落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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レーム再訪2

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レームの街外れの空き地。

捕縛したキラの言葉にリリスもリンディも少なからず動揺していた。

解析スキルで何か分かるかしら?

そう思ってリリスは、既に発動していた解析スキルに念を送った。

キラの症状を分析出来る?

『そうですね。体細胞を採取出来れば、ある程度の分析は可能です。』

体細胞?

『髪の毛で充分ですよ。』

ああ、そう言う事ね。


リリスはキラに話し掛け、魔力の触手でキラの髪の毛を数本採取した。
それを手元に引き寄せ、魔力の触手で包み込み、解析スキルの指示に従って自分の魔力の中に同化させた。

『しばらく時間をください。およそ10分で解析を終わらせます。』


ここでリリスはリンディの方に顔を向け、ふと口走ってしまった。

「約10分である程度まで解析出来るそうよ。」

当然の事ながらリリスの言葉に、えっ!と驚くリンディである。

「出来るそうよって・・・誰に聞いたんですか?」

うっ!
拙い事を言っちゃったわ!

リリスはリンディの問い掛けにそれは・・・・と言って黙り込んでしまった。
その様子にリンディも苦笑している。

「聞いちゃいけない事を聞いちゃったみたいですね。私もリリス先輩のように隠し事が色々とある身ですから、これ以上は聞きませんけどね。」

「うん。そう言って貰えると助かるわ。」

リリスの返答にリンディはうんうんと頷いた。

「先輩とはエイヴィス様と関りを持った同士の稀有な関係ですからね。」

そうだったわよね。

そう思ってふうっとため息をついたリリスに、リンディは何気なく問い掛けた。

「先輩って私のステータスの中身を見抜いていますか?」

「いいえ。完全には分からないわよ。ステータスの中に秘匿領域がある事は分かるんだけど・・・・・」

リリスの言葉にリンディは一瞬ギョッとしたが、再び愛くるしい笑顔に戻った。

「リリス先輩ってやはり尋常じゃ無いですね。その秘匿領域ってエイヴィス様が設定して下さったんですよ。この世界の如何なる存在も、私のステータス上に秘匿領域が存在する事を探知出来ない筈だと言っていましたけどね。」

リンディはそう言うと亜空間に閉じ込めたキラを見つめ、ふとリリスに問い掛けた。

「特殊な解析を可能としているスキル・・・・・ですか?」

「まあ、そんなところよ。」

そう受け流してリリスは時間の経過を待った。

約10分後。

解析スキルの返答がリリスの脳裏に浮かんだ。

『解析を終えました。解析自体は比較的容易でしたね。これは魔力を媒体とする種族限定の感染症です。だが明らかに自然のものではありません。意図的に創られたウィルスによるものです。』

種族限定って事は、他種族には感染しないのね?

『そうです。他種族には感染せず、キラの種族にのみ発症します。発症後は魔力の摂取障害による慢性的な魔力不足に陥ります。更に魔力の吸引も効率が落ち、与えられた魔力の吸収にも制限が加わります。』

そんなものを意図的に創るなんて・・・・・キラ達を滅ぼすつもりで?

『そうでしょうね。そう考えるのが妥当です。』

酷いわね。
言葉も無いわ。
それってダークエルフ間の部族抗争みたいなものなの?

『実は・・・』

解析スキルが珍しく言い淀んだ。

『キラはダークエルフではありません。魔族ですね。』

ええっ!
魔族なの?

『はい。見た目はかなりダークエルフに近い種族ですが、体細胞からの鑑識では明らかに魔族です。』

でも目が赤く無いわよ。

『それは一部の魔族で感情が高ぶった際に見受けられる現象です。』

『過去の文献や古文書の記述を勘案すると、恐らく人族や獣人に敵対しない魔族だと思われます。』

それって以前にも聞いた事があるんだけど、人族に友好的な魔族って居るのね。

『人族に友好的な魔族は記録に残っているもので約10部族居ますが、そもそも人族に無関心な部族はその3倍は居るだろうと言われています。』

『彼等は人族や獣人に無関心なので、あえて目の前に現れる事も無くひっそりと暮らしているようです。』

無言で解析スキルとやり取りしているリリスの横で、リンディが心配そうにリリスの顔を見つめていた。

リンディにここまでの解析内容を伝えると、リンディはえっ!と驚きキラを見つめた。

「キラって・・・魔族なんですね。」

リンディの言葉を耳にして、キラはウっと呻いて顔を上げ、再び顔を伏せて呟いた。

「私達って・・・人族が嫌いじゃないから・・・」

魔族と言うだけで排除されると思っているのだろう。
確かに魔族は人族と敵対するものだと言う先入観が、人族側にもあるのは事実だが。

リリスは再び解析スキルに尋ねた。

解析が比較的容易だったって事は、その治癒の方法も分かるの?

『汎用的なワクチンは生成出来ますが、それがどれだけ効果を上げるかは不明ですね。』

でも他に方法が思いつかないわね。

『これが呪いであれば、解呪の手段方法は数千年の歴史の中で様々なものが研究されてきましたので、むしろ容易だったかも知れません。』

『ですがウィルス性のものとなると、該当する対処方法が圧倒的に少なくなってしまいます。それで提案なのですが・・・』

うん?
提案って何?

『脳内記憶を参照させてください。』

それって・・・・・元の世界での記憶って事?

『そうです。あなた自身の記憶以外にも、種族全体の記憶が連綿と脳細胞の奥底に受け継がれてきていたはずです。完全でなくても、少しでもそれが残っていれば参考になりますので。』

種族全体の記憶って・・・人類共有の記憶って事?

『あなたの言葉を借りれば人類の叡智と言うべきものですね。』

う~ん。
そんなものが残っているの?

『アルバが言っていたように、あなたは元の世界では核となる者の一人だったのです。それ故に他の者よりも遺伝子情報や記憶情報として、過去から受け継いできたものは圧倒的に多いはず・・・・』

私個人の元の世界での記憶は残っているけど、それ以外のものはあったとしても違う肉体で残っているかしら?

『残っている可能性は高いと思います。』

そうなの?
まあ、良いわ。
他に方法が無いなら参考にしてよ。

『了解しました。5分ほど掛かりますので、座って身体を楽にしていてください。』

リリスは解析スキルの指示に従い、少し大きな石の上にタオルを乗せ、静かにその上に座った。

「リリス先輩。どうしたんですか?」

リリスの行動を不思議がるリンディに、リリスは静かに語り掛けた。

「今、私のスキルが色々と方策を練っているのよ。5分ほど待ってね。」

そう言ってリリスは静かに目を閉じた。

「まあ、先輩の事だから、何があっても驚きませんけどね。でもまるでスキルと会話しているみたいだわ。」

リンディは小さな声でそう呟きながら、リリスの傍に腰を下ろした。


リリスの脳裏に激しく閃光が走る。
勿論可視化していないが、そんな感覚を感じたのだ。

頭の中を激しく精査されている。
それを感じながらもリリスは極めて冷静だった。

その様子をリンディとキラがじっと見つめている。

しばらくしてリリスの脳裏に解析スキルの念が浮かび上がった。

『色々と参考にさせていただきました。魔法の存在しない世界での病理学と言うものは実に興味深いですね。』

参考になったのなら良いわ。
それで解決策は浮かんだの?

『それなら既に準備しました。』

あらっ!
手際が良いわね。

『褒めていただいて恐縮です。実はキラ達に蔓延していたウィルスの構造は、極単純なものだったのですよ。』

『空気感染するウィルスに魔法で魔力阻害因子を植え付けただけのものです。それを改良して魔力の阻害因子を持たず、しかも元のウィルスを排除してしまう異性体を創ってみました。』

『これから大量に生成しますので、それなりの魔力を費やしますね。』

その念と共にリリスの身体中の魔力が体内の一点に集中し、身体中が熱くなってきた。

これってどうやってその効果を確かめるの?

『それはキラの身体で確かめるしかありませんね。魔力の触手で包み込んでキラの身体に吸収させてみてください。』

人体実験かあ。
でも仕方が無いわね。

リリスは目を開けてすくっと立ち上がった。
リリスの身体の中で増殖された大量のウィルスが魔力と共に循環している。それを魔力の触手の先端に集結させ、リリスは亜空間の中にそれを挿入した。

「キラ。薬を造ったから今からあげるわね。」

リリスの言葉にキラはえっ!と驚いた。
だがあれこれと説明しても意味が無い。
リリスは問答無用でキラの身体に魔力の触手を撃ち込み、ウィルスの集結した魔力をキラの身体の中に流し込んだ。

「何を・・・何をしたの?」

少し怯えるキラにリリスは笑顔を向けた。

「だから、薬だってば。少し時間が経てば楽になる筈よ。」

そうは言ったものの確信は無いのだが。

だが意外にも5分ほどで、キラの顔色が良くなってきた。
キラの身体を巡る魔力の存在を確認したリリスは、その効果の速さに驚いた。

『撃ち込んだ魔力の質と濃度が、そもそもこの世界では有り得ないほど高いですからね。ウィルスの増殖とそれによる効果がかなり促進されているんですよ。』

解析スキルの説明にリリスは納得した。
キラは亜空間の中で嬉しそうに動き回り始めた。

「身体が軽いわ。魔力も生み出されてきたみたい。お姉ちゃん、ありがとう。」

キラは嬉しそうに頭を下げた。
その傍にリンディが近付いた。

「もう捕縛しておく必要は無いですよね。」

リリスが頷くとリンディは亜空間を解除し、キラをその場に解放した。

それでこれからなんだけど、キラの村に行って同じことをするの?

リリスの疑問への解析スキルの返答は、極めて安易なものだった。

『放置して大丈夫です。キラを村に帰らせれば良いだけです。』

そうなの?

『ウィルスの異性体が空気感染で村中に広がりますから、早々に元の原因となったウィルスを駆逐しますよ。』

う~ん。
キラをキャリアーとして使おうとしているのね。

『そう言う事です。』

分かったわ。ありがとう。

リリスは解析スキルの労をねぎらい、リンディに事の次第を簡潔に説明した。
リンディは狐につままれたような表情だったが、元気になったキラを見てリリスの言葉を受け入れた。

「このまま村に返せば良いんですね。」

「そう。帰って貰わないと村人達が困るのよ。」

そう言ってふとキラを見ると、そのあどけない笑顔がリリスの母性をくすぐった。

このまま帰らせるのも芸が無いわよね。

そう思い立ったリリスは、キラの為に可愛い衣装やアクセサリーを買い与え、屋台の肉饅頭を持たせて送り出した。

「リリス先輩ったら、まるでキラのお母さんみたいですね。」

「何を言っているのよ。お姉さんと言ってよね。」

そんな会話で和んでいる中、キラは感謝の言葉と共に何度も頭を下げ、別れの挨拶をしながらスッと闇の中に消えていった。

魔族の村ってどんなのかしら?
魔族の村だから魔界村とでも言うのかしら?
でもそれはそうとしてお腹が空いちゃったわね。

あれこれと考えながら、リリスはリンディと共にレームの街の中心街に戻り、飲食店や屋台を巡り始めたのだった。










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