258 / 384
予期せぬ依頼2
夢の中でギグルと会った翌日。
リリスは昼の休み時間に、職員室の隣のゲストルームに呼び出された。
呼び出した相手は王族だと言う事なので、恐らくメリンダ王女だろう。
ゲストルームのドアを開けると、そこにはメリンダ王女とフィリップ王子が座っていた。
挨拶をしてその対面のソファに座ると、メリンダ王女が早速声を掛けて来た。
「リリス。お疲れ様。ドーム公国での事はノイマンから聞いたわよ。」
やはりその件だ。
今回の事はリリスもリンディも公用扱いなので、学院でも欠席にはなっていない。
正式な国交のない国への渡航に関して、ノイマンやリンディの姉から報告は上がっているだろう。
それ以外の事でメリンダ王女は知っておきたい事があるのだろうか?
「獣人の賢者様にそそのかされて、レームのダンジョンの探索に行ったそうね。そんな事があったのなら、私も付いて行けば良かったって悔いているのよ。」
そう言ってメリンダ王女は残念そうな表情を見せた。
復活したレームのダンジョンが気になっているのだろう。
「それで、レームのダンジョンで収穫はあったの?」
「収穫なんて特に無いわよ。イグアス様も居たから安心して探索出来たわ。」
そう言いながらリリスはメリンダ王女の思惑を探った。
竜同士の威圧の掛け合いの件は、イグアスから漏れてい無さそうだ。
だがメリンダ王女からリリスは意外な話を振られた。
「昨日の晩、ゲルが私の部屋に来たのよ。勿論使い魔の姿でね。」
まあ、そうだろう。
ゲルは既に使い魔の姿でしか出現出来ない筈だ。
「そのゲルがね、最近リリスの闇魔法の魔力が強化されているって言うのよ。」
うん?
何の事だろうか?
ツヴァルクから吸い上げた魔力が要因になって、闇魔法のスキルが増えた事は事実だが・・・。
「何か原因があったの?」
「何も無いわよ。」
そう言いながらもリリスはゲルの言葉の意味を考えた。
恐らくは単純にそう感じ取っただけなのだろう。
「多分、ゲルがそう感じたのは、私が闇の操作を覚えたからじゃないの?」
リリスはそう答えると、自分の手のひらの上に小さな闇を出現させた。
直径10cmほどの闇を上下左右に動かし、拡大縮小出来る事も示して見せた。
その様子にメリンダ王女もフィリップ王子もほうっ!と小さな感嘆の声をあげた。
「随分器用に扱っているわね。誰から教わったのよ?」
メリンダ王女の目が闇に釘付けされている。
「自分で意識していたら、出来るようになっただけよ。私って魔力操作が得意な方だから・・・」
リリスは手のひらの上から闇を動かし、テーブルの上に置かれた紅茶のカップを包み込むと、テーブルの端の方に転移させた。
「ええっ! 闇の転移まで出来るようになったの?」
驚くメリンダ王女にリリスは苦笑いを見せた。
「転移と言ってもこの程度の距離なのよ。どうやったら上達出来るのか、見当もつかないわ。」
謙遜するリリスにフィリップ王子が口を開いた。
「リリスって本当に器用な子だね。見よう見まねで出来る事じゃ無いと思うんだけどねえ。」
フィリップ王子の言葉にメリンダ王女もうんうんと頷いている。
「でもリリスが闇魔法で上達すれば、私にとってもメリットがあるのよ。闇の憑依に関しても私の側の自由度が増えるからね。使い魔で憑依した状態で、私の闇魔法をリリスの魔力を使って強化発動出来る。ゲルはわざわざそれを伝えに来てくれたのよ。」
そうなのね。
まあ、それも亜神の気紛れなんでしょうけどね。
「上達と言ってもまだまだ制限があるのよ。そう簡単に上達出来るとは思えないんだけどね。」
「まあ、徐々に上達してくれれば良いのよ。」
そう言いながらメリンダ王女は紅茶を一口啜った。
その所作は流石に王族で優雅である。
「ドーム公国とは今後国交を開始出来そうなの?」
リリスの言葉にメリンダ王女は強く頷いた。
「勿論よ。レームのダンジョンもあるから早く国交を開きたいわね。それに単なる国交で済まないかも知れないからねえ。」
メリンダ王女の含みのある言葉を聞き、フィリップ王子が制止に入った。
だがそれを無視してメリンダ王女は小声で呟くように話し始めた。
「ここだけの話にしておいてね。」
「実はドーム公からリンディの姉のアイリスに正式なオファーが来たのよ。王妃として迎えたいって・・・」
ええっ!
そうなの?
驚きのあまりリリスは声が出ない。
「ドーム公には色々と女性関係の噂話もあって、アイリスの実家も最初は疑っていたのよ。ハーレムにでも加えたいのかとアイリスは思っていたみたいね。」
「でも公式文書で来ちゃったからね。しかも色々と贈り物まで添えて・・・」
そうなのね。
「それでアイリス先輩はどうしたの?」
「今はまだ両親と相談している段階よ。でも本人は今回の渡航でドーム公とは意気投合したみたいね。獣人同士の相性って私には良く分からないけど。」
メリンダ王女の言葉を聞き、フィリップ王子が話に加わって来た。
「まだそう言う状況だから、他言は無用だよ、リリス。」
「それは心得ています。」
リリスはそう言いながら強く頷いた。
「今日も教室でリンディと目を合わせたら、神妙な表情で私を見つめて来たわよ。」
「うんうん。そうでしょうねえ。リンディとしても青天の霹靂だったでしょうからね。」
メリンダ王女の言葉にそう答えると、リリスはリンディの気持ちを察した。
姉の縁談なので嬉しくもあり、相手を考えると困惑もしているだろう。
生徒会の部屋などでリンディと顔を合わせても、この件に関しては言及するわけにはいかない。
知らない素振りをしている他無いわね。
そう思ってリリスは心に決めた。
そしてドーム公国からの帰還から数日後。
その日の生徒会での打ち合わせを終えたリリスは、学生寮の自室に戻り、その日受けた授業の提出課題に取り組もうとしていた。
だが自室のドアの前に立った途端に、部屋の中から異様な気配を感じて足を止めた。
魔大陸での出来事以来、闇魔法の波動を敏感に感じるようになったリリスである。
部屋の中から漂って来る気配はまさにそれだ。
しかもかなり濃厚な気配がする。
これは亜神の気配か?
少し警戒しながらドアを開けると、リリスを迎える声が聞こえて来た。
「「お帰り!」」
「お帰りなさい。」
複数の声が聞こえて来た。
そこに居たのは一つ目の小さなカラスと小さな黒いガーゴイルだった。
二体の使い魔がテーブルの上に留まっている。
おかしいわね。
もう一人の声が聞こえたんだけど・・・。
そう思いながらもカバンを机に置き、リリスはテーブルの傍のソファに座った。
「ジニアとゲルがお揃いでここに来るって、どうしたのよ?」
リリスの問い掛けにカラスが口を開いた。
「リリスに会わせたい人物が居るのよ。人物と言っても微妙なんだけどね・・・」
何となく含みのある言葉である。
怪訝そうな表情のリリスを見ながら、カラスがその一つの目を瞬きさせ、部屋の後方の壁に向かって声を掛けた。
「良いわよ。出て来て。」
その言葉に反応するように部屋の壁の下に闇が現われ、黒い人影がスッと立ち上がった。
それはスーツ姿の若い女性だった。
背丈はリリスと同じほどで、髪はポニーテールに結び、目が大きく利発そうな女性だ。
その目がキラキラと光っている。
肌の色は浅黒いが魔族やダークエルフでもなさそうだ。
「初めまして、リリス様。私の名はセリーヌと申します。」
女性はそう言って頭を深々と下げた。
誰なんだろうか?
リリスの疑問を察するように、セリーヌはニヤッと笑って口を開いた。
「ギグル様からの紹介でこちらに来ました。そう言えば・・・・・お分かりでしょうね。」
うっ!
ギグル様からの紹介って事は、広域多重シールドを管理する人工知能からの使者?
リリスが尋ねようとする前に、カラスが口を開いた。
「セリーヌは広域多重シールドを管理する人工知能の端末なのよ。修復依頼をリリスにオファーしたってゲルが聞いたので、私がセッティングしてここに連れて来たの。」
カラスの言葉にリリスは若干の違和感を覚えた。
「どうしてゲルが知っているのよ?」
リリスの言葉を受けて、黒いガーゴイルの顔がリリスの方に向かった。
「それは広域多重シールドの設計者が僕だからなんだよ。」
ええっ!
そうなの?
「ゲルってそんな事もしていたの?」
リリスの驚きにガーゴイルはハハハと笑った。
「魔大陸の魔族が引き籠りたいって言うものだから、協力してあげたんだよ。」
「大陸全体で引き籠りって・・・」
唖然とするリリスにセリーヌは説明を始めた。
「引き籠りと言う言葉は適切ではありませんね。ゲル様の思い込みも入っているようですが・・・」
セリーヌの言葉にカラスも同意した。
「ゲルの視点からはそう見えるんでしょうね。シールドの目的はあくまでも、魔大陸への出入の管理の為だから。」
「闇魔法の権化たる私達とすれば、魔族に伝わる特殊な闇魔法の系譜を守りたいって事もあってね。人族との無用な衝突を回避して欲しかったのよ。それでゲルが手伝ったって事なの。」
そう言う事なのね。
「でも、修復なら設計したゲルがやれば良いんじゃないの? 今の状態でゲルが無理なら、ゲルの代わりにジニアがやってあげれば良いと思うけどね。」
「それは約束に反する事なのよ。管理修復は自分たちでやるって言う約束で設計してあげたんだからね。」
そうなの?
「でもそんな約束なんて変更しても良いんじゃないの?」
リリスの言葉にガーゴイルはチッチッチッと声をあげて、翼にへばり付いた様な指を横に振った。
「そんな訳には行かないんだよ。このシールドを用意するために、大勢の魔族の族長達が血判を差し出したんだ。管理と修復には闇の亜神の手を煩わせないと言う誓いを立て、それぞれの種族の存続を賭けた。時間が経つにつれて、それはそのままある種の呪詛に転化してしまったんだよ。」
そんな事ってあるの?
でもそこまでしてでも、広域多重シールドを創り上げたかったのね。
おそらく人族との長年に渡る大きな戦争で、魔族達も相当な被害を被っていたに違いないわ。
「分かったわよ。手伝えば良いのね。」
そう答えたリリスにセリーヌは近付き、手を握って感謝の意を伝えた。
その仕草があまりにも自然で、とても人工知能の端末とは思えない。
「失礼だけど、セリーヌさんってホムンクルスじゃないのね。でも魔族やダークエルフでもなさそうだし・・・」
リリスの言葉にセリーヌはうふふと笑った。
「私はホムンクルスですよ。人工知能の創り上げた疑似人格です。でもそこに若干付加された要素がありますけどね。」
付加された要素?
リリスには何の事だか分からない。
その様子を見てジニアが呟いた。
「セリーヌはとある魔族の種族の族長の娘の人格が融合しているのよ。闇の憑依でも禁忌に近いレベルなんだけどね。」
そうなのね。
何だか色々と事情がありそうねえ。
あまりそこには触れないようにした方が良さそうだわ。
リリスは気持ちを切り替え、セリーヌに好意的な視線を送った。
それを感じ取ってセリーヌは再び礼を述べた。
「それじゃあ、広域多重シールドの心臓部に転移するわよ。」
ジニアはそう言うと、使い魔のカラスの翼を広げ、それをパチンと閉じた。
その途端にリリスの視界が暗転し、セリーヌやゲルの使い魔と共に未知の場所へと転移していったのだった。
リリスは昼の休み時間に、職員室の隣のゲストルームに呼び出された。
呼び出した相手は王族だと言う事なので、恐らくメリンダ王女だろう。
ゲストルームのドアを開けると、そこにはメリンダ王女とフィリップ王子が座っていた。
挨拶をしてその対面のソファに座ると、メリンダ王女が早速声を掛けて来た。
「リリス。お疲れ様。ドーム公国での事はノイマンから聞いたわよ。」
やはりその件だ。
今回の事はリリスもリンディも公用扱いなので、学院でも欠席にはなっていない。
正式な国交のない国への渡航に関して、ノイマンやリンディの姉から報告は上がっているだろう。
それ以外の事でメリンダ王女は知っておきたい事があるのだろうか?
「獣人の賢者様にそそのかされて、レームのダンジョンの探索に行ったそうね。そんな事があったのなら、私も付いて行けば良かったって悔いているのよ。」
そう言ってメリンダ王女は残念そうな表情を見せた。
復活したレームのダンジョンが気になっているのだろう。
「それで、レームのダンジョンで収穫はあったの?」
「収穫なんて特に無いわよ。イグアス様も居たから安心して探索出来たわ。」
そう言いながらリリスはメリンダ王女の思惑を探った。
竜同士の威圧の掛け合いの件は、イグアスから漏れてい無さそうだ。
だがメリンダ王女からリリスは意外な話を振られた。
「昨日の晩、ゲルが私の部屋に来たのよ。勿論使い魔の姿でね。」
まあ、そうだろう。
ゲルは既に使い魔の姿でしか出現出来ない筈だ。
「そのゲルがね、最近リリスの闇魔法の魔力が強化されているって言うのよ。」
うん?
何の事だろうか?
ツヴァルクから吸い上げた魔力が要因になって、闇魔法のスキルが増えた事は事実だが・・・。
「何か原因があったの?」
「何も無いわよ。」
そう言いながらもリリスはゲルの言葉の意味を考えた。
恐らくは単純にそう感じ取っただけなのだろう。
「多分、ゲルがそう感じたのは、私が闇の操作を覚えたからじゃないの?」
リリスはそう答えると、自分の手のひらの上に小さな闇を出現させた。
直径10cmほどの闇を上下左右に動かし、拡大縮小出来る事も示して見せた。
その様子にメリンダ王女もフィリップ王子もほうっ!と小さな感嘆の声をあげた。
「随分器用に扱っているわね。誰から教わったのよ?」
メリンダ王女の目が闇に釘付けされている。
「自分で意識していたら、出来るようになっただけよ。私って魔力操作が得意な方だから・・・」
リリスは手のひらの上から闇を動かし、テーブルの上に置かれた紅茶のカップを包み込むと、テーブルの端の方に転移させた。
「ええっ! 闇の転移まで出来るようになったの?」
驚くメリンダ王女にリリスは苦笑いを見せた。
「転移と言ってもこの程度の距離なのよ。どうやったら上達出来るのか、見当もつかないわ。」
謙遜するリリスにフィリップ王子が口を開いた。
「リリスって本当に器用な子だね。見よう見まねで出来る事じゃ無いと思うんだけどねえ。」
フィリップ王子の言葉にメリンダ王女もうんうんと頷いている。
「でもリリスが闇魔法で上達すれば、私にとってもメリットがあるのよ。闇の憑依に関しても私の側の自由度が増えるからね。使い魔で憑依した状態で、私の闇魔法をリリスの魔力を使って強化発動出来る。ゲルはわざわざそれを伝えに来てくれたのよ。」
そうなのね。
まあ、それも亜神の気紛れなんでしょうけどね。
「上達と言ってもまだまだ制限があるのよ。そう簡単に上達出来るとは思えないんだけどね。」
「まあ、徐々に上達してくれれば良いのよ。」
そう言いながらメリンダ王女は紅茶を一口啜った。
その所作は流石に王族で優雅である。
「ドーム公国とは今後国交を開始出来そうなの?」
リリスの言葉にメリンダ王女は強く頷いた。
「勿論よ。レームのダンジョンもあるから早く国交を開きたいわね。それに単なる国交で済まないかも知れないからねえ。」
メリンダ王女の含みのある言葉を聞き、フィリップ王子が制止に入った。
だがそれを無視してメリンダ王女は小声で呟くように話し始めた。
「ここだけの話にしておいてね。」
「実はドーム公からリンディの姉のアイリスに正式なオファーが来たのよ。王妃として迎えたいって・・・」
ええっ!
そうなの?
驚きのあまりリリスは声が出ない。
「ドーム公には色々と女性関係の噂話もあって、アイリスの実家も最初は疑っていたのよ。ハーレムにでも加えたいのかとアイリスは思っていたみたいね。」
「でも公式文書で来ちゃったからね。しかも色々と贈り物まで添えて・・・」
そうなのね。
「それでアイリス先輩はどうしたの?」
「今はまだ両親と相談している段階よ。でも本人は今回の渡航でドーム公とは意気投合したみたいね。獣人同士の相性って私には良く分からないけど。」
メリンダ王女の言葉を聞き、フィリップ王子が話に加わって来た。
「まだそう言う状況だから、他言は無用だよ、リリス。」
「それは心得ています。」
リリスはそう言いながら強く頷いた。
「今日も教室でリンディと目を合わせたら、神妙な表情で私を見つめて来たわよ。」
「うんうん。そうでしょうねえ。リンディとしても青天の霹靂だったでしょうからね。」
メリンダ王女の言葉にそう答えると、リリスはリンディの気持ちを察した。
姉の縁談なので嬉しくもあり、相手を考えると困惑もしているだろう。
生徒会の部屋などでリンディと顔を合わせても、この件に関しては言及するわけにはいかない。
知らない素振りをしている他無いわね。
そう思ってリリスは心に決めた。
そしてドーム公国からの帰還から数日後。
その日の生徒会での打ち合わせを終えたリリスは、学生寮の自室に戻り、その日受けた授業の提出課題に取り組もうとしていた。
だが自室のドアの前に立った途端に、部屋の中から異様な気配を感じて足を止めた。
魔大陸での出来事以来、闇魔法の波動を敏感に感じるようになったリリスである。
部屋の中から漂って来る気配はまさにそれだ。
しかもかなり濃厚な気配がする。
これは亜神の気配か?
少し警戒しながらドアを開けると、リリスを迎える声が聞こえて来た。
「「お帰り!」」
「お帰りなさい。」
複数の声が聞こえて来た。
そこに居たのは一つ目の小さなカラスと小さな黒いガーゴイルだった。
二体の使い魔がテーブルの上に留まっている。
おかしいわね。
もう一人の声が聞こえたんだけど・・・。
そう思いながらもカバンを机に置き、リリスはテーブルの傍のソファに座った。
「ジニアとゲルがお揃いでここに来るって、どうしたのよ?」
リリスの問い掛けにカラスが口を開いた。
「リリスに会わせたい人物が居るのよ。人物と言っても微妙なんだけどね・・・」
何となく含みのある言葉である。
怪訝そうな表情のリリスを見ながら、カラスがその一つの目を瞬きさせ、部屋の後方の壁に向かって声を掛けた。
「良いわよ。出て来て。」
その言葉に反応するように部屋の壁の下に闇が現われ、黒い人影がスッと立ち上がった。
それはスーツ姿の若い女性だった。
背丈はリリスと同じほどで、髪はポニーテールに結び、目が大きく利発そうな女性だ。
その目がキラキラと光っている。
肌の色は浅黒いが魔族やダークエルフでもなさそうだ。
「初めまして、リリス様。私の名はセリーヌと申します。」
女性はそう言って頭を深々と下げた。
誰なんだろうか?
リリスの疑問を察するように、セリーヌはニヤッと笑って口を開いた。
「ギグル様からの紹介でこちらに来ました。そう言えば・・・・・お分かりでしょうね。」
うっ!
ギグル様からの紹介って事は、広域多重シールドを管理する人工知能からの使者?
リリスが尋ねようとする前に、カラスが口を開いた。
「セリーヌは広域多重シールドを管理する人工知能の端末なのよ。修復依頼をリリスにオファーしたってゲルが聞いたので、私がセッティングしてここに連れて来たの。」
カラスの言葉にリリスは若干の違和感を覚えた。
「どうしてゲルが知っているのよ?」
リリスの言葉を受けて、黒いガーゴイルの顔がリリスの方に向かった。
「それは広域多重シールドの設計者が僕だからなんだよ。」
ええっ!
そうなの?
「ゲルってそんな事もしていたの?」
リリスの驚きにガーゴイルはハハハと笑った。
「魔大陸の魔族が引き籠りたいって言うものだから、協力してあげたんだよ。」
「大陸全体で引き籠りって・・・」
唖然とするリリスにセリーヌは説明を始めた。
「引き籠りと言う言葉は適切ではありませんね。ゲル様の思い込みも入っているようですが・・・」
セリーヌの言葉にカラスも同意した。
「ゲルの視点からはそう見えるんでしょうね。シールドの目的はあくまでも、魔大陸への出入の管理の為だから。」
「闇魔法の権化たる私達とすれば、魔族に伝わる特殊な闇魔法の系譜を守りたいって事もあってね。人族との無用な衝突を回避して欲しかったのよ。それでゲルが手伝ったって事なの。」
そう言う事なのね。
「でも、修復なら設計したゲルがやれば良いんじゃないの? 今の状態でゲルが無理なら、ゲルの代わりにジニアがやってあげれば良いと思うけどね。」
「それは約束に反する事なのよ。管理修復は自分たちでやるって言う約束で設計してあげたんだからね。」
そうなの?
「でもそんな約束なんて変更しても良いんじゃないの?」
リリスの言葉にガーゴイルはチッチッチッと声をあげて、翼にへばり付いた様な指を横に振った。
「そんな訳には行かないんだよ。このシールドを用意するために、大勢の魔族の族長達が血判を差し出したんだ。管理と修復には闇の亜神の手を煩わせないと言う誓いを立て、それぞれの種族の存続を賭けた。時間が経つにつれて、それはそのままある種の呪詛に転化してしまったんだよ。」
そんな事ってあるの?
でもそこまでしてでも、広域多重シールドを創り上げたかったのね。
おそらく人族との長年に渡る大きな戦争で、魔族達も相当な被害を被っていたに違いないわ。
「分かったわよ。手伝えば良いのね。」
そう答えたリリスにセリーヌは近付き、手を握って感謝の意を伝えた。
その仕草があまりにも自然で、とても人工知能の端末とは思えない。
「失礼だけど、セリーヌさんってホムンクルスじゃないのね。でも魔族やダークエルフでもなさそうだし・・・」
リリスの言葉にセリーヌはうふふと笑った。
「私はホムンクルスですよ。人工知能の創り上げた疑似人格です。でもそこに若干付加された要素がありますけどね。」
付加された要素?
リリスには何の事だか分からない。
その様子を見てジニアが呟いた。
「セリーヌはとある魔族の種族の族長の娘の人格が融合しているのよ。闇の憑依でも禁忌に近いレベルなんだけどね。」
そうなのね。
何だか色々と事情がありそうねえ。
あまりそこには触れないようにした方が良さそうだわ。
リリスは気持ちを切り替え、セリーヌに好意的な視線を送った。
それを感じ取ってセリーヌは再び礼を述べた。
「それじゃあ、広域多重シールドの心臓部に転移するわよ。」
ジニアはそう言うと、使い魔のカラスの翼を広げ、それをパチンと閉じた。
その途端にリリスの視界が暗転し、セリーヌやゲルの使い魔と共に未知の場所へと転移していったのだった。
あなたにおすすめの小説
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
[完]異世界銭湯
三園 七詩
ファンタジー
下町で昔ながらの薪で沸かす銭湯を経営する一家が住んでいた。
しかし近くにスーパー銭湯が出来てから客足が激減…このままでは店を畳むしかない、そう思っていた。
暗い気持ちで目覚め、いつもの習慣のように準備をしようと外に出ると…そこは見慣れた下町ではなく見たことも無い場所に銭湯は建っていた…
精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない
よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。
魔力があっても普通の魔法が使えない俺。
そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ!
因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。
任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。
極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ!
そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。
そんなある日転機が訪れる。
いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。
昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。
そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。
精霊曰く御礼だってさ。
どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。
何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ?
どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。
俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。
そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。
そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。
ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。
そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。
そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ?
何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。
因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。
流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。
俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。
因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?
余命半年のはずが?異世界生活始めます
ゆぃ♫
ファンタジー
静波杏花、本日病院で健康診断の結果を聞きに行き半年の余命と判明…
不運が重なり、途方に暮れていると…
確認はしていますが、拙い文章で誤字脱字もありますが読んでいただけると嬉しいです。
スナイパー令嬢戦記〜お母様からもらった"ボルトアクションライフル"が普通のマスケットの倍以上の射程があるんですけど〜
シャチ
ファンタジー
タリム復興期を読んでいただくと、なんでミリアのお母さんがぶっ飛んでいるのかがわかります。
アルミナ王国とディクトシス帝国の間では、たびたび戦争が起こる。
前回の戦争ではオリーブオイルの栽培地を欲した帝国がアルミナ王国へと戦争を仕掛けた。
一時はアルミナ王国の一部地域を掌握した帝国であったが、王国側のなりふり構わぬ反撃により戦線は膠着し、一部国境線未確定地域を残して停戦した。
そして20年あまりの時が過ぎた今、皇帝マーダ・マトモアの崩御による帝国の皇位継承権争いから、手柄を欲した時の第二皇子イビリ・ターオス・ディクトシスは軍勢を率いてアルミナ王国への宣戦布告を行った。
砂糖戦争と後に呼ばれるこの戦争において、両国に恐怖を植え付けた一人の令嬢がいる。
彼女の名はミリア・タリム
子爵令嬢である彼女に戦後ついた異名は「狙撃令嬢」
542人の帝国将兵を死傷させた狙撃の天才
そして戦中は、帝国からは死神と恐れられた存在。
このお話は、ミリア・タリムとそのお付きのメイド、ルーナの戦いの記録である。
他サイトに掲載したものと同じ内容となります。
【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。
大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。
そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。
しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。
戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。
「面白いじゃん?」
アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。
親王様は元大魔法師~明治の宮様に転生した男の物語~戦は避けられるのか?
サクラ近衛将監
ファンタジー
日本のIT企業戦士であった有能な若者がある日突然に異世界に放り込まれてしまった。
異世界に転移した際に、ラノベにあるような白い世界は無かったし、神様にも会ってはいない。
但し、理由は不明だが、その身には強大な魔法の力が備わっていた。
転移した異世界の都市は、正にスタンピードで魔物の大襲撃に遭っているところであり、偶然であるにせよその場に居合わせた転移者は魔物を殲滅して街を救い、以後その異世界で大魔法師として生きることになった。
そうして、転移から200年余り後、親族や大勢の弟子が見守る中で彼は大往生を遂げた。
しかしながら、異世界で生涯を終え、あの世に行ったはずが、230年余りの知識経験と異能を持ったまま赤子になって明治時代に生まれ変わってしまったのである。
これは異世界に転移したことのある出戻り転生者の物語である。
* あくまでもフィクションであり、登場人物や時代背景は史実とは異なります。
** 史実に出て来る人物又は良く似た名前の人物若しくは団体名が登場する場合もありますが、広い心で御容赦願います。
*** 週1(土曜午後9時)の投稿を予定しています。
@ 「小説家になろう」様にも投稿しています。
ライバル悪役令嬢に転生したハズがどうしてこうなった!?
だましだまし
ファンタジー
長編サイズだけど文字数的には短編の範囲です。
七歳の誕生日、ロウソクをふうっと吹き消した瞬間私の中に走馬灯が流れた。
え?何これ?私?!
どうやら私、ゲームの中に転生しちゃったっぽい!?
しかも悪役令嬢として出て来た伯爵令嬢じゃないの?
しかし流石伯爵家!使用人にかしずかれ美味しいご馳走に可愛いケーキ…ああ!最高!
ヒロインが出てくるまでまだ時間もあるし令嬢生活を満喫しよう…って毎日過ごしてたら鏡に写るこの巨体はなに!?
悪役とはいえ美少女スチルどこ行った!?