落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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新入生の補講2

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新入生二人の補講で訪れたシトのダンジョン。

その第1階層の後半。

草原を歩いていると、再びロイドが前方の空に魔物の気配を探知した。

「おっ! また来たようだね。これもハービーなのか?」

ロイドの言葉が何故か嬉しそうだ。
何を期待しているんだとリリスは思いつつ、リリスは前方の上空に視線を移した。
その数秒後。
ロイドの指さす方向に黒い塊りが見えて来た。
それは間違いなくハービーの第二陣だ。
数は10体。
前日にレイチェルと打ち合わせた通りの遭遇である。
リリスは若干ほくそ笑みながら、ウィンディに声を掛けた。

「ウィンディ。次はあなたの番よ。任せたわね。」

リリスの言葉にハイと返事をして、ウィンディは前に進み出た。

魔力を循環させて両手を前方に突き出すと、ウィンディの目の前に直径50cmほどの魔方陣が四つ出現した
それを斜め前方の上空に放つと、更に竜巻を四つ発生させ、その各々に魔方陣を取り込まさせる。
激しい竜巻の中で掻き回される魔方陣。
その各々の魔方陣から大量にエアカッターが噴き出し始めると、それは竜巻の中で激しく乱舞し、日を浴びてキラキラと輝き始めた。
見た目はキラキラしていて奇麗だが、その内部は巨大な粉砕機である。

竜巻は素早く前方に進み、くねくねと動き回り始めた。
それはまるで生き物のような動きだ。
四つの竜巻は上空から向かってきたハービーの群れを囲い込む様に動き回り、竜巻同士の距離を確実に縮めて行った。

10体のハービーはギャーッギャーッギャーッと金切り声を出しながら、こちらに向けて弓矢を放とうとしている。
だがその次の瞬間に、ハービーの群れはエアカッターが無数に渦巻く竜巻の中に取り込まれてしまった。

一瞬でハービー達は微塵切りになってしまった。

その鮮血で竜巻が赤く染まり、微塵切りにされない剣などの金属類が地面にボタボタと落ちていく。

ウィンディが竜巻や魔方陣を消滅させると、目の前には凄惨な光景が広がっていた。
真っ赤に染まった大地に細かな肉片が広範囲に散らばっている。

「リリス君。あれはどうする?」

「とりあえず焼き払いましょう。」

ロイドの言葉にリリスは即答し、ファイヤーボルトを広範囲に放った。
燃焼時間の長い、ナパーム弾の様な極太のファイヤーボルトである。
それは地面に落ちると炎を撒き散らし、激しい炎熱で大地を焼き払った。
ふとリリアの顔を覗き込むと、リリアはメラメラと燃え上がる炎を見ながら口角を上げていた。

うっ!
拙かったかしら?
土魔法で処理した方が良かったのかな?

そう思ったものの、それはリリスの杞憂で留まったようだ。
リリアはウィンディに駆け寄り、その肩をポンポンと軽く叩いた。

「ウィンディ。トルネードの数を増やせるようになったのね。」

リリアの言葉にウィンディはえへへと笑ってリリスに声を掛けた。

「リリス先輩。後始末をさせてしまって申し訳ありません。今の私は切り刻む事しか出来ないので・・・」

「気にしないで良いわよ。そのうちに上位魔法の空間魔法でも身につければ、閉鎖空間で切り刻む事も出来るように成るわよ。」

リリスの言葉にウィンディはう~んと唸った。

「それが出来るようになるまで、何年掛かるか分かりませんけどねえ。」

そう言いながらもウィンディは屈託のない笑顔を見せた。
自分の風魔法に対して確実に、自信がついて来たからなのだろう。
その様子を見てリリスは微笑ましく思った。

前方の炎熱が治まった状況を見て、ロイドはリリス達に指示を出した。

「さあ、この階層の奥まで行ってみよう。下層への階段のところで今日の補講は終了だよ。」

ハービー20体を駆逐したので、この階層は終わりだろう。
リリアとウィンディの魔法の上達の度合いも見れたので、ロイドとしてはそれで充分だった。

リリス達は前方に向かって再度歩き始めた。

だが、遠くに階下への階段が視認出来るようになって来たその時、階段の付近から黒い塊りが上空に舞い上がり、こちらに向かってゆっくりと動いて来たのが見えた。

えっ!
あれは何なの?

驚いたのはリリスだけではない。
ロイドもうっと唸ってその場に立ち止まってしまった。

明らかに魔物だ。
探知するとどうやらハービーの群れのようだが、少しその気配が異なっている。
その違和感が拭えぬままに、リリスはその塊りを凝視した。

それほどに移動速度が速くも無い。
また拡散して襲い掛かってくる様子も無い。
10体がまとまって近付いて来ている。

その塊りから幾本もの矢が飛んできた。
ロイドの張ったシールドにカンカンとぶつかり、その場に落ちていく。
その矢じりに緑色の液体が付着していた。

毒だ!
毒矢を射って来たのか!

そう思ってハービーの群れを見ると、その肌が若干緑色になっている。
それに筋骨隆々で逞しい。

「あれって・・・男?」

近付いてくる10体のハービーは男性のように見える。

「どうやらあれはキメラだね。まるでオーガとハービーを合成したような姿だ。」

ロイドが静かに呟いた。

キメラの接近に連れて、少し頭が痛くなってきた。
どうやら瘴気を発しているようだ。

それにしても何故この局面でキメラが出て来るのよ!
レイチェルったら・・・どうしたのかしら?

リリスがあれこれと考えている間に、リリアとウィンディは魔力を集中させ、既に臨戦態勢に入っていた。

ロイドの指示でリリアが大量のファイヤーニードルを放ち、少し間隔を置いてウィンディの放った4本の竜巻が前進していく。
竜巻は勿論大量のエアカッターを巻き込んでいる。

リリアのファイヤーニードルがキメラの群れに弾着し、その場で激しい炎が巻き上がった。
だがキメラの群れは平然としている。
火魔法に高度な耐性を持っているようだ。
そのキメラの群れに4本の竜巻が接近し、あっという間に包み込んでしまった。
キラキラと光る大量のエアカッターがぶつかり合い、火花を散らしている。
だがその竜巻が治まっても、キメラの群れはその体勢を崩していなかった。
それはまるでスクラムを組んでいるようだ。

この違和感は何?
どうして四散して襲い掛かって来ないの?

そう思いながらキメラの群れを良く見ると、集まっているキメラの中心に、一際大きなキメラが居る。しかも白い髭を生やしていて、如何にも貫禄がありそうな風貌だ。

もしかすると、あの中心にいるキメラを守るために、周りを別のキメラが取り囲んでいるの?

中心にいるキメラを倒せば、残りのキメラは戦闘不能になるのかも知れない。
火魔法や風魔法に対する耐性は、あの中心のキメラが造り上げているのかも知れない。

あれこれと考えながら、ふとウィンディの方に目を向けると、ウィンディは自分の風魔法が通じないので少し落胆していた。

「効いていないの?」

ウィンディの言葉が虚しく響く。

「全く効いていないわけでは無さそうね。擦り傷だらけになっているのが分かるわよ。」

「う~ん。擦り傷ですか。ショックだなあ。」

ウィンディが落胆している間にも、キメラの群れからの矢が飛んでくる。それをシールドで防ぎながら、リリスは次の手を考えた。

やはり、毒には毒で対抗するのが得策よね。

そう思いながらリリスは解析スキルを発動させた。

粘着性で浸透性と耐熱性の高い麻痺毒を調合して!
それと無色でお願いね。
念の為に解毒剤も生成して!

『無色の麻痺毒と解毒剤ですね。了解しました。麻痺毒は何に付与しますか?』

ファイヤーボルトで充分よ。

『内部に格納するのですね。即座に準備します。』

解析スキルと連動して毒関連のスキルが発動し、魔力が注がれていく。
リリスは二重構造のファイヤーボルトをイメージに基づいて創り上げ、その内部に生成された麻痺毒を格納した。

「ウィンディ! キメラの群れの周囲の大気をトルネードで封じ込めて!」

指示を受けたウィンディは、意味が分からぬままに風魔法で4本の竜巻を発生させ、それをキメラの群れの四隅に配置させようとして魔力を注ぎ込んだ。
竜巻に取り囲まれた空間の中央にキメラの群れが位置したその瞬間を見計らって、リリスは二重構造のファイヤーボルトを数発放った。
キーンと言う金切り音を上げ、太いファイヤーボルトが高速で滑空し、キメラの群れの中央周辺に弾着した。

ボウッと激しい爆炎が広がり、それと時間差で麻痺毒がその周囲に拡散された。
それはキメラの群れの皮膚に粘着し、ウィンディのエアカッターで受けた多数の擦り傷から体内に浸透していく。
ウィンディの創り上げた竜巻によって囲まれ、簡易的に閉鎖された空域となっているのでリリス達に害は及ばない。
それに万が一、麻痺毒が流れてきた際の解毒剤も用意している。

グギッ、グギッ、グギッと、あちらこちらから野太い呻き声が聞こえて来た。
キメラの群れの動きが止まり、1体2体とキメラが地面に落ちていく。

まるで蚊取り線香で燻された蚊のようだわ。

地面に落ちたキメラは打ち所が悪かったようで、手足が有り得ない方向に曲がってしまっている。
10体のキメラが全て地に落ちた時点で、リリスは土魔法を発動させ、麻痺して動けなくなっているキメラの周囲を泥沼にした。
深さ3mほどの泥沼だが、キメラ達を沈めるのには充分だ。
キメラ達が泥沼に沈み切った時点で、リリスは泥沼の表面を頑丈に硬化させた。

「生きながらに埋葬かよ。残酷な殺り方だよなあ。」

ロイドが小声で呟く独り言がリリスの耳に届いた。
だがリリスに躊躇いは無い。
魔物は魔物だ。
迷いがあると自分達の身に危険が及ぶ事だって有る。

地中を探知しキメラ達の生命反応が消えるのを確認した上で、リリスは心の中で手を合わせ魔物達を弔った。

「お疲れさまでした。でも容赦が無いですよねえ、リリス先輩。」

そう言って話し掛けて来たウィンディに、リリスはニヤッと笑いながら硬化した地面を踏みしめた。

「ダンジョン内で油断は大敵よ。魔物に容赦している余地なんて無いからね。」

「でも土魔法ってあんな風に使えるんですね。」

リリアはそう言うと硬化した地面を手で触れた。

「これって・・・属性魔法に対する耐性まで付与しているんですか?」

「まあ、念の為にね。」

リリスの言葉にリリアは感心して地面を幾度も撫でていた。

その3人にロイドが近付き、この日の補講の終了を告げた。

「まあ、ここまでの内容で補講はもう充分だろうね。確認したかった事も確認出来たはずだ。今日はこれで終わりにしよう。」

「リリア君とウィンディ君は、まだやり残したことがあるかい?」

ロイドの言葉に二人は首を横に振った。

それならばとロイドが転移の魔石を取り出し、それを発動させようとしたのだが、上手く発動出来ない。

「あれっ? どうして発動しないんだ?」

その言葉と同時に地面がゴゴゴゴゴッと揺れ始め、上空には真っ赤な血の様な彩りの不気味な雲が湧きあがって来た。
地鳴りが徐々に激しくなってきて、リリス達の表情にも不安が漂っている。

これって嫌なパターンねえ。
また何か大きな魔物が出て来るんじゃないでしょうね。

そう思っている間にも地面から所々で蒸気が吹き上げ、大気が徐々に暑くなってきた。

何が起きているのか分からないままに、リリス達は最大限に警戒しながらその状況を見つめていたのだった。




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