い女性教師の先導でリリス達は、広大な公園の敷地の一角にある古代の遺跡に足を踏み入れた。
木の柵で囲われた約200m四方の区画に、発掘された畑の跡と大きな石組みの祠がありその中には洞窟があると言う。
祠の前でエリス先生が説明を始めた。
「ここで発掘されたのは2万年前のレミア族の住居と畑の跡です。彼等は国を持つほどの勢力は無く、この一帯に城塞都市を創って暮らしていた事が分かっています。その人口はおよそ2000人で、特徴としては黒目で黒髪の比較的小柄な人族だったようです。」
「遺跡には高熱で焼き尽くされたような痕跡もあるので、戦乱で滅び去ったのだと言われています。」
「レミア族は土魔法に長けた部族でしたが、他の属性魔法はあまり得意ではなく生活魔法程度だったようです。」
エリス先生の説明にリリスは興味を持った。
何となく親近感があるわね。
コピースキルに目覚める前の自分の姿に重ねてみたのだろう。だがリリス以外の生徒達はほとんど関心を寄せていなかった。
ほとんどの生徒達はフィールドワークをハイキングやピクニックだと思っているようだ。
それは引率のエリス先生も同じで、それほどに目を引くような発掘物が無いので、暫く見学して終わるだけの行事であった。
土魔法で耕していたと思われる畑の跡を見て、その後に祠の中を見学してこの日のフィールドワークは終了となる。
祠の中に入ると意外にも広い空間がそこにはあった。
20人の生徒が中に入っても広々としている。その中央に地下に続く階段があり、その先には10m四方で天井の高さ5mの石造りの部屋があった。
「ここは権力者の墓所だと思われます。でも遺物や人骨などは発掘されていません。おそらく盗掘されてしまったのでしょうね。」
その説明にうんうんとうなづきながら、ほとんどの生徒達は周囲を一瞥した後、退屈そうに地上へと向かった。
だがリリスにはここが墓所だとは思えなかった。
最後までその部屋の中に残り、壁にある小さな突起物を触っていた。
「それは単なる装飾だと思うわよ。」
エリス先生の言葉にそうですかと答えつつも、リリスはその突起物に執着していた。その突起物が自分の魔力に反応していたからだ。
何だろう?
何かを訴えかけるような魔力を感じる。
そう思ってその突起物に魔力を流してみた途端に、ふっと周囲の風景が変わった。
白い壁で覆われた美術館のような建物の中にリリスは立っていた。
ええっ!
ここは何処なの?
驚くリリスの目の前に、黄色い浴衣のような衣服を纏った女性が近付いてきた。だがその表情が読み取れない。まるで人形のような表情だ。
「民俗資料館及び青少年研修センターにようこそ。」
その声は機械的で、合成されたような声質だ。
これってもしかしてホムンクルスなの?
ホムンクルスはリリスにとっては前世界で読んだラノベでの知識だ。この世界ではホムンクルスの存在を確認していない。その概念すら存在していないと思われる。
目の前に立つのがホムンクルスだとすれば、これはすでに失われてしまった過去の技術なのかも知れない。
戸惑っているリリスの様子を見て、その女性は首を傾げた。何かを考えるような仕草をすると、
「責任者を呼びますので、少しお待ちください。」
そう言って奥の方に消え去って行った。
それと入れ違いにこちらに向かって人影が近付いてきた。だがその輪郭がぼやけている。よく見るとホログラムのようだ。
白髪の老人でその衣服はやはり黄色い浴衣のようなデザインだが、ホログラムなので全体が透けている。
「これは珍しいお客さんだ。数百年ぶりの訪問客だな。その様子だと迷い込んだようだね。どうやら転移装置が誤作動したようだ。」
ホログラムから低い声が聞こえてきた。
「ここは何処ですか?」
リリスの問い掛けに老人はあごひげを撫でた。
「先程のホムンクルスが言っていたように、ここは我等レミア族の民俗資料館であり、青少年研修センターだよ。もっとも公の予算が出ていないので、あくまでも儂の私的な建造物だ。儂の研究施設の一角に併設してあるのだからな。」
「あなたは誰・・・」
「儂の名はドルネアと言う。レミア族の中では賢者と呼ばれておったよ。お嬢ちゃんの名は?」
「リリスです。」
「ふむ。お嬢ちゃんはおそらく魔力の波長やその構成が我等レミア族に近似していたのだろう。それで我が同族と勘違いして転移させてしまったようだ。リリス、君の主属性は土魔法かね?」
「ええ、そうです。生まれた時には土魔法しか備わっていませんでしたからね。」
「うむ、やはりな。レミア族も土魔法のみを持って生まれてくる。その成長過程で他属性の魔法を取得する者も稀に存在しておった。そのような者は我等にとってはエリートになるのが常だがね。」
「賢者様は実在の方で?」
「いやいや。それならホログラムで出てこないよ。このホログラムは儂の人格に近似させた人工知能の産物だ。賢者ドルネアはすでにこの世にはおらん。わが民族が2万年前に滅びてしまったからだ。」
リリスはエリス先生の言葉を思い出した。
「それは戦乱だったの?」
「いや、違うよ。凶悪な亜神によって地表が業火で全て焼き尽くされてしまったのだ。跡形も無くなるほどに・・・」
それってカサンドラ=エル=シヴァの事じゃないの?
タミアが聞いたらどう思うかしら?
あの様子だと反省は・・・しないでしょうね。
むしろ焼き残してしまったと思って出向いてくるかも。
でもそこまではしないでしょうね。
リリスは妄想を打ち切り話題を変えた。
「ここはレミア族の資料が保管されているのね。」
「そうだよ。」
そう言ってホログラムが後ろに振り返った。
「大多数のレミア族は土魔法しか持ち合わせていない。そんな同族に自信と誇りを持たせるためにここを設置したのだ。せっかくだから、君にも見せてあげるよ。膨大な資料の一部だけだけどね。」
ホログラムがパチンと指を鳴らすと、その背後に大きなパネルが浮かび上がった。どうやらモニターのようだ。
そこには土魔法で畑を耕すレミア族の様子が映し出された。
「初期の城塞都市はこのような様子だ。」
モニターには厚さ1mほどの城壁で囲まれた都市が現れた。その内部の住居は土の壁に木の板や植物の茎で屋根を葺いた粗末なものだ。
「次に、城塞都市の最盛期の様子がこれだ。土魔法に特化した教育の成果だよ。」
そこに映し出された映像を見てリリスは驚いた。
城壁は高さ10m厚さ5mもあり、それが延々と続いている。どれだけの範囲を囲っているのか想像もつかない。その内部の住居も完全に様変わりしていた。硬化処置を施された壁で構築されたビル群。さすがに高層のビルは無いが、5階~7階建てのビルが林立している。その窓辺は木材や布で装飾され、硬化された壁自体も様々なデザインが施されている。その壁の色も白いものや黒っぽいものだけでなく、原色に近い色合いのものまで存在している上に、出窓やテラスまで用意されていた。
まるで高層ビルが立ち並ぶ前の都心じゃないの。
「住民の全てが土魔法に長けている。それ故に公共施設だろうが私有の建物だろうが、傷みがあれば何時でも誰でも、気が付いた者が補修出来るのだよ。そうやってこの都市は長年メンテナンスされてきたのだ。」
土魔法の可能性を改めて目にしたリリスに、ホログラムは別のモニターを用意した。
「この時代は魔物の大量発生が時々あった。次に見せるのはその処置についての映像だ。」
モニターには野山から城塞都市に向かう大量のゴブリンが映し出された。それに対峙するように城壁の上に10人ほどの兵士が立ち並ぶ。その兵士達は一斉に両手を前に突き出し、呪文を唱え始めた。それと同時に城壁の前方の空中に10個ほどの魔方陣が出現して光り出すと、ゴゴゴゴゴッと言う地鳴りと共に
大地に大きな穴が開き、その中にゴブリン達が落ちていく。それと同時にその穴の周囲に高い土壁が現れたかと思うと、その穴を塞ぐように倒壊していく。更にその上から加圧が掛けられ、かぶさった土の至る所から埋められたゴブリンの血しぶきが噴出した。
リリスはうっと呻いて直視できなかった。
魔物退治とは言え、こんな事をするのね。
それが城壁の外側のあちらこちらで幾度となく繰り返されていく。
血煙の漂う異様な光景だ。
だが、ホログラムの説明はまだ終わらない。
「この程度の数の小型の魔物ならこの方法でも退治出来る。だが大型の魔物が大量に発生するとこの程度の魔法では追い付かない。次に見せるのは究極の方法だよ。」
その言葉と共にモニターに映し出されたのは、トロールやオーガ、地竜等の群れで、その最後尾には巨大なベヒモスまで見えている。大地を埋め尽くすほどの数で、土煙をあげながら城塞都市に向かってきた。
それに対して城壁の上に対峙するのは20人ほどの兵士だ。だがその城壁の背後に数百人の住民が集まり、その魔力を兵士達に送り続けているのが分かる。魔力の補充と増幅の為だろう。兵士達の身体が纏う膨大な魔力の影響で、兵士達の身体全体が激しく光り始めた。
兵士達が両手を前に突き出して呪文を唱えると、城壁の前方の空一面に無数の魔方陣が出現した。その魔方陣から地表に向かって魔力の波動が伝わると、地表が揺れ始め、無数の亀裂が発生した。更にその亀裂から徐々に赤い火が噴出してくる。
あれは・・・真っ赤に焼けた溶岩だ。
その熱気が強烈に地表に吹き荒れ、見る見るうちに溶岩で埋め尽くされていく。
魔物たちはその中に飲み込まれて瞬時に焼き尽くされていった。広範囲に広がった溶岩の海から逃れられるすべもない。
沸き立つ溶岩があちらこちらで地表から噴出し、その熱気でもはや視界が効かない程だ。
阿鼻叫喚の溶岩の海。
それがモニター一面に映し出されていた。
ここまでやるのね。
唖然とするリリスにホログラムが語り掛けた。
「土魔法だって極めれば強力な武器になるのだよ。」
あらっ!
こんなところでその言葉を聞くなんて思いもよらなかったわ。
健気に土魔法だけで訓練していた頃を思い出して、リリスは改めて土魔法の可能性を感じていた。
その遺跡に出向いているのはリリス達で、新入生のフィールドワークが行われていた。今回のフィールドワークの担当教師は古代の文化に詳しいエリス先生で、リリス達には高度な魔法の術式などを授業で教えている。
この知的な風貌の若い女性教師の先導でリリス達は、広大な公園の敷地の一角にある古代の遺跡に足を踏み入れた。
木の柵で囲われた約200m四方の区画に、発掘された畑の跡と大きな石組みの祠がありその中には洞窟があると言う。
祠の前でエリス先生が説明を始めた。
「ここで発掘されたのは2万年前のレミア族の住居と畑の跡です。彼等は国を持つほどの勢力は無く、この一帯に城塞都市を創って暮らしていた事が分かっています。その人口はおよそ2000人で、特徴としては黒目で黒髪の比較的小柄な人族だったようです。」
「遺跡には高熱で焼き尽くされたような痕跡もあるので、戦乱で滅び去ったのだと言われています。」
「レミア族は土魔法に長けた部族でしたが、他の属性魔法はあまり得意ではなく生活魔法程度だったようです。」
エリス先生の説明にリリスは興味を持った。
何となく親近感があるわね。
コピースキルに目覚める前の自分の姿に重ねてみたのだろう。だがリリス以外の生徒達はほとんど関心を寄せていなかった。
ほとんどの生徒達はフィールドワークをハイキングやピクニックだと思っているようだ。
それは引率のエリス先生も同じで、それほどに目を引くような発掘物が無いので、暫く見学して終わるだけの行事であった。
土魔法で耕していたと思われる畑の跡を見て、その後に祠の中を見学してこの日のフィールドワークは終了となる。
祠の中に入ると意外にも広い空間がそこにはあった。
20人の生徒が中に入っても広々としている。その中央に地下に続く階段があり、その先には10m四方で天井の高さ5mの石造りの部屋があった。
「ここは権力者の墓所だと思われます。でも遺物や人骨などは発掘されていません。おそらく盗掘されてしまったのでしょうね。」
その説明にうんうんとうなづきながら、ほとんどの生徒達は周囲を一瞥した後、退屈そうに地上へと向かった。
だがリリスにはここが墓所だとは思えなかった。
最後までその部屋の中に残り、壁にある小さな突起物を触っていた。
「それは単なる装飾だと思うわよ。」
エリス先生の言葉にそうですかと答えつつも、リリスはその突起物に執着していた。その突起物が自分の魔力に反応していたからだ。
何だろう?
何かを訴えかけるような魔力を感じる。
そう思ってその突起物に魔力を流してみた途端に、ふっと周囲の風景が変わった。
白い壁で覆われた美術館のような建物の中にリリスは立っていた。
ええっ!
ここは何処なの?
驚くリリスの目の前に、黄色い浴衣のような衣服を纏った女性が近付いてきた。だがその表情が読み取れない。まるで人形のような表情だ。
「民俗資料館及び青少年研修センターにようこそ。」
その声は機械的で、合成されたような声質だ。
これってもしかしてホムンクルスなの?
ホムンクルスはリリスにとっては前世界で読んだラノベでの知識だ。この世界ではホムンクルスの存在を確認していない。その概念すら存在していないと思われる。
目の前に立つのがホムンクルスだとすれば、これはすでに失われてしまった過去の技術なのかも知れない。
戸惑っているリリスの様子を見て、その女性は首を傾げた。何かを考えるような仕草をすると、
「責任者を呼びますので、少しお待ちください。」
そう言って奥の方に消え去って行った。
それと入れ違いにこちらに向かって人影が近付いてきた。だがその輪郭がぼやけている。よく見るとホログラムのようだ。
白髪の老人でその衣服はやはり黄色い浴衣のようなデザインだが、ホログラムなので全体が透けている。
「これは珍しいお客さんだ。数百年ぶりの訪問客だな。その様子だと迷い込んだようだね。どうやら転移装置が誤作動したようだ。」
ホログラムから低い声が聞こえてきた。
「ここは何処ですか?」
リリスの問い掛けに老人はあごひげを撫でた。
「先程のホムンクルスが言っていたように、ここは我等レミア族の民俗資料館であり、青少年研修センターだよ。もっとも公の予算が出ていないので、あくまでも儂の私的な建造物だ。儂の研究施設の一角に併設してあるのだからな。」
「あなたは誰・・・」
「儂の名はドルネアと言う。レミア族の中では賢者と呼ばれておったよ。お嬢ちゃんの名は?」
「リリスです。」
「ふむ。お嬢ちゃんはおそらく魔力の波長やその構成が我等レミア族に近似していたのだろう。それで我が同族と勘違いして転移させてしまったようだ。リリス、君の主属性は土魔法かね?」
「ええ、そうです。生まれた時には土魔法しか備わっていませんでしたからね。」
「うむ、やはりな。レミア族も土魔法のみを持って生まれてくる。その成長過程で他属性の魔法を取得する者も稀に存在しておった。そのような者は我等にとってはエリートになるのが常だがね。」
「賢者様は実在の方で?」
「いやいや。それならホログラムで出てこないよ。このホログラムは儂の人格に近似させた人工知能の産物だ。賢者ドルネアはすでにこの世にはおらん。わが民族が2万年前に滅びてしまったからだ。」
リリスはエリス先生の言葉を思い出した。
「それは戦乱だったの?」
「いや、違うよ。凶悪な亜神によって地表が業火で全て焼き尽くされてしまったのだ。跡形も無くなるほどに・・・」
それってカサンドラ=エル=シヴァの事じゃないの?
タミアが聞いたらどう思うかしら?
あの様子だと反省は・・・しないでしょうね。
むしろ焼き残してしまったと思って出向いてくるかも。
でもそこまではしないでしょうね。
リリスは妄想を打ち切り話題を変えた。
「ここはレミア族の資料が保管されているのね。」
「そうだよ。」
そう言ってホログラムが後ろに振り返った。
「大多数のレミア族は土魔法しか持ち合わせていない。そんな同族に自信と誇りを持たせるためにここを設置したのだ。せっかくだから、君にも見せてあげるよ。膨大な資料の一部だけだけどね。」
ホログラムがパチンと指を鳴らすと、その背後に大きなパネルが浮かび上がった。どうやらモニターのようだ。
そこには土魔法で畑を耕すレミア族の様子が映し出された。
「初期の城塞都市はこのような様子だ。」
モニターには厚さ1mほどの城壁で囲まれた都市が現れた。その内部の住居は土の壁に木の板や植物の茎で屋根を葺いた粗末なものだ。
「次に、城塞都市の最盛期の様子がこれだ。土魔法に特化した教育の成果だよ。」
そこに映し出された映像を見てリリスは驚いた。
城壁は高さ10m厚さ5mもあり、それが延々と続いている。どれだけの範囲を囲っているのか想像もつかない。その内部の住居も完全に様変わりしていた。硬化処置を施された壁で構築されたビル群。さすがに高層のビルは無いが、5階~7階建てのビルが林立している。その窓辺は木材や布で装飾され、硬化された壁自体も様々なデザインが施されている。その壁の色も白いものや黒っぽいものだけでなく、原色に近い色合いのものまで存在している上に、出窓やテラスまで用意されていた。
まるで高層ビルが立ち並ぶ前の都心じゃないの。
「住民の全てが土魔法に長けている。それ故に公共施設だろうが私有の建物だろうが、傷みがあれば何時でも誰でも、気が付いた者が補修出来るのだよ。そうやってこの都市は長年メンテナンスされてきたのだ。」
土魔法の可能性を改めて目にしたリリスに、ホログラムは別のモニターを用意した。
「この時代は魔物の大量発生が時々あった。次に見せるのはその処置についての映像だ。」
モニターには野山から城塞都市に向かう大量のゴブリンが映し出された。それに対峙するように城壁の上に10人ほどの兵士が立ち並ぶ。その兵士達は一斉に両手を前に突き出し、呪文を唱え始めた。それと同時に城壁の前方の空中に10個ほどの魔方陣が出現して光り出すと、ゴゴゴゴゴッと言う地鳴りと共に
大地に大きな穴が開き、その中にゴブリン達が落ちていく。それと同時にその穴の周囲に高い土壁が現れたかと思うと、その穴を塞ぐように倒壊していく。更にその上から加圧が掛けられ、かぶさった土の至る所から埋められたゴブリンの血しぶきが噴出した。
リリスはうっと呻いて直視できなかった。
魔物退治とは言え、こんな事をするのね。
それが城壁の外側のあちらこちらで幾度となく繰り返されていく。
血煙の漂う異様な光景だ。
だが、ホログラムの説明はまだ終わらない。
「この程度の数の小型の魔物ならこの方法でも退治出来る。だが大型の魔物が大量に発生するとこの程度の魔法では追い付かない。次に見せるのは究極の方法だよ。」
その言葉と共にモニターに映し出されたのは、トロールやオーガ、地竜等の群れで、その最後尾には巨大なベヒモスまで見えている。大地を埋め尽くすほどの数で、土煙をあげながら城塞都市に向かってきた。
それに対して城壁の上に対峙するのは20人ほどの兵士だ。だがその城壁の背後に数百人の住民が集まり、その魔力を兵士達に送り続けているのが分かる。魔力の補充と増幅の為だろう。兵士達の身体が纏う膨大な魔力の影響で、兵士達の身体全体が激しく光り始めた。
兵士達が両手を前に突き出して呪文を唱えると、城壁の前方の空一面に無数の魔方陣が出現した。その魔方陣から地表に向かって魔力の波動が伝わると、地表が揺れ始め、無数の亀裂が発生した。更にその亀裂から徐々に赤い火が噴出してくる。
あれは・・・真っ赤に焼けた溶岩だ。
その熱気が強烈に地表に吹き荒れ、見る見るうちに溶岩で埋め尽くされていく。
魔物たちはその中に飲み込まれて瞬時に焼き尽くされていった。広範囲に広がった溶岩の海から逃れられるすべもない。
沸き立つ溶岩があちらこちらで地表から噴出し、その熱気でもはや視界が効かない程だ。
阿鼻叫喚の溶岩の海。
それがモニター一面に映し出されていた。
ここまでやるのね。
唖然とするリリスにホログラムが語り掛けた。
「土魔法だって極めれば強力な武器になるのだよ。」
あらっ!
こんなところでその言葉を聞くなんて思いもよらなかったわ。
健気に土魔法だけで訓練していた頃を思い出して、リリスは改めて土魔法の可能性を感じていた。
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