252 / 369
レーム再訪4
しおりを挟む
レームのダンジョンの25階層。
迫りくるスケルトンの集団を迎え撃たなければならない。
リリスは先ず泥沼や土壁を形成するために、土魔法の魔力を放った。
リリスの前方に長さ50m幅10mほどの泥沼が形成された。
更に魔力を注ぎ、その両脇に高さ2m程の土壁を造り上げた。
スケルトンが相手なので高い土壁は必要ない。
敵が飛び越えて来る危険性は無いからだ。
その手際の良さにイグアスはほうっ!と声をあげた。
だが泥沼や土壁は時間稼ぎの手段に過ぎない。
例え瞬間移動して目前に出現したとしても、そこには泥沼が待っているので、先手を取られる事は無い筈だと言うのがリリスの策略である。
改めて魔力を集中させ、リリスは両手に5本づつのファイヤーボルトを出現させた。
相手が動きの鈍いスケルトンなので、スピードを重視する必要は無い。
あくまでも火力重視の火矢だ。
リリスの前方に居た20体のスケルトン達にそれらは着弾し、激しい爆炎を上げてスケルトン達を焼き払った。
密集していたので巻き添えで焼かれてしまったスケルトンも居たようだ。
続いてリリスの左右斜め前方に配していたスケルトン達にも、リリスは容赦なくファイヤーボルトを放った。
左側の20体のスケルトンに着弾し、爆炎を上げて燃え盛る。
瞬時にリリスは右側の20体のスケルトンにもファイヤーボルトを放った。
だがそれらがスケルトン達に着弾する直前、スケルトン達の姿がふっと消えた。
うっ!
逃げられちゃったわ。
何もない大地に火柱が上がる。
それを忌々しく思いながら敵の気配を探ろうとしていると、スケルトン達は突然泥沼に位置に出現してしまった。
彼等はそのまま泥沼に嵌り込み、バシャバシャと激しく動き回ってそこから離脱しようとしている。
そのタイミングを逃さず、リリスはファイヤーボルトを連続で放った。
40本以上の火矢がスケルトン達に向かい、ランダムに着弾していく。
その激しい爆炎と共に泥が巻き上がり、大地がドドドドドッと激しく揺れた。
その様子を見ながらもリリスは油断していない。
残りのスケルトン達を探知しながら気配を探ると次の瞬間、泥沼の右側に配していた土壁がドーンと音を立てて崩れ去った。
瞬間移動の位置座標を間違えたのか、スケルトン達が土壁に衝突し、隊列を崩してよろめいていた。
それはリリスにとって格好の餌食である。
瞬時にファイヤーボルトを放ったリリスは、その着弾と爆炎を見届けると更に探知を掛けた。
後20体のスケルトンが残っているはず・・・。
だがスケルトンの気配が無い。
目を凝らして周囲を探知すると、かなり後方に20体のスケルトンが出現した。
一旦退避したのだろうか?
そのスケルトン達はその場から動かず、色々な光を放ちながら魔力を循環させているようだ。
アップデートしているの?
拙いと思ってリリスはそのスケルトン達にファイヤーボルトを放った。
10本の火矢がキーンと金切り音を上げて20体のスケルトンに向かい、全弾着弾するかのように思えた。
だが、スケルトン達の周囲に突然半透明のシールドが出現し、ファイヤーボルトの着弾を阻止してしまった。
敵のシールドの表面で火矢が激しく爆炎を上げる。
だがスケルトン達は無傷だ。
シールドが取り払われ、前進し始めたスケルトン達は、その様相が明らかに変わっていた。
その全身から赤い光を放ち、その周囲を幾つもの宝玉が周回している。
もしかして火魔法の耐性を強化したの?
嫌な気配を感じながら、リリスは再びスケルトン達にファイヤーボルトを放った。
キーンと金切り音を立て、10本の火矢が敵に向かった。
だが着弾した瞬間に爆炎は上がったのだが、瞬時に消え去ってしまった。
やはり火魔法を無効化しているようだ。
仕方が無いわねえ。
リリスは土魔法の発動に切り替え、スケルトン達の足元に深さ10mほどの泥沼を出現させた。
泥沼にはまり込んだスケルトン達を見ながら、即座にリリスはリンディに向かって叫んだ。
「リンディ! あの泥沼の周囲を隔離して!」
リンディはハイと答えて空間魔法を発動させ、泥沼を包み込む様に亜空間シールドで隔離した。
これでスケルトン達は万一瞬間移動を発動出来ても、泥沼の中から逃げ出せないだろう。
リリスは即座に泥沼を硬化させた。
敵を身動きの取れない状態にした上で、土魔法と火魔法を連携させて放っていく。
硬化された泥沼がそのまま溶岩の塊になっていくのだ。
球体上に隔離された亜空間の中は徐々に温度を上げ、溶岩のるつぼと化してしまった。
その球体上の上半分がこちらから見えている。
ぐつぐつと燃えたぎる溶岩の中では、さすがにスケルトンの火魔法の耐性も効果を失ってしまったようだ。
時折溶岩の中からスケルトンの一部が見え隠れしていたが、それも程なく消え去ってしまった。
もう良いわよね。
リリスはリンディに亜空間シールドの解除を指示した。
解除した途端に溶岩の炎熱が一気に広がって来た。
リリスはその溶岩の沼を土魔法で大地に戻し、その表面を硬化させ火魔法への耐性を付与した。
それによってまだ残っている地下の炎熱を遮るためだ。
リリスの一連の攻撃を見て、イグアスは深くため息をついた。
「お前の技量がここまでとは思わなかったぞ。最後のスケルトン達は、かなり高度の火魔法への耐性を身に付けていたはずだ。」
「それを問答無用で火力で押し切るとはなあ。」
そう呟きながら、イグアスはリンディと共にリリスの傍に駆け寄った。
だがその時、突然地面がゴゴゴゴゴッと地鳴りを響かせ、その振動が足元から激しく伝わってくる。
何事かと思って前を見ると、100mほど離れた地面に黒く大きな円が現われた。
「ワームホールだ! まだ何か出て来るのか?」
イグアスの叫びと同時にリリスの身体に戦慄が走った。
ワームホールの奥から、とてつもなく大きな魔物の気配が漂ってきたからだ。
この気配はまさか・・・・・。
三人が見つめる中、ワームホールの奥からグオオオオオオッと言う咆哮が聞こえて来た。
これは明らかに竜だ!
ワームホールから巨大な緑の顔が出て来たかと思うと、そのままグッと伸び上がるように竜が姿を現わした。
「グリーンドラゴンだ! こいつはこのダンジョンの最終階層の魔物のはずだ。そのラスボスがどうしてここに・・・」
イグアスの狼狽える声がリリスの耳に響いた。
グリーンドラゴンは翼を広げた姿で立ち上がった。その全長は20m以上ありそうだ。
瘴気と妖気を放ち、リリス達をグッと睨んだ。
3人の脳裏に戦慄が走る。
睨み付けた表情のまま、グリーンドラゴンは前屈みになり、ドーンと言う音を立てて前脚を地面に付けた。
その大きな顔がこちらに向かっている。
拙い!
ブレスを吐くつもりなの?
慌ててリンディにこの空間からの隔離を要請しようとしたリリスだが、その心配とは裏腹に、グリーンドラゴンは意外な仕草を見せた。
その大きな頭部を地面に付けたのだ。
まるでリリス達に屈しているかのような姿勢だ。
これって何なの?
唖然としているリリス達の目の前に、突然黒い人影が音も無くスッと現われた。
黒い影は目鼻もなく、のっぺりとした顔をこちらに向け、リリスの方に近付いて来た。
「お前がリリスなのか?」
低い声がリリスの耳に届いた。
不思議に敵意を感じない。
むしろ好意的な波動を纏っているように感じる。
リリスがハイと返事をすると、黒い人影はうんうんと頷くそぶりを見せた。
「儂の名はギグル、このダンジョンのダンジョンマスターだ。」
「ダンジョンコアがお前に謝意を伝えたいと言うので、儂が代わりに挨拶に来たのだよ。」
ギグルの言葉にリリスはそうなのかと思ったが、イグアスとリンディには何の事なのか全く分からない。
「ダンジョンコアが謝意を伝えるとはどう言う事だ?」
そう呟きながらイグアスはリンディと顔を見合わせた。
リンディも首を傾げるだけなのだが。
ギグルがパチンと指を鳴らすと、地に臥したグリーンドラゴンの目の前から赤い絨毯が出現し、リリスの目の前にまで音も無く伸びて来た。
「これってレッドカーペットなの? ここを歩けと言うの?」
リリスの問い掛けにギグルはうんうんと頷いた。
「グリーンドラゴンの頭部に触れて魔力を少し流してくれ。グリーンドラゴンも魔力を返してくるはずだ。」
「人族が高潔な竜と魔力による交歓をする機会など、まず無いだろうからな。その機会をお前に与える事で、コアが謝意を伝えたいのだろう。」
ギグルの言葉にリリスはそうなのかと思いながら、ゆっくりとレッドカーペットを進んだ。
私への謝意って、私の魔力で完全復活のきっかけを得たからなの?
それならそう仕向けたロキ様に感謝すべきだと思うけど・・・。
あれこれと思いながらリリスはグリーンドラゴンの大きな頭部の前に立ち、手を触れて魔力を流した。
その途端にグリーンドラゴンは目を見開き、うっと呻いてリリスの顔をじっと見つめた。
「何と濃厚な魔力だ。お前は本当に人族なのか? それに強大な竜の気配が魔力に込められているぞ。」
そう言いながらグリーンドラゴンは改めて魔力をリリスの手に返した。
濃厚な竜の魔力が伝わってくる。
だが覇竜であるリンの魔力に比べれば、まだ若干希薄かも知れない。
リリスはグリーンドラゴンに礼を言って、その頭部から手を離した。
その場でグリーンドラゴンに背を向け、ギグルの傍まで戻って来たリリスはふと尋ねた。
「あのグリーンドラゴンはこのダンジョンの最終階層の魔物なんですか?」
「そうだ。最終階層ではあのグリーンドラゴンと闘う事になる。その日を待っているぞ。」
いやいや。
絶対にそこまで行かないからね。
心の中ではそう思いながら、リリスはギグルの傍を離れようとした。
だがその時、グリーンドラゴンがギグルに声を掛けた。
「その娘を立ち去らせないでくれ。その娘は強大な竜の加護を持っているはずだ。是非この場で我輩と対決させてくれ。」
何を言い出すのよ!
リリスの心の声を感じ取った様に、ギグルはグリーンドラゴンに話し掛けた。
「この場で対決とはどう言う事だ? お前は最終階層でなければ、本来のスキルや力を発揮出来ないはずだ。」
「それは分かっている。我輩がこの場で放てるのは威圧や瘴気や妖気のみだからな。威圧のぶつけ合いをしたいと言っておるのだ。」
そう言ってグリーンドラゴンはその場に立ち上がった。
「威圧のぶつけ合いって言われても、私は威圧なんて放てないですよ。」
リリスの言葉にギグルはうんうんと頷いた。
だがグリーンドラゴンはそれでも引かない。
「我輩が威圧のぶつけ合いをしたい相手は、お前本人ではなくお前にその加護を与えた竜だ。我輩が本気で威圧を放てば、お前の持つ加護は必ずそれに対応するだろう。」
「威圧のぶつけ合いは竜同士の挨拶のようなものだからな。」
挨拶って言われてもねえ。
どうして良いのか分からず思いあぐねるリリスの様子を見ながら、ギグルはニヤッと笑った。
「奴があそこまで言っておるのだ。軽い気持ちで付き合ってやってくれ。ブレスのぶつけ合いをしろと、言っているのではないのだから。」
そう言われてもまだ躊躇しているリリスに、背後からイグアスが言葉を掛けた。
「とりあえずやってみたら良いのではないか。威圧だけなら実害は無さそうだし・・・・・」
イグアスの言葉に背中を押されるように、リリスはグリーンドラゴンの申し出を承諾した。
グリーンドラゴンはうむと唸って、リリスの傍から後ずさりをし、20mほどの距離を開けた。
その場に立ち上がったその姿は迫力満点だ。
頭頂まで20mほどもある大きな竜がリリスの前に立ち上がっている。
その両方の翼を大きく広げ、グリーンドラゴンはグーッと深く息を吸った。
「我輩の渾身の威圧を受けて見よ!」
グリーンドラゴンの身体中に激しく魔力が循環し、地面がビリビリと振動し始めた。
「グオオオオオオオッ!」
大きな咆哮と共に大気も震え始めた。
間も無く強烈な威圧に襲われるに違いない。
リリスは念のため魔装を非表示で発動させ、こぶしを強く握り締めて身構えたのだった。
迫りくるスケルトンの集団を迎え撃たなければならない。
リリスは先ず泥沼や土壁を形成するために、土魔法の魔力を放った。
リリスの前方に長さ50m幅10mほどの泥沼が形成された。
更に魔力を注ぎ、その両脇に高さ2m程の土壁を造り上げた。
スケルトンが相手なので高い土壁は必要ない。
敵が飛び越えて来る危険性は無いからだ。
その手際の良さにイグアスはほうっ!と声をあげた。
だが泥沼や土壁は時間稼ぎの手段に過ぎない。
例え瞬間移動して目前に出現したとしても、そこには泥沼が待っているので、先手を取られる事は無い筈だと言うのがリリスの策略である。
改めて魔力を集中させ、リリスは両手に5本づつのファイヤーボルトを出現させた。
相手が動きの鈍いスケルトンなので、スピードを重視する必要は無い。
あくまでも火力重視の火矢だ。
リリスの前方に居た20体のスケルトン達にそれらは着弾し、激しい爆炎を上げてスケルトン達を焼き払った。
密集していたので巻き添えで焼かれてしまったスケルトンも居たようだ。
続いてリリスの左右斜め前方に配していたスケルトン達にも、リリスは容赦なくファイヤーボルトを放った。
左側の20体のスケルトンに着弾し、爆炎を上げて燃え盛る。
瞬時にリリスは右側の20体のスケルトンにもファイヤーボルトを放った。
だがそれらがスケルトン達に着弾する直前、スケルトン達の姿がふっと消えた。
うっ!
逃げられちゃったわ。
何もない大地に火柱が上がる。
それを忌々しく思いながら敵の気配を探ろうとしていると、スケルトン達は突然泥沼に位置に出現してしまった。
彼等はそのまま泥沼に嵌り込み、バシャバシャと激しく動き回ってそこから離脱しようとしている。
そのタイミングを逃さず、リリスはファイヤーボルトを連続で放った。
40本以上の火矢がスケルトン達に向かい、ランダムに着弾していく。
その激しい爆炎と共に泥が巻き上がり、大地がドドドドドッと激しく揺れた。
その様子を見ながらもリリスは油断していない。
残りのスケルトン達を探知しながら気配を探ると次の瞬間、泥沼の右側に配していた土壁がドーンと音を立てて崩れ去った。
瞬間移動の位置座標を間違えたのか、スケルトン達が土壁に衝突し、隊列を崩してよろめいていた。
それはリリスにとって格好の餌食である。
瞬時にファイヤーボルトを放ったリリスは、その着弾と爆炎を見届けると更に探知を掛けた。
後20体のスケルトンが残っているはず・・・。
だがスケルトンの気配が無い。
目を凝らして周囲を探知すると、かなり後方に20体のスケルトンが出現した。
一旦退避したのだろうか?
そのスケルトン達はその場から動かず、色々な光を放ちながら魔力を循環させているようだ。
アップデートしているの?
拙いと思ってリリスはそのスケルトン達にファイヤーボルトを放った。
10本の火矢がキーンと金切り音を上げて20体のスケルトンに向かい、全弾着弾するかのように思えた。
だが、スケルトン達の周囲に突然半透明のシールドが出現し、ファイヤーボルトの着弾を阻止してしまった。
敵のシールドの表面で火矢が激しく爆炎を上げる。
だがスケルトン達は無傷だ。
シールドが取り払われ、前進し始めたスケルトン達は、その様相が明らかに変わっていた。
その全身から赤い光を放ち、その周囲を幾つもの宝玉が周回している。
もしかして火魔法の耐性を強化したの?
嫌な気配を感じながら、リリスは再びスケルトン達にファイヤーボルトを放った。
キーンと金切り音を立て、10本の火矢が敵に向かった。
だが着弾した瞬間に爆炎は上がったのだが、瞬時に消え去ってしまった。
やはり火魔法を無効化しているようだ。
仕方が無いわねえ。
リリスは土魔法の発動に切り替え、スケルトン達の足元に深さ10mほどの泥沼を出現させた。
泥沼にはまり込んだスケルトン達を見ながら、即座にリリスはリンディに向かって叫んだ。
「リンディ! あの泥沼の周囲を隔離して!」
リンディはハイと答えて空間魔法を発動させ、泥沼を包み込む様に亜空間シールドで隔離した。
これでスケルトン達は万一瞬間移動を発動出来ても、泥沼の中から逃げ出せないだろう。
リリスは即座に泥沼を硬化させた。
敵を身動きの取れない状態にした上で、土魔法と火魔法を連携させて放っていく。
硬化された泥沼がそのまま溶岩の塊になっていくのだ。
球体上に隔離された亜空間の中は徐々に温度を上げ、溶岩のるつぼと化してしまった。
その球体上の上半分がこちらから見えている。
ぐつぐつと燃えたぎる溶岩の中では、さすがにスケルトンの火魔法の耐性も効果を失ってしまったようだ。
時折溶岩の中からスケルトンの一部が見え隠れしていたが、それも程なく消え去ってしまった。
もう良いわよね。
リリスはリンディに亜空間シールドの解除を指示した。
解除した途端に溶岩の炎熱が一気に広がって来た。
リリスはその溶岩の沼を土魔法で大地に戻し、その表面を硬化させ火魔法への耐性を付与した。
それによってまだ残っている地下の炎熱を遮るためだ。
リリスの一連の攻撃を見て、イグアスは深くため息をついた。
「お前の技量がここまでとは思わなかったぞ。最後のスケルトン達は、かなり高度の火魔法への耐性を身に付けていたはずだ。」
「それを問答無用で火力で押し切るとはなあ。」
そう呟きながら、イグアスはリンディと共にリリスの傍に駆け寄った。
だがその時、突然地面がゴゴゴゴゴッと地鳴りを響かせ、その振動が足元から激しく伝わってくる。
何事かと思って前を見ると、100mほど離れた地面に黒く大きな円が現われた。
「ワームホールだ! まだ何か出て来るのか?」
イグアスの叫びと同時にリリスの身体に戦慄が走った。
ワームホールの奥から、とてつもなく大きな魔物の気配が漂ってきたからだ。
この気配はまさか・・・・・。
三人が見つめる中、ワームホールの奥からグオオオオオオッと言う咆哮が聞こえて来た。
これは明らかに竜だ!
ワームホールから巨大な緑の顔が出て来たかと思うと、そのままグッと伸び上がるように竜が姿を現わした。
「グリーンドラゴンだ! こいつはこのダンジョンの最終階層の魔物のはずだ。そのラスボスがどうしてここに・・・」
イグアスの狼狽える声がリリスの耳に響いた。
グリーンドラゴンは翼を広げた姿で立ち上がった。その全長は20m以上ありそうだ。
瘴気と妖気を放ち、リリス達をグッと睨んだ。
3人の脳裏に戦慄が走る。
睨み付けた表情のまま、グリーンドラゴンは前屈みになり、ドーンと言う音を立てて前脚を地面に付けた。
その大きな顔がこちらに向かっている。
拙い!
ブレスを吐くつもりなの?
慌ててリンディにこの空間からの隔離を要請しようとしたリリスだが、その心配とは裏腹に、グリーンドラゴンは意外な仕草を見せた。
その大きな頭部を地面に付けたのだ。
まるでリリス達に屈しているかのような姿勢だ。
これって何なの?
唖然としているリリス達の目の前に、突然黒い人影が音も無くスッと現われた。
黒い影は目鼻もなく、のっぺりとした顔をこちらに向け、リリスの方に近付いて来た。
「お前がリリスなのか?」
低い声がリリスの耳に届いた。
不思議に敵意を感じない。
むしろ好意的な波動を纏っているように感じる。
リリスがハイと返事をすると、黒い人影はうんうんと頷くそぶりを見せた。
「儂の名はギグル、このダンジョンのダンジョンマスターだ。」
「ダンジョンコアがお前に謝意を伝えたいと言うので、儂が代わりに挨拶に来たのだよ。」
ギグルの言葉にリリスはそうなのかと思ったが、イグアスとリンディには何の事なのか全く分からない。
「ダンジョンコアが謝意を伝えるとはどう言う事だ?」
そう呟きながらイグアスはリンディと顔を見合わせた。
リンディも首を傾げるだけなのだが。
ギグルがパチンと指を鳴らすと、地に臥したグリーンドラゴンの目の前から赤い絨毯が出現し、リリスの目の前にまで音も無く伸びて来た。
「これってレッドカーペットなの? ここを歩けと言うの?」
リリスの問い掛けにギグルはうんうんと頷いた。
「グリーンドラゴンの頭部に触れて魔力を少し流してくれ。グリーンドラゴンも魔力を返してくるはずだ。」
「人族が高潔な竜と魔力による交歓をする機会など、まず無いだろうからな。その機会をお前に与える事で、コアが謝意を伝えたいのだろう。」
ギグルの言葉にリリスはそうなのかと思いながら、ゆっくりとレッドカーペットを進んだ。
私への謝意って、私の魔力で完全復活のきっかけを得たからなの?
それならそう仕向けたロキ様に感謝すべきだと思うけど・・・。
あれこれと思いながらリリスはグリーンドラゴンの大きな頭部の前に立ち、手を触れて魔力を流した。
その途端にグリーンドラゴンは目を見開き、うっと呻いてリリスの顔をじっと見つめた。
「何と濃厚な魔力だ。お前は本当に人族なのか? それに強大な竜の気配が魔力に込められているぞ。」
そう言いながらグリーンドラゴンは改めて魔力をリリスの手に返した。
濃厚な竜の魔力が伝わってくる。
だが覇竜であるリンの魔力に比べれば、まだ若干希薄かも知れない。
リリスはグリーンドラゴンに礼を言って、その頭部から手を離した。
その場でグリーンドラゴンに背を向け、ギグルの傍まで戻って来たリリスはふと尋ねた。
「あのグリーンドラゴンはこのダンジョンの最終階層の魔物なんですか?」
「そうだ。最終階層ではあのグリーンドラゴンと闘う事になる。その日を待っているぞ。」
いやいや。
絶対にそこまで行かないからね。
心の中ではそう思いながら、リリスはギグルの傍を離れようとした。
だがその時、グリーンドラゴンがギグルに声を掛けた。
「その娘を立ち去らせないでくれ。その娘は強大な竜の加護を持っているはずだ。是非この場で我輩と対決させてくれ。」
何を言い出すのよ!
リリスの心の声を感じ取った様に、ギグルはグリーンドラゴンに話し掛けた。
「この場で対決とはどう言う事だ? お前は最終階層でなければ、本来のスキルや力を発揮出来ないはずだ。」
「それは分かっている。我輩がこの場で放てるのは威圧や瘴気や妖気のみだからな。威圧のぶつけ合いをしたいと言っておるのだ。」
そう言ってグリーンドラゴンはその場に立ち上がった。
「威圧のぶつけ合いって言われても、私は威圧なんて放てないですよ。」
リリスの言葉にギグルはうんうんと頷いた。
だがグリーンドラゴンはそれでも引かない。
「我輩が威圧のぶつけ合いをしたい相手は、お前本人ではなくお前にその加護を与えた竜だ。我輩が本気で威圧を放てば、お前の持つ加護は必ずそれに対応するだろう。」
「威圧のぶつけ合いは竜同士の挨拶のようなものだからな。」
挨拶って言われてもねえ。
どうして良いのか分からず思いあぐねるリリスの様子を見ながら、ギグルはニヤッと笑った。
「奴があそこまで言っておるのだ。軽い気持ちで付き合ってやってくれ。ブレスのぶつけ合いをしろと、言っているのではないのだから。」
そう言われてもまだ躊躇しているリリスに、背後からイグアスが言葉を掛けた。
「とりあえずやってみたら良いのではないか。威圧だけなら実害は無さそうだし・・・・・」
イグアスの言葉に背中を押されるように、リリスはグリーンドラゴンの申し出を承諾した。
グリーンドラゴンはうむと唸って、リリスの傍から後ずさりをし、20mほどの距離を開けた。
その場に立ち上がったその姿は迫力満点だ。
頭頂まで20mほどもある大きな竜がリリスの前に立ち上がっている。
その両方の翼を大きく広げ、グリーンドラゴンはグーッと深く息を吸った。
「我輩の渾身の威圧を受けて見よ!」
グリーンドラゴンの身体中に激しく魔力が循環し、地面がビリビリと振動し始めた。
「グオオオオオオオッ!」
大きな咆哮と共に大気も震え始めた。
間も無く強烈な威圧に襲われるに違いない。
リリスは念のため魔装を非表示で発動させ、こぶしを強く握り締めて身構えたのだった。
10
あなたにおすすめの小説
異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが
初
ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
天才魔導医の弟子~転生ナースの戦場カルテ~
けろ
ファンタジー
【完結済み】
仕事に生きたベテランナース、異世界で10歳の少女に!?
過労で倒れた先に待っていたのは、魔法と剣、そして規格外の医療が交差する世界だった――。
救急救命の現場で十数年。ベテラン看護師の天木弓束(あまき ゆづか)は、人手不足と激務に心身をすり減らす毎日を送っていた。仕事に全てを捧げるあまり、プライベートは二の次。周囲からの期待もプレッシャーに感じながら、それでも人の命を救うことだけを使命としていた。
しかし、ある日、謎の少女を救えなかったショックで意識を失い、目覚めた場所は……中世ヨーロッパのような異世界の路地裏!? しかも、姿は10歳の少女に若返っていた。
記憶も曖昧なまま、絶望の淵に立たされた弓束。しかし、彼女が唯一失っていなかったもの――それは、現代日本で培った高度な医療知識と技術だった。
偶然出会った獣人冒険者の重度の骨折を、その知識で的確に応急処置したことで、弓束の運命は大きく動き出す。
彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。
「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」
強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。
「菌?感染症?何の話だ?」
滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級!
しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。
規格外の弟子と、人外の師匠。
二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。
これは、神のいない手術室で命と向き合い続けた一人の看護師が、新たな世界で自らの知識と魔法を武器に、再び「救う」ことの意味を見つけていく物語。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~
存在証明
ファンタジー
不慮の事故によって異世界に転生したカイ。異世界でも家族に疎まれる日々を送るがある日赤い瞳の少年と出会ったことによって世界が一変する。突然街を襲ったスタンピードから2人で隣国まで逃れ、そこで冒険者となったカイ達は仲間を探して冒険者ライフ!のはずが…?!
はたしてカイは運命をぶち壊して幸せを掴むことができるのか?!
火・金・日、投稿予定
投稿先『小説家になろう様』『アルファポリス様』
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる