落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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レーム再訪3

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ドーム公国を訪れて2日目。

リリスとリンディは王都で開かれる晩餐会に参席する事になった。

元々は宿舎でお留守番の予定であったが、公国側の配慮で招かれたのだと言う。

リリスとリンディはその為のドレス等の準備はしてこなかったので、急遽公国側のコーディネーターにお任せする事になった。

「あまり種類が無いので勘弁してくださいね。」

そう言いながら、王家に仕える女性のコーディネーターがフィッティングルームに案内してくれた。
彼女はラーナと名乗る長身の獣人だ。
ラーナの案内で二人は適切なドレスを選び、靴やアクセサリーも準備して貰った。
基本的にドレスは大柄な女性用のものが多いので、その場で仮縫いを施して体形に合わせる。
リリスはまだ良いのだが、リンディは小柄なのでサイズを合わせるのには苦労したようだ。
更にメイクも施してくれたので、晩餐会に参席するには充分である。

リリスは真っ赤なドレスに身を包み、リンディはブルーのドレスで着飾った。
ラーナの勧めで濃い目にメイクされたリリスは、とても学生とは思えない妖艶な雰囲気を醸し出している。

「リリス先輩ってメイクすると、凄く大人っぽくなりますね。」

羨ましそうにリンディが呟いた。

それはそうよ。
実際の肉体年齢は2年半進んでいるんだもの。

若干自虐的に成ったリリスだが、直ぐに気持ちを切り替え、王城の傍にある宮殿に向かった。





宮殿の中に設けられた晩餐会の会場はそれほど広くはないが、それなりに豪華な造りだった。

定められた席に着き、国王を迎えるリリス達。
この国では国王が代々、ドーム公を名乗っているそうだ。
初めて目にしたドーム公は開祖から3代目で、長身で30代のまだ若い獣人だった。
まだ正式な王妃は居ないのだと言う。

ドーム公の着席を待って、参席者達も着席する。
リリスの横に座っているタキシード姿のノイマンが、リリスに向かって小声で囁いた。

「リリス君。ドーム公はなかなかのイケメンだと思わないか?」

「そうですね。まだ王妃を定めておられないんですね。」

「そうなんだよ。だから君にもチャンスはあるぞ。」

悪戯っぽく囁くノイマンの言葉に、リリスはぷっと吹き出した。

「悪い冗談はやめてくださいよ。アイリス先輩だったら、まだ可能性はあるかも知れませんけどね。」

リリスの言葉にノイマンはニヤリと笑った。

「アイリス君なら既にドーム公からお誘いの声を掛けられているよ。」

うっ!
手が早いわね。

そう思いながらノイマンの反対側に座っているアイリスの顔を見ると、アイリスは失笑していた。
どうやらノイマンとの会話が聞こえていたらしい。

そう言えば獣人って基本的に、人族より耳や目が良いのよね。

リリスは椅子に座り直して姿勢を正した。
メイド達が乾杯のドリンクを参席者全員に配り終えたようだ。

全員椅子から立ち上がり、乾杯をして晩餐会は始まった。

そこで出て来た料理はミラ王国での晩餐会のものとあまり遜色無かった。
それだけ力を入れて歓迎してくれているのだろう。
弦楽器による演奏も始まり、華やかな中で晩餐会は進んだ。

食事を終えるとドリンクを片手に、公国側の色々な獣人達がリリス達のテーブルに挨拶に来た。
ここから晩餐会は本格的に外交の場と化していく。
両国間の水面下での交渉や取引がここから始まると言っても良い。
当然の事ながらリリスとリンディは蚊帳の外である。
ノイマンと話し込む者やアイリスと話し込む者を横目に、二人は愛想笑いを振り撒くだけだった。

ところが一人の真っ白な顎髭を生やした初老の獣人がノイマンと話し始めると、何気無くリリスとリンディにも話し掛けて来た。

「君達はアイリス殿の知人なのか?」

尋ねて来た老人はイグアスと名乗った。
ノイマンの話では、幾つもの属性魔法に長けた魔導士であり、公国の政治にも助言を求められる立場の賢者だと言う。おそらくこの人物もノイマンの交渉相手の一人なのだろう。

リリスはアイリスの魔法学園での後輩であると自己紹介し、リンディはアイリスの妹であると自己紹介した。
その間、イグアスは二人の話を聞きながら、ふと何かを勘繰るような表情を見せた。

「君達二人は不思議な魔力の波動を放っているね。常人ならそれほどに感じないのだろうが、儂は魔力の質や波動には特に敏感なのだよ。」

「先ほどから君達には違和感を感じていたんだ。何と言うか・・・たくさんのスキルを隠し持っているような魔力の波動だな。」

うっ!
敏感な賢者様だわね。
どうしてそんな事を見抜けるのよ。

リリスはそんな事は無いですよと謙遜しながら、笑ってその場を誤魔化そうとした。
だがここでノイマンが話しに加わって来たのが誤算だった。

「ここに居るリリス君はミラ王国の王族からも一目置かれているのですよ。メリンダ王女様からも魔物の駆除や魔剣の解呪など、多岐に渡って依頼を受け、それをことごとくこなしていますからね。」

ちょっと!
ノイマン様!
余計な事を言わないでよ!

ノイマンの話にイグアスは、ほう!と唸ってリリスの顔をまじまじと見つめた。

嫌だわ、イグアス様の目が輝いているじゃないの。
賢者様の探求心に火が付いちゃったかしら・・・。

「リリス君とリンディ君だったね。明日、儂と一緒にレームのダンジョンの25階層に行ってみないか?」

突然何を言い出すのよ!

リリスはそう思いながらもふと思い返した。

「レームのダンジョンの25階層って、入り口から一気に転移出来るのですか? 25階層を攻略した後に出現するポータルで地上に戻ると、再度探索する際は26階層の入り口から入れるのではありませんか?」

「うん? 随分詳しいね。まるで既に攻略したようだな。」

あっ!
拙かったわね。
つい口走っちゃった。

「君の言う通り過去にはそうであった。それは古文書や伝承に裏付けられている。だが復活したレームのダンジョンは、過去の姿とは少し様相が変わっているんだ。」

「君の情報源は何だね?」

イグアスは興味津々で尋ねて来た。

ここは適当に誤魔化すしかないわね。
数百年前のレームのダンジョンに、潜入した事があるなんて言えるはずも無いわ。

「それは・・・私のご先祖でユリアスと言う名の賢者様から聞いた話です。レームのダンジョンの街に行くと伝えた際に、色々と教えて下さったんです。」

「う~む。先祖である賢者から聞いたと言う事は・・・その賢者はリッチなのだな。」

イグアスの言葉にリリスは黙って頷いた。

「レームのダンジョンについて、他に教えて貰った事はあるかね?」

「そうですね・・・・・」

リリスは少し思い巡らせた。

「24階層には魔物が出ず、25階層攻略の為の準備が出来ると聞きました。」

「それと25階層では50体ほどのスケルトンが出て来ると聞いています。」

リリスの話を聞いてイグアスはう~んと唸った。

「古文書に記載されている内容と一致しているね。」

「だが復活したレームのダンジョンでは24階層も魔物が出て来るのだ。そして転移のポータルとマーキングポイントは10階層、25階層、40階層の入り口に常備されている。」

そう言ってイグアスは少し間を置いた。

「25階層で出現するのはスケルトンで間違いない。魔剣や魔弓で武装した連中だが、その出現数は100体だよ。」

うっ!
倍になっている。
スタイルを若干変えたのかしら?

「それで、レームのダンジョンって何処まで攻略されたのですか?」

「うむ。43階層までは既に攻略されておる。伝承では150階層まであって、ラスボスは巨大なグリーンドラゴンだと言う話だ。」

まあ、そんなところまでは探索に行かないわよ。

「儂は35階層までは単独で攻略した。だがそれよりも下層の階層は儂の力量では少し荷が重いので、そこまでだと自分に言い聞かせておるのだよ。」

うんうん。
そう言う見切りを付けるって大事よね。
自分の力を過大評価していたら、幾つ命があっても足りないわよね。

イグアスとの会話はその後も進み、結局リリスとリンディはイグアスと共に、レームのダンジョンに行く事になってしまった。リリスのダンジョン攻略の様子を見たいと言う、賢者様の熱意に圧されてしまったのだ。
何かあればイグアスが全面的に二人を守ってくれると言うのだが、リンディと一緒なら不測の事態があっても大丈夫だろうとリリスは思っていた。



ドーム公国を訪れて3日目。

その日の朝からリリスとリンディは準備を整え、宿舎の前の広場で待機していた。
二人共、公国の軍から借りたレザーアーマーやガントレットを装着している。
その場にイグアスも同じような装備の姿で到着し、軍用馬車でレームのダンジョンの入り口に向かった。

レームのダンジョンの入り口で門番の兵士と挨拶を交わし、3人は内部に入っていった。
入り口の扉の奥には石造りの広間があって、その奥に本当のダンジョンの扉がある。
その扉の前に地面からマーキングポイントが突き出していた。

3人はそのマーキングポイントの宝玉に魔力を流した。
その直後、扉の前に半透明のパネルが出現した。
そのパネルには、1と25と記されている。
これはどの階層から始めるのかと言う意味だそうだ。

イグアスはパネルに手を伸ばし、25をタッチした。
その途端に3人の足元の近くにポータルが出現した。

「これは25階層の入り口に直行するポータルだよ。さあ、行こう!」

イグアスの指示でリリスとリンディもポータルに足を踏み入れ、そのまま転送されていった。




レームのダンジョンの25階層。

その入り口に3人は転送された。

広々とした草原が目に入る。
遠くには山並みがうっすらと見える。

それはリリスが時空の歪に巻き込まれて訪れた、数百年前のレームのダンジョンの25階層の光景とほぼ同じであった。

パターンは変わらないのね。

そう思いながら遠くの山並みを見ると、明らかにワームホールが出現しそうな気配が漂っている。

「あの辺りから出て来そうですね。」

そう言いながらリリスが山並みの一部を指差すと、イグアスはうんうんと嬉しそうな笑みを見せた。

「既に気配で察知しているのだね。やはり君は只者では無いな。」

「何となくそんな気がしただけですよ。」

リリスはそう答えるとリンディに話を振った。

「リンディ。シールドをよろしくね。」

「はい、勿論ですよ。亜空間シールドを先輩の周囲に張り巡らせますからね。」

空間魔法に長けたリンディが居るのは心強い。
いざとなったら空間ごと隔離して防御態勢を取れるのも安心出来る要素だ。

「さあ、そろそろ来るぞ。儂の出番は先ず無いと思うが、一応臨戦態勢を取って待機しているからね。」

イグアスはそう言うと数歩後ろに退いた。

その直後、ドドドドドッと言う地鳴りがして、山並みの一部にワームホールが出現した。
その穴からぞろぞろとスケルトンが湧き出してきた。

メタルアーマーがキラキラと光り、剣や弓を手にしているのが見える。
距離はまだ遠い。
ぞろぞろと前進しながらこちらに向かって来る。

だがリリスの目の前で思いもよらぬ事が起きた。

先頭に居た20体ほどのスケルトンが突然消えて、数秒後にリリスから100mほど先に出現したのだ。

うっ!
瞬間移動してきたの?

その様子を見てイグアスも驚き、うっ!と唸った。
ダンジョンメイトと言うリリスの特性は、相変わらずここでも発揮されているようだ。
だがリリスの驚きはそれだけでは留まらない。
更にその20体のスケルトンの左右の背後にも、それぞれ20体ずつのスケルトンが瞬間的に出現したのだ。

「リンディ!シールドを急いで!」

リリスの声にリンディははい!と答えて、瞬時に亜空間シールドをリリスの周囲に展開し、自分とイグアスの前方にも配備した。そのタイミングは絶妙だ。
スケルトンから放たれた矢がこちらに飛んで来て、リンディが設置した直後のシールドにカンカンと音を立ててぶつかって来た。

拙いわね。
先手を取っられた形に成っちゃったわ。

リリスは焦る思いを抑えつつ、魔力を循環させ、スケルトンの集団を迎え撃つ準備を整えたのだった。



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