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魔族の村にて1
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キラ達と転移した先。
そこはのどかな山村だった。
低い山の谷間に広がる畑。
その合間を流れる小川。
所々に見える家は土台が石垣になっていて、木造の家屋が建てられている。
家畜を飼っているようで、その鳴き声が耳に残るのだが、これは恐らく豚に近い無害の魔物だろう。
ズールの案内で歩く小径の両側に低木の木立が広がり、その茂った葉の間から差し込んでくる日差しが心地良い。
その風景にリリスは郷愁をすら感じてしまった。
これって・・・あの畑が水田だったら、日本の里山の風景だわ。
そんな思いでキラと手を繋ぎながらリリスは歩いていた。
村人の姿は見えるのだが、皆忙しそうだ。
それでも畑の中で農作業をしている人や小径ですれ違う人が、リリス達を見ると笑顔で頭を下げ、皆感謝の意を口にした。
その様子を見ながらリンディはおずおずとズールに問い掛けた。
「今回の病の件で・・・皆さん助かったのですか?」
「うむ。数名の老人の犠牲者が出たが、若い者達は全員回復した。今は全員農作業や狩猟に出掛けておるよ。あの病のせいで一か月も畑を放置してしまったからな。残念ながら収穫量もかなり減るだろうね。」
うんうん。
ここからの復興が大変なのよね。
応援したい気持ちで歩く事、約10分。
リリス達は村の中心部に到着した。
大きな平屋の建物を中心に、幾つもの住居が並んでいる。
リリス達はその大きな建物に案内された。
これは村の集会所だそうだ。
木製の大きなドアを開けると、吹き抜けの大きな広間があり、木の床に毛糸で編んだ簡素な敷物が敷き詰められ、カラフルな色合いのクッションが並んでいる。その広間の中央に数人の老人が座っていた。
彼等はこの村の長老達で、リリス達を笑顔で出迎え、口々に感謝の言葉を述べた。
リリスとリンディはそれに応対し、その場に座って挨拶を交わした。
その長老たちの中で別格扱いされている一人の老人が居た。
ガドと名乗るその老人はズール達の種族の中で賢者として扱われているそうだ。
温厚そうな表情の好々爺で、ガドを見ても彼等が人族に敵対しない事は一目瞭然である。
「リリス。君はここが何処か分かるかね?」
ガドの言葉にリリスは首を傾げた。
「温暖な気候から考えると、大陸の中央付近でしょうか?」
リンディの言葉にガドはハハハと笑った。
「君達があまり知らない特殊な転移をしてここに来たから、良く分からないのは当然だ。ここは君等の住む大陸ではないのだよ。」
「「えっ!」」
ガドの言葉にリリスとリンディの驚きの声が重なった。
「まあ、信じられないだろうが、ここは君達の住む大陸の西部に位置する小さな大陸なのだ。その大きさは君達の住む大陸の三分の一にも満たないのだが、両大陸を挟む海峡に特殊なシールドが張られていて、君達には認識出来ない筈だからね。」
「それでも噂話や伝承でここの存在を匂わせているかもしれないが・・・」
ガドの言葉にリンディが頷いた。
「私達獣人の間に伝わる伝説で、魔大陸の存在に触れたものがあります。もしかして・・・ここが?」
「うむ。そうだろうね。魔大陸とはよく言ったものだ。確かに多種多様な魔族が棲み付いているからな。」
そう言ってガドはその白いあごひげを撫でた。
「リンディは空間魔法が使えるようだね。だが魔族の中でも儂等の種族の使う空間魔法は、君達のものとは術式や体系からして異なる。それ故に君達からすると、未知の魔法のように思えるかも知れないね。」
ガドの言葉にリリスも納得した。
宿舎の中にズールとキラが転移して来た際も、解析スキルが未知のスキルだと判断していたからだ。
広間の奥から二人の若い女性が現われ、リリス達にお茶を運んできた。
若いと言っても魔族なので年齢は分からない。
長老たちに比べれば比較的若そうに見えるだけだ。
陶製のマグカップの中には黒っぽいお茶が注がれていた。
薬草茶だと言う事だが、確かにその香りが漢方薬を連想させる。
ガド達と共にそれを飲むと、胃の中がスッとする感覚を得た。
それと共に頭がすっきりとして、脳が活性化しているのが分かる。
確かに心身の健康には良さそうだ。
お茶を飲み干し、ガドはマグカップを床に置いてリリスに尋ねた。
「リリス。君は我々に蔓延していた病を呪いではないと判断したんだね? その判断の根拠は何だ?」
賢者らしい問い掛けである。
だがリリスにしても詳しく説明出来ない部分が多い。
「あまり詳しく説明出来ませんが、病理学と言う学問がありまして、その知恵に基づいた対処方法なんです。」
「まあ、それ以上の事は内密にと言う事で・・・・・」
リリスの言葉にガドは少し考え込んだ。だが直ぐにその頬を緩めた。
「特殊な知恵やスキルの賜物だと言う事だな。まあ、儂等もそれで助かったのだから、余計な事は聞かないでおこう。」
「とりあえず君達の歓迎の為の食事の場を用意させた。まだ村が復興途上なので豪華なものは用意出来ない。申し訳ないが、今日はこの程度で勘弁してくれ。また後日感謝の宴を持とうではないか。」
ガドの言葉にリリスとリンディは礼を述べた。
「そんなにお気遣いなさらなくても結構ですよ。私達は今、国の外交団に随伴している立場なので、時間の余裕があまりありません。またご縁があれば伺いますので・・・」
リリスがそう答えた次の瞬間、集会所の外からドウンッと言う大きな爆発音が轟いた。
集会所の床がビリビリと振動している。
「何事だ?」
ガドが立ち上がると集会所のドアがバタンと開き、若い男性が走り込んできた。怪我をしているようで、その額から血が流れている。
「敵襲です!」
「敵襲だと? 何者だ?」
男性は額の血を軽く拭い、忌々し気な表情で口を開いた。
「ゲブラ族の戦士2名と魔導士1名で、魔導士はツヴァルクです。」
「何だと! ツヴァルクだと。ううむ。やはり奴が病の黒幕だったか。」
集会所の外が騒然とし始めた。
それと共に幾つもの爆音が響いている。
「ゲブラ族は元々我等に良い感情を持っていない魔族だ。常々この村を明け渡せと要求している連中だよ。」
「ツヴァルクはその中でも特に悪質な魔導士だ。しかも多岐に渡る分野の知恵を持ち、禁忌や禁呪にも手を出している奴なのだ。奴が今回の病の首謀者であれば納得も行くわい。」
う~ん。
何て悪質な奴なの。
「儂がシールドを張るので、とりあえず君達は退避したまえ。」
だが、ガドがそう言った次の瞬間、集会所のドアがドンッと言う爆音と共に破壊され、その爆炎が入り口付近を燃え上がらせた。
数人の男性が水魔法で消火にあたり、火の手は直ぐに治まったが、その開口部からメタルプレートを装着した一人の魔族の戦士が走り込んできた。
右手に魔剣を持ち、左手には火球が燃え上がっている。
「むっ! 人族が居るぞ!」
魔族の戦士は問答無用でリリス達に火球を放った。
「無礼者!」
ガドは即座にリリス達の前面にシールドを張った。
そのシールドに火球が着弾し、リリス達の目の前で爆炎が上がった。
考えている間は無い。
リリスは反射的に極太のファイヤーボルトを4本出現させ、魔族の戦士に向けて放った。
至近距離でもあり、避ける隙も無い。
火力重視のファイヤーボルトは魔族の戦士に全弾着弾し、大きな爆炎を上げてその戦士を吹き飛ばしてしまった。
この戦士に追い払われていたので、水魔法で消火にあたっていた村の男性達は幸いにも、リリスの火矢の爆炎に巻き込まれなかったようだ。
瞬時にリリスは外に飛び出した。
周囲を探知するまでも無く、もう一人の戦士が上空からこちらに向かっていたのが視認出来た。
その戦士は高速でこちらに向かいながら、リリスに向けてその両手から大きな火球を二つ放った。
既に敵認定されている事は明らかだ。
背後から駆け寄って来たリンディがリリスの前方にシールドを多重に張り、その火球を受け止めさせた。
ドーンと言う爆音と振動でシールドがビリビリと揺れる。
激しい炎熱をシールドの向こう側に見ながら、リリスは2本のファイヤーボルトを空中の戦士に放った。
それと同時に解析スキルを発動させ、耐熱性と粘着性の高い強毒を生成し、二重構造のファイヤーボルトに格納して時間差で放った。
最初の2本のファイヤーボルトは目くらましである。
それの対応に追われる僅かな隙に、毒矢が敵を襲う算段だ。
案の定、魔族の戦士はシールドを張り、2本の火矢を受け止めた。
だがリリスの火魔法のレベルの向上もあって、ファイヤーボルトの火力も強烈だ。
着弾したファイヤーボルトは戦士の張ったシールドを一時的に打ち破った。
当然戦士はシールドを張り直そうとする。
その僅かな隙に強毒を格納した次弾が戦士を襲う。
貼り直そうとするシールドの僅かな隙に着弾したファイヤーボルトは、格納されていた強毒を爆炎と共に戦士に浴びせた。
粘着性の高い強毒は戦士の身体の小さな傷にも浸透し、その威力をまざまざと見せてくれた。
「グガガガガッ」
奇妙な叫び声をあげて、戦士がそのまま地面に落下し、ドーンと言う衝撃音と共に土埃が舞い上がった。
戦士の身体は墜落の衝撃で、あらぬ方向に曲がってしまっている。
既に絶命しているようだが、その身体のあちらこちらから緑色の蒸気が吹き上がり、その身体が強毒の影響で徐々に崩れ始めた。
周囲に強烈な異臭が漂い、近くに居た村人は咳き込みながらその場を急いで離れた。
数分で、戦士の身体は緑色に溶け崩れ、その身体に纏っていたメタルプレートまでも変色し、崩れて小さな破片となってしまった。
やりすぎちゃったかしらね。
でも問答無用で火球を放ってくる魔族に、容赦なんてしている余地は無いわよ。
そう思って後ろを振り返ると、ガドがその場に立って呆れた顔をしていた。
「なんとまあ、ここまでやるとはなあ。」
そう言いながらガドは異臭漂う緑色の液体を指差した。
「あれの後始末をしてもらって良いか? あのままでは儂等も近づけんからな。」
「あっ、そうですね。」
リリスは急いでその近くに走り寄り、強毒の解毒剤を生成して水魔法で散布した。
『後始末は大事ですね。』
解析スキルの言葉が脳裏に浮かぶ。
そんな事は分かってるわよ!
『興奮状態がまだ続いていますね。少し落ち着きましょう。まだ敵がもう一人残っていて、こちらの様子を窺っていますよ。』
ああ、そうだったわ。
ガド様の言っていた魔導士が居たのよね。
今回の病の首謀者らしき魔族が・・・。
そう思った矢先、リンディが大きな声で叫んだ。
「先輩!上です!」
その声に反応して上を見上げると、音も無く火球がリリスの真上から高速で落ちて来た。
リンディが瞬時にシールドをドーム状に張った。
そのシールドに火球が着弾し、ドンッと衝撃音が響き、爆炎がシールド越しに上がった。
上空を睨みつけるリリスの目に、法衣を着た魔導士の姿が映る。
その魔導士はゆっくりと上空から下に向かって降りて来た。
「儂の策略の邪魔をしたのはお前か? まさか人族に邪魔されるとは思わなかったぞ。」
野太い声がリリスの耳に届いた。
「ツヴァルク! 今回の病の首謀者はお前か?」
リリスの背後からガドが魔導士に向かって叫んだ。
「左様。お前達にこの土地を明け渡して貰う算段だったのだがな。」
ツヴァルクは地面から3mほどの位置に停止し、ガドに向けてニヤッと笑った。
「この土地は、お前達諸共に焼き払ってしまえば間違いなく手に入る。だがそれでは意味が無いのだよ。お前達だけが去ってしまえば良いのだ。」
何て自分勝手な奴なの!
リリスの怒りを感じ取りながら、ツヴァルクは地面からの高度を上げ始めた。
「だが・・・そこに居る人族が余計な事をしてしまったので、いっその事焼き払った方が良いのかも知れん。」
ツヴァルクの言葉にガドの怒りが沸騰した。
「何を勝手な事を言っておるのだ! お前の好きにはさせんぞ!」
ガドの声を契機に、周囲に居た村人たちが一斉にツヴァルクに向けて火球を放った。
20本近くのファイヤーボールがツヴァルクに向かった。
だがツヴァルクはニヤッと笑ったままだ。
大量の火球が自分に向かって来る様子を見ながらフッと魔力を流し、自分の周りに強固な亜空間シールドを張り巡らせた。
そのシールドに大量の火球が着弾し、大きな爆炎が上がって目の前が見えなくなってしまった。
その爆炎が収まると、亜空間シールドの中でツヴァルクはケタケタと笑っていた。
あれだけの火力でも無傷なのか!
「今度はこちらの番だ。」
ツヴァルクはそう言うと魔力を大きく循環させ始めた。
それに応じて周囲の大気が渦を巻き、不穏な気配が周囲に漂って来る。
言い知れぬ不安を胸に、リリスは拳を握って身構えていたのだった。
そこはのどかな山村だった。
低い山の谷間に広がる畑。
その合間を流れる小川。
所々に見える家は土台が石垣になっていて、木造の家屋が建てられている。
家畜を飼っているようで、その鳴き声が耳に残るのだが、これは恐らく豚に近い無害の魔物だろう。
ズールの案内で歩く小径の両側に低木の木立が広がり、その茂った葉の間から差し込んでくる日差しが心地良い。
その風景にリリスは郷愁をすら感じてしまった。
これって・・・あの畑が水田だったら、日本の里山の風景だわ。
そんな思いでキラと手を繋ぎながらリリスは歩いていた。
村人の姿は見えるのだが、皆忙しそうだ。
それでも畑の中で農作業をしている人や小径ですれ違う人が、リリス達を見ると笑顔で頭を下げ、皆感謝の意を口にした。
その様子を見ながらリンディはおずおずとズールに問い掛けた。
「今回の病の件で・・・皆さん助かったのですか?」
「うむ。数名の老人の犠牲者が出たが、若い者達は全員回復した。今は全員農作業や狩猟に出掛けておるよ。あの病のせいで一か月も畑を放置してしまったからな。残念ながら収穫量もかなり減るだろうね。」
うんうん。
ここからの復興が大変なのよね。
応援したい気持ちで歩く事、約10分。
リリス達は村の中心部に到着した。
大きな平屋の建物を中心に、幾つもの住居が並んでいる。
リリス達はその大きな建物に案内された。
これは村の集会所だそうだ。
木製の大きなドアを開けると、吹き抜けの大きな広間があり、木の床に毛糸で編んだ簡素な敷物が敷き詰められ、カラフルな色合いのクッションが並んでいる。その広間の中央に数人の老人が座っていた。
彼等はこの村の長老達で、リリス達を笑顔で出迎え、口々に感謝の言葉を述べた。
リリスとリンディはそれに応対し、その場に座って挨拶を交わした。
その長老たちの中で別格扱いされている一人の老人が居た。
ガドと名乗るその老人はズール達の種族の中で賢者として扱われているそうだ。
温厚そうな表情の好々爺で、ガドを見ても彼等が人族に敵対しない事は一目瞭然である。
「リリス。君はここが何処か分かるかね?」
ガドの言葉にリリスは首を傾げた。
「温暖な気候から考えると、大陸の中央付近でしょうか?」
リンディの言葉にガドはハハハと笑った。
「君達があまり知らない特殊な転移をしてここに来たから、良く分からないのは当然だ。ここは君等の住む大陸ではないのだよ。」
「「えっ!」」
ガドの言葉にリリスとリンディの驚きの声が重なった。
「まあ、信じられないだろうが、ここは君達の住む大陸の西部に位置する小さな大陸なのだ。その大きさは君達の住む大陸の三分の一にも満たないのだが、両大陸を挟む海峡に特殊なシールドが張られていて、君達には認識出来ない筈だからね。」
「それでも噂話や伝承でここの存在を匂わせているかもしれないが・・・」
ガドの言葉にリンディが頷いた。
「私達獣人の間に伝わる伝説で、魔大陸の存在に触れたものがあります。もしかして・・・ここが?」
「うむ。そうだろうね。魔大陸とはよく言ったものだ。確かに多種多様な魔族が棲み付いているからな。」
そう言ってガドはその白いあごひげを撫でた。
「リンディは空間魔法が使えるようだね。だが魔族の中でも儂等の種族の使う空間魔法は、君達のものとは術式や体系からして異なる。それ故に君達からすると、未知の魔法のように思えるかも知れないね。」
ガドの言葉にリリスも納得した。
宿舎の中にズールとキラが転移して来た際も、解析スキルが未知のスキルだと判断していたからだ。
広間の奥から二人の若い女性が現われ、リリス達にお茶を運んできた。
若いと言っても魔族なので年齢は分からない。
長老たちに比べれば比較的若そうに見えるだけだ。
陶製のマグカップの中には黒っぽいお茶が注がれていた。
薬草茶だと言う事だが、確かにその香りが漢方薬を連想させる。
ガド達と共にそれを飲むと、胃の中がスッとする感覚を得た。
それと共に頭がすっきりとして、脳が活性化しているのが分かる。
確かに心身の健康には良さそうだ。
お茶を飲み干し、ガドはマグカップを床に置いてリリスに尋ねた。
「リリス。君は我々に蔓延していた病を呪いではないと判断したんだね? その判断の根拠は何だ?」
賢者らしい問い掛けである。
だがリリスにしても詳しく説明出来ない部分が多い。
「あまり詳しく説明出来ませんが、病理学と言う学問がありまして、その知恵に基づいた対処方法なんです。」
「まあ、それ以上の事は内密にと言う事で・・・・・」
リリスの言葉にガドは少し考え込んだ。だが直ぐにその頬を緩めた。
「特殊な知恵やスキルの賜物だと言う事だな。まあ、儂等もそれで助かったのだから、余計な事は聞かないでおこう。」
「とりあえず君達の歓迎の為の食事の場を用意させた。まだ村が復興途上なので豪華なものは用意出来ない。申し訳ないが、今日はこの程度で勘弁してくれ。また後日感謝の宴を持とうではないか。」
ガドの言葉にリリスとリンディは礼を述べた。
「そんなにお気遣いなさらなくても結構ですよ。私達は今、国の外交団に随伴している立場なので、時間の余裕があまりありません。またご縁があれば伺いますので・・・」
リリスがそう答えた次の瞬間、集会所の外からドウンッと言う大きな爆発音が轟いた。
集会所の床がビリビリと振動している。
「何事だ?」
ガドが立ち上がると集会所のドアがバタンと開き、若い男性が走り込んできた。怪我をしているようで、その額から血が流れている。
「敵襲です!」
「敵襲だと? 何者だ?」
男性は額の血を軽く拭い、忌々し気な表情で口を開いた。
「ゲブラ族の戦士2名と魔導士1名で、魔導士はツヴァルクです。」
「何だと! ツヴァルクだと。ううむ。やはり奴が病の黒幕だったか。」
集会所の外が騒然とし始めた。
それと共に幾つもの爆音が響いている。
「ゲブラ族は元々我等に良い感情を持っていない魔族だ。常々この村を明け渡せと要求している連中だよ。」
「ツヴァルクはその中でも特に悪質な魔導士だ。しかも多岐に渡る分野の知恵を持ち、禁忌や禁呪にも手を出している奴なのだ。奴が今回の病の首謀者であれば納得も行くわい。」
う~ん。
何て悪質な奴なの。
「儂がシールドを張るので、とりあえず君達は退避したまえ。」
だが、ガドがそう言った次の瞬間、集会所のドアがドンッと言う爆音と共に破壊され、その爆炎が入り口付近を燃え上がらせた。
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右手に魔剣を持ち、左手には火球が燃え上がっている。
「むっ! 人族が居るぞ!」
魔族の戦士は問答無用でリリス達に火球を放った。
「無礼者!」
ガドは即座にリリス達の前面にシールドを張った。
そのシールドに火球が着弾し、リリス達の目の前で爆炎が上がった。
考えている間は無い。
リリスは反射的に極太のファイヤーボルトを4本出現させ、魔族の戦士に向けて放った。
至近距離でもあり、避ける隙も無い。
火力重視のファイヤーボルトは魔族の戦士に全弾着弾し、大きな爆炎を上げてその戦士を吹き飛ばしてしまった。
この戦士に追い払われていたので、水魔法で消火にあたっていた村の男性達は幸いにも、リリスの火矢の爆炎に巻き込まれなかったようだ。
瞬時にリリスは外に飛び出した。
周囲を探知するまでも無く、もう一人の戦士が上空からこちらに向かっていたのが視認出来た。
その戦士は高速でこちらに向かいながら、リリスに向けてその両手から大きな火球を二つ放った。
既に敵認定されている事は明らかだ。
背後から駆け寄って来たリンディがリリスの前方にシールドを多重に張り、その火球を受け止めさせた。
ドーンと言う爆音と振動でシールドがビリビリと揺れる。
激しい炎熱をシールドの向こう側に見ながら、リリスは2本のファイヤーボルトを空中の戦士に放った。
それと同時に解析スキルを発動させ、耐熱性と粘着性の高い強毒を生成し、二重構造のファイヤーボルトに格納して時間差で放った。
最初の2本のファイヤーボルトは目くらましである。
それの対応に追われる僅かな隙に、毒矢が敵を襲う算段だ。
案の定、魔族の戦士はシールドを張り、2本の火矢を受け止めた。
だがリリスの火魔法のレベルの向上もあって、ファイヤーボルトの火力も強烈だ。
着弾したファイヤーボルトは戦士の張ったシールドを一時的に打ち破った。
当然戦士はシールドを張り直そうとする。
その僅かな隙に強毒を格納した次弾が戦士を襲う。
貼り直そうとするシールドの僅かな隙に着弾したファイヤーボルトは、格納されていた強毒を爆炎と共に戦士に浴びせた。
粘着性の高い強毒は戦士の身体の小さな傷にも浸透し、その威力をまざまざと見せてくれた。
「グガガガガッ」
奇妙な叫び声をあげて、戦士がそのまま地面に落下し、ドーンと言う衝撃音と共に土埃が舞い上がった。
戦士の身体は墜落の衝撃で、あらぬ方向に曲がってしまっている。
既に絶命しているようだが、その身体のあちらこちらから緑色の蒸気が吹き上がり、その身体が強毒の影響で徐々に崩れ始めた。
周囲に強烈な異臭が漂い、近くに居た村人は咳き込みながらその場を急いで離れた。
数分で、戦士の身体は緑色に溶け崩れ、その身体に纏っていたメタルプレートまでも変色し、崩れて小さな破片となってしまった。
やりすぎちゃったかしらね。
でも問答無用で火球を放ってくる魔族に、容赦なんてしている余地は無いわよ。
そう思って後ろを振り返ると、ガドがその場に立って呆れた顔をしていた。
「なんとまあ、ここまでやるとはなあ。」
そう言いながらガドは異臭漂う緑色の液体を指差した。
「あれの後始末をしてもらって良いか? あのままでは儂等も近づけんからな。」
「あっ、そうですね。」
リリスは急いでその近くに走り寄り、強毒の解毒剤を生成して水魔法で散布した。
『後始末は大事ですね。』
解析スキルの言葉が脳裏に浮かぶ。
そんな事は分かってるわよ!
『興奮状態がまだ続いていますね。少し落ち着きましょう。まだ敵がもう一人残っていて、こちらの様子を窺っていますよ。』
ああ、そうだったわ。
ガド様の言っていた魔導士が居たのよね。
今回の病の首謀者らしき魔族が・・・。
そう思った矢先、リンディが大きな声で叫んだ。
「先輩!上です!」
その声に反応して上を見上げると、音も無く火球がリリスの真上から高速で落ちて来た。
リンディが瞬時にシールドをドーム状に張った。
そのシールドに火球が着弾し、ドンッと衝撃音が響き、爆炎がシールド越しに上がった。
上空を睨みつけるリリスの目に、法衣を着た魔導士の姿が映る。
その魔導士はゆっくりと上空から下に向かって降りて来た。
「儂の策略の邪魔をしたのはお前か? まさか人族に邪魔されるとは思わなかったぞ。」
野太い声がリリスの耳に届いた。
「ツヴァルク! 今回の病の首謀者はお前か?」
リリスの背後からガドが魔導士に向かって叫んだ。
「左様。お前達にこの土地を明け渡して貰う算段だったのだがな。」
ツヴァルクは地面から3mほどの位置に停止し、ガドに向けてニヤッと笑った。
「この土地は、お前達諸共に焼き払ってしまえば間違いなく手に入る。だがそれでは意味が無いのだよ。お前達だけが去ってしまえば良いのだ。」
何て自分勝手な奴なの!
リリスの怒りを感じ取りながら、ツヴァルクは地面からの高度を上げ始めた。
「だが・・・そこに居る人族が余計な事をしてしまったので、いっその事焼き払った方が良いのかも知れん。」
ツヴァルクの言葉にガドの怒りが沸騰した。
「何を勝手な事を言っておるのだ! お前の好きにはさせんぞ!」
ガドの声を契機に、周囲に居た村人たちが一斉にツヴァルクに向けて火球を放った。
20本近くのファイヤーボールがツヴァルクに向かった。
だがツヴァルクはニヤッと笑ったままだ。
大量の火球が自分に向かって来る様子を見ながらフッと魔力を流し、自分の周りに強固な亜空間シールドを張り巡らせた。
そのシールドに大量の火球が着弾し、大きな爆炎が上がって目の前が見えなくなってしまった。
その爆炎が収まると、亜空間シールドの中でツヴァルクはケタケタと笑っていた。
あれだけの火力でも無傷なのか!
「今度はこちらの番だ。」
ツヴァルクはそう言うと魔力を大きく循環させ始めた。
それに応じて周囲の大気が渦を巻き、不穏な気配が周囲に漂って来る。
言い知れぬ不安を胸に、リリスは拳を握って身構えていたのだった。
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1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました
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