落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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新入生の補講3

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新入生二人の補講で訪れたシトのダンジョン。

その最奥部での突然のトラブルに、リリス達は少なからず戸惑っていた。

相変わらず地鳴りが続いている。
地面のところどころで蒸気が噴き出し、その噴き出した穴から蛇の様な形の火の塊が現われては消えていく。

この状況は何だろうか?

不安に満ちて周囲を警戒していると、ふと大気の流れが止まった様に感じた。
上空の不気味な雲の動きも止まっている。
更にうっすらと紫色の霧が掛かって来た。

ふと振り返ったリリスは、更に異様な光景を見た。
リリアとウィンディとロイドの目が虚ろになり、朦朧としてその場に立っている。

何事かと思っていると、リリスの目の前に突然、淡いブルーのワンピースを着た女性が現われた。

レイチェルだ!

それを確認してリリスは即座に駆け寄り、早口で彼女に話し掛けた。

「レイチェル! これってどう言う事なの?」

リリスの問い掛けにレイチェルは少し困ったような表情を見せた。

「ごめんね、リリス。ダンジョンコアが暴走しちゃったのよ。それで落ち着かせるのに苦労しちゃって・・・」

「ダンジョンコアの暴走? このシトのダンジョンのダンジョンコアが? 暴走するようなやる気のあるコアじゃ無かったと思うんだけど・・・」

リリスの言葉にレイチェルはうんうんと頷いた。

「そうなのよね。どちらかと言えば怠け者の様なダンジョンコアなんだけど、何故か暴走しちゃったのよ。」

「原因は恐らく・・・あんた達の存在そのものでしょうね。」

「稀代のダンジョンメイトに加えて稀有な加護の持ち主が二人。それを感じ取って過敏に反応しちゃったのかも知れないわ。」

そんな事を言われてもねえ。

「シトのダンジョンのダンジョンコアって初対面じゃ無いわよ。その疑似人格と接触した事もあるんだから。」

レイチェルはリリスの言葉をかみしめるように聞き取った。

「それって随分前の事じゃないの? それ以降にリリスのステータスも大幅に変わっているんじゃないのかな? それこそ別人のように・・・」

う~ん。
それを言われるとそうなのかとも思っちゃうわよねえ。

「でもそんな事で反応しちゃうものなの?」

「それはダンジョンコアの特性でね。ダンジョンコアの動作って、潜入者の放つ魔力の波動や質や特性を読み取る事から全てが始まるのよ。」

「そんなものなの?」

「そう。そう言うものなのよ。でも・・・・・」

短い言葉のやり取りの後に、レイチェルはう~んと唸って首を傾げた。

「ウィンディから僅かに漂って来る亜神のウィンディの気配が、どうしても気になるわねえ。」

「それがダンジョンコアの暴走の一因になっているかも知れないから、この際取り除いてしまおうかしらね。」

レイチェルの言葉にリリスは疑問を感じた。
ウィンディの身体に流れ込んできた残留思念が、ダンジョンコアの暴走の一因になるのだろうか?

「それで残留思念を取り除くって、どんな方法を使うの?」

「ああ、それは魔力の形で取り除くだけなのよ。それ自体は私が抽出するから簡単なの。取り除いた魔力は、私がk風の亜神のウィンディの身体に戻してくるわね。」

そう言うとレイチェルは朦朧として立っているウィンディに近付き、その手を取って魔力を吸いだした。
それに伴ってウィンディの身体がふらふらと揺れ出した。

「ねえ、レイチェル。どれだけの魔力を吸いだしたの?」

「そうねえ。ウィンディの魔力量の20%ほどかしらね。」

えっ!
そんなに吸い出しちゃったの?
ウィンディの身体がふらふらと揺れているのはその為なのね。

ウィンディの状態を案じるリリスの表情を見て、レイチェルは少しの間考え込んだ。
その後にレイチェルは再びウィンディに近付き、その手をしっかりと握りしめた。

「今後のウィンディの監視の為と言う意味も含めて、私の魔力を少しだけウィンディの身体に流し込むわね。」

「えっ! そんな事をして大丈夫なの?」

リリスの言葉にレイチェルはにっこりと頷いた。

「少しだけなら大丈夫。私の魔力は覇竜の魔力とは違って、過剰摂取による副作用は無いわよ。」

「まあ、多少の変化はあるかも知れないけどね。」

その変化って何なのよ!
リリスがそう突っ込む間もなく、レイチェルはウィンディの身体に魔力を流してしまった。
その途端にウィンディの身体が仄かに光り、風も無いのに髪がゆらゆらと動き始めた。

その状態が3分ほど続いた後に、ウィンディは立つ力すら失くしてしまい、その場に倒れそうになってしまった。
それをレイチェルが抱きかかえ、その場に静かに横臥させた。

「ウィンディは大丈夫なの?」

心配するリリスの言葉にレイチェルは大丈夫よと言いながら、その身体がゆっくりと上空に上がり始めた。

「私の退場と共に全員の意識が戻るからね。準備は良い?」

レイチェルの言葉にリリスはその意図を悟ってうんうんと頷いた。

レイチェルの身体が上空に消えていくと、呆然と立っていたリリアとロイドの意識が戻り、地面に横臥していたウィンディが首を傾げながら起き上がろうとしていた。

「私ってどうして倒れてたの?」

リリアが起き上がろうとするウィンディの傍に駆け寄り、その手を握って起き上がるのを手伝った。

「地面が激しく揺れていたから、バランスを崩しちゃったんじゃないの?」

「そうかなあ?」

リリアの言葉にあまり納得出来ないウィンディだが、ダンジョン内の異変が治まったのでそれ以上は言及しなかった。

「今のは何だったんだろうね。久し振りにリリス君に激しく反応するダンジョンの様子を見たような気がするよ。」

ロイドの言葉が妙に軽い。
リリスはそれをスルーして話題を変えた。

「ロイド先生。今日の補講は終わりで良いですね?」

「ああ、そうだね。リリア君もウィンディ君も収穫があったようだから、今日はこれで終わりにしよう。」

ロイドはそう言うと懐から転移の魔石を取り出し、手早く発動させ、全員で学舎の地下訓練場に戻ったのだった。




その翌日の放課後。

生徒会の部屋に足を運んだリリスは、リリアに制服の袖を軽く引っ張られた。

「先輩。こっちに来て下さい。」

リリアに引っ張られて、隣接する父兄用のゲストルームに入ると、そこにはウィンディが照れ笑いをしながら立っていた。
そのウィンディの肩に小さなアクセサリーがある。

だがそれをよく見ると動いているので、アクセサリーではなかった。

小鳥?
ブルーのストライプの入った白い鳥って・・・・まさか?

リリスの顔を見てウィンディはえへへと笑った。

「私にも出て来るようになったんです。昨日の夜に現れました。加護が実体化している事は自分でも実感出来るんです。」

そう言いながらウィンディは肩に留まっている小さな白い小鳥の頭を撫でた。

この姿ってレイチェルの使い魔のミニチュア版ね。
レイチェルが吹き入れた魔力の影響だろうなあ。

「それって非表示にも出来るの?」

リリスの言葉にウィンディは、ハイと答えて魔力の流れを変えた。
それと同時に肩に留まっていた小鳥も消えてしまった。

「うん。良いわね。それなら学校生活にも支障は無いわね。それでその小鳥を出現させた時の効果はどうなの?」

「それが・・・・・それほどにレベルアップしていないんですよね。風魔法の発動時間は少し短縮されます。それと魔力の流れは以前より安定していてスムーズに循環するんですけど、それ以外にはあまり変化が無くて・・・・・」

う~ん。
無いよりマシってところね。

「まあ、加護が守ってくれているのを実感出来るなら、それで良いんじゃないの?」

「そうですね。多分、私自身のレベルアップに連れて、その効果も更に上がってくるのだと思います。」

ウィンディの言葉にリリアが嬉しそうな笑顔を見せた。

「私はウィンディと共通点を持てて、それだけで嬉しいわ。」

リリアはそう言いながら、表示状態になったウィンディの肩の小鳥を軽く撫でた。
小鳥はくすぐったそうに首を横に振った。
その仕草が可愛らしい。

その後3人は談笑しながら生徒会の部屋に戻って行った。






その日の夕方。

リリスが自室に戻ると、ブルーのストライプの入った小鳥とノームがソファの上に座り、賑やかに話し合っていた。

今日はレイチェルとチャーリーね。
この連中は連日、当たり前のように私の部屋に潜入してくるわねえ。

そう思いながらリリスは対面のソファに制服のまま座った。

「ねえ、レイチェル。ウィンディの加護が実体化するようになったのは、あなたの魔力を注入したからなの?」

問い掛けられた小鳥は首を傾げた。

「加護が実体化出来るようになったの? それは初耳だわ。まあ、有り得ない事ではないけどね。」

リリスはウィンディの肩に実体化して現れるようになった加護の姿形をレイチェルに説明した。
更に加護が実体化しても、ウィンディのレベルがほとんど上がらない事を説明した。

それを聞きながら小鳥はうんうんと頷いた。

「そもそも私の魔力を少しだけウィンディの身体に取り込ませたのは、あくまでもウィンディの心の状態をチェックするためだから、属性魔法のレベルアップはあまり期待出来ないわよ。」

そうなのね。
でも、レイチェルの魔力だからその程度の変化なのかもね。

風の亜神の本体のかけらであるウィンディとレイチェル。
この二人の違いは歴然だ。
やたらと煽るウィンディと、そよ風の様な穏やかさを感じさせるレイチェル。
どちらも風の亜神の持つ特性の一つの側面の象徴なのだろう。
風の亜神の本体が降臨する時、レイチェルやウィンディを含む7体のかけらは亜神本体に取り込まれるのだ。
実に不思議な存在である。

そう思っているとノームがおもむろに話し掛けて来た。

「リリス。君には土の亜神の加護を実体化させてあげようか? その肩の上に小さなノームが座っているのはどうや?」

「要らないわよ、そんなもの。」

リリスの即答にノームは唖然とした。

「そんなものって言い方はないやろ。」

「要らない物は要らないわよ。ノームを肩に乗せても可愛く無いしねえ。」

「それは心外やなあ。でも土魔法のレベルが多少は上がるけど、それでも嫌か?」

リリスはノームの言葉にうんざりした。

「今の時点で緊急に土魔法をレベルアップさせる必要性は無いわよ。加護や色々な要因もあって、溶岩流もそれなりに出来るようになってきたからね。」

リリスの言葉にノームはう~んと唸って腕組みをした。

「君にはもっと上を目指して欲しいなあ。海底を隆起させて小さな大陸を造るなんてどうや? 自分だけの国を創れるんやけどなあ。」

「そこまでしてどうするのよ。そんな事をしたらあらゆる国から敵対されるわよ。」

「それなら魔物を大量に配下に付けて軍備を整えれば良いと思うで。君なら出来るやろ?」

う~ん。
私に魔王に成れって言っているのね。

リリスは呆れてノームの言葉をスルーした。
その様子を見てノームも土魔法の加護の実体化は諦めた様子である。

「まあ、大陸とまでは言わんが、小さな島を造るのはどうや? 自分専用のリゾートアイランドになるけどね。」

「それなら少し考えておくわよ。」

リリスはそう受け答えしながらしばらく談笑し、亜神の使い魔達が去っていくのを見送った。

何時もながら気紛れな連中だわね。

ふうっと大きくため息をつき、リリスは翌日の授業の準備に取り掛かったのだった。







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