316 / 369
鉱山にて1
しおりを挟む
時限監獄の中に捕縛された呪詛の術者。
その姿を見ると瀕死の状態の様だ。
「まだ息があるわね。ほらっ! あんた達に渡すわよ。」
クイーングレイスがそう言うと、時限監獄はその大きさを縮小させ、直径30cmほどになってしまった。
もちろん見た目の大きさが変わっただけである。
その時限監獄がふらふらと空中を漂い、テーブルの上を転がり、ジーナの目の前で止まった。
「これを軍に送れば良いのですね。グルジア宛に送りましょう。」
ジーナはローラに向かってそう言うと、時限監獄に手を置き、空間魔法を発動させて転移させた。
更に念話で、時限監獄を転移させて送った意図をグルジアに伝えた。
「時限監獄の解除は何時間後ですか?」
ジーナの問い掛けにクイーングレイスはニヤリと笑った。
「初期設定では6時間なのよね。でも何時でも解除出来るわよ。解除のキーをあんたの魔力の波動にすれば良いかしら?」
「はい、それでお願いします。」
ジーナの言葉に応じ、クイーングレイスはジーナに向けてふっと魔力を流した。
その魔力を受けて、ジーナの手の甲に小さな竜の紋章が浮かび上がった。
ジーナはそれを興味深そうにしげしげと見つめている。
ローラもその紋章を食い入るようにじっと見つめた。
「その紋章、何となくかっこいいわね。」
まるで自分にも欲しいと言わんばかりだ。
女王の姿の時とはあまりにもギャップのあるローラの言葉と表情に、リリスもほっと癒される思いがした。
やはりローラは少女なのだと再確認した瞬間である。
ローラの言葉にクイーングレイスはアハハと笑いながらその姿を消した。
それと共に部屋に漂っていた禍々しい気配は消え、マキもほっと安堵のため息をついた。
マキはマキなりに緊張していたようだ。
「捕縛した術者から、前国王に纏わる悪事が少しでも判明すれば良いのですけど・・・」
ローラの言葉に含みがある。
それを感じて深刻な表情を見せたリリスに、ジーナが神妙な表情で話し掛けた。
「実は明日、マキ様とケネスに祭祀を執り行っていただく場所も、前国王が深く関与している疑いがあるのです。」
「隣国リギア王国との国境地帯にミスリル鉱山がありまして、数百年来その領有権を巡って我が国との紛争が絶えなかったのです。その領有権をローラ王女様の交渉によってようやく手に入れました。」
ジーナの言葉にリリスはへえっ!と感嘆の声を上げた。
「良くそんな重要な場所を手に入れたわね。」
「ええ、交渉の前準備の段階からかなりの魔力を費やしました。」
それって何をしたのよ!
高度な精神誘導でもしたの?
ローラが不敵な笑顔を見せている。
リリスはそれ以上言及するのをやめた。
その様子を見ながらジーナが口を開いた。
「でも、隣国がミスリル鉱山を手放す理由もあるのですよ。10年ほど前から鉱山に大量のアンデッドが棲み付き、高位のモンクやパラディンを雇っていくら駆除しても、直ぐに発生して元の状態になってしまうそうです。それで隣国も採掘が出来なくなっていたので、鉱山の領有を諦めていたと言う背景もありました。」
「それで鉱山が我が国の領有となった後に、ケネスが現地に赴き、大規模な浄化の儀式を執り行ったのです。」
ああ、ケネスさんなら大規模な浄化も出来そうね。
「でも駄目でした。完全に浄化してアンデッドの気配が消えてしまっても、10分後にはアンデッドが発生し始め、30分後には元の状態に戻ってしまったのです。」
それっておかしいわね。
何か根本的な原因がありそうだわ。
リリスの疑問を察したかのようにマキが口を開いた。
「もしかすると、アンデッドを呼び込む装置があるのかも知れませんね。」
「そんなものがあるのですか?」
ジーナの言葉にマキはうんうんと頷いた。
「私が以前に扱った案件の中に、そう言う事案があったのです。」
マキはそう言うと昔の記憶を辿るような仕草を見せた。
「とある王家の墓所にアンデッドが大量に棲み付いていて、大規模な浄化の儀式を行った事があるのです。その墓所には王位継承に纏わる秘宝が複数保管されていて、王位継承に係る混乱を収めるためにそれを取り出したいと言う要請でした。とりあえず浄化の儀式は成功したのですが、その後すぐに元の状態に戻ってしまいました。3回儀式を繰り返しても駄目だったので、浄化をしながら10名のパラディンに探索させたところ、その墓所の最下層に闇のオーブを利用したアンデッドの召喚装置が発見されたのです。それを機能停止させる事でようやく完全に浄化出来たのですが、そのケースと似ているような気がしますね。」
「それってその国の王位継承を混乱させる目的だったの?」
リリスの問い掛けにマキは強く頷いた。
「その国の新しい国王を善しとしない勢力の仕業だったけど、実際にその装置を造り上げたのは魔族なのよ。人族や獣人やダークエルフでもそんなものは造れないわ。」
魔族と言う言葉にリリスは驚いた。
「そんな事をする魔族も居るのね。でもその魔族の目的って単に人族や獣人の国を混乱させる為なの?」
「それが違うのよね。魔族の中には弱小な種族がいて、無条件に人族や獣人とは敵対せず、交易を通して利財を成す連中もいるのよ。確かイヴァ族って言ったかしら・・・」
マキの言葉にジーナがグッと身を乗り出してきた。
「まさかマキ様の口からイヴァ族の名前が出てくるとは思いませんでした。実は先日他国の王家の長老との話の中で、そのような者達が居る事を耳にしました。もしかすると鉱山の件でもその連中が関与しているのかも知れませんね。」
「マキ様の言うようにそのような装置があれば、普段はアンデッドを大量に発生させて鉱山を採掘不能にしておき、採掘の必要な時だけ装置を停止させる事も出来るはずです。前国王がその件に関わっているとすれば、ミスリル鉱を横流ししていたのかも知れません。」
ジーナはそう言うとローラと顔を見合わせた。
ローラは神妙な表情で静かに頷き、リリスに向って口を開いた。
「前国王については色々な噂話があるのですよ。他国の王族間の紛争の双方に陰で物資援助をし、その混乱を長引かせていたと言う疑惑もありますので。」
う~ん。
やはりいわくつきの人物なのね。
「まあ、いずれにしても明日の浄化の儀式で確かめてみましょう。」
マキの言葉でローラとジーナも強く頷いた。
その後、明日の儀式の簡略な打ち合わせをして、ジーナとローラは空間魔法で転移していった。
二人を見送りマキはリリスに話し掛けた。
「リリスちゃん、明日は魔力のサポートをよろしくね。」
「分かっているわよ。思いっきりやってよね。」
リリスの言葉にマキは強く頷き、二人は就寝の用意をし始めた。
翌日。
リリスとマキはケネスや護衛の兵士達と共に早朝に出発し、問題のミスリル鉱山の近くまで辿り着いた。
あまり木の生えていないごつごつした岩肌が辺り一面に見えている。
鉱山の採掘抗まで500mほどの距離に近付くと、既に邪悪な気配が漂い、ギャーッと言う薄気味の悪い悲鳴や金切り声が聞こえてきた。
それは採掘抗に近付くにつれて大きくなり、地表に溢れ出した30体ほどのレイスが周辺を飛び回っているのが見える。
リリスやマキやケネス達も精神攻撃に対する耐性は持っているが、それでもこの気配と悲鳴は耐え難い。
顔をしかめつつリリス達は採掘抗に近付いた。
「マキ様。この辺りでいかがでしょうか?」
ケネスの言葉にマキはハイと答えて周囲を見回した。
少し小高い岩の上なので採掘抗の近辺も良く見える。
マキはさっそく広域浄化の準備に入った。
聖魔法の魔力を大きく循環し始めると、マキの身体が仄かに光り始める。
「リリスちゃん。魔力のサポートをお願い!」
マキの言葉に応じて、リリスはマキの手に大きく魔力を流した。
一瞬ウッと呻いたマキだが、その表情は変わらない。
真剣な目で採掘抗の周辺を見つめながら、一気に聖魔法を発動させた。
天に向かって高くつきだしたマキの両手から聖魔法の魔力が放たれ、採掘抗の周辺に直径300mほどの巨大な魔法陣が現われた。その魔法陣に更に魔力を流し続けると、魔法陣全体が大きく光り始め、その魔法陣の上に大量の光の球が現われ、それが上空に消えていく。それらは浄化されたアンデッド達なのだろう。
浄化の波動が辺り一面に漂い、神聖な気配が魔法陣に渦巻いている。
実に荘厳な光景だ。
だがマキの浄化はそれだけで終わらない。
「リリスちゃん、もう少し魔力を分けて!」
マキの再度の要請にリリスは大きく魔力を流した。
マキの身体がそれに応じて強く光を放つ。
魔法陣の上には巨大な青白い光の輪が幾つも現われ、魔法陣の下へと消えていく。
かなり深度まで浄化を行っているのだろう。
「うん。親玉が居たわよ。」
マキの言葉と同時に魔法陣の上に巨大な光球が現われ、ギャーッと言う大きな悲鳴と共に上空に消えていった。
巨大なレイスだったのかも知れない。
30分ほどの広域浄化の儀式を終えると、周辺や地下にもアンデッドの気配は全くなくなっていた。
「マキ様の広域浄化は凄まじいですね。」
ケネスの言葉にマキは謙遜して首を横に振った。
「私の力だけじゃありません。リリスちゃんの魔力のサポートがあったからですよ。聖魔法関係の儀式の従者でも、こんなに強力な従者は居ませんからね。」
マキの言葉にケネスは納得して頷いた。
だがこれで全てが終わった訳ではない。
リリス達はその場で座り、待機して様子を窺った。
ケネス達の懸念通り、10分後に地下からアンデッドの気配が探知され、時間の経過と共にそれは加速的に増えていった。
がっくりと肩を落とすケネス。
その様子を見ながらマキはふと呟いた。
「やはりアンデッドを呼び出す装置があるのかも知れませんね。」
「その可能性は私も昨夜、ジーナから聞きました。ですが高位のパラディンやモンクなど近隣諸国にもおりませんからねえ。」
そう言って頭を抱えるケネスに、マキは笑顔で話し掛けた。
「大丈夫ですよ。彼等よりも桁違いに強力な戦士が居ますから。」
それって誰の事よ?
疑問に満ちたリリスの表情を見てマキはうふふと不敵な笑みを見せた。
「アリアが騒いでいるのよ。私にやらせろって言っているわ。」
アリア!
そうだったわね。
アリアが居たんだ。
納得の表情のリリスだがケネスは話に付いていけない。
「アリアと言うのは高位のパラディンですか? マキ様のお知り合いか何かで・・・」
ケネスの言葉にマキは笑って首を横に振った。
「アリアってマキちゃんが持つ聖剣に宿る剣聖なんですよ。」
「えっ! マキ様は聖剣をお持ちなのですか?」
ケネスの言葉にマキはハイと答えて耳のピアスに手を触れた。
その途端にマキの手にショートソードが現われた。
聖剣アリアドーネだ。
聖魔法の清らかな波動が聖剣から漂い、その存在感を強く示している。
「これは素晴らしい。ですがマキ様は剣技も得意なのですか?」
まあ、普通ならそう考えちゃうわよね。
「ケネスさん。心配は要りませんよ。アリアドーネは憑依型の聖剣なんです。マキちゃんがそれを見せてくれますよ。」
リリスの言葉にマキはうんと頷いた。
「アリア! 準備は良いわよ!」
マキが叫ぶとアリアドーネが激しく光を放った。
それと同時にマキの身体をプラチナ色の光が包み込む。
その光はマキの顔面を除いて頭部からつま先までを覆い尽くし、ほどなく金属質の光沢を放ち始めた。
その姿はプラチナ色のフルメタルアーマーを装備した気高い戦士だ。
手にもつ聖剣アリアドーネはその剣身を2mほどにも伸ばし、魔力の剣となって青白く輝いている。
ケネスをはじめ、護衛の兵士達もオオッと驚きに満ちた歓声を上げた。
うんうん。
マキちゃん、かっこいいわよ。
久しぶりに見るけど、この姿って実物大の美少女戦士のフィギュアそのものだもの。
剣聖アリアが憑依したマキの表情は何時ものふんわりとした表情では無く、きりっとした緊迫感が強く漂っている。
「行くわよ! 全員私に付いてきなさい!」
マキはそう言うと採掘抗に向かって、飛ぶように走り出したのだった。
その姿を見ると瀕死の状態の様だ。
「まだ息があるわね。ほらっ! あんた達に渡すわよ。」
クイーングレイスがそう言うと、時限監獄はその大きさを縮小させ、直径30cmほどになってしまった。
もちろん見た目の大きさが変わっただけである。
その時限監獄がふらふらと空中を漂い、テーブルの上を転がり、ジーナの目の前で止まった。
「これを軍に送れば良いのですね。グルジア宛に送りましょう。」
ジーナはローラに向かってそう言うと、時限監獄に手を置き、空間魔法を発動させて転移させた。
更に念話で、時限監獄を転移させて送った意図をグルジアに伝えた。
「時限監獄の解除は何時間後ですか?」
ジーナの問い掛けにクイーングレイスはニヤリと笑った。
「初期設定では6時間なのよね。でも何時でも解除出来るわよ。解除のキーをあんたの魔力の波動にすれば良いかしら?」
「はい、それでお願いします。」
ジーナの言葉に応じ、クイーングレイスはジーナに向けてふっと魔力を流した。
その魔力を受けて、ジーナの手の甲に小さな竜の紋章が浮かび上がった。
ジーナはそれを興味深そうにしげしげと見つめている。
ローラもその紋章を食い入るようにじっと見つめた。
「その紋章、何となくかっこいいわね。」
まるで自分にも欲しいと言わんばかりだ。
女王の姿の時とはあまりにもギャップのあるローラの言葉と表情に、リリスもほっと癒される思いがした。
やはりローラは少女なのだと再確認した瞬間である。
ローラの言葉にクイーングレイスはアハハと笑いながらその姿を消した。
それと共に部屋に漂っていた禍々しい気配は消え、マキもほっと安堵のため息をついた。
マキはマキなりに緊張していたようだ。
「捕縛した術者から、前国王に纏わる悪事が少しでも判明すれば良いのですけど・・・」
ローラの言葉に含みがある。
それを感じて深刻な表情を見せたリリスに、ジーナが神妙な表情で話し掛けた。
「実は明日、マキ様とケネスに祭祀を執り行っていただく場所も、前国王が深く関与している疑いがあるのです。」
「隣国リギア王国との国境地帯にミスリル鉱山がありまして、数百年来その領有権を巡って我が国との紛争が絶えなかったのです。その領有権をローラ王女様の交渉によってようやく手に入れました。」
ジーナの言葉にリリスはへえっ!と感嘆の声を上げた。
「良くそんな重要な場所を手に入れたわね。」
「ええ、交渉の前準備の段階からかなりの魔力を費やしました。」
それって何をしたのよ!
高度な精神誘導でもしたの?
ローラが不敵な笑顔を見せている。
リリスはそれ以上言及するのをやめた。
その様子を見ながらジーナが口を開いた。
「でも、隣国がミスリル鉱山を手放す理由もあるのですよ。10年ほど前から鉱山に大量のアンデッドが棲み付き、高位のモンクやパラディンを雇っていくら駆除しても、直ぐに発生して元の状態になってしまうそうです。それで隣国も採掘が出来なくなっていたので、鉱山の領有を諦めていたと言う背景もありました。」
「それで鉱山が我が国の領有となった後に、ケネスが現地に赴き、大規模な浄化の儀式を執り行ったのです。」
ああ、ケネスさんなら大規模な浄化も出来そうね。
「でも駄目でした。完全に浄化してアンデッドの気配が消えてしまっても、10分後にはアンデッドが発生し始め、30分後には元の状態に戻ってしまったのです。」
それっておかしいわね。
何か根本的な原因がありそうだわ。
リリスの疑問を察したかのようにマキが口を開いた。
「もしかすると、アンデッドを呼び込む装置があるのかも知れませんね。」
「そんなものがあるのですか?」
ジーナの言葉にマキはうんうんと頷いた。
「私が以前に扱った案件の中に、そう言う事案があったのです。」
マキはそう言うと昔の記憶を辿るような仕草を見せた。
「とある王家の墓所にアンデッドが大量に棲み付いていて、大規模な浄化の儀式を行った事があるのです。その墓所には王位継承に纏わる秘宝が複数保管されていて、王位継承に係る混乱を収めるためにそれを取り出したいと言う要請でした。とりあえず浄化の儀式は成功したのですが、その後すぐに元の状態に戻ってしまいました。3回儀式を繰り返しても駄目だったので、浄化をしながら10名のパラディンに探索させたところ、その墓所の最下層に闇のオーブを利用したアンデッドの召喚装置が発見されたのです。それを機能停止させる事でようやく完全に浄化出来たのですが、そのケースと似ているような気がしますね。」
「それってその国の王位継承を混乱させる目的だったの?」
リリスの問い掛けにマキは強く頷いた。
「その国の新しい国王を善しとしない勢力の仕業だったけど、実際にその装置を造り上げたのは魔族なのよ。人族や獣人やダークエルフでもそんなものは造れないわ。」
魔族と言う言葉にリリスは驚いた。
「そんな事をする魔族も居るのね。でもその魔族の目的って単に人族や獣人の国を混乱させる為なの?」
「それが違うのよね。魔族の中には弱小な種族がいて、無条件に人族や獣人とは敵対せず、交易を通して利財を成す連中もいるのよ。確かイヴァ族って言ったかしら・・・」
マキの言葉にジーナがグッと身を乗り出してきた。
「まさかマキ様の口からイヴァ族の名前が出てくるとは思いませんでした。実は先日他国の王家の長老との話の中で、そのような者達が居る事を耳にしました。もしかすると鉱山の件でもその連中が関与しているのかも知れませんね。」
「マキ様の言うようにそのような装置があれば、普段はアンデッドを大量に発生させて鉱山を採掘不能にしておき、採掘の必要な時だけ装置を停止させる事も出来るはずです。前国王がその件に関わっているとすれば、ミスリル鉱を横流ししていたのかも知れません。」
ジーナはそう言うとローラと顔を見合わせた。
ローラは神妙な表情で静かに頷き、リリスに向って口を開いた。
「前国王については色々な噂話があるのですよ。他国の王族間の紛争の双方に陰で物資援助をし、その混乱を長引かせていたと言う疑惑もありますので。」
う~ん。
やはりいわくつきの人物なのね。
「まあ、いずれにしても明日の浄化の儀式で確かめてみましょう。」
マキの言葉でローラとジーナも強く頷いた。
その後、明日の儀式の簡略な打ち合わせをして、ジーナとローラは空間魔法で転移していった。
二人を見送りマキはリリスに話し掛けた。
「リリスちゃん、明日は魔力のサポートをよろしくね。」
「分かっているわよ。思いっきりやってよね。」
リリスの言葉にマキは強く頷き、二人は就寝の用意をし始めた。
翌日。
リリスとマキはケネスや護衛の兵士達と共に早朝に出発し、問題のミスリル鉱山の近くまで辿り着いた。
あまり木の生えていないごつごつした岩肌が辺り一面に見えている。
鉱山の採掘抗まで500mほどの距離に近付くと、既に邪悪な気配が漂い、ギャーッと言う薄気味の悪い悲鳴や金切り声が聞こえてきた。
それは採掘抗に近付くにつれて大きくなり、地表に溢れ出した30体ほどのレイスが周辺を飛び回っているのが見える。
リリスやマキやケネス達も精神攻撃に対する耐性は持っているが、それでもこの気配と悲鳴は耐え難い。
顔をしかめつつリリス達は採掘抗に近付いた。
「マキ様。この辺りでいかがでしょうか?」
ケネスの言葉にマキはハイと答えて周囲を見回した。
少し小高い岩の上なので採掘抗の近辺も良く見える。
マキはさっそく広域浄化の準備に入った。
聖魔法の魔力を大きく循環し始めると、マキの身体が仄かに光り始める。
「リリスちゃん。魔力のサポートをお願い!」
マキの言葉に応じて、リリスはマキの手に大きく魔力を流した。
一瞬ウッと呻いたマキだが、その表情は変わらない。
真剣な目で採掘抗の周辺を見つめながら、一気に聖魔法を発動させた。
天に向かって高くつきだしたマキの両手から聖魔法の魔力が放たれ、採掘抗の周辺に直径300mほどの巨大な魔法陣が現われた。その魔法陣に更に魔力を流し続けると、魔法陣全体が大きく光り始め、その魔法陣の上に大量の光の球が現われ、それが上空に消えていく。それらは浄化されたアンデッド達なのだろう。
浄化の波動が辺り一面に漂い、神聖な気配が魔法陣に渦巻いている。
実に荘厳な光景だ。
だがマキの浄化はそれだけで終わらない。
「リリスちゃん、もう少し魔力を分けて!」
マキの再度の要請にリリスは大きく魔力を流した。
マキの身体がそれに応じて強く光を放つ。
魔法陣の上には巨大な青白い光の輪が幾つも現われ、魔法陣の下へと消えていく。
かなり深度まで浄化を行っているのだろう。
「うん。親玉が居たわよ。」
マキの言葉と同時に魔法陣の上に巨大な光球が現われ、ギャーッと言う大きな悲鳴と共に上空に消えていった。
巨大なレイスだったのかも知れない。
30分ほどの広域浄化の儀式を終えると、周辺や地下にもアンデッドの気配は全くなくなっていた。
「マキ様の広域浄化は凄まじいですね。」
ケネスの言葉にマキは謙遜して首を横に振った。
「私の力だけじゃありません。リリスちゃんの魔力のサポートがあったからですよ。聖魔法関係の儀式の従者でも、こんなに強力な従者は居ませんからね。」
マキの言葉にケネスは納得して頷いた。
だがこれで全てが終わった訳ではない。
リリス達はその場で座り、待機して様子を窺った。
ケネス達の懸念通り、10分後に地下からアンデッドの気配が探知され、時間の経過と共にそれは加速的に増えていった。
がっくりと肩を落とすケネス。
その様子を見ながらマキはふと呟いた。
「やはりアンデッドを呼び出す装置があるのかも知れませんね。」
「その可能性は私も昨夜、ジーナから聞きました。ですが高位のパラディンやモンクなど近隣諸国にもおりませんからねえ。」
そう言って頭を抱えるケネスに、マキは笑顔で話し掛けた。
「大丈夫ですよ。彼等よりも桁違いに強力な戦士が居ますから。」
それって誰の事よ?
疑問に満ちたリリスの表情を見てマキはうふふと不敵な笑みを見せた。
「アリアが騒いでいるのよ。私にやらせろって言っているわ。」
アリア!
そうだったわね。
アリアが居たんだ。
納得の表情のリリスだがケネスは話に付いていけない。
「アリアと言うのは高位のパラディンですか? マキ様のお知り合いか何かで・・・」
ケネスの言葉にマキは笑って首を横に振った。
「アリアってマキちゃんが持つ聖剣に宿る剣聖なんですよ。」
「えっ! マキ様は聖剣をお持ちなのですか?」
ケネスの言葉にマキはハイと答えて耳のピアスに手を触れた。
その途端にマキの手にショートソードが現われた。
聖剣アリアドーネだ。
聖魔法の清らかな波動が聖剣から漂い、その存在感を強く示している。
「これは素晴らしい。ですがマキ様は剣技も得意なのですか?」
まあ、普通ならそう考えちゃうわよね。
「ケネスさん。心配は要りませんよ。アリアドーネは憑依型の聖剣なんです。マキちゃんがそれを見せてくれますよ。」
リリスの言葉にマキはうんと頷いた。
「アリア! 準備は良いわよ!」
マキが叫ぶとアリアドーネが激しく光を放った。
それと同時にマキの身体をプラチナ色の光が包み込む。
その光はマキの顔面を除いて頭部からつま先までを覆い尽くし、ほどなく金属質の光沢を放ち始めた。
その姿はプラチナ色のフルメタルアーマーを装備した気高い戦士だ。
手にもつ聖剣アリアドーネはその剣身を2mほどにも伸ばし、魔力の剣となって青白く輝いている。
ケネスをはじめ、護衛の兵士達もオオッと驚きに満ちた歓声を上げた。
うんうん。
マキちゃん、かっこいいわよ。
久しぶりに見るけど、この姿って実物大の美少女戦士のフィギュアそのものだもの。
剣聖アリアが憑依したマキの表情は何時ものふんわりとした表情では無く、きりっとした緊迫感が強く漂っている。
「行くわよ! 全員私に付いてきなさい!」
マキはそう言うと採掘抗に向かって、飛ぶように走り出したのだった。
30
あなたにおすすめの小説
異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが
初
ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
天才魔導医の弟子~転生ナースの戦場カルテ~
けろ
ファンタジー
【完結済み】
仕事に生きたベテランナース、異世界で10歳の少女に!?
過労で倒れた先に待っていたのは、魔法と剣、そして規格外の医療が交差する世界だった――。
救急救命の現場で十数年。ベテラン看護師の天木弓束(あまき ゆづか)は、人手不足と激務に心身をすり減らす毎日を送っていた。仕事に全てを捧げるあまり、プライベートは二の次。周囲からの期待もプレッシャーに感じながら、それでも人の命を救うことだけを使命としていた。
しかし、ある日、謎の少女を救えなかったショックで意識を失い、目覚めた場所は……中世ヨーロッパのような異世界の路地裏!? しかも、姿は10歳の少女に若返っていた。
記憶も曖昧なまま、絶望の淵に立たされた弓束。しかし、彼女が唯一失っていなかったもの――それは、現代日本で培った高度な医療知識と技術だった。
偶然出会った獣人冒険者の重度の骨折を、その知識で的確に応急処置したことで、弓束の運命は大きく動き出す。
彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。
「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」
強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。
「菌?感染症?何の話だ?」
滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級!
しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。
規格外の弟子と、人外の師匠。
二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。
これは、神のいない手術室で命と向き合い続けた一人の看護師が、新たな世界で自らの知識と魔法を武器に、再び「救う」ことの意味を見つけていく物語。
転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ
karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。
しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。
無能と呼ばれたレベル0の転生者は、効果がチートだったスキル限界突破の力で最強を目指す
紅月シン
ファンタジー
七歳の誕生日を迎えたその日に、レオン・ハーヴェイの全ては一変することになった。
才能限界0。
それが、その日レオンという少年に下されたその身の価値であった。
レベルが存在するその世界で、才能限界とはレベルの成長限界を意味する。
つまりは、レベルが0のまま一生変わらない――未来永劫一般人であることが確定してしまったのだ。
だがそんなことは、レオンにはどうでもいいことでもあった。
その結果として実家の公爵家を追放されたことも。
同日に前世の記憶を思い出したことも。
一つの出会いに比べれば、全ては些事に過ぎなかったからだ。
その出会いの果てに誓いを立てた少年は、その世界で役立たずとされているものに目を付ける。
スキル。
そして、自らのスキルである限界突破。
やがてそのスキルの意味を理解した時、少年は誓いを果たすため、世界最強を目指すことを決意するのであった。
※小説家になろう様にも投稿しています
みそっかす銀狐(シルバーフォックス)、家族を探す旅に出る
伽羅
ファンタジー
三つ子で生まれた銀狐の獣人シリル。一人だけ体が小さく人型に変化しても赤ん坊のままだった。
それでも親子で仲良く暮らしていた獣人の里が人間に襲撃される。
兄達を助ける為に囮になったシリルは逃げる途中で崖から川に転落して流されてしまう。
何とか一命を取り留めたシリルは家族を探す旅に出るのだった…。
異世界で幸せに~運命?そんなものはありません~
存在証明
ファンタジー
不慮の事故によって異世界に転生したカイ。異世界でも家族に疎まれる日々を送るがある日赤い瞳の少年と出会ったことによって世界が一変する。突然街を襲ったスタンピードから2人で隣国まで逃れ、そこで冒険者となったカイ達は仲間を探して冒険者ライフ!のはずが…?!
はたしてカイは運命をぶち壊して幸せを掴むことができるのか?!
火・金・日、投稿予定
投稿先『小説家になろう様』『アルファポリス様』
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる