落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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レーム再訪5

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威圧のぶつけ合い。

グリーンドラゴンはそれを竜同士の挨拶のようなものだと言う。

そうは言ってもリリスは生身の人族だ。

20mほど離れた距離で受けるグリーンドラゴンの威圧は、想像以上に強烈だった。

魔力の塊で身体を打たれた様な衝撃が伝わってくる。
その威圧の波動でリリスの身体の中を掻き回され、全身から冷や汗が流れ出した。
強烈な威圧の波動が周辺にも及び、イグアスもリンディも立っていられず、その場に膝をついてしまった。

即座にリンディは亜空間シールドの重ね張りで自分とイグアスを隔離したが、それでも威圧の余波を若干受けているようだ。

リリスもその場に立っていられず、膝をついてグリーンドラゴンを見上げていた。

だがそのリリスの脳内で突然、ピンッと言う音がした。
本当の音か否かも分からない。
まるで何かの留め金が外れたような音としての認識だ。

それをきっかけにリリスの身体が勝手に立ち上がった。
魔力の循環が激しくなり、身体の中を魔力の潮流が渦巻いていく。
それと同時に魔力吸引スキルが発動され、周囲の大地や大気からも激しく魔力がリリスの身体に流れ込んできた。
それは竜巻のように渦巻き、ゴウッと音を立ててリリスの身体に流れ込んでくる。
激しい魔力の流れはリリスの頭頂部から上空へと昇り、リリスの身体を包み込む様な形に伸び上がった。
リリスの脳内が活性化され、沈黙していた脳細胞が全て動員され始めた。

何が始まっているの?

戸惑うリリスの脳裏で再びピンッと言う音が聞こえた。

うっ!
この感覚は・・・リミッターが解除されちゃったわ!

覇竜の加護がリリスの身体の組織を全て活性化させ、リリスの持つ全てのスキルをも掌握してしまったようだ。

魔力の吸引がますます激しくなり、リリスの身体を包み込んだ魔力の塊は高さ30mほどにもなった。
それは半透明の黒っぽい形に収束し、徐々に形を鮮明にさせて来た。

グリーンドラゴンの目の前に現れたのは、黒っぽい半透明の魔力で出来た巨大な竜の姿だった。
その巨大さにグリーンドラゴンも大きく目を見開き、うっ!と唸って見上げるだけだ。

これって・・・・・宝玉の中で見た、寿命を迎える直前のキングドレイクさんの姿だわ!

リリスがそう感じ取ったのと同時に様々なスキルが同時的に発動され始めた。

土魔法が発動されて強烈な加圧が一帯に掛かり、大地がバリバリバリと音を立ててひび割れ、大きな亀裂がリリスを中心に幾つも広がり始めた。
大地が震動し、その激しい振動で大きな土塊や岩石が高く舞い上がっていく。
更に火魔法が連携され、大地の各所から熱気が吹き上がり、小さな溶岩の池が幾つも現れて来た。

その上に風魔法も同時に発動された。
リリスを中心に暴風が吹き荒れ、それはトルネードとなって大地の熱気を巻き上げていく。

意外な事に疑似毒腺まで活性化され、何かを大量に生成し始めた。

ちょっと待ってよ!
この期に及んで何を造るつもりなの?

この時点でリリスの意志は全く伝わらない。
覇竜の加護が全てを掌握してしまっているからだ。

疑似毒腺によって生成された物。
それは瘴気だった。

こんなものまで造っちゃって、どうするのよ!

呆れるリリスの意志とは裏腹に、強烈な瘴気が大量に周囲に放たれた。
それは仮の姿ではありながら、竜の存在の証しである。
魔力で形造られた竜は大きく翼を広げ、グオオオオオオッと咆哮し強烈な威圧を放った。

大地がより一層激しく振動し、大気全体が揺さぶられるような衝撃が拡散されていく。

その波動はリンディの張り巡らせた亜空間シールドを打ち破り、リンディとイグアスはその場に臥してしまった。

強烈な威圧はグリーンドラゴンをも襲い、その威圧の激しさに一歩二歩と後ずさりを始めたほどだ。

グリーンドラゴンは驚愕の声をあげた。

「これは・・・覇竜の威圧ではないか! 何故だ? 何故この様な加護を人族が持っているのだ?」

強烈な威圧は収まる事なくグリーンドラゴンの身体を襲い続け、ついに圧倒してしまった。
グリーンドラゴンは耐え切れずにその場に膝をついてしまったのだ。

「分かった。我輩の負けを認めよう。だがこの屈辱は何時か晴らさせて貰うぞ!」

そう言いながら、グリーンドラゴンは魔力で出来たキングドレイクの姿を睨んだ。
グリーンドラゴンの足元に大きなワームホールが出現し、グリーンドラゴンはそのままその中に沈み込む様に消えていった。

どうやら勝負はついたようだ。

リリスの安堵と共に、リリスを包み込んでいた魔力の竜がスッと消えていった。
大地の状態も元に戻り、何事も無かったかのように大気の流れも穏やかになった。

だがその穏やかな情景とは裏腹に、リリスは疲労困憊していた。
その消耗のあまり足がふらつき、その場に両手をついて臥してしまったのだ。
魔力の消耗が激しく、脳内のリミッターの解除による精神や体力の損耗も著しい。
まるで疑似ブレスを吐いた後の様な状態だ。

ハアハアと肩で息をするリリスの傍に、ギグルが音も無く近付いて来た。

「お前はとんでもない奴だな。道理でダンジョンコアが一目置くはずだ。」

そう言いながらギグルはリリスの肩に手を置き、スッと魔力を流してきた。
その魔力と共に回復魔法が掛けられたようで、リリスの身体が少しづつ軽くなっていく。

「ありがとうございます。少し楽になりました。」

リリスは礼を言ってその場に立ち上がった。

「礼には及ばんよ。勝者へのねぎらいだ。」

ギグルはリリスの傍から半歩離れた。

「リリス。また会おう。」

ギグルはそう言うと、その場からフッと消え去ってしまった。
リリスの目の前には何事も無かったかのように、穏やかな情景が広がっているだけだ。

振り返るとイグアスとリンディがよろよろと立ち上がり、リリスの元に近付いて来た。

「儂は何を見せられていたんだ?」

イグアスはそう呟いて、自分の頭をポンポンと軽く叩いた。
その背後でリンディも頭を叩いている。

「多重の亜空間シールドを破られるなんて、思いませんでしたよ。」

そう言って呆れ顔のリンディにイグアスは失笑した。

「君も特異なスキルの持ち主だな。空間魔法に長けた獣人の娘など、今まで見た事も無かったぞ。もしや特殊な種族の血を引いておるのか?」

イグアスの言葉にリンディは頷いた。

「私の先祖にダークリンクスが居て、私は先祖返りの様なものなんです。」

「何! ダークリンクスだと?」

イグアスはそう叫んで頭を抱えた。

「そんな稀有な種族の血を引いておるのか。それなら有り得る事だがな。」

イグアスはそう言うとリリスの方に目を向けた。

「君達二人には驚かされるばかりだ。だがここでの出来事は儂の心の中だけに留めておこう。誰に話をしても信じて貰えそうにないからな。」

イグアスはふうっと大きなため息をついた。
リリスとリンディのスキルや能力は、賢者様の予想を遥かに超えてしまったようだ。

二人はお互いの顔を見合わせ、失笑するしかなかった。

色々な事があって疲れてしまったと言うイグアスの言葉を発端として、リリス達のダンジョン探索はお開きになった。
これは当然の帰結だろう。
ポータルから帰還したリリスとリンディは王都でイグアスと別れ、疲れもあって何処かに寄り道する事も無く宿舎に戻る事にした。
まだ昼過ぎなので街の散策などに興じる時間は充分あるのだが、覇竜の加護の過剰な発動で身体がまだ重い。
それでもギグルの施したスキルのお陰でかなり楽にはなって来た。

あの時に受けたのは何だったんだろう?
単なるヒールじゃなかったわね。

疑問を抱きつつもリリスは宿舎に急いでいた。
横になって身体を休めたい。
ヒールや細胞励起を発動させて体調を整えたい一心だった。





宿舎に辿り着いたリリスは、着替える事も無くベッドの上にダイブした。

「リリス先輩。行儀が悪いですよ。」

リンディが失笑しているが、リリスは気にも留めずに両手両足を広げ大の字になった。

そのまま細胞励起を発動させると同時に、脳裏に対象を問う言葉が浮かんできた。

自分を対象に発動すると決めると、次にどのレベルで発動するのかが問われてきた。
マックスからミニマムまでのゲージが脳裏に浮かぶ。

今回は中レベルで。

そう決めると大量の魔力で身体が包まれた。その魔力がスッと身体の内部に引き込まれ、身体の奥の方から心地良い波動が全身に伝わって来る。
それはヒールとはまた違った癒しの波動だ。細胞そのものが活性化されているのが分かる。

リリスはその心地良さにしばらく身を委ねていた。

その様子を見ながらリンディがリリスの傍に近付き、リリスの腕にそっと触れた。
その手にリリスの細胞励起の波動が若干伝わってくる。
それはリンディにとっても心地良く、今まで体験した事の無い感覚だった。

「先輩ったら、こんなスキルまで持っているのね。」

リンディの呟きを耳にして、リリスはえへへと照れ笑いをした。

細胞励起は10分間の時間制限が掛かっている。
今は中レベルでの発動だが魔力の消耗はかなり多い。
それを補うべく、リリスはマナポーションを取り出して飲み干した。
それでもまだ魔力は不足している。
本来ならアクティブモードで魔力吸引を発動させたいところだ。
だが部屋の中で発動させると、リンディの魔力を強制的に奪いかねない。

止むを得ず、リリスはパッシブモードで魔力吸引を発動させた。
これで少しは魔力の自己回復力が上がるだろう。

そう思って少し転寝をしていると、突然解析スキルが発動し、リリスの脳裏に警告が浮かび上がった。

『取り急ぎ、魔装を発動してください! 何者かがここに転移して来ます!』

転移って・・・ここは軍の敷地内だからセキュリティは厳重よ。そんなに簡単に転移出来ないわ。

『単なる空間魔法や転移の魔石などではありません。未知のスキルです。』

そんな事ってあるの?

疑問を抱きつつリリスは魔装を非表示で発動させた。
そのままベッドから上半身を起こすと、リリスの傍で椅子に座って寛いでいたリンディが突然立ち上がった。
その表情が真剣だ。

「リリス先輩も感じました? 何者かがこの部屋に転移してきますよ。でもこれって空間魔法なのかしら?」

そう言いながらリンディは、部屋の奥の壁に目を向けてじっと睨んだ。
その壁に微かに転移者の気配が生じて来た。

これは何の気配だろうか?

未知の気配を感じつつ壁を見つめていると、その壁の真ん中に黒い点が現われ、それは徐々に大きな円形になって来た。
直径が2m程になるとその拡大を止め、その黒い円の中心に二つの光点が現われた。

その光点が少し大きくなって、そのまま前方に飛び出して床に落ちた。
更にその床の光点からスッと光が立ち上がり、その光の中から小柄な人影が二つ現われた。

部屋の中に緊張が走る。

リリスとリンディが身構えている前で、人影が徐々に実体化していく。

だがその実体化した人物には見覚えがある。

キラだ!

もう一人は年配の男性だった。キラと同様に褐色の肌である。

「お姉ちゃん!」

キラは嬉しそうに声をあげて、リリスに抱きついて来た。

「元気そうね。あの病気はもう収まったの?」

リリスの言葉にキラはうんと答えて頷いた。
その背後から年配の男性が前に出て来た。

「お陰様で村中に蔓延していた病気は全て収束しました。ありがとうございました。」

そう言って頭を下げるこの男性は名をズールと言い、キラの村の村長だった。

「お二人にお礼をしたいので、我々の村まで来ていただけませんか?」

「お手間は取らせません。2時間ほどお時間を作っていただければ結構ですので。」

そう言ってズールは深々と頭を下げた。

「リンディ。どうする?」

「まあ、2時間ほどなら良いんじゃないですか。」

リンディの言葉に頷き、リリスはズールの申し出を承諾した。

「それではこちらへどうぞ。」

ズールの案内でリリスとリンディはキラと手を繋ぎ、壁に出現している黒い円の中に入っていったのだった。






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