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リゾルタへの再訪1
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リリアとウィンディの補講のあった翌日。
リリスは昼休みに職員室の隣のゲストルームに呼び出された。
呼び出したのはメリンダ王女である。
また何かとんでもない頼み事なの?
警戒心満載でゲストルームに入ったリリスの目に入ったのは、ラフな服装のフィリップ王子と学生服を着たメリンダ王女の姿である。
珍しいツーショットだ。
「あら? 今日は使い魔じゃなくて本人なのね。」
思わず軽い口調で呟いたリリスの言葉を、メリンダ王女は聞捨てていなかった。
「まあ、フィリップお兄様が私の学生服姿を見たいって言うからねえ。」
「そんな事は言ってないだろ!」
フィリップ王子の突っ込みをメリンダ王女はケラケラと笑い飛ばした。
これは二人の仲の良さをアピールしているのか?
リリスとしては苦笑しているだけである。
リリスがソファに座るとメリンダ王女が早速話を切り出した。
「リリス。アイリスお姉様の事を覚えている?」
「勿論覚えているわよ。リゾルタの王妃様よね。私の実家の領地の豊穣の神殿にも来られたし、リゾルタにも何度も伺ったわ。」
リリスはそう話しながら、アイリス王妃の掛けられていた呪詛の解呪や水の神殿の修復、更にはキングドレイクとの出会いなども思い出した。
そう言えばアイリス様は懐妊されていたはず・・・・・。
リリスの疑問にメリンダ王女はタイミング良く解答を与えた。
「アイリスお姉様がケント王子を出産し、その王子が1歳になるタイミングで、対外的にもお披露目の儀式が行われるの。」
「そこに私達の他にリリスも招待されているから、それを伝えに来たのよ。出発は7日後で日程は5日間ね。勿論国事行為だから、平日だけど魔法学院は欠席にはならないわよ。」
そうなのね。
それは喜ばしい事だわ。
いつの間にか、アイリス王妃は出産されていたようだ。
元の世界でもあった事だが、洋の東西を問わず、近世までの王家や王族などで出産直後にお披露目をする事はあまり無かった。
それは新生児の健康状態や衛生環境の不備などもあって、生後1年も経たないうちに死亡するケースも多かったからだ。
新生児が健康である事をアピール出来る前提の上で、対外的なお披露目が行われるのは王家王族にとって当然の事だろう。
だが今一つ嬉しそうに見えないリリスの表情に、メリンダ王女が敏感に反応した。
「リリス、どうしたの? あまり嬉しそうに見えないんだけど・・・・・」
「あっ、ごめんね。少し気になる事があって。」
そう言ってリリスは改めて笑顔を見せた。
「リゾルタでの式典となると、ドラゴニュートの王族達も来るのよね。私、あの連中って苦手なのよ。また難癖をつけて絡んでくるかも知れないと思うと、どうしても不安になってしまって・・・・・」
リリスの言葉にメリンダ王女はうんうんと頷いた。
「そうよね。あんたってドラゴニュートには酷い目に遭わされちゃったからねえ。」
そう言いながらもメリンダ王女はフィリップ王子に目配せをした。
それに応じてフィリップ王子がニヤリと笑いながら、話しに加わって来た。
「その件に関しては大丈夫だと思うよ。各国から王族がリゾルタへ行く手配の段階で、あらかじめ各国の警護関係の担当者達と打ち合わせを何度もしたんだ。その際にドラゴニュートの王族からデルフィ様が参加され、リリスが今回の儀式に来るのかと問い掛けられたんだよ。」
「えっ? 賢者デルフィ様が?」
リリスはデルフィの意図に単純に疑問を持った。
そう言えばデルフィ様とはしばらく会っていないわね。
ドラゴニュートの中では数少ないまともな方だから、気に掛けてくれるのは嬉しいんだけど。
リリスの言葉にフィリップ王子は頷きながら話を続けた。
「デルフィ様はリリスが参席すると聞いた途端に思案顔になり、ドラゴニュートの警護担当者に指示を出したんだ。」
「指示? どんな指示ですか?」
リリスとしてはデルフィが特別に気を遣ってくれるのかと思っていた。
だがフィリップ王子の言葉は意外な内容だった。
「リリスを無闇に刺激してはならん。細心の注意を払えと言う事だ。リリスを怒らせると火の亜神をけしかけられ、都市が丸ごと焼き払われてしまうとも言っていたよ。」
うっ!
それって要注意人物って事なの?
それにしても火の亜神をけしかけるって・・・・・。
そう考えてリリスはピンときた。
リンの属する竜の住処にタミアが乗り込んで、焼き払ってしまった事があった。
「リリス。ドラゴニュート相手に何をやったのよ? あんたって私達の知らないところで悪名を轟かせていたの?」
「そうじゃ無いわよ! タミアが勝手に竜の住処に殴り込みに行っただけだからね!」
リリスはそう言って、二人にその時の事の顛末を簡単に説明した。
リリスにしてみれば、とんでもない言い掛かりである。
その話を聞いてフィリップ王子は少し考え込んだ。
「何となく話の繋がりが分かって来たよ。ドラゴニュート達はその地域の竜族に隷属している事が多い。おそらくタミアに住処を焼き払われた竜達が、警告を込めてドラゴニュート達に話したのだろうね。」
「それに加えて、リリスがドラゴニュートの国で王族のエドムとのブレスの撃ち合いを征した事は、ドラゴニュートの王国の国史にも掲載されたそうだから、一層の真実味を帯びて受け止められているんだろうね。」
ううっ!
何と言って良いのか・・・・・。
厳密にはブレスじゃないんだけど。
「・・・・・でも、私がタミアをけしかけたって言うのは濡れ衣ですからね!」
「まあそうだとしても、君にちょっかいを出そうとしないのであれば、それで良いんじゃないのか?」
う~ん。
良くは無いだけどなあ。
誤解から警戒されるのも微妙よねえ。
「デルフィ様は冷静な方だから、上手く対処してくれると思うよ。」
殿下ったら簡単に言うわね。
そのデルフィ様でもあのエドムの暴挙を止められなかったんですけど・・・・。
「それは良いんですけど、ドラゴニュートって基本的に脳筋が多いですからね。何も考えずに絡んできたり挑んでくるって事もあるので・・・」
そう言いながら、リリスの脳裏には数名のドラゴニュートの顔が浮かんできた。
確かにあの連中には酷い目に遭わされてきたわよね。
じんわりと心の奥底から浮かんでくる怒りを抑えながら、リリスは浮かない顔でメリンダ王女の顔を見た。
その目が笑っている。
「そんなに心配しなくても良いわよ。あんたらしく無いわね。単純にお祝いをしてあげれば良いのよ。」
メリンダ王女はそう言うとケラケラと笑った。
その笑顔についリリスも頬が緩む。
「そうね。お祝いだものね。」
リリスに笑顔が戻って来たところで、少しの談笑の後、メリンダ王女とフィリップ王子はゲストルームを退出した。
リリスはまだ心の中でくすぶる思いを整理し、午後の授業の準備に向かった。
リゾルタへの出発の前日。
リリスは放課後に生徒会の部屋で、忙しく動き回っていた。
国事行為とは言え5日ほど留守にするので、その間の作業を前倒しで進めていたのだ。
既にその事は学院内でも伝わっているので、エリス達も興味津々でリリスの様子を見つめていた。
「他国の王族から招待状が届くなんて、リリス先輩って王族並みですね。」
エリスの言葉にリリスは動きを止め、少し間を置いて失笑した。
「そんな風に言わないでよ。上級貴族から嫉まれるかも知れないからね。」
リリスの言葉に近くに居たリリアが反応した。
「私はそんな風に思っていませんよ。」
唐突にものを言う子だ。
リリアの言葉に傍に居たウィンディがぷっと吹き出してしまった。
「嫌だわぁ、リリアったら。上級貴族と言っても大人の話よ。あなたが嫉んでどうするのよぉ。」
「そうよね。それはそうだわ。」
そう言いながらリリアは失笑した。
二人の新入生の様子が微笑ましい。
その様子を見ながら、ニーナがリリスに声を掛けた。
「リリスは身体を張っているものねえ。大人の上級貴族でもリリスの真似は出来ないわよ。」
まあ、それはそうだ。
リリスは命懸けの場面を幾度も通過してきた。
だがそれも運良く乗り越えて来たと思うと、何故か感謝の思いが湧いてくる。
結局私ってツイて居るのかツイていないのか分からないわね。
その場にいた全員へのお土産を約束しながら、リリスは作業の手を進めていた。
そして迎えたリゾルタへの出発の日。
待ち合わせの場所は王都の神殿の前だ。
リリスが早朝から準備してそこに向かうと、10名ほどの兵士とメリンダ王女、フィリップ王子が待っていた。
更に文官のノイマン卿も同行する事になっていて、リリスの到着とほぼ同時にその姿を現わした。
だがその背後にジークが居る。
うっと唸って少し引いたリリスにメリンダ王女が小声で囁いた。
「気にしなくて良いわよ。ジークは付いて来ないわ。私達をリゾルタまで転移の魔石で送り届ける役割だからね。」
ああ、そう言う事なのね。
リリスは気を取り直し、ノイマンと挨拶を交わした。
「リリス。久し振りだね。しばらく見ぬ間に随分大人っぽくなったじゃないか。」
久し振りに会った温和な表情のノイマンは、少し老けたようにも見える。
「ありがとうございます。私も年頃ですからそう言っていただけると嬉しいです。」
本当は余計に2年老けちゃったんだけどね。
自虐的な思いを抱きつつ、それを表に出さないリリスである。
そのリリスに対してフィリップ王子が話し掛けた。
「ノイマン卿はリゾルタへの慶祝を伝えると共に、ドラゴニュートとの交渉事もあって今回同行するんだよ。」
「あの連中はどんなに交渉を重ねても、その結果や取り決めをあっさりと反故にするからね。」
う~ん。
やっぱりあの連中は信用出来ないわね。
ノイマンはフィリップ王子の言葉にうんうんと頷いた。
「そうなのだよ、リリス。君が苦心して修復させたり、持ち主に帰還させたりした魔剣も、当初は交渉の切り札になったのだが、それでも気紛れに両国間の協定を反故にしてしまう連中だ。我が国としても、口が酸っぱくなるほどにこちら側の主張を訴え続けるつもりだよ。」
「まあ、ご苦労様です。」
そんなに地道に、ドラゴニュートとの交渉を続けるメリットが我が国にあるのかしら?
そのリリスの思いを察してメリンダ王女が口を開いた。
「ドラゴニュートを通してしか手に入らない物資や鉱物資源があるのよ。我が国と国交のない大陸南方地域の諸国との取引には、その仲介役になって貰わないといけないからね。」
う~ん。
確かにあの連中の狡猾さを上手く利用出来るなら、それはそれでありがたいわよね。
メリンダ王女の言葉に、妙に納得してしまったリリスである。
全員揃って出発の準備は整った。
一行はジークが作動させる転移の魔石によって、数人ごとにリゾルタへと転移されていったのだった。
リリスは昼休みに職員室の隣のゲストルームに呼び出された。
呼び出したのはメリンダ王女である。
また何かとんでもない頼み事なの?
警戒心満載でゲストルームに入ったリリスの目に入ったのは、ラフな服装のフィリップ王子と学生服を着たメリンダ王女の姿である。
珍しいツーショットだ。
「あら? 今日は使い魔じゃなくて本人なのね。」
思わず軽い口調で呟いたリリスの言葉を、メリンダ王女は聞捨てていなかった。
「まあ、フィリップお兄様が私の学生服姿を見たいって言うからねえ。」
「そんな事は言ってないだろ!」
フィリップ王子の突っ込みをメリンダ王女はケラケラと笑い飛ばした。
これは二人の仲の良さをアピールしているのか?
リリスとしては苦笑しているだけである。
リリスがソファに座るとメリンダ王女が早速話を切り出した。
「リリス。アイリスお姉様の事を覚えている?」
「勿論覚えているわよ。リゾルタの王妃様よね。私の実家の領地の豊穣の神殿にも来られたし、リゾルタにも何度も伺ったわ。」
リリスはそう話しながら、アイリス王妃の掛けられていた呪詛の解呪や水の神殿の修復、更にはキングドレイクとの出会いなども思い出した。
そう言えばアイリス様は懐妊されていたはず・・・・・。
リリスの疑問にメリンダ王女はタイミング良く解答を与えた。
「アイリスお姉様がケント王子を出産し、その王子が1歳になるタイミングで、対外的にもお披露目の儀式が行われるの。」
「そこに私達の他にリリスも招待されているから、それを伝えに来たのよ。出発は7日後で日程は5日間ね。勿論国事行為だから、平日だけど魔法学院は欠席にはならないわよ。」
そうなのね。
それは喜ばしい事だわ。
いつの間にか、アイリス王妃は出産されていたようだ。
元の世界でもあった事だが、洋の東西を問わず、近世までの王家や王族などで出産直後にお披露目をする事はあまり無かった。
それは新生児の健康状態や衛生環境の不備などもあって、生後1年も経たないうちに死亡するケースも多かったからだ。
新生児が健康である事をアピール出来る前提の上で、対外的なお披露目が行われるのは王家王族にとって当然の事だろう。
だが今一つ嬉しそうに見えないリリスの表情に、メリンダ王女が敏感に反応した。
「リリス、どうしたの? あまり嬉しそうに見えないんだけど・・・・・」
「あっ、ごめんね。少し気になる事があって。」
そう言ってリリスは改めて笑顔を見せた。
「リゾルタでの式典となると、ドラゴニュートの王族達も来るのよね。私、あの連中って苦手なのよ。また難癖をつけて絡んでくるかも知れないと思うと、どうしても不安になってしまって・・・・・」
リリスの言葉にメリンダ王女はうんうんと頷いた。
「そうよね。あんたってドラゴニュートには酷い目に遭わされちゃったからねえ。」
そう言いながらもメリンダ王女はフィリップ王子に目配せをした。
それに応じてフィリップ王子がニヤリと笑いながら、話しに加わって来た。
「その件に関しては大丈夫だと思うよ。各国から王族がリゾルタへ行く手配の段階で、あらかじめ各国の警護関係の担当者達と打ち合わせを何度もしたんだ。その際にドラゴニュートの王族からデルフィ様が参加され、リリスが今回の儀式に来るのかと問い掛けられたんだよ。」
「えっ? 賢者デルフィ様が?」
リリスはデルフィの意図に単純に疑問を持った。
そう言えばデルフィ様とはしばらく会っていないわね。
ドラゴニュートの中では数少ないまともな方だから、気に掛けてくれるのは嬉しいんだけど。
リリスの言葉にフィリップ王子は頷きながら話を続けた。
「デルフィ様はリリスが参席すると聞いた途端に思案顔になり、ドラゴニュートの警護担当者に指示を出したんだ。」
「指示? どんな指示ですか?」
リリスとしてはデルフィが特別に気を遣ってくれるのかと思っていた。
だがフィリップ王子の言葉は意外な内容だった。
「リリスを無闇に刺激してはならん。細心の注意を払えと言う事だ。リリスを怒らせると火の亜神をけしかけられ、都市が丸ごと焼き払われてしまうとも言っていたよ。」
うっ!
それって要注意人物って事なの?
それにしても火の亜神をけしかけるって・・・・・。
そう考えてリリスはピンときた。
リンの属する竜の住処にタミアが乗り込んで、焼き払ってしまった事があった。
「リリス。ドラゴニュート相手に何をやったのよ? あんたって私達の知らないところで悪名を轟かせていたの?」
「そうじゃ無いわよ! タミアが勝手に竜の住処に殴り込みに行っただけだからね!」
リリスはそう言って、二人にその時の事の顛末を簡単に説明した。
リリスにしてみれば、とんでもない言い掛かりである。
その話を聞いてフィリップ王子は少し考え込んだ。
「何となく話の繋がりが分かって来たよ。ドラゴニュート達はその地域の竜族に隷属している事が多い。おそらくタミアに住処を焼き払われた竜達が、警告を込めてドラゴニュート達に話したのだろうね。」
「それに加えて、リリスがドラゴニュートの国で王族のエドムとのブレスの撃ち合いを征した事は、ドラゴニュートの王国の国史にも掲載されたそうだから、一層の真実味を帯びて受け止められているんだろうね。」
ううっ!
何と言って良いのか・・・・・。
厳密にはブレスじゃないんだけど。
「・・・・・でも、私がタミアをけしかけたって言うのは濡れ衣ですからね!」
「まあそうだとしても、君にちょっかいを出そうとしないのであれば、それで良いんじゃないのか?」
う~ん。
良くは無いだけどなあ。
誤解から警戒されるのも微妙よねえ。
「デルフィ様は冷静な方だから、上手く対処してくれると思うよ。」
殿下ったら簡単に言うわね。
そのデルフィ様でもあのエドムの暴挙を止められなかったんですけど・・・・。
「それは良いんですけど、ドラゴニュートって基本的に脳筋が多いですからね。何も考えずに絡んできたり挑んでくるって事もあるので・・・」
そう言いながら、リリスの脳裏には数名のドラゴニュートの顔が浮かんできた。
確かにあの連中には酷い目に遭わされてきたわよね。
じんわりと心の奥底から浮かんでくる怒りを抑えながら、リリスは浮かない顔でメリンダ王女の顔を見た。
その目が笑っている。
「そんなに心配しなくても良いわよ。あんたらしく無いわね。単純にお祝いをしてあげれば良いのよ。」
メリンダ王女はそう言うとケラケラと笑った。
その笑顔についリリスも頬が緩む。
「そうね。お祝いだものね。」
リリスに笑顔が戻って来たところで、少しの談笑の後、メリンダ王女とフィリップ王子はゲストルームを退出した。
リリスはまだ心の中でくすぶる思いを整理し、午後の授業の準備に向かった。
リゾルタへの出発の前日。
リリスは放課後に生徒会の部屋で、忙しく動き回っていた。
国事行為とは言え5日ほど留守にするので、その間の作業を前倒しで進めていたのだ。
既にその事は学院内でも伝わっているので、エリス達も興味津々でリリスの様子を見つめていた。
「他国の王族から招待状が届くなんて、リリス先輩って王族並みですね。」
エリスの言葉にリリスは動きを止め、少し間を置いて失笑した。
「そんな風に言わないでよ。上級貴族から嫉まれるかも知れないからね。」
リリスの言葉に近くに居たリリアが反応した。
「私はそんな風に思っていませんよ。」
唐突にものを言う子だ。
リリアの言葉に傍に居たウィンディがぷっと吹き出してしまった。
「嫌だわぁ、リリアったら。上級貴族と言っても大人の話よ。あなたが嫉んでどうするのよぉ。」
「そうよね。それはそうだわ。」
そう言いながらリリアは失笑した。
二人の新入生の様子が微笑ましい。
その様子を見ながら、ニーナがリリスに声を掛けた。
「リリスは身体を張っているものねえ。大人の上級貴族でもリリスの真似は出来ないわよ。」
まあ、それはそうだ。
リリスは命懸けの場面を幾度も通過してきた。
だがそれも運良く乗り越えて来たと思うと、何故か感謝の思いが湧いてくる。
結局私ってツイて居るのかツイていないのか分からないわね。
その場にいた全員へのお土産を約束しながら、リリスは作業の手を進めていた。
そして迎えたリゾルタへの出発の日。
待ち合わせの場所は王都の神殿の前だ。
リリスが早朝から準備してそこに向かうと、10名ほどの兵士とメリンダ王女、フィリップ王子が待っていた。
更に文官のノイマン卿も同行する事になっていて、リリスの到着とほぼ同時にその姿を現わした。
だがその背後にジークが居る。
うっと唸って少し引いたリリスにメリンダ王女が小声で囁いた。
「気にしなくて良いわよ。ジークは付いて来ないわ。私達をリゾルタまで転移の魔石で送り届ける役割だからね。」
ああ、そう言う事なのね。
リリスは気を取り直し、ノイマンと挨拶を交わした。
「リリス。久し振りだね。しばらく見ぬ間に随分大人っぽくなったじゃないか。」
久し振りに会った温和な表情のノイマンは、少し老けたようにも見える。
「ありがとうございます。私も年頃ですからそう言っていただけると嬉しいです。」
本当は余計に2年老けちゃったんだけどね。
自虐的な思いを抱きつつ、それを表に出さないリリスである。
そのリリスに対してフィリップ王子が話し掛けた。
「ノイマン卿はリゾルタへの慶祝を伝えると共に、ドラゴニュートとの交渉事もあって今回同行するんだよ。」
「あの連中はどんなに交渉を重ねても、その結果や取り決めをあっさりと反故にするからね。」
う~ん。
やっぱりあの連中は信用出来ないわね。
ノイマンはフィリップ王子の言葉にうんうんと頷いた。
「そうなのだよ、リリス。君が苦心して修復させたり、持ち主に帰還させたりした魔剣も、当初は交渉の切り札になったのだが、それでも気紛れに両国間の協定を反故にしてしまう連中だ。我が国としても、口が酸っぱくなるほどにこちら側の主張を訴え続けるつもりだよ。」
「まあ、ご苦労様です。」
そんなに地道に、ドラゴニュートとの交渉を続けるメリットが我が国にあるのかしら?
そのリリスの思いを察してメリンダ王女が口を開いた。
「ドラゴニュートを通してしか手に入らない物資や鉱物資源があるのよ。我が国と国交のない大陸南方地域の諸国との取引には、その仲介役になって貰わないといけないからね。」
う~ん。
確かにあの連中の狡猾さを上手く利用出来るなら、それはそれでありがたいわよね。
メリンダ王女の言葉に、妙に納得してしまったリリスである。
全員揃って出発の準備は整った。
一行はジークが作動させる転移の魔石によって、数人ごとにリゾルタへと転移されていったのだった。
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