落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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新生した王国6

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アブリル王国の王宮。

その最上階の奥にある女王専用の会議室にローラ達は集合していた。

その会議室は普段は個別進化を遂げた4人で色々と打ち合わせをする部屋なのだが、この日はゲストが2名参加していた。
一人はローラ達の特別顧問である賢者ブルギウス。
そしてもう一人はなんとレイチェルであった。

薄いブルーのワンピースを着たレイチェルの姿に、さすがのローラも緊張を隠せない。
個別進化で彼女の得た様々なスキルが、彼女の脳内で警告を発しているからだ。
20歳前後の姿で参加しているローラだが、中身はやはり10歳の少女である。
未だかつて遭遇した事のない存在を前にして、本心では隠れてしまいたいと思っていた。
それでも自分の意識の中核に存在する世界樹の意思が、警戒しなくても良いと言う波動を送ってくるので、彼女はそれを信じてその場にいた。

そのローラの様子を見ながら、レイチェルはその端正な顔を少し傾け、ローラに笑顔で語り掛けた。

「そんなに緊張しなくても良いわよ。この国を滅ぼす為に来たんじゃないんだから。」

レイチェルの言葉に対してシーナが口を開いた。

「ローラ女王様は今やこの国の国母の立場なのです。それ故にこの国にとって自分の存在が、唯一無二である事を自覚しておられるのです。ですから自分の身に危険が迫る事を極力避けようとするあまり緊張して・・・・・」

「だから魔力の気配を消しているじゃないの。」

そう言いながらレイチェルはローラの顔を覗き込んだ。
何かを探るような仕草をするレイチェル。
その表情が驚きの表情に変わっていった。

「あんたって・・・私の実体が見えているのね。そう言う特別なスキルを持っているのね。それでどこまで理解しているの?」

レイチェルの言葉にローラはおずおずと口を開いた。

「幾つもの巨大な光球が見えます。その一つがあなたで、あなたの中から天空にまで届くような巨大な竜巻が現われる。その大きさはこの大陸を包み込むほどの大きさで、すべてのものを吹き飛ばしてしまう。更に巨大な火の塊を煽り、大陸中のすべてのものを焼き尽くしていく。これは・・・私の脳裏にリアルに映るこの光景は未来の予知なのでしょうか?」

「いいえ、違うわ。」

レイチェルは平然と答えた。

「それは2万年に一度の大災厄として、この世界に刻まれた過去の記憶よ。でもそんなものが見えているのね。」

レイチェルの言葉にローラは静かに頷いた。

「私達の本体が今度この世界に降臨するのは5000年後よ。今のあんた達が心配する必要は無いわよ。それに個別進化がその破壊と再生のサイクルを変えてしまう要素になる可能性もあるからね。そう言う意味ではリリスの存在が、この世界のシステムそのものを変革してしまう可能性だってあるのよ。」

そう言うとレイチェルはふっとその表情を緩めた。

「私達亜神は気紛れだからね。地上の生命体と触れ合うのも気紛れだし、力を貸す事も気紛れにある。まあ、そんなものだと思って気軽に対処してくれれば良いわよ。」

「それに私達もあんた達の存在が気になっているのよ。未だかつてこの世界に存在しなかった種族になりそうだからね。ユリアだって同じ気持ちであんた達を見ているからこそ、水の女神の加護を残してあげようとしているのよ。」

レイチェルの言葉にローラは落ち着いた表情を見せた。
少し安心したのだろう。

そのローラの様子を見てレイチェルも笑顔を見せた。

「式典当日は私が水の女神の使いを演じるわね。式典の進行は私に任せて頂戴。それで以前にドルキア王国で行った式典の様子を見せてあげるわね。」

そう言いながらレイチェルはパチンと指を鳴らした。
その途端にローラ達の目の前に大きな半透明のパネルが出現した。
そのパネルにドルキアでの式典の様子が映し出されている。

「これはユリアの記憶を元にして数年前まで時空を遡り、その当時の現場の時空に残された痕跡から編集したものよ。」

レイチェルの言葉に一同がほうっ!と叫びながらパネルの映像を凝視した。
身長が5mにも及ぶ女神の姿が映し出されると、更に感嘆の声が上がった。

一通りの映像を見終えたローラ達に、レイチェルはうふふと笑いながら口を開いた。

「一応、宝玉を備えた水の神殿を見学しておく必要があるわね。ドルキア王国にある水の神殿の内部を見学させてあげるわ。今から転移して5分ほど見学しましょう。」

「ええっ! 今からですか? そんなに急に遠方の他国に行くなんて・・・。それに国交もない国に転移すると、最悪の場合捕縛されますよ。」

ジーナの返答にレイチェルは手を横に振った。

「そんな心配は要らないわ。位相を少しずらせば誰にも認知出来ないわよ。」

「そんな事って出来るんですか?」

「ええ、こんな風にね。」

そう言ってレイチェルは再び指をパチンと鳴らした。

その途端にローラ達の視界が暗転し、目の前に白い壁で囲まれた広いホールが広がっていた。そのホールの中央に大きな台座があり、その上には直径が1mほどの巨大な宝玉が設置されていた。宝玉は淡いブルーに輝き、周囲に水魔法の波動を絶える事無く拡散させている。その周囲に通路が用意され、参詣者がその通路を進みながら宝玉に自分の魔力を寄進していた。

ほどなく20名ほどの団体の参詣者が通路の向こうから歩いてきた。
それを避けようとしてジーナは身体を横に向けたが、それでも参詣者とぶつかりそうだ。拙いと思って身体を壁に沿わせようとすると、ジーナの身体が半分壁にめり込んでしまった。
通過する参詣者は戸惑うローラやケネスの身体をすり抜けて去っていく。

「私達が見えていないの?」

壁から顔だけを出して呟くジーナ。
その姿は不気味としか言いようがない。

「位相がずれているから私達の存在を認識出来ないのよね。それに物体をも通過してしまうから、今の私達の状態は死霊のようなものよ。」

レイチェルの言葉にローラ達は驚きのあまり声が出ない。

「グルジア。ここが何処だか分かる?」

ジーナに問い掛けられ、グルジアは空間魔法で自分達の位置座標を確認した。

「・・・・・ドルキア王国だ。間違いないよ。」

グルジアの驚きの言葉にレイチェルはニヤッと笑った。

「確認出来たようね。さあ、今からは見学時間にしましょう。10分後にアブリル王国の王城に戻るからね。各自解散して見学後には、ここに戻ってくるのよ。」

工場見学に児童を引率してきた先生のような口調で、レイチェルはローラ達に語り掛けた。
ローラ達は無言で頷き、各々自分が見ておきたい所に足を運んだ。

10分後。

レイチェルの空間魔法でローラ達はアブリル王国の王城の会議室に戻った。

「式典の日時が確定したら教えてね。ジーナの魔力の波動にチャンネルを合わせておくから、魔力を放ちながら私の名前を呼べば来てあげるわよ。」

そう言ってレイチェルはその場から消えていったのだった。




一方、リリスとリンディはアブリル王国でお土産を買い込み、ノイマン卿達とその日のうちに帰途に就いた。

学生寮に戻ったリリスを出迎えたのはサラではなく、意外にも紫色のガーゴイルだった。
この日は休日でサラはまだ外出中の様だ。

「ユリアス様。どうしたんですか?」

リリスの問い掛けに、紫色のガーゴイルは羽をバタバタと羽ばたかせながら、リリスを急かせるように口を開いた。

「儂と一緒にレミア族の研究施設に来て欲しいんじゃ。数名の賢者が集結しておるからな。」

数名の賢者が集結?
何事なの?

ユリアスが急かせるので、リリスは荷物を置くと着替えもせず、ユリアスの闇魔法の転移でレミア族の研究施設に転移した。

リリスの視界が暗転し、目の前が明るくなると、リリスの前にはラダムとリクード、ブルギウスとデルフィが立っていた。

その賢者達の後ろに大きな魔道具が置かれており、その傍でしゃがみ込んでいるブルーの作業服姿の男がリリスに声を掛けた。

「やあ、リリス。学生寮に戻った矢先に呼び出してすまんね。」

何故か作業服姿が似合うチャーリーである。

「どうしてあんたがここに居るのよ。」

「どうしても何も、数日前からユリアスに呼び出されてここにおるんや。この前はユリアに無理やり呼び出されたけどね。」

ああ、そんな事を言っていたわね。

「ここに居る僕は土の亜神ではなく、レミア族の研究者の一人だと思ってくれ。」

何を言っているのよ。

リリスはチャーリーの言葉をスルーして賢者達に話し掛けた。

「どうしたんですか? デルフィ様までここに来られるなんて。リクード様はレミア族の研究に取り組んでおられたから、ここに居るのは分かるんですけど。それにブルギウス様まで来られているとは思いませんでした。」

リリスの言葉にブルギウスはニヤッと笑った。

「アブリル王国でユリアス殿を紹介してもらったのでな。早速ここに来てリクード殿を紹介してもらったのだよ。」

ブルギウスの言葉を聞いてリクードはうんうんと頷いた。

「儂も個人で研究出来る限度を痛感していたところなので、同じ獣人の賢者であるブルギウス殿を紹介され、色々と意見交換などをしていたのだ。それにしても・・・・・」

そう言いながらリクードは振り返り、後ろにある大きな魔道具を見つめた。

「レミア族の遺物や遺産がこれほどのものとは思わなかったぞ。ここの管理を任されているユリアス殿には頭が下がる。」

「この施設に保管されているレミア族の遺物には、儂らが調べても良く分からないものが多数存在するのだ。その中の一つがこの後ろにある魔道具だ。」

リクードの視線の先にある魔道具。
それは一辺が2mほどの立方体で四隅に円柱状の物体が接続されていた。
表面は魔金属で出来ていて鈍い光沢を放っている。
弱い魔力を内部から放ち、人の接近にも反応しているので、人が操作する魔道具である事は間違いないだろう。

「これって何ですか?」

「それが分からんからチャーリーを呼んだのだよ。」

ユリアスの言葉にチャーリーはうんうんと頷いた。

「チャーリーでもこれが何か分からないの?」

リリスの言葉にチャーリーは首を横に振った。

「これは特殊な亜空間への転移装置のマスターコントロールやね。これを操作して亜空間内の端末を呼び戻すんやろな。」

「それが分かっているんなら、稼働させれば良いんじゃないの?」

「それがなあ。上手く稼働出来ないんや。稼働させる者に特別な条件が必要なんやろうね。」

そう言いながらチャーリーは顔をしかめた。
そのチャーリーの言葉を補足するようにデルフィが口を開いた。

「リリス。これを見てごらん。」

デルフィは魔道具に近付き、ふっと魔力を流した。
それに反応して魔道具の四隅の円柱が仄かに光を放った。
だがそれだけだ。

「儂の魔力には反応するが、ここに居る他の者の魔力には反応しない。竜族やそれに近い気配を持つ者に反応するのだろう。」

「しかも、この魔道具には特殊な気配が仄かに漂っている。リリス、それが分かるかね?」

デルフィはそう言うと、リリスが魔道具に近付くように促した。
リリスが魔道具に近付くと、微かだが異様な気配が感じられる。

「この気配って・・・・・」

「うむ。お前には分かったはずだ。この魔道具は暗黒竜の気配を漂わせているのだよ。」

確かにそうだ。
リリスは自身が持つ暗黒竜の加護がチクチクと刺激されているのを感じたのだ。

暗黒竜の気配を漂わせる魔道具!

リリスはその異様な魔道具を訝しげに見つめていたのだった。






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