落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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フィールドワーク2

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古代の遺跡から転移させられた不思議な空間。

その中で見せられたレミア族の映像が終わり、ホログラムの傍に何時の間にかあのホムンクルスが立っていた。

「リリス。ここを訪れた記念にこれをあげよう。」

そう言ってホムンクルスに指示を出し、リリスの手元に小さな魔石が手渡された。

これって普通の魔石じゃないわね。
もしかして人工の魔石かしら?

それだってこの世界ではすでに失われた技術じゃないの?

「その魔石には今映像で見せた溶岩流の構築イメージと魔方陣の術式が、魔力の形に変換されて保存されている。そのイメージを読み取って参考にし、是非溶岩流にトライしてみてくれ。勿論、そのイメージを読み取ったからと言ってすぐに実現出来るものではない。それなりに到達しなければならないレベルがあるからね。だがイメージを構築しておくのはその近道だ。」

「溶岩流は土魔法と火魔法の連携によって生み出される高度な魔法だ。君は火魔法も持っているね。それなら発動は可能だから、何処かでやってみれば良い。今の君のレベルでどの程度実現出来るか分かるはずだ。」

「かつて、ここを訪れたレミア族の青少年達にもこれを手渡して、訓練の励みにするようにしていたのだよ。」

ふ~ん。
面白いわね。
やる気になってきたわ。

リリスは受け取った魔石を大事そうにポケットにしまい込んだ。

「さあ、リリス。君を元の場所に戻してあげよう。時間軸を多少弄ってタイムラグの無いようにしてあげるから、君自身が戸惑わないようにね。」

そう言ってホログラムがパチンと指を鳴らすと、瞬時にリリスの視界が変わり、あの何もない空間に立っていた。他の生徒達はすでに階段で地上に戻り、その階段の奥からリリスを呼ぶエリス先生の声が聞こえてきた。

「リリスさん。まだそこに居るの? 学舎に戻るわよ。」

は~いと返事をしてリリスは階段を上がった。
今のは夢だったのだろうか?
そう思ってポケットに手を入れると、小さな魔石がそこにはあった。

夢ではなかったようだ。

それでもまだ足が地に着かない。ふらふらとした足取りでリリスはエリス先生とクラスメート達の傍に戻っていった。




その日の夜、リリスは夕食の後、女子寮の中庭に向かっていた。
表向きは食後に外の空気を吸いたいと言う事にしているが、その本音は昼間受け取った魔石の中身の確認と、それに自分がどの程度対応出来るかを確かめたかったからだ。

大きな樹木の周りに白いベンチが数個配置された中庭の片隅で、リリスはそのベンチの一つに腰掛け、魔石を両手で握りしめて魔力を流した。魔力が魔石から還流してリリスの脳内にその情報が入ってくる。それはかなり複雑な溶岩流の構築イメージと魔方陣の術式だ。それと共に脳内に浮かび上がった情報にリリスは驚きを隠せなかった。
最低でもレベル20の火魔法とレベル50の土魔法が要求されていたからだ。

レベル20の火魔法なら、研鑽を積めばいつかは到達出来るだろう。だがレベル50の土魔法なんてリリスには想像すら及ばない。どれだけの訓練を積めば良いのだろうか。

それでも取り組んでみる価値はある。

リリスはそう思ってすくっと立ち上がり、その場で手を前にかざして魔力を集中させた。
魔石から取り込んだ魔方陣の術式を思い浮かべ魔力を強く流すと、目の前に直径が1mほどの魔方陣が出現した。さらに火魔法と土魔法を連動させつつ、溶岩流の構築イメージを強く念じて魔方陣に魔力を大きく流した。

魔方陣がカッと光り地上に魔力の波動を放っているのが分かる。魔方陣の下の地表がゴゴゴッと音を立てて揺れ動き、小さな亀裂が幾つも出現した。その亀裂から噴出されてきたものは・・・白い水蒸気だった。

リリスが恐る恐るその地面に触れると、かなり熱く感じられた。

今に自分の技量ではこんなものね。
まるで土風呂だわ。

とても溶岩どころではない。がっくりしたものの、何時かは実現してみせるぞと前向きに気持ちを切り替え、リリスは中庭を出て自室に戻ろうとした。
だがその時、リリスの背後から女性が声を掛けてきた。誰だろうと思って振り返ると、そこに居たのは薬学のケイト先生だった。

「リリスさん、こんなところで何をしていたの?」

そう声を掛けながら、ケイトはふとリリスの傍の地面から白い水蒸気が立ち上がっているのに気が付いた。

好奇心丸出しのケイトの視線を感じて、リリスも対応を熟慮せざるを得ない。

色々と詮索されるのも嫌だわ。

そう考えてリリスは概略だけ話す事にした。

「土魔法の練習をしていたんです。」

「へえっ? こんなところで?」

リリスの近くに腰を落としてケイトは地面をそっと撫でた。

「あらっ! 熱いわ。・・・大地を温める土魔法なの?」

「ええ。そんなところです。」

ふうんと言いながらケイトは近くに転がっていた木の枝で、熱くなった地面を軽く掘り返してみた。土の中から白い水蒸気がぶわっと吐き出される。その中からケイトは小さな塊を掘り返した。

それは植物の地下茎だったのだが、ケイトはそれを手に取り、ポキッと半分に折った。
その断面は黄色くなっていて、甘い香りが漂ってきた。その断面からはドロッとした液体が流れ落ちてくる。ケイトはその地下茎の断面を鼻に近付けてクンクンと匂いを嗅ぎ、滴り落ちる汁を指に付けてペロッと舐めてみた。

あら! 先生ったら舐めちゃったわ。

「甘い! それにこの香りには・・・チャームの効果もありそうね。」

それってどういう事?

不思議に思うリリスを見つめながら、ケイトはニヤッと笑って口を開いた。

「リリスさん。少しこの場で待っていてね。」

そう言うとケイトは学生食堂に戻り、小走りで何かを抱えて帰ってきた。ハアハアと息を荒くしながらケイトが持ってきたものは、ホピと言う名前の芋だった。リリスも子供の頃によく食べた芋で、サツマイモに近い触感と味だった事を覚えている。

ケイトは地面を軽く掘り返し、そこに数本のホピを埋めてリリスに促した。

「リリスさん。もう一度土魔法で地面を熱くしてみて。」

これって焼き芋を作れって事なの?
本来は溶岩を造り出す筈なんだけど・・・。

訝し気にケイトの顔を見ながらリリスは溶岩流のイメージを思い浮かべつつ、火魔法と土魔法を連携させて発動させた。
リリスの目の前に魔方陣が浮かび上がり、そこから地面に魔力の波動が伝わっていく。

それに応じて地面が熱くなって水蒸気を噴き出し始めた。

うんうんとうなづきながらケイトはその様子を見つめていた。
もういいわよとリリスを制して、ケイトは熱くなった地面からホピを掘り返した。常備している作業用の手袋を着けて、ホカホカのホピを両手で折ると、その断面からほくほくとした甘い香りが漂ってくる。

ケイトからハイッと手渡されたホピを見ると、実に美味しそうだ。

これって完全に焼き芋じゃないの。

元の世界で冬場によく買って食べた焼き芋を思い出しながら、リリスはホクホクのホピにかじり付いた。
その甘い触感が口の中に広がっていく。だが不思議な事に体の中から力が沸き上がってくる。
何故だろうと思いながらリリスは解析を発動させてみた。

『その食材からは身体強化の魔力の波動を感知出来ます。色濃く蜜化した部分にその成分が含まれているようですね。但しその効果は一時的なもので、効果時間は30分程度です。』

あらあら。
ポーションの付加効果と同様に、また妙な物を作っちゃったのかしら?

ケイトも甘いと騒ぎながら半分に折ったホピを食べ、残りのホピを嬉しそうに両手に抱えた。

「これは分析をしなければならないわね。それにしても食材に付加効果が加わるなんて驚きだわ。」

ケイトは少し間を置き、一人で納得した様な表情で口を開いた。

「土魔法って極めれば強力な調理道具にもなるのね。」

そのフレーズは違います!!!

ケイトの浮かれた顔を見ながら、リリスは心の中で何度もそう叫んでいた。





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