落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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リゾルタへの再訪2

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久し振りに訪れたリゾルタ。

半砂漠の乾燥地帯に点在する都市国家の連合王国である。

その王都の広場にリリス達は転移された。

その周囲には人族の他に獣人やドラゴニュートまで目に入る。乾燥地帯なので住民は比較的薄手の衣装を着ているが、それでも日差しを浴びると汗ばむほどに気温は高い。

乾燥した風が吹き抜ける街には、人族のみならず獣人やドラゴニュートの姿も見える。
その大半は商人と観光客だ。小さな子供連れの観光客も目に付くのは、それなりに治安が良いからなのだろう。

広場の向こうに視線を移すと王城と式典用の宮殿が見える。
ケント王子のお披露目の儀式はその宮殿で行なわれるそうだ。

その宮殿の傍らには豪華な造りのホテルが建っている。そこがリリス達の泊まる宿舎になっているのだが、他国の王族も泊まるので、さぞかし豪華な内装なのだろう。

広場の片隅からリゾルタの文官と兵士達が現われ、その案内でリリス達は宿舎に向かった。

石造りの宮殿の様な外観のホテルのエントランスは広く、高い吹き抜けのドーム状の天井にはお決まりの豪華なシャンデリアが吊るされ、煌びやかな光を放っている。
通路のところどころに飾られている美術品や調度品は、如何にも上品で高級な趣だ。
フィリップ王子は一人部屋に案内され、メリンダ王女とリリスは相部屋となった。
だが相部屋と言っても広いリビングスペースとベッドルームが配置され、リビングスペースの片隅にもう一つ、小さなベッドルームが設置されていた。これは本来、王族の従者のベッドルームであり、リリスはその位置づけと言うわけだ。

「リリス。私と同じベッドルームで良いわよ。従者用のベッドルームには、リゾルタ側から用意された二人のメイドが泊まるからね。」

メリンダ王女の意外な言葉にリリスは驚いた。
自分が従者用のベッドで寝ようと思っていたからだ。

「それって畏れ多いわね。床で寝ようかしら。」

「だったら私も床で寝るわよ。」

そんなやり取りをしながら、二人はベッドルームに荷物を置いた。キングサイズのベッドが二つ並んでいる。その上座と思われる方をメリンダ王女の使うベッドとしたのはリリスなりの配慮だ。

「王族と地方貴族の子女が同じ部屋で泊まるなんて、本来は有り得ないわよね。」

ふと呟いたリリスの言葉にメリンダ王女はケラケラと笑った。

「ライオネス国王の頭の中では、あんたも一応王族扱いになっているのよ。まあ、わたしもそれで異議は無いけどね。」

「王族扱いと言うよりは、メルのボディガードの位置付けじゃないの?」

「そうかもね。警護の兵士よりあんたの方が、緊急事態には頼りになるだろうからねえ。」

そう言いながらメリンダ王女がリビングスペースに向かおうとした時、コンコンとドアがノックされ、リリスが確認の上でドアを開いた。
そこに立っていたのは、リゾルタ側で用意された二人のメイドである。

二人はメイド服を着た二十歳前後の褐色の肌の女性で、背の高い方がべリア、小柄な方がチラと名乗った。
紅茶を用意してくれると言うので、リリスとメリンダ王女はリビングスペースで寛ぎ、お披露目の式典の事で話をしていた。

だがメリンダ王女と談笑しながらも、リリスはメイドのべリアの事が少し気になっていた。
これと言って確証は無いのだが、未知の気配を微かにべリアから感じたからだ。
普段なら感じなかっただろう。
だが王族と同行していると言う事もあって、リリスは魔装を非表示で発動させていた。
それ故に感覚が鋭敏になっているので探知出来たのだ。

微かな不安がリリスの心に過る。

気のせいなら良いんだけど・・・・・。
メルが言っていたように、何かあったら私が本当にボディガードにならなければ。

若干の不安を感じながらも、リリスは心の中でそう決意したのだった。








リゾルタでの式典の当日。

早朝から身支度をし、王城の隣にある宮殿に向かったリリス達は、貴賓席のほぼ中央に案内された。

周囲には既に他国の招待客が座り、その一角にはドラゴニュートの王族の姿も見える。
ちらっと見た限りでは、ドラゴニュートの王国のウバイド国王は来ていないようだ。

ウバイド国王は少し軽率な性格なので、このような厳粛な場には来ず、他の王族を代理で参席させたのだろうとリリスは思った。
だが、そうであったとしても、国王がこの場に参席しないのは失礼ではないのか?
そんな思いもリリスの心の中には去来する。

不思議に思いながらもメリンダ王女やフィリップ王子と話をしているうちに、貴賓席の全てが招待客で埋まり、式典は厳かに始められた。

式典そのものは長時間にわたるものではない。

宮殿のホールの中央に設置された円形の台座の席に、ライオネス国王と、ケント王子を抱いたアイリス王妃が座り、その周囲を30名ほどの祭司達が取り巻く。
その祭司達が放つ聖魔法の魔力の波動でホール全体が清められる中、一人の大祭司が壇上に立ち、慶祝の言葉を読み上げる。
それと共に台座の中央に下からせりあがって来たのは聖魔法の魔力を纏った大きなオーブだ。

白く清らかな光と波動を放ち、その周囲の空気がゆらゆらと蠢いている。
そのオーブに数名の大祭司が魔力を注ぎ、オーブの輝きは更に増していく。

慶祝の静かな歌声を上げながら、30名ほどの祭司達もオーブに魔力を放ち、オーブはその輝きはその臨界点に到達した。
オーブはカッと光を放つと、ドーム状のホールの天井に向けて強い光を連続で放ち始めた。
その聖魔法の波動を纏った光はドームの天井を突き抜け、四方八方に拡散されていく。
慶祝の光と波動がリゾルタ全域に広がっていくのだ。

その間、ライオネス国王とアイリス王妃は首を垂れ、オーブの前に身を晒している。
アイリス王妃に抱かれているケント王子も、ぐずる事なく大人しく抱かれているのが微笑ましい。

大祭司の合図で、招待客も慶祝の言葉を一斉に叫び、華やかな音楽が奏でられて式典は終了した。
式典自体は1時間も掛かっていないが、1歳の王子を連れているので長時間の式典には耐えられないだろう。

「あっけなく終わっちゃったわね。」

リリスの言葉にメリンダ王女はハハハと笑った。

「まあ、お披露目の全体的な式典はこんなものよ。後で個別にご挨拶に行く事の方が重要なのよ。」

まあ、そう言う事なのね。

リリスはそれが王族達のしきたりなのだと理解した。

その上で席を立ち、退席しようとしたその時、ふとドラゴニュートの王族達と目が合ってしまった。

ジトッとした粘着性の視線がリリスに注がれている。

その気配にウっと呻いて、リリスはその場に立ち尽くしてしまった。
その様子を不思議そうに見ながら、フィリップ王子が声を掛けた。

「リリス。どうしたんだい?」

その言葉で我に返ったリリスは造り笑顔で口を開いた。

「何でもありません。」

その言葉に違和感を感じたフィリップ王子だが、メリンダ王女の傍に駆け寄ったリリスの姿を見て、それ以上は詮索しようとしなかった。

一方、リリスは何事も無かったようにメリンダ王女と話し始めたが、内心は穏やかではなかった。

あれは敵意?
否、嫌悪感?
そのどちらでも無いわね。
絡みついてやろうと言うような思念を帯びていたような気がする・・・・・。

不安を感じながらもリリスはメリンダ王女に同行し、宮殿の隣の王城に向かった。
王城のゲストルームでは、各国の招待客がライオネス国王とアイリス王妃に謁見し、慶祝の言葉と祝賀品を捧げるのだ。

メリンダ王女達も慣例に倣い、謁見を済ませた。

その後王城で昼食が振舞われ、リリス達は一旦宿舎に戻った。

夜には王城で豪華な晩餐会が行われる予定で、それまでの間待機している事になる。

メリンダ王女と部屋のリビングスペースで寛いでいると、メイドのべリアが紅茶のセットと共に小さな魔石を運んできた。
全体が黒っぽい色合いで中心部が赤い光を仄かに放っている。
一見すると不気味な魔石だ。

「この魔石はドラゴニュートの賢者デルフィ様から、リリス様に手渡して欲しいとの事で預かってまいりました。私の方で一応精査して、不審な物ではないと確認出来ましたのでお渡しします。」

そう言われて魔石を手に取ると、その魔石にはメッセージが添付されていた。

『この魔石はリリスの魔力の波動にだけセット済みなので、これを作動させる事で仮想空間に出入り出来る。晩餐会までに来て欲しい。』

デルフィからのメッセージだ。
精査したとべリアは言うのだが、本当に大丈夫なのだろうか?

べリアの醸し出す僅かな気配も気になっていたので、リリスはこっそりとべリアを鑑定してみた。


**************

べリア・エル・オーグスト

種族:人族 レベル24

年齢:24

体力:3000
魔力:4000+

属性:闇・火

魔法:黒炎 レベル5

   闇のシールド レベル3

   闇の転移 レベル3

   ファイヤーボール レベル3 

   ファイヤーウォール レベル3


スキル:探知 レベル3

    隠形 レベル3
        
    罠解除 レベル3

    憑依 レベル3

    魔力吸引 レベル2
       
    毒耐性 レベル3

    精神誘導 レベル3

    投擲スキル レベル3

    身体強化 レベル5

    武具習熟 レベル5

称号  王族の盾

秘匿領域

    闇の門番(未覚醒)
    
**************


うっ!
見るんじゃ無かったわ。
闇魔法のスペシャリストだ。
この人ってメイドじゃなくて、私達の為のボディガードなのね。

それにこの秘匿領域は何なの?
ステータスから隠されているから、絶対に言及しちゃダメなやつよね。

驚きを隠しつつリリスは、受け取った魔石をコロコロと手のひらで転がした。

「それってどうするの?」

メリンダ王女の問い掛けに、リリスはデルフィが築き上げた仮想空間の事を簡略に話した。
メリンダ王女はそれを聞きながら魔石をツンツンと突いた。

「ドラゴニュートや竜族のコミュニケーション空間なのね。内密の話が一杯ありそうねえ。」

「内密な話って無理よ。同時に大勢の者がアクセスしているから、何事でも筒抜けだと思うわ。でもそれ故に多数の者に知らせたい事は容易に伝わるわよ。」

「ふうん。そんなものなのね。」

そう言ってメリンダ王女は、べリアの用意した紅茶を飲み始めた。
リリスの話で興味を失ってしまったようだ。

リリスは長いソファの片隅に移動し、目を瞑って魔石に魔力を注いだ。
魔石はリリスの魔力に反応して作動した。
リリスの意識がふっと飛ばされ、気が付くと紫色の空間の中に居た。

まだ仮想空間の別室なのね。
仮想空間への出入り禁止状態って、未だに解除されていないのかしら?

そう思ったリリスの目の前にふっとデルフィが現われた。

「ああ、リリス。呼び出してすまないね。」

デルフィはリリスの気持ちを察して周囲の空間に目を向けた。

「ここに呼び出したのは、お前が仮想空間に出入り禁止になっているからではない。個別に内密の話をしておきたかったからだよ。」

そうなのね。

「それで、内密の話って何ですか?」

リリスの問い掛けにデルフィは、顎髭を撫でながら少し間を置いた。

「実は今、ドラゴニュートの王族の中で揉め事が起きているのだよ。大本の原因はウバイド国王なのだがね。」

「ウバイド国王の軽率な行動や発言に拒否感を示す王族が居て、最近露骨にウバイド国王の国王としての資質を問うようになってきたんだ。」

う~ん。
それって自業自得って事よね。

そう思ったリリスの思いはデルフィに直で伝わった。

デルフィは苦笑いをしながら頷いた。

「まあ、それだけなら自国内の話で済むのだが、事は複雑な様相を見せておる。まだ確証は無いのだが、この王族がリゾルタの王族の一部と結託している可能性が高い。」

「リゾルタの王族の一部ってもしかして・・・」

「そう。お前の想像の通りだ。ライオネス国王の統治に不満を持つ王族が居る事は分かっておる。不満を持つ者通しが結託する事は、有り得ない事では無い。むしろ当然の帰結なのかも知れん。」

いやいや。
当然の帰結なんて言っている場合じゃ無いわよ。

「連中が何かしらの行動を起こすとなると、今回の一連の行事は格好の機会だと言える。帰国時まで身辺の警戒を怠らないようにな。」

「分かりました。心しておきます。」

リリスの言葉と表情を確認して、デルフィはその場から消えていった。
それと同時に仮想空間から自動的に退出となり、ソファに居たリリスの肉体も覚醒した。

この期間、何が起きるか分からないわね。

デルフィから受け取った魔石を握り締めながら、リリスはそれなりに覚悟をしていたのだった。


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